第19話アデルの帰還


 俺とアルファは屋敷のドアを開け玄関に入った。

 そこにはメルが仁王立ちしていた。


「どう言う事? どうして二人だけで行っちゃったの?」


「いや、お前、なんか体調悪そうだったし……」


 俺は必死に気が付いて無い振りをしなければと、言葉を選んだ。


「体調悪くなんて無いわよ。変ないい訳しないでよ」

「いや、ほら、なんか俺の部屋でうなってただろ?」

「「……」」


 あ、これは言い過ぎたか……メルの顔が青くなっていってる……


「ほ、ほら、顔色が悪いじゃないか。今日は休むんだ。

 あまり心配をさせないでくれ。なっ? メル?」

「え? え、ええ。でも大丈夫……大丈夫だから」


 おお、何とか回避成功した。

 ふう、俺は何も悪くないのにどうしてこんなに心臓に悪いのだろうか……

 人は未知が怖いってほんとだな。うん、怖い。


「そうか、良かったよ。ほんとによかった」

「そ……そんなに心配してくれたの?」

「うん、怖かった。メルがどうなってしまうんだろうって、本当に怖かった」

「もう、大げさよ。それで、アルファとの狩りの方はどうだったの?」


 そこでアルファが前に出て少し興奮した様子で饒舌に喋り出した。


「凄かった。80レベルの格上を倒せる日が来るなんて夢にも思わなかった。

 あなたには悪いけど、またお願いしたいと思っている。

 言っていた意味も分った。命令に全部従う。もう願いは達成されたも同然。

 それと……助かれって……言って……くれたから……」


 ああ、あの時うつむいたのは嬉しかったのか。よかった。


「フェル? あんた80レベルってどこ連れてったのよ……」

「ああ、フォレストオーガの所だよ。

 それとメルに色々と話さないといけない事が出来てな。

 取り合えず今からいいか? 俺の部屋ででも」


 あ、俺の部屋……大丈夫だろうか?


「分かったわ。その様子だと、悪い話じゃないのよね?」

「ああ。ああ? 一つは良い話、一つは……怒るかも知れない……」

「……まあ、とにかく聞かないと分からないわね。先に部屋で待ってるから」


 と、メルはダッシュで俺の部屋に向かった。

 ああ、分ってるゆっくりと向かうさ。

 こういう事は暴いてはいけない事なのだ。

 と、全国のお母さん方にも声を大にして言いたい。

 

