第22話 幼馴染のゴールデンウィーク〆

ゴールデンウィーク最終日の昼間。

あっという間にきてしまった最後の1日に名残惜しさを感じながらも、やはり休みは休むべきだと、俺はできるだけのんびりする事にした。

そう。

“俺”は。


「終わんないよぉー」

宿題がまだ終わっておらず、半べそかきながら机に向かう流季。

「頑張れ頑張れえー」

お、この漫画面白いなぁ。

ははははは。

「チラッ。チラッ」

わざとらしく見てくる。

残念ながら助けてやれる事は何もない。 

俺にできるのは、こうして机を貸して、終わるまで監視する事だけだ。

おばさんからしっかり頼まれてしまったからな。

「ねー、終わったらご褒美ちょうだい」

「よし。終わったらご褒美として、家に帰っていいぞ」

『ひ、ひどい』と流季がショックをうけている。

「終わったらって、このままじゃ徹夜だよー!」 

『は、まさかそれが目的……?』とわざとらしく身を抱くしぐさをする。

「徹夜とか、俺の部屋ではやめてくれ」

「むぅが冷たい……」

自業自得なので仕方がない。

こういうのは優しくすると流季の為にならないのだ。

だから俺は心を鬼にして……。

やべ、漫画超おもしろい。

あはははは。

「むぅが漫画読んでるのが腹立つ……」

流季がぶつくさ言っているが、監視するだけだと俺が暇でしょうがない。

それが嫌なら、頼むから早く終わらせてくれ。

俺だって締め切りに追われているやつを隣で嘲笑う趣味はない。

漫画が面白いのが悪いのだ。 

「うー、うー」

唸りながらもちゃんと宿題を進める。

そうそう、やればちゃんと終わらせられるんだから。

「ちなみに、あとどんくらい?」

「このくらい」

あ。

こいつ、ゴールデンウィークまるっきりサボっていやがった。

「……終わるといいな」

「なんで変顔してるの?」

失礼な、渾身のあたたかい目なのに。


それから流季は、類い稀なる集中力を発揮した。

この調子でいけば、もしかしたら──。


「徹夜する」


無理だった。

なぜかこのまま俺の部屋で徹夜へと移行しそうだったので、慌てて帰り支度をさせた。 

いくら隣とはいえもう夜遅くだし、早く帰ったほうがいい。

「バイバイ……」

「あ、うん。バイバイ」

力なく手を振って、帰っていく流季。

……寂しそうだったが、一人で大丈夫だろうか。


見送った後、時間をおいて電話をかける。

これが、せめてもの情けだ。

「あー、うん。そう、終わるまで繋ぎっぱなしでいいから。先に俺が寝たら切っといて」



「お、おわったぁぁ………………」

深夜なので、小声で叫ぶ。

そもそも疲れてあんまり声も出ないけど。

「やったぞー、私やったぞー。はやく寝よ寝よ〜♪」

深夜テンションで歌いながら、すぐに布団に潜り込む。

「あ、そうだ」

机の上に置きっぱなしにしていたスマホを、布団へ持ち込んだ。

本日大活躍だった、徹夜のお供だ。

ビデオ通話で挫けそうになった時は励ましてもらいながら、たまに話しながらの徹夜。

結局、最後の方はむぅが寝てしまい、一人っきりだった。

もう寝息しか聞こえなかったけど、それでも繋いだままにした。

「えへへー」

まだ繋いでいるけど、もちろん今も言葉はない。

あるのは、寝息と幼馴染の優しさだけ。

「おやすみ、むぅ」

返事が無いから、通話を終わらせた。

今日はなんだかいい夢が見れそうだった。

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