第23話死を願う


 勢いよく入って来た人族の数は二人。またも、男女のペア。

 男は笑い声を上げ、女は笑いを堪える様にやれやれと言った顔だ。

 お爺様と、お姉さまが唖然としている。だがそれでいい。


 俺は即、二人を指定して自室にテレポートした。


 二人を俺の部屋に留まらせつつ装備を着用し、即座に居間にテレポートをした。


 そこは地獄だった。

 

 アデル

 母さん

 ケアリー母さん

 アルファ


 家の者全員が血まみれになり倒れていた。


 俺は即座にヒーリングフィールドを使った。だが傷が治らない。

 フルヒーリングをアデルに掛けた。だが反応が無い。


「何故だ、何故……回復しない! 早く、早くしないと……」


 再度フルヒーリングを試みようと、母に目を向けた。


 顔がなかった。


 ケアリー母さんを見た、下半身が無かった。


 アルファを見た。四肢が無くなり、逆さまに壁に縫い付けられていた。




 俺は発狂した。


 そして絶望の許容限界を超えて、笑えてきた。


 怒りの限界を超えて、呆れた。 


「俺は……俺は……何をやっている!!!」


 何故か笑っている自分が意味が分からず困惑した。


「もういい。もういいよ。あははははは」


 俺は頬に涙が伝い続けたまま笑った。


「はは、ははは、テレポート」


 俺は狩りに出かけようと、祖父の屋敷に飛んだ。

 人族の者はまだその場にいた、屋敷の中の物を物色していた様子だ。


「あはは、こいつら家畜と罵る相手の持ち物、物色してやがる。

 大丈夫? プライド無いの? 貧乏なの?」


 人族はこちらを見てぎょっとしていた。

 涙をながしながら笑い、罵倒しながら嘲笑する様を見て。


「脅かすなよ。ガキかよ」

「僕? 口を慎みなさい。君はもう死んだも同然なのよ」


 俺はスキルでかけられる上昇能力をすべて引き出し、イメージによる魔法で加速を上乗せさせようと詠唱を開始した。


「膂力、速さ、魔法、すべてにおいて上回り」

「今更? 遅いけど」


 おべっかと勘違いをした人族の女は呆れたようにつぶやく。


「計れぬほどの、神とも呼べる力を標す」

「これ、詠唱か? おい、殺すぞ。面倒はごめんだ」


 男は気が付いたようだ。だが、そんな事はどうでもいい。


「標しを纏う者は、攻撃のすべてをはじくだろう」

「はっ、馬鹿じゃないの。この歳でイメージ魔法? ありえないわ」


 と、女が言っている間に、男は突きの構えで突撃してきた。

 単調な突きを交わし、俺は続けた。


―――――――――――リミットオーバー――――――――――――――


 唱え終わった瞬間、それがどんなものか理解した。


「なっ!? 避け……たの?」

「ちっ、このクソ女! 余裕ぶっこいてんじゃねー。

 今度言う事を聞かなかったらぶっ殺すぞ」


 口論をしているのもその内容もどうでもよく、彼等の間を一瞬で通り抜け、四肢をすべて落としたと同時に魔法を放つ。


 「ヒーリングフィールド」


 彼らは床に転がり、何が起きたからも分からず絶句している。


「一つ、問う。メルディナと言う人族の少女はどうした。

 答えられたら、殺してやってもいい」


「こ……殺すと言われて何かしゃべるとでも思ってるのか……

 なんだ体が言う事を聞かねー……あれ? 体がねぇ……」


 手足が無い事に気が付き男は黙る


「い、いやぁああああああああ、何よこれ。何なの? 嫌よ!

 いやぁあああああ!!」


「黙れ」


 と、俺は叫ぶ女のわずかに残った太ももに剣を刺す。


「あぐっ、ひぐっ、いだい、やべで……」

「わ、分かった、何でも喋る、だから殺さないでくれ」


 彼らは少しだけ状況がつかめた様だ。


「喋った上に殺さなくていいのか? じゃあ、早く教えろ」

「あれは、ジレス少将のお気に入りなんだ。だからすぐ国へ送った」


 メルは生きている……生きていてくれた。


「ならば。俺も即テレポートでそこに送れ、早くしろ」

「出来るならとっくに逃げてる。そこのイカレタ女がテレポーターなんだ」

「ハイヒーリング。おい、早く送れ。やらねば何度でも刻むぞ」

「ひっ。テ……テレポート」


 その瞬間、俺は人族の国であろう場所に移動していた。

 あれらも一緒に来ると思っていたが、来ていない。

 案内をさせる為に必要だった事に気が付き、イラついた。


「チッ……取り合えず出るか」


 ここは地下だろうか?

