第22話奴隷解放


 家族そろっての話し合いも終了した。

 俺はラード砦に飛び進行ルートの可能性が高い三国の国境にある町を目指した。

 テレポートでの移動を可能にする為だ。


 テレポートで即帰還が出来るようになったので、最近行動が別になっているフィー達を連れて出た。決して威厳回復の為では無い。


「兄さん、ここは地図だとどこら辺なのでしょうか?」

「ああ、それはだな。ここが王都で、その南の方角にだな……」


 地図上では北に獣人国、南西に人族の国、南東に魔法の国がある。

 

「うーん、お兄ちゃんも初めて行くんだよね?

 そんな場所に私たちを連れて行ってくれるなんて珍しいね」

「ああ、そうだ。お前たちと観光でもしようかと思ってな」

「兄さま、シャノン、嬉しいです」

「それは良かった。何も聞かずにつれて出たから、喜んでくれるなら何よりだ」


 そう、俺は彼女らに行くぞとだけ告げて移動しながら説明していたのだ。

 そして俺達は国境の町ローレンに、到着した。


「兄さん、ここで何をするんですか?」

「もう目的は達成されたぞ。だからあとは観光するだけだな」

「また、私達はのけ者?」

「いや、本当に来ることだけが目的だったんだが……」

「お兄ちゃんはいつもそう。

 だけど、悪いのは私達。だからお兄ちゃんを困らせちゃダメだよ」

「分かってる」

「そうだね……僕たちがもっと強ければ……アデルさんみたいに」


 あれ? お前アデル苦手じゃなかった?

 ってそれはいい、どうしてこうなった。

 楽しく観光するつもりで来たんだが、出だしから皆悲しそうとか……


「ちょっと待て。何も悪くなんて無いぞ。

 俺はアデルだって戦わせたく無いが、状況が許してくれないから仕方なく戦場に出て貰ったんだ」


 まあ、あいつはどっちにしても来るだろうがな。置いて行っても多分走ってくる。


「でも、僕は兄さんの後をついて行きたい。我儘だって分かってるけど……」

「私は本当はお兄ちゃんの隣に居たい。メルお姉ちゃんやアデルさんみたいに」

「私も、フィーと、同じ。隣に居たい」


 むむむ、戦時じゃ無ければ即答でオッケー出したんだけど……

 ダメだ。なんて言いたくないな。どうしよう。


「ん~あ~そうだな。どうしたもんかなぁ……」

「「「困らせて、ごめんなさい」」」

「いや、言いたい事は言っていいんだぞ。悪口じゃないんだし。

 だがな、今の状況でそうしてしまうとお前たちが死んでしまうんだ。

 ……それも高確率で。だから今くらいはとここに連れて来たんだが」

「じゃあ、兄さんは俺達が死ないだろうって思えたら戦場にも連れて行ってくれますか?」


 うーん……戦場になんて一緒に行ったって、しょうがないだろうに。


「まあ、そうだな。お前たちがアデルより強かったら、ピンチの時に頼らせて貰う事もあるかもしれない」

 

 まあ、無理だけどな。アデルは昨日の戦争でもまたレベルが上がったし、と考えるとちょっと罪悪感もあるがそんな機会は来ない方がいいんだ。


「それにお前たちは一応、はたから見たら奴隷だしな。

 奴隷を戦争に投入なんてしたら、きっと俺は非難されてしまうんじゃないか?

 隷属して強制的にレベルを上げさせて、戦場に出しているとしか思えないだろう」

「そんな……お兄ちゃんはそんな事しないよ」

「そんな噂をしてるやつが居たら、僕は許しません」

「兄さまは最高。そんな噂、流れない」

「まあ、お前たちのその気持ちはきっと隷属魔法から来てる物だろう。

 この魔法は、何もしなければ主人を慕う様に出来ているらしいからな。

 隷属魔法を解かれると、反動で主人を殺したくなるらしいぞ」


 はぁ、なんて怖い魔法だ。そんな事になったら俺の精神が死ぬわ!

