第26話 幼馴染のお寿司

今夜は親父とお袋が出かけていて、家に一人きり。

「今日は二人っきりだね」

ではなく、同じ理由で流季も一緒にいる。

今はリビングでまったりタイムだ。

「なんかワクワクするね、こういうの」

「いつもと大して変わらない気もするが……」

ちなみにお泊まり会とかではない。

夕飯を一緒にとかそういうのだ。

飯食ったら流季もちゃんとお隣に帰ることになっている。

「一緒に済ませておけって言われたけど、何食う?」

用意とか面倒だから、必然的に買ってきたやつか冷凍品になるけど。

「その言葉を待ってたの」

流季が何やら不敵に笑い出した。

「お寿司、あるよ」

寿司だと?

親のいない間に俺たちだけで寿司とは、なんと大それたことを──。

「──よくやった」

「えへへ」

冷蔵庫へと向かい、意気揚々と取り出したそれは。

「じゃじゃーん、お寿司」

どう見ても刺身のサクだった。

切ってないブロック状のやつ。 

何が言いたいのか、よく分かった。

よく分かりたくないけど、よく分かった。

「今日はお寿司を作ります」

「ええ……」

うわー、なんてことを。

パック寿司にしようよ。

「そんな嫌な顔してると、今日はピーナッツ3粒だけだよ」

なんでうちには刺身のサクかピーナッツしかないんだ。

寿司作る気ならご飯あるだろ。

「はいはい、手伝って」

流季は早速寿司を作る準備をしている。

「なんでそんなやる気なんだよ」

いつもダラダラしてるのに。

「こういう時はね、手間も楽しいもんなんだー」

ハチマキまでつけて、謎の凝り性を見せている。

「酢飯……、酢飯……。……白ごはんでいい?」

「手間はどこいったんだ」

初手で躓いてんじゃねえか。

「まあまあ。ネタを乗せればそれっぽくなるよ」

下手な事を言うと酢飯混ぜ係になってしまうので頷いておく。

俺は早々と冷凍ご飯を電子レンジに突っ込んだ。



「できたー!」

「できたな」

形作った柔らかめの白ごはんに、妙に分厚い刺身を乗せたものが。

「初めてにしては上出来でしょ」

あとは味だな。

「いっただっきまーす。もぐもぐ」

流季はわさびがあまり得意ではないので、寿司自体には何も入れずに、俺だけがわさびを後付けするようにしている。

なんで寿司を作ろうと思ったんだ。

「うん、うん。うん、……うん?」

おい、今『うん?』って言ったぞ。

流季は俺にも食べてみろと促している。

さて、どうなのか。

……。

あー、うん。

「なんかコレジャナイ感がするな」

「だよね」

なんというか、美味しいとは思う。

でも、寿司かと言われれば首を傾げる。

「うーん、酢飯かなー」

「やっぱり初手で躓いたんじゃねえか」

俺も作りはしなかったから共犯ではあるけれど。

「いやあ、失敗失敗」

パック寿司が恋しいね、と口に寿司もどきを放り込んでいく流季。

「なんで寿司作ろうなんて思ったんだ?」

「スーパーにお寿司買いに行ったらなんか綺麗なのがあったから、どうせならチャレンジしてみようって」

あれ?楽しくなかった?なんて聞いてくる流季。

そうだな。

わざわざ自分達で作った不恰好な寿司を、自分達でアレコレ言いながら食う。

……そんな事、楽しくないわけないな。

俺が笑うと流季もつられて笑い出した。



「刺身、じつはもう1ブロックあるっていったら?」

なんだかんだで寿司もどきを食べ終わりそうになった時、流季は勿体つけて冷蔵庫からそれを取り出した。

もう寿司はいいやと断ろうとして、その意図に気付く。

……まさか、あのサクをそのままで?

大きな刺身を丸齧りしたいなんて子供の発想を、流季の目は肯定している。

腹はだいぶ膨れて、すでに寿司は失敗してしまったこの状況。

なれば結論はただ一つ。


よろしい。第2ラウンドの始まりだ。


もちろん大失敗だったなんてことは、言うまでもないか。

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