 牢屋みたいな雰囲気を持っているが石造りの個室だ。

 地に魔法陣の様な模様が描いてある。

 俺は即座にその陣から出て部屋からも出ようとドアを開けた。


 部屋の外に出ると眼に異様な光景が映る。

 とても整備された空間の壁一面がガラス張りになっており。

 その先で、少年兵と思われる者達が殺し合いをしていた。


「おや、そんなに高位装備な少年が来るとは、聞いていないのですがね?

 この国家機密の重要区画にどの様なご用件で?」

「メルディナと言う人族の娘にご執心な少将とやらに用があってな」

「ほう、彼に、それはどういったご用件で? おや、君泣いているのかい?」


 何故こいつは楽しそうにしている……ダメだ。まだダメだ。

 メルを探し当てるまで、情報を取るまでは……


「ああ、直接言おうと思ってな。案内して貰えるか?」

「ええ、かまいませんとも」


 ああ、罠だ。どうやって思い知らせよう……騒ぎにはしたくない。

 メルは絶対に助ける。俺を止める為の道具になんてさせない。


「ですが、困りましたな。

 その少将のお名前がわかりませんと案内のしようがございませんね」


 と、その時三人の兵がこちらに走って来た。


「ジレス少将、勝手に獣人国に奇襲に行った二人がやられて帰って来たようです。

 ……この少年は一体」


「貴方が気にする事ではありません。

 ですが奇襲の予定は明日だったはずですが、そうですか。

 経験値欲しさに先行しましたか。それはいけませんね」


 こいつが、ジレス……じゃあ元凶もこいつ……

 ダメだ。抑えられない。俺は即座に三人の兵を切り殺した。


「おい、早く案内しろ」


 何とか、気持ちを抑えて俺は怒気と共に言い放った。


「おや、話は聞いていたと思いますが。

 ……ああ、彼女に会いたいのですね。

 そうでしたか。貴方はオルセン国の魔族でしたか。

 悲しい事です。メルディナは悪魔の言葉に耳をかしてしまったのですね」


「悪魔か、はっ、あははは、そうだなそうなるな」


 そうだ、俺はお前たちにとって悪魔だ。

 俺は絶対になってやる。


「まずは、悪魔である事を証明してやらねばな」


 と、告げジレスの両腕を切り落とした。まだイメージ魔法の効力は切れていない。

 奴は反応すら出来ていなかった。


「ハイヒーリング」

「なっ、わ、私の腕が……な……何故。いつのまに」

「次は耳をその次は鼻を移動に差し支えない部位を落としていく。

 お前が俺を不快にさせるたびに必要な体を失っていくぞ?

 お前が助かるすべは一つ、メルを俺に生きたまま返す事。

 それが出来れば、見逃してやる。破格の取引だ」 


 彼は青ざめ、気が付いたようだ。自分は彼の気持ち次第で命が無い事に。

 彼は歩き出した。止まらず喋らず。

 そしてそのまま歩いて行き、一つの部屋の前にたどり着いた。


「この中にいる」


 俺はジレスの耳をそぎ落とした。


「ハイヒーリング、俺は何て言った?」


 彼はさらに青ざめ言葉を発した。


「私にはもう、腕がありませんので……どうか。ご容赦を……」

「フルヒーリング、早くしろ、殺すぞ」

「な……これは……た……直ちに」


 と、ジレスはドアを開け、そこには裸で血だらけになったメルが泣きながらうずくまっていた。


「ああ、良かった。生きていてくれた。フルヒーリング」


 メルは傷が癒えた事に気が付き顔を上げた。


「フェ……フェル……なの?