 レベル差があり過ぎて体を傷つける事すら出来ないだろうが。

 俺は怖くて隷属を解ける気がしない。


「……そんな気持ちになるくらいなら、死んだ方がましです」


 ああ、気持ちは分かるぞ、俺もお前たちに殺さるなら、自分で死ぬわ。


「私はそれでも解いて欲しい。奴隷のままじゃなりたいものに慣れないもの」

「私も、フィーに同意。でも兄さまの奴隷、も最高」 


 フィ……フィー? シャノンまで……

 そ、そうか。そりゃそうだよな。

 奴隷なんて、たとえ命令されなくても嫌だろう……

 でも怖いなぁ……隷属を解くの。

 ジャスタスさんにも念を押されてるし、よっぽど憎まれてしまうのだろうなぁ……

 だけどこれは俺の我儘だな。


 そう、彼女たちの人生は俺の物では無いのだ。だから俺は決意した。


「分かった。隷属を解くよ。好きに生きていい」

「え? いや、ちがっ……そうじゃないの。お兄ちゃん?」


 分かっているさ。今はまだ隷属中だからな。俺に悪いと思ってしまうのだろう

 だから、言葉は解いた後に聞くよ。それでも言いたかったらだけど……

 俺の話は、聞いてくれなくなるかも知れない。だから先に言っておこう。


「先に言って置く。これから心に変化が訪れるのはお前たちだけだ。

 俺の思いは変わらない。お前たちは俺の家族で、俺は大好きだ」

「ありがとうございます。僕は兄さんを誇りに思っています」

「私もお兄ちゃん大好きっもうすっごく好きっ」

「兄さまは……私のすべて」

「ありがとう、じゃあ、解くぞ」


 「「「え?」」」


 彼らが困惑してる中、俺は止まらずに隷属を解いて行った。


 「「「………………」」」


 深刻な表情で苦しそうにしている。やはり、そうだよな……

 だけど、これは俺が巻いた種だから受け止めるしか無いだろう。


「フィー、シャノン、ルディ、やはり、俺が憎いか?」

「待っていてください。

 兄さん、僕は何をしてでも貴方の背中に追いついて見せる。

 だからそれまでさよならです」


「私は、メルさんやアデルさんと並び立ちたい。

 でも今のままじゃ張り合う事すら、出来ない。だから私は旅に出る」


「禿同。私は兄さまを、私のものにする計画を発動。

 その計画を遂行する為、時間必要、お暇をください」


 ……やっぱり俺の元を離れていくのか。

 まだ、気持ちが残ってて混乱しているのだろうか?

 俺はどうしたらいいんだ?


「俺は今のお前たちの為に何をしてやれる?」


 と、問うと『変わらずに想って居て下さい』と全員に言われた。

 どういう事だ?

 その方が殺し甲斐があるとか?

 いやいやそんな子達じゃない。

 だけど……と、考えている間にあの子達は頭を下げて居なくなってしまった。

 俺はどうしていいか分からず相談相手を探しに屋敷にテレポートした。


 まだ昼間なのに狩りに行ったはずのメル達が何故か家にいた。


「なあ、メル。こういう事があったんだけど、俺はどうしたらいい?」


 奴隷の事ならメルだ、と、俺はメルに事情を説明した。


「……あんた、せめて事前に相談しなさいよ。

 居なくなった後どうしろってのよ」

「そこを何とか。お前奴隷のエキスパートだろ?」

「……本気で泣くわよ」


 そうだった……メルもひどい目に遭っていたんだった。

 基本明るいから忘れてた……


「ごめん、気が動転しててつい。でも、でもさ……

 どうにかしなきゃいけないんだ。だから頼む」

「はぁ、あの子達は自分の意志でやりたい事をしに行ったのでしょう?

 なら心の中で頑張れ、って応援してあげればいいだけじゃない」

「え?」 

「いや、だから!