「私、どうする? 帰った方がいい?」

「何を言っているんだ……あれで狩りが終わりな訳がないだろう。

 だから隣にいてくれ。お願いします。帰らないでください」


 二人きりの時に、何かぼろが出たらどうするんだ。

 せめて話題を振れる相手が隣に居て欲しいんだよ。お前が希望なんだ。


「分かった。隣にいる」


 そして俺はゆっくりと自室に上がり、入った。

 問題は無さそうだ。いや、ベットメイキングがなされている。

 だが、俺はそこには触れない。自然な形にしてやろうとベットに腰を掛けた。

 メルがちょっとそわそわしている。


「じゃあ、始めるか。メル、アルファ……フィー達に全部話してもいいか?」


 そろそろ、話して置いた方がいいだろう。

 戦争に関わらせるつもりは無いが、あいつらから離れる事にはなるのだ。

 前もって心の準備をさせてやるべきだ。


「そうね。どっちにしても、教えてあげないとね」

「うん、いい。必要な事……」


 よし、と俺は自室に居るであろうフィー達を大声で呼んだ。

 即座に集まり、いつもの様に、家族会議が開始された。 


「えーと、まず初めに、お前らにとっては良くない話から行こうか……」

「良くない話……ですか」と、ルディがうつむく。


「いや、まあこっちは大した事無い話ではあるんだが……

 ええと、俺は今日、魔法学院を卒業した」


「「「「へっ?」」」」


 ですよねー、分かる。

 俺ももう来なくていいと言われた時そんな感じだった。


「まあもう一つの良い話も結局は同じ話なんだが……

 中級魔法までほぼ全て取得した。

 もう教える事無いから来なくていいと言われてな」


「……」


 まあ、そうなるな。ある程度知っているメルだけがため息を付いていた。


「ついでにステータスが上がるスキルも覚えたおかげで目標はほぼ達成されたんだ。

 だから装備が出来たら国に帰るかもしれない」

「兄さま……置いて行っちゃやだよ」

「勿論、連れて行く。逆に拒否は許さん」


 と、告げた瞬間シャノン達は、安心した様に息を付いた。


「だから、ルディ達三人は装備が出来るまでに取得できそうなら魔法を覚えて欲しい。

 それが出来なかった者は強制的に前衛しか選べなくなるからな。選択肢は多い方がいい」


 「「「はいっ」」」と三人は息をそろえて答えた。


「んで、その間に俺とメルとアルファはガチでレベリングする。

 睡眠時間は一日4時間程度になる事を覚悟しておいてくれ。

 それとアルファ、学院を途中で抜ける事になるがいいか?」

「うげっ、本気なのね」

「私の事は、いい、目的がすべて」


 と、メルは嫌そうに、アルファは逆にやる気満々の様だ。


「なあ、MPは今どんな感じだ?ファイアーボール何発撃てる位回復した?」

「えと、6回打てるから2回分。回復量だと240くらい」


 んと、あれから大体一時間程度か。

 一時間で2・5発だとしてフォレストオーガだと、二時間で一体か。厳しいな……

 だが、さっきの狩りで結構倒したと思うんだが。

 確か58発が限界だと言っていたが、少なくともアルファだけで15体は倒しているはず。

 って事は大分オーバーしているな。


「なあ、もしかしてMPポーション使ったか?」

「もち……ろん、ダメだった?」

「いや、ダメじゃ無いが、ずっと使ってたらもたないだろ?」

「ずっとおんぶしてもらう訳じゃ無い。違う?」


 それはそうだが、ある程度追いつくまでポーションを使っても少なめに見て3年は掛かるだろう。

 その間ずっと使い続ければ結構な金額になるはずだ。

 それならば、別の方法を考えた方がいいと思う。


 今の俺の持っている財産のほとんどすべては、オリハルコン装備に消えるのだ。

 これからは、そんなに無駄使いが出来なくなるはずだしな。


「何年も使う程の金も無いし、一切使わない方向でいこうと思う。

 その分ちょっと辛くなるが、効率を上げる為に知恵を使う」

「分かった。辛さでどうにかなるなら耐える」

「80レベルも格上相手なら何年もかからないんじゃない?

 フェルも強くなっていくだろうし、少しくらい使ってもいいと思うけど……」


 って言っても少し使っても少しの差しか出ないんだ。

 こういう事はどっちかに決めた方がいい。

 まあ絶対に守らなきゃいけない物でも無いんだけど……


「いや、それよりもいい方法がある。日に二度狩りに出かけようと思う」

「MPはそんなに早く回復しないわよ?」

「例外があるだろ」

「ああ、睡眠時間を分けるって事? さっき四時間って言ってたじゃない」

「ああ、そっちの案は却下した。

 よく考えたら効率はこっちの方が上になりそうなんでな」

「でも、そんなに寝れるかしら」

「頑張って、寝る」


「ええと、睡眠中は回復速度が5倍位になるんだし……

 24時間で全回復するから4半時間ずつかな。

 それで大凡9割のMPを日に二回使える事になる。

 空いた時間も活用していこうと思う。武器を持って戦って貰うからそのつもりで居てくれ。

 まあそっちはかなり適正レベルを下るが、それでも数をこなせる。

 たまにポーション使う以上にはなるだろうと思うんだがどうだ?」


「まあ、いいかな。移動が大変そうだけど」 

「すべて、従う」

「あーアルファ、考えて発言をしてくれ。決定権は貰うが発想は欲しい」

「分かった。そうする」


 と、話してる間に来客が来た。誰だろう……

 まあ知り合いも増えたし来客の一人や二人くるだろうと思っているとルディが向かってくれた。

 気が利くなぁ。一番俺を立ててくれている気がする。


「に……にいさん……助けて……」


 と、俺はその声に即座に反応して、玄関にテレポートした。


「ルディ、大丈夫か? 貴様ルディに何をす……る……?」


 ルディは首根っこを掴まれて、恐怖に震えていた。

 その原因の相手を罵倒しながら視線をやると。


「フェル様、只今戻りました。この者はなんですか?

 フェル様を兄などと、不敬にもほどがあります」


 と、言いつつも俺の言った通りゆっくりと手を放した。


「ア……アデル……帰ってこれたのか?」


 ルディは即座に俺の後ろに回り、俺の陰に隠れた。


「はい。遅くなってしまい、申し訳ありません。

 ご命令通り、しっかりと教育してきました」


 まったくだ。まさか二年以上掛かるとはな……


「ああ、良く戻って来てくれた。嬉しいよ」


 アデルが帰って来てくれて、本当に嬉しい。ずっと待っていたんだ。

 色々波乱はあるだろうけど、俺は絶対に乗り切って見せる。

 頑張る。多分出来る。はず……

 

「ああ、やはりフェル様の近くに居なくては私は生きている気がしない様です。

 心が癒されます」

「相変わらずだな。今、丁度、家族会議をしていた所だ。

 色々話し合いたい。アデルも参加してくれ」

「か……家族……ですか?

