第24話復讐

 目が覚めた。


「なあ、今までのが全部夢だったなんて事、無いよな?」

「……どうしたの?

 貴方が起きた事に目をつむると言うのなら、私は何も言わないけど……」

「いいやそれは無い。だけど、何故かな? 気分が悪くないんだ。

 訳が分からなくなって、ひどい頭痛に襲われてたんだけどさ。それが引いた」

「私もよ? フェルがね、皆の所に逝こうって言った時からね。

 それからは、お嫁さんにして貰った嬉しさででもうちょっとこのままでもいいかなって思っちゃう事に罪悪感を感じるくらいね」


 と、メルが真面目に答えてくれた。やはり、これは夢では無かったらしい。

 俺は当初の目的であった母さんとケアリー母さんを守るという誓い。

 運命の出会いだった彼女、アデルにもう小さな怪我すらもさせたくないと思い、必死にやって来た。

 そして、共通の目的の為に、一緒に戦ってくれていたアルファ。

 俺は全てを失った。


 もっと、物語らしい出来事や、フラグなんてものがあるのだと思っていた。

 いきなり現れ、その時にはもう終わっているなど、思ってもみなかった。

 本当に考え無しだった。


「やっぱり怖気づいたのね。いいわ、私がやってあげる。だって私女神だもの。

 死んでも存在は消えないし。だから私に任せて余生を女神を崇める事に使いなさい」 

「もし怖気づいたとしても、お前を崇める事だけは断固断る。

 まあ気持ちは変わってないよ」


 こいつは気を使って馬鹿な事を言ってきているのだろうか?

 俺の気持ちを見抜いてるかの様に、馬鹿話を振ってくるな。


「じゃあ何で断るとか言うのよ。必要なかったじゃない!

 どうして私の事をそうやって虐めようとするのよ。ひどいじゃない」


 と、子供っぽく言ってしまった事にハッとし、リーアは赤くなりうつむいた。


 そう言えば、一週間も塞ぎ込んで居たとは思えないくらいに元気だな。


「もしかして、俺達の為に、わざと明るく振舞ってくれていたりするか?」

「え? え、ええ、そうよ、私は寛大なの。思い知ったかしら?」


 女神リーアは見下した様な笑顔を向け、崇めなさいと言わんばかりに言い放った。

 ああ、やっぱり無いな。

 うん。こいつが気が付かれない様に気を遣うなんて事は無い。


「そうか、ありがとな。救われてるよ」

「フェル……? どうしたのよ。そんなこと思ってないでしょ」


 と、傍観していたメルが、疑問に耐えられず口を開く。


「ああ、分ってるさ。そう思いたかったから言っただけだ。

 事実が違う事になんて最初から気が付いてる。

 もう、今更言う必要も無いしな」


 あ、ここは思考だけで留めておくべきだったな。久々に漏れたな……


「……ふ……ふふ……屈辱だわ。女神の名を持ってフェルディナンドに告げます。謝りなさい」

「はっ、断る」

「また、鼻で笑った……鼻で笑われた……いつかの人族の様に……

 こんな屈辱、先週のあの日以来だわ。覚えておきなさい」


 先週とか安いな。いや、ああ……父親を亡くした日の事か……そこまでか!?


「いやいや、こんな事で親父さんの命と比べるなよ。あほなの?」

「だって、フェルがいけないんじゃない。

 私のプライドをいつもいつも足蹴にして。だから私悪くないもん」

「ああ……そうだな。お前は悪くない。だからそろそろ行こうか」


 もういい加減に行こう。遊び過ぎたな。


「はぁ、やっと飽きたの? てか、あなた達タフね。死を受け入れたままで、そんなにも今を楽しもうとするなんて……」


 と、メルが呆れたように呟く。


「どう言う事? 飽きたとか、楽しむとか……」

「だから、フェルに女神で楽しむのはもう飽きたの?

 って聞いたのよ。てかこんなのより、私で楽しみなさいよ」


 おいおい、言っちゃうのかよ。ってもういいか。先何て無いのだし。

 だからメルも、なんも気にせずにぶっちゃけているのだろう。 


「そうだな。じゃあメルで楽しもう。押し倒していいか?」

「はっ何を馬鹿な事を、私で楽しむ? この私で?