 あの子等はもう自分でお金も稼げるし、一般から比べれば相当強い部類に入るのよ。

 だからやりたい事は、自分の手でやらせてあげるのが一番喜ぶはずよ。

 だから心の中で応援していればいいの」


 ……そ、そうか。そう言えばもう心配する事は無いじゃ無いか。

 人族の国へ行かない様にさえすれば、普通にやりたい事を自分でやれる。

 とても寂しくはあるが、長兄として見守ってやるべきだったのか。


 メルのおかげで、寂しさは消えないが、心がすこし軽くなった。


「ありがとう、メルぅ~メルメルー」


 と、寂しさを紛らわす様にメルに抱き着き、座っていたベットにそのまま押し倒し、顔をこすり付けた。


「ちょ、ばっ、何やってるのよ。真昼間っからもうっ」


 と、言いながらもメルは振り解こうとせず、少し赤い顔でドヤ顔をしていた。

 俺は、受け入れてくれた事が嬉しくて、抱き起し、キスをした。


 その目線の先にはアデルが立っていた。失意の顔で……


「もう、フェルったら恥ずかしいわ。人前でな・ん・て・うふっ」

 

 ちょ、おま、ばかー煽るんじゃねー。どうしようどうしようどうしよう。

 そうだ、まずこんな時はあの魔法だ。


「メルもアデルも俺の婚約者、だから俺は悪くない。だから大丈夫」


 そんな訳あるかーーーーだめだ、もうだめだ。


「ならばフェル様……私にもして、くれますか……?」


 ふぁっ!? お許しが出た……のか?

 これは現実か?

 そうか、こういう世界だった。

 いや……そうなのか?

 アデルは今物凄く悲しいんじゃないか?

 でも、それならなおさら全力で受け入れてやらねば!


「ア、アデル、ずっと前から俺はアデルとこうなる事を望んでいた。

 大好きだよ、アデル」

「フェ……フェルさ……んむっ……っん」


 そして、俺はメルが見てる中アデルに告白してメルのベットにアデルを押し倒しディープなキスをした。

 ひっそりとメルにお尻を抓られながら。


 少しおかしな空気が続いたが、俺達は一応の平穏を取り戻した。


「なあ、親父との狩りは、どうなったんだ?

 まだあれから7時間程度しか経ってないよな?」

「ええ。割って入って来て仕切られて、そろそろ終わりにしようと帰らされたわ。

『まったくどうなっているのか』と私が問いたいくらいよ」

「その言い方はいくらなんでも失礼です。国王陛下はフェル様の御父君なのですよ。

 フェル様をこの世に誕生させてくれたのは、あのお方のおかげでもあるのです。

 それだけでも全ての人が多大なる恩を感じ、経緯を払うべきなのです」


 ええと、アデルさん?

 何かの宗教見たくなってるから止めようね?

 と、言っても聞かないのはどうにかならないだろうか。

 フェル様なら神と同等かそれ以上でもおかしくはありませんので。

 と、返って来た時があって俺は説得を諦めた。


「はぁ、あんたね……

 盲目的にフェルを信じて自分では考えないなんてそんな依存行為してたら、妻になる資格なんて無いんじゃないの?

 ……資格とか柄じゃ無いか。ま、でも夫を支えられないお嫁さんなんてね」

「ぐぬ、それは一理あります。ですがフェル様はいつも正しいのです。

 間違っていない以上、訂正する必要はありません。

 ですが盲目的というのは良くないという事は分かりました。覚えておきましょう」


 おお、アデルが折れた。最近アデルよりメルのが年上に感じる時がある。

 流石に恐ろしい程、精神面がヘビーな環境で育ってきただけはあるな。

 そう考えると大事にしてやらねば。メルは良くここまでまっすくに育ったもんだ。


「俺がいつも正しいとか、考え方自体が間違っていると思うぞ。

 正しさは人によって変わったりするものだしな。

 まあアデルに褒められるのは嬉しいんだけどさ」

「あ~あ。フェルがそうやって甘やかすから、つけあがってなりたくも無いものを押し付けようとしてくるんじゃない」


 これは甘やかすとかそういう問題なのか?

