第21話 幼馴染のホットケーキ
「この大福、期限今日までだよ」
「あ、そうだっけ」
麦茶を取りに行った流季が、冷蔵庫に入れていた大福を見つけた。
まだ食べ切ってなかったか。
「何個入ってる?」
「1個しかない」
「食べていいぞ」
「やったー」
美味しい抹茶大福だったな。
今回は親の貰い物だったけど、普通に買ってみてもいいかもしれない。
箱を捨てないように言っとかないと。
「麦茶じゃ合わないかな。紅茶ある?」
「どうだろう、分からん」
「探してくるね」
「いってらー」
紅茶があるか分からないが、とりあえずお湯は沸かしておこう。
俺もコーヒーでも飲むか。
コーヒーが少し冷めるのを待っていると、流季がティーバッグを持ってきた。
どうやら見つかったらしい。
ティーバッグを、コップに入れたお湯に沈める。
「大福♪大福♪」
大福に紅茶が合うかどうか分からないが、個人の好みなので何も言うことはない。
「ねえ、紅茶って何回まで良いと思う?」
「俺はあんまり飲まないから、なんとも言えないけど……」
ティーバッグを1回使うか2回使うかで迷っているらしい。
親が飲む時、繰り返し使うところを見ない。
1回でいいんじゃないか?
「そうだね。じゃあ、ポーイ」
ゴミ箱に綺麗に入っていった。
本体に少し残った紅茶を辺りに撒き散らしながら。
「ご、ごめーん」
使い終わったティーバッグを投げてはいけません。
普通に危ない。
※
流季が大福を食べている横でコーヒーを飲んでいると、俺も甘いものが食べたくなった。
何かないかと探したところ、何も無かった。
……。
無い、かぁ。
砂糖でもなめようかな。
諦めていたところ、大福を食べ終わった流季が呟いた。
「まだ甘いもの食べたいな」
同意見だが、もう甘いものは残っていない。
ポテチ食べる?
「さっきさ、紅茶探してる時、ホットケーキミックスあったんだよね」
ホットケーキミックス?
ホットケーキって、あのホットケーキ……?
「作っちゃう?」
※
はい、できた。
大きなホットケーキ。
俺、何にもしてないけど。
「さあ、どうぞどうぞ」
あまり料理が得意じゃない俺は、危なっかしいからキッチンを一人で使うのはダメだと言われている。
一方、流季はやればできるようで、お袋からもキッチンの使用許可が出されている。
……俺も料理の練習したほうがいいかもしれない。
流季ができるからいいやでは、なんか危ない気がする。
主に俺の自立面で。
「どう?おいしい?」
「美味しい」
「やったぁ」
いやー、すっごい美味しい。
良かったぁ、砂糖なめなくて。
しかもこのホットケーキ、すごい分厚い。
あんなドロドロの生地が、どうやったらこんなに分厚くなるのか分からない。
流季の隣でちょっと見学してたら『今から焼くけど、危ないからテーブルで待ってて』と言われたので、本当に分からない。
「うん、上手くできた。やっぱりホットケーキおいしー」
こんなのが作れるなら、もうお菓子買わなくてもいいじゃないかと思うけど、市販には勝てないと流季は言った。
まあ手間とか材料とか、色々あるんだろう。
でも、流季の作る方が美味しいと思う。
食べ終わると、流季が大きなあくびを一つした。
「お腹いっぱい。眠い……」
コーヒーを飲んだからか、俺はあまり眠気がない。
ま、皿洗いするしちょうどいいか。
「ちょっとこっち来て……」
「ん?」
近づくと、もたれかかってきた。
「おい、るぅ、クッションあるから。そっち使え、な?」
しかしもう眠っているのか、呼びかけには応じず、だんだんとずり落ちて、最終的に太ももの上に落ち着いた。
これってあれか。
膝枕ってやつか。
まいった、これじゃ洗い物ができない。
移動させようにも、足をがっちり掴まれているので、揺さぶってみる。
「おーい、ちょっと起きろー。俺を離せー」
くすぐってでも起こそうかと思ったが、あんまり幸せそうに寝てるもんだから、躊躇ってしまう。
流季は、料理はできるかもしれないが、慣れているわけではない。
張り切っていたから、きっと疲れたのだろう。
……起こすのは、もうちょい後でいいな。
揺さぶるのをやめて、頭を撫でる。
「ホットケーキ、今までで一番美味かったぞ」
しばらくはこのままゆっくりしておこうか。
もちろん、足が痺れるまでの期限付きで。
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