第27話 幼馴染の将棋

「じゃーん、見てこれ」

流季が何か持ってきた。

どうやら物置の奥から将棋盤を引っ張り出してきたらしい。

将棋か……。

俺のじいちゃんとか近所のおじさんとかがやってたイメージだな。

昔教えてもらったけれど、あんまりハマらなかった。 

じいちゃん、しょんぼりしてたなぁ。

……ただ言い訳をさせてもらうと、俺はその時5歳くらいだった。

流石に5歳に本来の将棋は難しかったのだ。

最終的には将棋の駒を積み木みたいにして重ねたり、ドミノとか将棋崩しとか簡単な遊びをやってたし。

で、それ以来触ってなかった将棋がここにある。

「ルール分かる?」

「いや、覚えてないな」

「スマホで調べながらだね」

久方ぶりの将棋は、俺と流季の対局だ。



だいぶルールも分かってきた。

もうどちらもスマホを置いて、今は盤面だけを見つめている。

「「……」」

パチリと音がする。

それ以外の音はない。

パチリ、パチリと交互に。

少し間が空いてまたパチリ。

そしてこれが最後。

「王手」

「なんの、王手返し!」

「……ほい」

「あ、王とられた!」

ルールが分かってたのは俺だけだったらしい。

王手って言ったのに、無視して返すんじゃない。

「もっかい、もっかいやろ」

「はいはい」

その前に、もう一回ルール調べておこうな。



「王手!」

「……」

「王手!」

「……」

「ほらほら、なんて言うのかな?」

「……負けました」

あれ?強いな?

もう5回くらいやってるけど、俺の全敗だ。

最初の勝利はまぐれだったのか。

それとも流季の隠れた才能を開花させてしまったのか。

未だにスマホ片手に駒の動かし方見ながらやってるのに。

……スマホ?

「るぅ、ちょっとスマホ貸してくれないか?」

「やっ。乙女の検索履歴覗くなんてダメだよ」

頑なにスマホを後ろに隠す流季。

絶対やってんなぁ。

「あはははは!はひ、ひひいぃ!」

めっちゃくすぐった。

ぽろっと落ちたスマホには、探すまでもなく、そのページが映し出されている。

ルール的な駒の動かし方ではなく、戦術的な駒の動かし方が。

「おい、イカサマしてんじゃねぇか」

「えーん、ひどいよお、むぅが無理やりぃ」

流季はうつ伏せになって棒演技を繰り出した。

誤魔化す気だな。

はぁ……、才能とかじゃなくて先人の教えだったか。

「まあまあ。もうルール分かったから、スマホなしでも大丈夫だよ!」

今度こそ真っ向勝負をするようだ。



結局、俺たちは実力的にどっこいどこっこいだった。

初心者だからそんなもんだろうけど、流季は将棋を気に入ったらしく、本格的に勉強すると意気込んでいた。

俺も相手が務まるくらいになっておかないとな。

重いからと流季が残していった将棋盤を眺めながら、俺はスマホを手に取った。

さて。俺も少しばかり、先人に教えを乞うことにしようか。


「……あ、もしもし?じいちゃん?さっき、久しぶりに将棋してさー」

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