 崇拝は我儘と同じと言う事?

 ふむ、これが哲学的問題というものでしょうか……


「メルディナは思わないのですか?

 フェル様は神々しいとか国王になったら凛々しさが一段と増すのではないかとか」

「まあ、思わなくも無いわね。流石に神は無いけど。

 でも、さっきも言ったけど全てはフェル次第よ。

 押し付ける様に進めるのは妻としては失格だ、と私は思うわ」


 お、おい。何で同意するんだよ。俺も何かを言わねば……

 あっ、ここはデメリットを分からせてやれば考え直してくれるのでは無いだろうか。


 俺は『お前達良く聞けよ。いいか?』と前置きをして指を立て目をつむり、説得を開始した。


「俺がここの国王になったとしたら、一番幸せであろう子供が生まれた後の5年間は仕来りで表立って会えなくなるんだぞ。

 それにな『ああ、ダメね。却下』」


 言葉を遮られた……最近、あまり俺を立ててくれない気がする。

 

「そんな……あんまりです。もう離れたくありません」


 続きを言う必要は無くなった。

 ……この自慢げに立てた指はどうしたらいいんだ。

 しまえばいいのか? それしか無いな……

 まったく、どうしてこんな風になっちまったんだ……

 まあ、下に見られて居ないだけマシか。


 ああ……そんな事より……


「フィー、シャノン、ルディ……無事かなぁ……」

「まだ、半日も経ってないのにそれなの?」

「どうかされたんですか?」


 と、問うアデルにメルが事の成り行きを説明した。


「流石はフェル様です。私なら怖くて隷属を解くなんて事できないでしょう」

「そうね。私も同感だわ。あれだけ可愛がってた子に憎まれたら切なすぎるもの。

 どうして隷属を解くって決められたの?」

「いや、あいつらの人生は俺の物じゃない。って思ったら解かなきゃダメだって思っちゃったんだよ。はぁ……」


 そんな事に気が付かなければ良かった……いや良くないんだけど……


「はぁ、もううちの旦那はこれだから……」

「まったくです、旦那様っ」

「ちょ、まだ婚約中なだけだからね?

 今はまだ、俺の彼女とかそのくらいの間柄なんだからね?

 せっかち過ぎるからね?」


 もっと、若々しい青春をしようよ。

 新婚ごっこは本物になってからでいいから。


「か……彼女ね……」

「フェル様が私の彼氏……」


 むむ、せがむようなその目線……このまま行っちゃってもいいのだろうか。

 いやいや、何を考えている。

 昼間、相手が二人、俺12歳、ダメでしょ。

 危ない危ない。抵抗値が低い俺がキスなんてしちゃったもんだから……


「さて、アルファ呼んでレベル上げに行くか」

「フェル様、アルファは帰って来てませんよ?