 ごめんなさい。私、また、一人だけ生き残って……

 皆、皆、私が……弱いから……あんな屑に……」

「ああ、お前のせいじゃない。俺のせいでもない。だが俺は罪悪感で死にそうだ。

 こんなままでは、生きている事すらままならない。だから、メル、俺と……」


 メルディナは続きの言葉が分からなくて、涙でくしゃくしゃの顔を上げ、見上げた。


「俺と、共に死んでくれ」


 彼女が俺の気持ちを全てを理解してくれた事を表情が教えてくれた。


「はい、私の王子様。死ぬ時も一緒です」


 そう言われた瞬間、俺は負の感情が収まった。

 これで、メルと共に最愛の者達の元へ行ける。

 俺を大切だと思ってくれる最愛の者の元へ。


「ああ。死んでからも、一緒だ」


 と、抱き合う瞬間、ジレスが腰に差していた刀らしき武器で不意打ちを試みようとしていた。

 俺は、心臓辺りを強打した後、首を絞めて落とした。


「殺さないの? アルファの願いなのよ?」


 分かってるさ。


「ああ、殺す時も、有効利用させて貰おうと思ってな」


 だから、俺達の為になる殺し方をするんだ。


「分からないけど、分かったわ。あなたを信じる」


 盲目的なのはダメなんじゃないのか? と、言いかけて押し黙る。


「……テレポート」


 俺とメル、そして気絶したジレスを連れ、俺達はリーアが居るであろうアードレイ邸宅前にテレポートしていた。


「初めてくるわ。ここで死ぬの?」

「いいや、仲間を勧誘しに行こうと思ってな」


 と、俺は魔力感知でリーアの居場所に当りを付けて、二回まで飛び上がり窓をたたき割って侵入した。


「ああ、人族が殺しに来たのかしら……なら早くしなさい。

 私はもう、死にたいのよ。死なせてくれるなら丁度いいわ」


 やはり、リーアも同じ気持ちなのだと確信し、作り笑顔で俺は声を掛ける。


「久しぶりだな、リーア。少しは見れる顔になったじゃないか」


 やつれてはいるが、ぶくぶく太っているよりかは、ましになっている。


「なんだ、あんたか。そう、戦争になったから帰って来たのね

 ちゃんと私の言葉を聞いたんだ? 殊勝な事ね、気が利かないけど」


 ああ、こう言いたいんだろう、どうして総大将が死ぬ前に帰ってこなかったと。

 今なら心が勝手に同情してしまうほど、気持ちが分かるよ。


「なぁ、お前さ、なんで生きてるの? 死にたがってるのに」

「さあね、何ででしょうね。怖いのかしら? 痛みが?」


 俺はジレスを床に投げて問う。


「これを殺せば、かなりなレベルアップが出来るだろう。

 一緒に人族に死ぬつもりで復讐しに行かないか?」


 俺は作り笑顔を捨て、心のままの表情をした。


「本気、なのね? これでやっぱり止めたとか、言い出したりしないわよね?」

「それはこちらのセリフだな。途中でビビるくらいなら断れ。メルに殺らせる」

「いいえ、最高だわ。パパにいい土産話が出来るわ。ああ……ええそうよ。

 私なんで気が付かなかったんだろう。ふふ、貴方を選んで良かったわ」


 俺は調子のいいふざけた返答もどうでもよく、来ると言った事を受け入れた。


「あら? こいつ刃が通らないわ、もう少し柔らかいのはないのかしら」


 俺はならばこうすればいいと、袋を持ってきて渡した。


「それを顔にかぶせ窒息死でもさせればいい。経験はそれでも入るのだろう?」

「ああ、そうね。そんなやり方もあるわね」


 と、リーアは躊躇なく実行し、俺達は終わるのを待った。


「あははは、何よこれ、レベルアップが止まらないじゃない」


 そりゃそうだ、殺しでレベルが上がる腐った国で、少将がレベルが低い訳がない。


「いくつになったんだ?」

「223よ、200レベル上がったわ、300レベルクラスね。

 最高だわ。これで本当にお土産話が出来るかもしれないわ」

「フェル、私が一番下になっちゃったじゃない。私も欲しいわ」

「ああ、任せろ。だが、最終目的は早い遅いは問わず全員で死ぬことだ。

 人族の軍属の者すべてを対象に、HPが尽きるまで殺し続けるゲームだ」

「へぇ、勝利条件は?」


 と、リーアが問う。


「ざまあみろ、と死ぬ時に思う事だ」


 気持ちがいいだろう? と言わんばかりに俺は答える。


「あら、全員勝ちがあるとか、ぬるくない?」


 メルが問う。


「はは、5人や10人殺したくらいで思えるか?」


 俺は思えない。お前はどうなんだと逆に問う。


「はは、そうね。でもそれじゃ敗北必至じゃない?」


 満足をしたと宣言する事は、許したに近いものがある。だから俺はそう決めた。


「いいや、最終的には許してやろう。多分ほぼ殺しつくす事になるだろうが」


「何それ私の為?

