第20話 幼馴染の暑さ対策

「暑い」

ゴールデンウィーク中なので、流季がぐでーっと床に突っ伏して漫画を読んでいる。

いや、いつもの事だったかもしれない。

「なら扇風機つければ……」

「なーい」

ない?

部屋を見渡しても、たしかに扇風機の姿がない。

「ああ、まだ出してなかったっけ」

季節が変わると気温も変わってしまう。

それに合わせて、扇風機とストーブは俺の部屋と押し入れを行ったり来たりしてる。

もう面倒だし、どっちも出しっぱにしたい所だけど、部屋が狭くなるのでそうせざるを得ない。

一人部屋のはずなのに、何故か二人でいる事が多いのも相まって、余計にそうなる。

「むぅ、出してきていいよ」

「どの立場だよ」

「お客さん」

お客さんはな、床で寝っ転がって漫画読んだりしないんだよ。

「いやーほんとあつい。あついからあつい」

「語彙力も溶けてるぞ」

最近ようやく暖かくなったと思ったら、今日はそれを通り越してむしろ暑ささえ感じる。

普通に俺も暑いので、扇風機を出すことにした。


「涼しいーねー」

「前を占拠するな。ちゃんと首振りにしろよ」

引っ張り出してきた扇風機は、すぐ流季に強奪された。

ストーブを押し退けて扇風機をセッティングした流季は、正面に座り込んでくつろぎ出す。

ちなみに、多少狭いが、念のためストーブは部屋に置いておく事にした。

まだ若干暑かったり若干寒かったりを繰り返してるからな。

「天国だね」

「こっちは地獄だけどな」

「ごめんって。ほらほら、首振りにするから」

ようやく風が控えめに当たり出す。

あ〜、気持ちいい。

もう少しで流季の隣に詰め寄って、余計に暑くなるところだった。

しかし、流季は徐々にこちらへ寄ってきた。

「何してんだ?」

「風が足りない」

たまに当たる風では満足できなかったようだ。

首振りを止めて、俺の隣で風を浴び続けるつもりらしい。

しかし、そうなると……。

「なんか暑い……」

「そりゃそうだ」

もはや漫画を諦めて扇風機の風に専念している。

しょうがない、ここは譲るか。

「俺はリビング行ってるから、扇風機は使ってていいよ」

「ありがとうございます!」

とても元気の良い返事だった。



「そろそろアイスとか買っとこうかなあ」

リビングにクーラーはあるが、そこまでの暑さではない。

俺の部屋は窓開けてもあんまり風通しがよくないが、リビングは窓を開けておけば、少し涼しくなる。

……いや、リビングもじんわり暑いな。

今頃、流季は扇風機で快適に過ごしているだろう。

いいなぁ。

部屋を譲るのは、早まったかもしれない。

「氷たっぷり入れたジュースでも飲むか…」

「私も」

なんか聞こえたな。

「ジュース飲みたくって」

「なら、氷を用意しておくから、ジュースを選んでおくように」

「りょうかーい」


ジュースを飲み終わっても、流季は部屋に戻らなかった。

扇風機のスイッチは、ちゃんと切ってきただろうか。

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