 不敬なのもいい加減にしなさいよ。死んだ後、覚えてなさい」


 と、リーアが何故か答えた。メルは無反応だ……

 俺にとって冗談めいたこの言い方でも精一杯だと言うのに。

 だが、死んだ後と言う言葉でひらめいた。もしかしたら彼女たちと言葉を交わせるのではないかと。


 出来れば死んだ後に彼女たちにもう一度、と言うかずっと一緒に居たい。


「なあ、リーア、一つ頼みたい事があるんだが」

「ハッ! 今更? 聞き届けてあげると思ってるの?」

「心優しく清らかで寛大な女神リーアミールだからな。

 冗談を真に受けて、怒ったりなんてしないはずだ」


「冗談……なのね? 心がやさぐれてつい言っちゃった冗談なのね?」

「ああ、俺のせいで傷ついて、悲しませてしまった女の子だからな。

 少しでも元気を取り戻してほしくてな」

「そう、いいわ。聞いてあげる」


 ちょろ。ちょろいなこの女神……あっ……メルが軽蔑した目で見てる……


「え、ええとだな。アデル、母さん、ケアリーさんアルファを記憶が残ってる状態で死んだ時に合わせて欲しいんだ。お前の親父さんが出来るなら可能だろ?」

「ああ、そんな事。自分の星の事なら簡単な事だわ。別に構わないわよ」


 おお、腐っても女神、流石だな。


「ありがとうございます。女神リーアミール様。

 私メルディナは、生涯あなたを崇めます」


 やるな、メル。とっても耳当たりが良い言葉だが、俺達はもうすぐ生涯を終える。


「よし、話は決まった。もう行くぞ。止まっていると考えてしまうからな」

「でも、どうやって攻めるの? どうせなら集めてドカーンとやりたいわ」


 と、メルが自分の希望を提案する。


「馬鹿ね。そんなことしたらすぐ終わっちゃうじゃない。

 こそこそと一人ずつ倒して楽勝になるまでレベルを上げるのよ」


 まあ父さんやお爺ちゃんの事を考えれば、リーアの案を採用する方がいい。

 だが気持ち的にはメルと同意見だ。やっぱり、最後だしドカンと行きたい。


「あ~そうだな。

 じゃあお前たちが350レベルになるまではこそこそと狩りしようぜ?」


「狩り、ね……はぁ、私達も汚れちゃったものね」

「ふん、女神である私が断言するわ。

 これは聖戦よ。魂の汚れなんてある訳が無いわ」

「まったくだな。じゃあ、行くか」


 「「ええ、行きましょう」」


 と、二人は目をつむりながら私の言葉に同意したのよとドヤ顔を決めた。


 もちろんメルに同意したのだが、メルよ……

 お前、崇める気皆無だな。


 と、その思考を最後に気持ちを切り替えた。

 俺達は再度走り始めてしばらく経った頃、ようやく王都が見えて来た。


「何が二日よ、半日すらかからないじゃない」


 馬を休める時間。食事、休憩、睡眠もろもろあるのだ。

 だがそれはおいておこう。


「まずは兵舎でも探そうか」と、俺は王都を守る壁を崩れない様に切り抜き、侵入した。


「兵舎より、そのまま王宮に向かわない?