 あんたはいつでも優しいんだから……素直に勝利条件は殲滅って言えばいいのに」

「お前たちはそんな仲なのね、死ねばいいのに」

「そうだ、ゲームを始める前に10分だけくれ」


「いいけど、何するの?」とメルがこちらを伺う。


「最後の時間だし、10分くらい気にしないでいいわ。私はもう1週間も待った」

 と、リーアはまるで10年耐えたかのように言い放った。


「悪いな、テレポート」


 と、俺は魔法の国にある宝石商で全財産の金貨200枚を出し指輪を買った。

 そしてそれを袖にしまい、すぐに戻った。


「あら、早いのね、3分くらいしか経っていないんじゃない」

「確かに早いわね、あとでくだくだ言うんじゃないわよ」


 俺は袖から指輪の箱を出し、取り出した。


「メル、手を……出してくれないか?」

「え? ええ? ……は、はいっ」


 俺はメルの手を優しく取り、指輪をはめた。


「これで、メルは俺のお嫁さんだな」


 俺はこれを夢見ていた。もっと先の未来にだが。


「いいの? 私人族よ?」


 良いに決まっている。


「メルはメルだ、メルディナがいい」


 逆にお前とアデルで無かったら嫌だよ。


「……彼女のままにしておきたかったんじゃないの?」


 そうだな、そう思ってた。


「ああ、年相応で居たかった。だけど本気でしたかったからな」


 だけど、もう関係無いからな。


「そっか、すっごくうれしい。でも全部つぎ込むなんて」


 良かった。喜んでくれて、俺もうれしいよ。


「ああ、俺の全財産だ。メル、愛してる」

「ありがとう、私も、愛してる」

「10分経ったわ。行くわよ、早く死になさい」


 ……リーアはあれだな。腐女子とかに居そうだな。うん。

 なんか台無しになった。いや、丁度良く気分が切り替わったと思う事にしよう。 


「ちょっと、余韻を味わうくらいの時間は寄越しなさいよ。

 人を想と言われる女神が聞いて呆れるわね」


 メルはご立腹だ、だが。 


「いや、時間は時間だ、行くぞ」


 アデルを差し置いてこれ以上は、とも思っていた俺は話を切った。


「あーん、もうっ台無しじゃない。こうなったらハイスコア狙うわ」


 と、メルも納得したようなので俺は転移魔法を使った。


「テレポート」


 そして俺達は人族の国の中、どことも知れない軍事施設に舞い戻って来た。

 そこからのリーアとメルは凄かった。誰彼構わず殺した。

 俺に向かってくる敵はMPを吸収して気絶させて二人に殺させた。


「フェルよ。ゲームなのに良いのか? 負けてしまうぞ?」

「そう言えばリーア、なんだその喋り方は。神のつもりか? 滑稽だぞ」


 一瞬で不機嫌になり、声を上げた。


「ま、また馬鹿にした! せっかく許してあげようと思ったのに。

 もう許してあげないからね。絶対、絶対によ」


「はは、俺もお前に同じ事を思った事があるよ。両思いだな」


 と、俺が嘲笑交じりに言うと、思わぬ所から怒られた。


「結婚したその日に、他の女口説くとか、デリカシーが足りない」

「ご、ごめんなさい。ついな」

「え? 私……口説かれてたの? ……じゃあ豚って言った時も?」


 相変わらずお花畑である。

 まあ、なごむけどさ、この殺伐とした血だらけの視界の中でも。


「この施設の中、もう残って居なそうね」

「いや、メインディッシュが残ってるぞ。これは捨て置けない」


 と、俺は魔力感知で2つの反応を感じ取り、その場所まで、移動した。


「お、おい、何しに来やがった、もう約束は果たしただろう」

「い……いやぁ……来るな。来るな来るなぁああああ」


 と、倒れない為か椅子に縛られた二人がこちらを見て怯えている。


「こ、こいつは……フェル、私にやらせて。

 こいつらだけは譲りたくない。誰にも……」


「ああ、俺は殺さないと言ったしな。

 こいつらがそれを守りテレポートでここまで送ったから俺のせめてもの願いは叶った。

 だから、こいつらを殺すのは譲る事にする」

「訳ありみたいね、しょうがない。

 私もパパを殺した相手は譲れないし」


 リーアも納得したところでメルにすべてを任せた。