 自分だけレベルが低いから残らせてと言われてしまい、別で狩りに行くのも可哀そうなので今日はこのまま休もうかと言う話になりまして」


 なるほど。

 なら、俺も今日は休むとするか。昨日の今日だしな。

 と言う事で、俺は昨日MPをくれた人たちに事情説明とお礼を告げ、魔法の国オルセンの国王と談話をしてきた。


 だが、父に謝らせる話をまだしていない事を告げると、やはりあやつの子よと言い始まったので、もう少し待って欲しいと言いつつ戦略的撤退を決めた。

 流石に今、踏んだり蹴ったりの状態の父に、それを言うのは嫌だったのだ。


 とはいえ、俺の口から父の状態異常を漏らす訳にもいかなかった。

 何だかんだ言っても、一応は他国の王なのだから。


 と、お礼を告げて回るのも終わる頃にはもう、夜になっていた。

 枕を持ってきたメルとアデルが部屋に入ってきたりしたが、すでに布団の領土を治めていた母に追い返された。


 母に撫でられながらも考えていた。

 ついに戦が始まってしまったのだと、これからは俺の力で守れる範囲を超える戦いが始まってしまったのだと。

 先にやれる事は何があるのだろう。と深く考えながらも寝ている母さんを見ていたらいつの間にか寝てしまっていた。


 次の日、祖父の元へ直行した。今後の計画を練る為に。


「おはようございますお爺様。

 フェルディナンド、ご相談したい事が御座いまして参りました」


 ここは王城ではない。

 父に即位させてから、住居を王宮の敷地内にある屋敷に移したのだ。


「お爺様、可愛いお客さんがお見えになりましてよ。

 ……フェルディナンド? 私の弟……ですか?」


 あれ? 姉さん達は国外に逃がしたんじゃ? と疑問に思い聞いてみた。 


「ええと、お父様から姉様達は魔法の国へ向かったと聞いていたのですが」

「おお、よう来たのぉ。

 この子は第3王女のミッシェラじゃ。今15だったかの。

 正真正銘お前の姉さんじゃよ。フェルは社交が始められるようになった直後に国を出てしまっていたので知らんのじゃな?

 この子もとても勇敢な子での。いち早く魔法国へ向かい援軍を連れて戻って来ていたのじゃ」


 それはありがたい。

 ただ逃げただけだと思っていたが、ちゃんと有能な人も居るんじゃないか。


「おお、流石は王女殿下。

 私はフェルディナンド、第七王子に位置します。

 純粋な王族では無い不肖の子ではありますが、願わくば姉様とお呼びさせて頂きたく思います」

「まあ、嬉しいわ。

 生まれの事なんて、気にしてるのは母様とミルヴィナ姉様くらいですわ。

 この国を救ってくれた事、深く感謝いたします。可愛い私の弟フェル」


 おお、姉さんか。うん、なんかいいな。いや、最高だ。


「……か……感激です。姉様」


 少し照れくさくて顔が赤くなってしまい、恥ずかしくて隠す様に上目遣いで見上げた。

 決して狙った訳では無い。


「可愛い……お爺様、私の弟とても可愛いですわ。

 ここに住まわせる事は出来ませんか?」

「ほう、それはいいのう。泊まりに来れぬかカトリーナに聞いてみるとしよう」


 それは母さんが断固拒否するんじゃないだろうか?

 と、それよりもまずお爺ちゃんと今後について話を詰めないと。


「お爺様、今日はお爺様と今後の対策について、話をお聞かせ願いたいと思いましてお伺いさせて頂いたのですが、お時間の方は大丈夫でしょうか?」

「時間か。今やお主との対話が最優先だと言うのにの。

 もう少し大きく出てもよいのじゃぞ。お主は今この国で最強の戦士であろう」

「獣人は力より心を重んじる種族でありますから。私もそう存ろうと思います。

 もっとも優れた父さまやお爺様に対して敬意を払うのは当然の事ですが」

「むう、こちらに負い目があるせいかのう……

 本当は子供は子供らしくして欲しいとも、思ってしまうのう。

 まったく、我が身ながら不甲斐ない事じゃ……」


 やはり分かっていても納得は出来ないのであろう。しょうがない事だと思う。

 だから父さんが可笑しくなった状態を皆すぐには分からなかったのだろう。

 だけど、それでも子供の安全が最優先とか父さんはやっぱりすごい人だ。


「もう、お爺様達はどうしてそうなのですか? 本人がいいと言っているのに」


 おお、そうか。ここには同じ子供と言う援軍がいた。もっと言ってやって欲しい。


「まったくです。父さまの方にも姉様から言って頂きたいくらいです」

「あら、もう言いましたわよ。聞いてはくれませんでしたが。

 お父様は『それだけはダメだ』が一杯ありますの」


 やっぱりそうでしたか。ですよねー……


「おっと、話がそれてしもうたの。ふむ、まずはどこから話をしようかの。

 魔法の国から援軍が来た事はさっき話に出たが、今その部隊との連携を思考中なのじゃ。

 して、その部隊をどこに置くかを迷って居る所での」


「それでしたらローレンとラード砦の間にあるリザードメイルの出る森はどうでしょうか?