 そこでこそこそ狩りしてればある程度上がった頃にドカッと来るだろうし」


 と、メルは言う。どうしてもドカンとやりたいみたいだ。


「確かに派手ね。女神の神罰の舞台としては丁度いいわ。

 じゃあ、そこにするわよ。いいわね?」


 先ほどの自分の要望はどこに行ったのか、と思いながらも『はい、女神様』と、俺達は二人して可哀そうな目を向けつつ女神を崇めた。


 王都は単純な作りだった。大きく十字に切った大通りその中央区画が王宮となっている様だ。なので、俺は最も高い建物に上り、王都一面を視界に収め、テレポートで移動した。


「はは、そうだったわね。侵入すら転移で済むのよね。

 不意打ちを食らう訳だわ。でも反対に思い知って貰いましょう」


 メルはそう言った後、目のハイライトが消えた。

 それと同時に黒いオーラでも見えそうなくらい殺気立っている。


「ああ、気負う必要は無い。やりたい事をやりたい様にやれ」


 と、言った瞬間メルは城門の門番を即座に剣で切り裂き門を蹴破った。


「ちょ、あんた聞いてたの? こそこそやるって言ったじゃない」

「はい、ですがもうやってしまいました。女神様、聖戦の開始でございます」


 と、話している間にも、兵は王城内部から集まって来ていた。

 そして、城門を境に兵隊と俺達でにらみ合いになろうとしていた。


「燃え盛れ、ファイアーストーム」


 メルは詠唱を短縮しまくった中級魔法を連発し、炎の重ね掛けをして集まった兵を焼き尽くしていった。


「あなたずるいわよ。私にもやらせなさいよ。

 レベルが上がらないじゃない。まだ私270なのよ」

「あら、女神様は体を弄ってあるのでしょう? フェルの様に。

 ならばそのままでも320レベルまでは余裕なのであまり気にする必要はありませんよ」


 確かに俺は50レベル上をやれた。

 だがスキルや称号がなければかなり厳しい物があると思うぞ。

 それに俺は、装備が最高級なのだ。比べてはいけないと思う。


「アンフェアだから一応言っておく。

 俺は称号、スキル、オリハルコン装備、があってこその強さだからな?」

「ああ、やっぱりそうよね。危なかったわ。危なく特攻する所だったじゃない。

 咎めはしないけど、発言には気を付けなさい」 


 メルは無視して俺をジト目で睨んでいる。


 いやいや、ここで何も言わないでリーアが死んだら流石に笑えないだろう?

 だからジト目を止めて欲しい。と目で訴えた。


「じゃあ、数も減ったしリーア様を援護しますよ。行きましょう」

「そ、そう? じゃあ行くわ」


 と、流石にちゃんとメルはリーアを援護して兵士を着々と倒して行った。

 兵士たちは俺達の強さに戦慄し、自分を慰める様に独り言を言い始めた。


「ば、化け物め。何故、ろくに詠唱もせずに魔法が放てるのだ」

「俺達は200レベル超えてるんだぞ。何でこんなに一方的に……」

「おい、誰か上位者呼んで来いよ。このままじゃ無駄死にだぞ」

「報告した奴も間違いなく死ぬだろうがな。畜生、隷属さえなければ……」

 

 やはり、こいつらは全員下位の者なのだな。

 勝手に情報をくれるとは人族は本当に気が利くなぁ。

 疑問は口に出さないと収まらないのか?


「ちなみに上位者のレベルはいくつなんだ? 俺は今350を超えた所だが」


 って流石にこっちからの疑問には答えないか。


「へっそんなもんでうちのトップに勝てると思っているのか?

 随分とお気楽な頭だ事で。少なくともお前より高い者が10人はいるぞ」


 おお、答えちゃった。だがそれしかいないのか。下手したら最後に自決する様だぞ。

 

「たった十人か、お前たち全滅するんじゃ無いか?」

「はっ馬鹿を言うな最上位のあのお方、アルテミシア様はレベル400を超えているのだぞ。貴様ごとき瞬殺だ」


 と、丁寧に説明をしてくれた瞬間、彼の首が飛んだ。

 情報漏洩を忌避したものが居た様だ。上位者かな?


「貴様ごときがアルテミシア様の名をかたるなど言語道断。

 死を持って償うといい。ご馳走様」


 え。今ご馳走様って言ったんだけど?


「ええと、お粗末様? 上位者の人かな?」


 と、俺はこいつもおしゃべりそうだなと思い、さりげなく声を掛けた。


「はは、俺は運がいいな。お前はあちらの上位者だろう?

 もしかしたら彼女を俺の物に出来るかもしれないな。

 いや、魔族二人と家畜一匹程度では無理か」


「か、家畜……ぶっ殺す」 


 ある程度兵士達を片付け終わったリーアが激怒し特攻した。

 俺は癖でつい、援護に向かってしまった。そしてそれは正解だった。


 リーアの攻撃は弾かれ、その反動でリーアは吹き飛ぶ。

 即座に援護に入ろうとしていた俺は、吹き飛んだリーアを追いかけて追撃をしようとしていた奴の間に入ることが出来た。


「邪魔だ、死ね」

「まぁまぁ。まずは名前でも聞こうか」


 俺は彼の全力であろう一撃を軽くそらし、問いかけた。

 いくら力が高かろうとそこまでの差は無い、と言うか、俺の方が数段高いだろう。

 戦いなれた今の俺ならば、会話に思考を回しながらでも問題無さそうだ。


「やるな。良いだろう。

 我は、10柱の一人であり、近衛騎士筆頭マリオン・マクファーレンである。

 貴様に一対一の決闘を申し込む」


「何が一対一だ、一人しかいなくなったから多対一は止めてねって事だろ?