 悲鳴が響き渡り続け、とうとう絶命した様だ。その後メルは呟いた。


「アデル、アルファ、フェルのお母様、経験値を頂きました。共に悲願を成就しましょう」


 そして俺達は外に出た。ここはどこかの町の様だ。

 少し寂れている。だが少しは人通りもある。

 そしてその少しの人の内の一つが絡んで来た。


 その5人の内の3人を殺し情報を得た。

 ここは王都から南にある町と言う事。その王都までは馬車で2日だと言う事。

 そして、この国の戦力は王都に集まっていると言う事。

 その3つ、それで十分だと、残りも殺して俺達は移動した。


 そして走りながら移動の最中リーアがまた面白い事を言い始めた。


「ねえ、これじゃ何日かかるかわからないわ。

 やっぱり馬車を取りに行きましょう」


「今、馬車の5倍速くらいで走っている訳だが、

 まあ、そうしたいなら好きにすればいい」


 リーアは赤くなり黙った。凄くこちらをにらんでいる。


「く……口説いてる?」


 ダメだこいつ、逆に少し愛着がわいて来た。


「あ~、フェル……また……」


 おっと、流石俺のメルだ。表情で分かるらしい。

 俺は十分町から離れた所で立ち止まった。


「済まない。俺は4時間程寝る。その間、守っててくれないか?」


 俺はフルヒーリングを4回とフィールドヒーリングを2回ハイヒーリングも多々使い、MPが4分の1を切っている状態だったのだ。

 ああ、一番消費したのはやっぱりイメージ魔法だな。

 効果も絶大だったが。


「はぁ? 馬鹿なの? なんでこんな所で寝るのよ、町があったじゃない」


 また、始まった。


「女神様って面白いのね」

「だろ? これは浮気じゃないよな?」


 そう、それを理解して頂きたい。


「そうね。笑いは共通だもの」


 だよね。良かった。流石嫁。


「分かってるわよ。

 安全を取ったんでしょ? ビビったんでしょ? 煽っただけなんだからねっ」


 ……寝れねーだろうが。と思いつつも寝てる事を装い無視した。


「ねえ、フェルとはやった?」 


 ぶっ、なんて事を聞きやがるこの駄女神。


「まだよ。べろちゅー止まりね」


 何故メルも乗っかる……


「あら、意気地が無いのね。私にはエッチさせてって言ってたのに」


 待て待て待て待て待て待て? ちょっとすとーっぷ。

 だけどもう起きたくない。メルと目を合わせるのが怖い……

 メルには全部話したけど。そこは全部に入ってないんだ……

 入ってないんだ……大事な事なんだ……


「そうね。それについては……はっ!? なにそれ?」


 ほらー、やっぱりね、ほらー……

 ああ、これでは本当に寝れない。無理だ。


 ラスボスを目の前にして惰眠をむさぼれるほど俺は肝が据わってない。


「もう、寝れないだろ……むにゃむにゃ……」


 これが精一杯だ。どうだ?


「フェル、起きてるのは分かってるの。時間の無駄よ?」


 ですよねー。知ってた。バレてるの、知ってた。


「まず説明させてもらうとだな……あれは冗談のつもりで言ったら受け入れられてしまって、訂正するのも失礼だと思ってだな」

「だから、そのまま食っちまおうと?」

「待ちなさい。

 私はその冗談に振り回されて過食症にまでなってフェルを追放までしたのよ?

 それを冗談だと言ったの?」


 え? そっち? 太った理由ってそっち? ……すべて、俺のせい?


「あ~なんだ、すまん。あの時お前が受け入れるとは思っていなくてだな」

「あ、確かにあの時の貴方は何度も聞き返していたわね。

 もう、馬鹿みたいじゃない。あの同人誌みたいにされるのかと……」


 待て。お前はなんの話をしている。詳しく聞かせろ。

 と、言える状態じゃないか。


「あ~フェルってあるわよね。

 冗談で言って受け入れられてしまってそのまま見栄をはってその通りにしちゃう事……」

「耳が痛くて寝れないから、この話しもう止めよう?」


「「なによそれっ!」」


 と、はもりながらも二人の話は変わり、俺は漸く眠りについた。

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