第25話 幼馴染の夢の話

「さっき変な夢見たの」

つい先ほど、俺たちが暖かい日差しと心地よい満腹感に負けて、一緒に昼寝していた時の話だろう。

「いや、別にいい」

「まず目の前に大きな桃があるでしょ?」

「へえー」

別にいいって言ったのに。

「あ、そもそも私が川にいるのね。洗濯物じゃぶじゃぶってしながら」

話すの下手か。

というか桃と川で洗濯って、桃太郎確定だろ。 

変な夢って桃太郎の夢か?

「で、桃があって、美味しい美味しいって食べてたら、あっという間になくなっちゃったの」

「桃太郎消えたな」

この導入で桃太郎じゃない事あるんだ。

「そう、私も桃太郎が出てくると思いながら食べてたんだけど、いなかったの」

大きな桃を一人でか……。

「食べちゃったんじゃないのか?」

「そんなわけ…、……。」

「ちゃんと否定してくれ、なんか怖い」

「うそうそ。桃しか食べてないよ」

「なら良かった」

「で、ここまでは普通の夢でしょ?」

「ただ大きな桃を食べた話だな」

お腹減ってたのか?

お昼食べたのに。

近くにあったクッキーを差し出してみたら、ぱくりと食いついた。

お腹減ってたのか。

「桃がいい」

「たらふく食べたんじゃないのか……」

「夢は夢、むぅはむぅ」

「なんで俺が持ってくることになってるんだよ」

残念ながら、うちに桃はありません。

「桃の缶詰めがあったよね」

「あったっけ?」

なんで俺より詳しいんだよ。

「じゃんけーん」

「ポン」

「ポン」

後出しだな。

流季の。

「私は後出しで負け、むぅは普通に負け」

謎理論だ。

しかし、じゃあどうする?

「一緒に行こ」

じゃんけんの意味とは。


ちなみに、食品庫の奥底に、確かに桃缶があった。

しかも期限がギリギリセーフ。

これは食への執念なのか、他のものへの執念なのか。

恐るべし。



「そういえば、結局さっきの夢って何が変だったんだ?」

桃缶を食べながら話す。

「ん?あー、あれね。食べ終わったら桃の種が残るでしょ。それにストローが刺さってて、ちゅーちゅー吸ったら、なんかしょっぱかったって話。ね、変でしょ」

甘い桃の、種が塩辛いことに納得いっていないようだ。

どんなオチだよ。

と言おうとして、俺はある事を思い出した。

「なるほど……それは、変だな」

さて。

俺が起きた時、腕に虫刺されのような跡があったというとびきりのオチを話すかどうか。

シロップに浸かった甘い桃を食べながら、少しばかり悩むことにした。

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