 まあ、いいや。他の上位者が来るまでは遊んでやる」

「ふざけないで、こいつは私を家畜呼ばわりしたのよ。一緒にぶっ殺すわよ」


 起き上がったリーアは隣に来て、話に割って入って来た。

 ……熱くなりすぎだろ。聞き流せばいいじゃねーか敵なんだし。


「やはり、家畜なのか? 一対一の決闘も出来ぬのだな」

「ぐっ、いいわ。受けて立つわ。フェルが」


 リーア……もう喋らないで……恥ずかしい……

 と思いながらも、マリオンに攻撃を仕掛けた。


「じゃあ、決闘とやらを始めるとしようか」


 と、俺は力任せに剣を振り下ろした。

 彼は剣を防御の姿勢で構え俺の攻撃を受けようとしていた。


「良いだろう。私と戦った事をあの世で誇るが…………」 


 彼の行動が止まった。彼が俺の剣を受け止めた瞬間から。

 原因は、彼の剣が折れたからだ。


 彼は何とか我を取り戻し、制止する。


「し、仕切り直しだ。ちょっと待っていろ」


「今ここは戦場なんだ。

 そこでの一騎打ちに仕切り直しの要求が通る可能性が、ほんの少しでもあると思っているのか?」


 と、俺は彼に詰め寄り、心臓を一突きにしようと剣を突いた。

 だが、彼はすでに逃げの姿勢を取っており、わき腹を切り裂く程度にしか当たらなかった。


「良く避けるじゃ無いか、見直したぞマリオン」


 彼はポーションを飲みながら、王城の奥へと逃げる。

 俺達三人は彼を追いかけようと走った。だが。


「ちょっとストップ。どうしようか、このままだと上位者に囲まれるけど……」

「どういう事?」

「ああ、そうね。逃げるなら強い者がいる所に向かうわね」

「そうだ。だが、レベルは明らかに足りていない。

 目的の為にはそれもありだが、トップを多少削っても、奴らを後悔させるには足りない気がする」

「これは聖戦だと、神罰だと言ったでしょ。後悔させなきゃダメよ」

「じゃあどうする? テレポートで仕切り直す? 私は構わないけど?」

「テレポート、使えると思っているの? そんなにこのお城は甘く無いわよ?」


 と、知らない声が前方から聞こえて来た。

 ……先ほどまでこの城の最奥に居たはずだ。

 一番大きい力の者だ。魔力感知でこいつの事は最初から把握していた。

 そして、転移では無い。少しぶれた様に感じるくらいに高速移動をして来たのだ。


 まず、ブラフでは無い事を確認する。


「なるほどな。テレポート、と言っても使えないと言う事か。厄介な事で」


 と、会話に混ぜながら確認し、彼女に目を向けた。

 黒髪でポニーテールにしていて、全身を包む鎧、頭だけがサークレットの様な、王女様が付けているような豪華な頭装備になっている。

 まあ、綺麗と言えば綺麗な顔立ちではある。

 だが、まるで整形でもしたような顔立ちだなと思いながら様子を伺う。


「そして、私が目の前に居る。それでお前たちはもう詰みなのよ」

「大した自信だな。アルテミシア、でいいのかな? 黒髪のおねーさんは」


「自信、と言うより確信よ。あなただけは相当強い様だけど……

 それでも私には届かないわ。でも、戦ってみたいわね。

 多少は楽しませてくれそうだわ。

 立場上も逃がしてあげられないし。恨まないでね」


 と彼女は瞬間移動でもしたかのように目の前に瞬時に現れ、剣を振り下ろした。

 俺は受ける事はせず、瞬時に後ろに下がり、詠唱を始めた。


「神の力、すべての限界の突破、リミットオーバー」


 と、この前の様な長い詠唱はせず、イメージだけをそろえて短縮をした。

 どうやら成功の様だ。まあ魔法はイメージだと言うのなら、この魔法はもう失敗する事は無いだろう。魂にまで焼き付いているのでは無いかと思ってしまう程に沁み付いている。最悪な程に。


「何、それ、魔法?」

「それ以外に何がある。さあ、楽しむんだろう?