 連携の復習ついでに170レベル付近の魔物を狩りながら戦を待ち潜んでもらえば、どちらでも対応が可能だと思います」


 兵士にはしんどい思いをさせてしまうけど、少しでも可能性を上げたい所だ。


「ふむ、ちと魔物のレベルが低いが贅沢は言えんの」

「それとローレン、ラード砦の他に北ルートにも罠を仕掛けた方が良いかと」

「罠とな、じゃが250レベル上の連中が出てくるじゃろう。

 そんな者達に効く罠があるかのう……そのレベル帯になると矢すら弾くぞい」

「そうですね。ですが崖崩れは耐えられないでしょう?

 まあ、大半は避けられるでしょうが……一割でも削りたい所ですし」

「それは随分と大仕掛けになりそうじゃ。時間が厳しいのう」

「まあそうですよね。最大で三カ月、おそらく一月以内が妥当と言う所ですものね。

 ですが。要は崖崩れ並みに大きな岩を落とせばいいのです。

 そこら辺は私がやりましょう」

「ほほ、頼もしいのう。では、わしは何をすればよい」

「岩を落とす人材を派遣して欲しいのと、やはり計略もやり返さねばなりません。

 有効と思われれば更なる手を打ってくるでしょう。

 出来ればこちらの被害より甚大なものを」

「ふむ、難しい事を言うのう。

 我らに出来る事でどれほどまでの事があるかのう。

 計略は基本的に魔法を使う側の専売特許じゃしなぁ」


 そうか。魔法が使えないとそう考えてしまうのか……

 確かにな。魔法で操る事が出来るんだから使えない側は不利過ぎる。 


「そうとも言えません。彼らは強欲ですから。

 その欲を利用し殺し合うよう仕向けてみると言うのはどうでしょう?」

「フェルちゃん、ダメよ。それでは汚れた人族と変わらないわ。

 お父様やお爺様の御心を汚す気ですか?」


 ああ、確かにそうだな。

 それで有効打を取れば繰り返そうとエスカレートするだろう。

 そうなっては本当に人族の様に汚れてしまう。


「私が間違っておりました。今の話は忘れて下さい」

「ミッシェラそう責めてやるな。フェルは我らを想い必死なのだ」

「酷いですわ、お爺様。私とて言いたくて言った訳ではありません」

「いえ、間違った時に止めていただける事。とても嬉しく思います。

 ありがとうございます、ミッシェラ姉さま」


 本当にありがたい。

 俺の周りは盲目的だったり親馬鹿だったりと常識が通じない相手が多いからな。


「ですが、如何なさいましょうか。このまま当たるのは流石に頂けません。

 少しでも多く手を打ち、少しでも勝つ可能性を出して行きませんと」

「やはり、このままでは、勝ち目は無いか」


 いや、無いでしょ。

 相手は少なく見ても300を余裕で超えてるのが98人は居る訳ですよ?

 普通にやりあうなら絶対的に勝てない。

 まあ、分かってて言っているのだろうな。信じたくないだけで。


「ええ、勝ち目はゼロと言ってもいいでしょう。

 あちらは目を背けたくなる程に非情なやり方でレベルを楽に上げているのです。

 我らの100倍以上のスピードで上げる事が出来るのですから。

 それだけの差が付いているのです」

「え? お爺様? 不利なのではなく勝ち目がないとは……本当ですの?」

「そうじゃ。下手をすると、レベル差が100ある。と言えば分かるかの?」

「ひゃ、100!?

 な……何という事でしょう。

 フェルちゃんは知っていたから……さっき程の様な事を……私は……」


 と、姉様が悲しんでいる間に、不躾にドアが勢いよく開かれた。


「あはは、こいつら戦時だってのに装備外してやがる、馬鹿じゃねーの?」


 と、人族の男に罵倒され俺は、失念していた事を思い知った。

 テレポートは秘術でも何でもない、と言う事を。

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