 通信出来る魔道具をお買いになりましたのですか?」

「いや、そこら辺も説明するから、早く早くっ」


 と、俺は自室に連れて行き、アデルを紹介して皆も紹介をした。


「こいつらはフィービー、シャノン、ルディだ。

 俺の奴隷であり俺はこいつらの兄でもある。と言うかそう思えと俺が命令した」

「兄さま……命令した事無い」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ、命令じゃないよ」

「兄さん、僕は怖いです」


 いい子達だろう? てかアデル? ルディに何をしたの?


「フェル様なら……そうしてしまうのですね。

 ですがお優しいフェル様が奴隷を買うとは思っておりませんでした。

 ルディ君でいいのでしょうか。先ほどは失礼しました」

「い、いえ、兄さんのお知り合いとはつゆ知らず……」

「まあ、色々あったんだよ……

 それでこっちがアルファだ。

 人族との戦争で共闘をすると最近、約束した……学友でいいのかな?」


「学校に……通っているのですか。それは、大変良いと思います」


 ああ、良かった。賛成だった様だ。だがもう卒業したんだ。


「どうも。誰かは知らないけど、私は彼に従う。

 彼の物と思ってくれていい」


 ちょっと? そう言う言い方、やめようね?


「こらこらアルファ、誤解を生むだろうが」

「いいえ。フェル様の前ではそうなってしまうのが普通です。

 誤解など。アルファさんは共に戦う仲間ですね。分かりました」


「ああ、そして知っていると思うが」と、言った所でアデルが俺の言葉を遮って口を開いた。

「ええ、覚えております。まだ居たのですか? この寄生虫は」

「誰が寄生虫よ!! 居たわよ! ハッ、良いのかしら?

 貴方の主人の婚約者の私にそんな口を聞いて、貴方は愛人関係だっけ?

 許してあげないわよ?」


 アデルとメルディナはバチバチと音を立てる様を幻視させるほどにガンを飛ばし合っている。

 特にアデルさんが怖いです。視線だけで射殺しそうな目止めて……


「は? 婚約? 貴様ごときが?

 虫けらが神と婚約なんて笑い話にもなりませんよ」

「あったま来た。フェル、私の事どう思ってるかはっきり言ってあげて」

「ああ。アデル、お前が悪い。

 種族を言っているのかは分からないがいきなり寄生虫は無いだろ。

 それとな、婚約の話は本当だ。俺から頼んだ。ってそこは手紙に書いただろう」


 メルは満足顔で微笑み俺の腕にしがみついた。


「それは、そうですが……この者で良いのなら私でも……」


 アデルはとても悲しい顔になってしまった。そんな顔はさせたくない。


「ああ、それも話してある。アデルがいいならアデルも俺と婚約して欲しい。

 もちろん愛人では無く、妻になって欲しいと言う事だ」

「つ……妻……はい、すべてを受け入れます。あなたの仰るままに」


 はぁ、良かったこれで丸く収まる。

 アデルは大変可愛らしい顔で妻、妻、とつぶやいている。


「それでだ。今、丁度これからのレベリングの計画を練っていた所で、アデルも加わったから練り直したい、と思うんだが……」


 主旨はわかったかと全員を見回す。二人を除けば概ね素直に頷いてくれている。


「そうね。そうなるわね。不本意だけど……」

「それはこっちのセリフです!」


 うーん、俺こういういがみ合い苦手なんだよなぁ。

 生み出した張本人が俺だから強く言えないし……


「おい、俺を悲しませたく無いと思ってくれるなら、止めてくれよ……」

「分かったわよ。フェルがそう言うなら」

「申し訳ございません」


 ふう、やっぱりそう簡単には行かないか。

 一応でも言う事を聞いてくれるだけマシだよな。

 ここは俺が堪えるしかないだろう。


「ともかくだ。取り合えず、アデルのレベルは今いくつになったんだ?」

「はい、フェル様をまたお守り出来る様、225まで上げて参りました」

「……お前ちゃんと睡眠取ってるか?