 それとも援軍でも待っているのか? あそこまで言って置いて」

「そうね、恥ずかしいわね。あなた早くしなさいよ」


 ちょっと黙っててくれないか? せっかく相手は俺しか意識していないのに。

 これほどの奴を相手にかばって戦闘出来る程、俺は強く無いぞ?


「フェル、気にしなくていいわよ、結果は同じなんだし。

 気負うな、やりたい様にやれ。でしょ」


 そうか、そうだった。あいつは見殺しでいいや。

 ……なんか酷く罪悪感がわく言葉だな。


「話はついたみたいね、行くわよ?」

「ああ、来いよ。好みじゃ無いが遊んでやるよ」


 彼女、アルテミシアは先ほどの様に目の前では止まらず、高速移動をしながらの攻撃をしてきた。それを避けつつ剣を振り返す。

 最初の攻撃でこれをされて居たら危なかったな、と冷や汗をかいた。


 だが、今はリミットオーバーが発動中。しかもこれは大分持つ。

 おそらく一時間程度は持つだろう。MPはがりがり削られて行くが……

 

 そして攻防は続くが当たらない。まるで剣舞でもして居るかのようだ。


「あはは、私の見込み違い、格ゲーでもこんなの無いわ。

 あなた、凄いのね。最高だわ」


 は? っと俺は格ゲーと言う言葉に意識を取られ、肩を切り裂かれた。


「「フェルっ!」」

「ハイヒーリング」


 こいつも転生者か?いや、黒髪だし、もしかしたら召喚されたのかも知れない。

 召喚されたのなら、まず間違いなく隷属されているだろう。

 だが、助けてやる義理がある訳でもない。やはり、やるしかないか。

 はぁ……と俺はため息をついた。


「はぁ、気が乗らないな。最高レベルの隷属者か。なぜ殺されない?」


 アルテミシアは、攻撃を止め、距離を取り、言葉を返した。


「私が強いからよ。経験値では計れない強さがあるからハメ技とかも得意だしね。

 でも、もう飽き飽きしてたけど」


 おれは、つい、確認をしたくなってしまい、言ってしまった。


「ぬるぽっ」

「がっ」


 これは、こう言ったらこう返す、という意味の無い、言葉遊びの様な物だ。

 まあ、プログラム系統の言葉にソースがあるらしいがそこまでは知らない。

 昔にネットで流行った、ネットスラングの様な物である。


「やっぱりか、まあどうでも良いけど」

「はっ? なんでそれを? あんたも召喚されたの? 目の色可笑しくない? 転生?」

「質問は一個づつって教わらなかったか?」

「いや、無理でしょこの状態じゃ。てか本物なの?」


 まあ、俺も、事が起きる前だったら、困惑したかもな。


「まあな。体感的に年齢はもう46歳になるぞ。」

「って事は転生ね。あなたならやれるかも……ううん、貴方がいい」


 ああ、面倒な事を言い出しそうだ。聞いてやる気は無いが。


「意味わからん事を……ゆとりか?」

「私、もう、裏切られたり、命令されて殺したり裏切ったり、強い事を責められたり、色々限界なのよ。心が……」

「ああ、そうか、お前の主人を殺してほしいんだな?

 けど、俺はお前にそんな義理はないぞ、てか敵だ」

「あはは、当然ね。だからさ、私を殺して。

 それならさ、義理あるでしょ? 敵なんだし」


 そうか……こいつも、心が擦り切れて、死にたいんだな。


 ……そうだな。どうしようか。

 こいつの主人から殺して、こいつが敵じゃ無くなれば色々話が変わってくるな。

 だが、主人を教えないように命令は受けているだろうな。


「言えないとは思うけどさ、お前の主って誰なの?

