第19話 幼馴染のこどもの日

「かしわもち」

……?

「かしわもち、かしわもち」

流季が『かしわもち』としか喋らなくなった。

「かしわもち食べたい」

あ、普通に喋った。

今日がこどもの日だから、柏餅を食べたくなったのか。

……はぁ。

そういう、季節の行事や伝統に流されて、やすやすと買ってしまうのはどうk……

「分かる」

すっごい分かる。

俺も柏餅食べたい。

なんでこどもの日って柏餅なんだろうか。

気が向いたら後で調べておこう。

「あ、ちまき。ちまきも食べたい」

よし、ちまきも買おう。


という事で、一緒に買い出しに行ってきた。

ちまきは無かったので、柏餅だけだが。

「おいしーねー」

ほんと、美味しい。

餡子って美味しい。

餅って美味しい。

葉っぱは……、食べない。

一見食べられそうなのがトラップだよなぁ。

実際、前に流季が葉っぱも食べようとして、美味しくないと吐き出した覚えがある。

しっかりトラップにひっかかっていた。

「何個食べた?」

まだ1個だよ。

「なんで私たちは、5個入りを買ってきちゃったんだろう」

それな。

と言っても、仲良く半分こする気はないらしい。

すでに2個食べてしまった流季は、真ん中の1個に狙いをつけている。

よし、じゃんけんだ。

「“かしわもちじゃんけん”、ね」

柏餅じゃんけんってなんだ。

なんでもいいから、早いとこ決めよう。

「「最初は、かしわもち!」」

ただ掛け声がかしわもちに変わっただけ。

「「じゃんけん、ポン!」」

流季がグー、俺がパー。

つまり、俺の勝ちだ。

「……私の勝ちね」

「そんな訳あるか」

「かしわもちじゃんけんは、グーがかしわもちみたいだから、グーが一番強いの」

まさかの柏餅じゃんけん、ルールさえ変わっていた。

嘘だろ?

柏餅じゃんけん、ゲームとして終わってるじゃないか。

最後はちゃんと負けを認めたが、割としぶとかったので、本気でルールを変える気だったのかもしれない。

「……」

流季がじっと見てくる。

実のところ、俺も3個は多いと思っていたので、勝っても半分あげるつもりでいた。

「じぃーー」

しかし、往生際が悪かったので、ちょっとこのまま焦らしておこうと思う。

『分けろー、分けろー』と必死に念を送るポーズの流季が可笑しくて、笑いながら本日2個目の柏餅を頬張った。

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