 どうせそいつも敵だしお前を殺した後で良いのなら、そいつも殺してやってもいいぞ」


 言えないだろうし、聞いてもこいつから攻撃をされてはそれは不可能だ。

 だから、俺はやってもいいが告げない。希望を持たせない為に。


「優しいね、じゃあお言葉に甘えて。この国の国王を出来るだけ無残に

 凄惨に、お願いします。お願い致します……どうか」


「……馬鹿な国王だな。安全だとでも思っているんだろうか。

 んでそいつ今どこにいるの?」

「それは命令に触れるから聞き直さなくてはならない。どうしてだと」

「そうだな。俺は獣人国の第七王子、休戦調停に来た。案内をして欲しい。

 そして俺達はどこに向かう? これでいいか?」

「は? 獣人? 流石にそれは信じられないから言えないわ」

「ほいっ、ここが俺の特徴。出させんなよ、恥ずかしい」


 と俺は、毎度の事の様に、鎧を少しずり上げて、獣の毛を見せる。


「わっ……本当……なのね? そんな風に生まれる事もあるんだ?」


「稀らしいが、過去に記録もあるぞ。

 それとこっちに居るのがお前たちの言う女神が封じられていると言う娘、だ。 

 俺を転生させたいなら一緒に来いと言って女神も一緒に転生させた。

 そんな関係だな」


「ふん、家畜って言った事、私忘れてないからね。

 絶対後で仕返ししてやるんだから。覚えてなさいよ」

「リーア? それ別の奴な? 性別も違うからな?」

「え? し……知ってたわよ。人族全体で捉えて言ったの」


 と、リーアは顔を真っ赤にしてうつむいた。


 アルテミシアは考え込んでいる様だ。きっと、どう考えたら

 命令に触れないか、を考えているのだろう。


「そうね、今すぐは決められないわ。だから直接今から王に聞いてきます。

 あなた達、まさか魔力感知が使えたりしないわよね?

 使えたら教えてしまう事になってしまうから、使えないと言ってくれる事を願うのだけれど」


 ああ、なるほどな。だが隷属の命令権って意外と穴があるんだな。


「ああ、大丈夫だ。使えない。安心して王に聞きに行って来ると良い」

「ふふ、フェルは感知魔法をつか――――――もごっ――――――」

「――――――――えません。だからどうぞ」


 メルが気を聞かせてリーアを黙らせてくれた。実際危なかった。

 まさか、ここまであからさまでわからないとは思わなかった。

 天然あほ娘、おそるべし。


 そして、アルテミシアの魔力反応の移動が止まり、俺は位置を把握した。

 罠の可能性も考えたが、目的を考えれば気楽なものだ。

 父さんたちには申し訳ないが。そうなったらリーアに頼んで父さんたちに謝ろう。


 それから俺達は、アルテミシアがその場所から移動するのを待ちつつ、移動しながら兵士たちを狩った。


「あっ、移動を始めたぞ。てか、こっちに向かってるな。

 出来れば上手い事会わずに王を殺しに行きたいんだが……」

「魔力感知ってさ、一階と二階の区別って付くの?」

「ああ、近ければな。遠く離れていれば別だが」


 方角と距離が高い精度で把握できてしまうからな。少しでも斜め上に感じたら、すぐに違和感を感じ取ってしまう。


「なんで、あんな奴の為に動くのよ。あんたも義理は無いって言ってたじゃない」


 こいつは、本当におこちゃまだな。それだけで動いてる訳無いだろ。


「はぁ、神罰を与えたいのだろう。だから取り合えず国王は討っておく。

 そうすればアルテミシアに負けても一応は面目は立つってもんだろ?」

「勝てなそうなの?」


 メルが心配そうにのぞき込んで聞いて来た。


「勝率60%って所か。正直負けてもおかしくないと思う。

 リミットオーバーを掛けてそれだから、相当やばい。

 あいつも何か特殊な事をやってるんだろうけど」


 そう、どう考えても異常だ、俺はさっき戦っていた時は358レベル。

 ステータスはスキルや称号込みだと常人の600レベルを楽に超えているだろう。

 そして装備も最高級、魔法でとても効果の高いブーストも掛けている。

 それで、ようやく少し上回っている程度なのだ。異常にも程がある。


「平気よ、私のフェルが負けるはずないわ。私が保証するわ」


 とリーアが言った、そしてメルが即座に反応した。


「はっ? 誰の? 私の夫なんですけど? 起きてます?」


 珍しいなメルがこういう風に怒るなんて。

 だが、こいつの言葉には耳をかしてはいけない。

 それは何故か、ただただ面倒になるだけだからだ……

 だから俺はメルを後ろから優しく抱き止め、囁いた。


「俺はお前のだよ、メル。だから言葉のあやを取らなくていいんだ」

「わ、悪かったわよ。

 私はただ、私が体を弄った事について、言ったつもりだったのよ」


 珍しくリーアが謝った事でその場は収まったが、問題の解決は一つもしていなかった。

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