 気持ちは嬉しいがあまり無茶をし過ぎると心配になってしまうんだが」

「はい、問題ありません。

 シフト性にしてその場で安全に睡眠を取れるようにし、食事も索敵中に取れる様に致しましたので。

 日に19時間の戦闘を可能に致しました。

 毎日4時間は睡眠をしっかりとっております」


 ガチだ……ガチ勢だ……廃人過ぎて逆に引く。

 メルも同じ気持ちの様だ。

 フィー達は唖然としている。アルファだけは何故か目を輝かせていた。


「そのパーティー、空いているなら私も入りたい。

 彼に迷惑をかけずにレベルを早く上げられるなら、それが一番いい」

「アルファさん、貴方とは仲良く慣れそうな気がします。

 これから、よろしくお願いしますね」

「こちら、こそ」

「そう。ならあなた達はそっちで上げなさいよ。

 私はフェルと二人で狩りして上げるから。皆の希望が叶うわ。ねぇフェル?」


 そしてまた二人は火花を散らせる。止めろ。アルファが困惑してるじゃねぇか。


「おい、煽るな。今回はお前が悪いぞ、メル。

 話が進まないだろちゃんと話し合う気が無いなら、取り合えず出てけ」

「分かったわよ。ごめんなさい」

「あ~それでだ……今のレベルは俺が183、メルが179、アルファが150だ。

 それで今アルファのレベルを急ピッチで上げる為の話し合いをしていた所なんだ。

 ここまで大丈夫か?」

「はい、問題ありません。ありがとうございます」


「さっきまでの計画だと当面はフォレストオーガ平均230レベルの魔物をターゲットとして、俺が引き付け後衛のメルとアルファが魔法で倒す。

 MP回復の底上げとして、睡眠を二度に分けようと考えていた。

 それでも余る時間を近接戦闘にて埋める。と言う計画だった」


「流石、フェル様です。

 ですがフェル様、無理をし過ぎてはいませんか……?

 その魔物は私が引き受けましょう。私は貴方を守る為に強くなったのですから」

「ああ、これを伝えるのを忘れていた。俺、中級魔法までは全部取ったから。

 それと気を使わせてしまうから、俺のステータスをオープンにするので全員よく見おいてくれ」


 と、俺はステータスをすべて開示した状態でこの場に居る全員に、共有した。


「「「「「ええええっ??」」」」」


 先ほど見せたアルファ以外は驚愕している。そりゃそうだろうな。

 普通の人間の倍以上のステータスになっている。

 その上高レベルなのだ。これは普通あり得ない数字なのだろう。


 だが、やっとこれで少し位は戦える様になったはず、と思っていた方がいい。

 この世界に生まれてもう12年。人族だってレベルアップはしているだろう。

 300レベル程の高位者が死ぬことはそうそう無いのだから。


 それにまだ俺だけだ。それでは意味が無い。

 そう考えると色々不安になってきた。少し実家を見てこようかな……

 その前に今は計画を練らねば、俺が脱線してどうする。


「さて、どうしようか。さっきの案のままだと人数が多い気がするな。

 二手に分けると言うのも手だが、メルはどう思う?」

「時間を掛けずに上げるならペアで限界まで敵との接触を増やした方がいいわよね」


 ふむ。フィー達が別でやるならペアを二つ作る形にもできるか。


「なら、近接増えたし、索敵増やすの、どう?」

「そうですね。

 私はフェル様と離れて行動するのはもう出来るだけ避けたいので。

 その方が……」


 アルファとアデルが皆でやる方向での発言をしたのでそっちの方向で考えてみたら一つ思いついた。


「あ、ひらめいた。

 アデルと俺で引き付けて、範囲魔法でまとめて潰すのはどうだ?

 MP効率はぐっと上がるぞ。問題は危険もぐっと上がる事だが……

 今の俺ならフォレストオーガは余裕あるから試しにやってみないか?」


 おそらくアデルも余裕がある敵だろう。

 速度も無いし試してみる価値はありそうだ。

 ネトゲだとマナー違反だったりするけど俺なら狩場に人が居るか居ないかは感じ取れる。


「最悪フェル様がMPを残して置けば問題は無いでしょう。

 アルファさんが少し心配ですが、私も230程度なら大丈夫かと」

「面目ない。でも、私は大丈夫。避けるの得意」

「そうね。フェルの引き付けなら安心だけど……

 まあフェルが出来ると信じてるなら大丈夫ね」


 メルは一度アデルに不安そうな視線を向けたが、こちらに視線を向けたと思えば俺に全幅の信頼を寄せてくれているようでそれ以上は疑う事はなかった。


「ああ、アデルは頼りになるぞ。30レベル格上とか普通に倒すからな」

「そ……そう。それは中々やるわね」


「さすがは最初からフェルの隣に居ただけはあるわね」と呟いて苦い笑いを見せた。


「先ほどの話だと今のフェル様は50レベル格上でも物足りないのですよね。

 この辺りだと確か240レベル位の魔物までしか生息していなかったかと……

 その先はどうされるおつもりですか?」

「ああ、だから俺は大体200レベルを目処に帰ろうと思っていたんだが。

 スキルのおかげで状況が変わってな。

 スキル取得してオリハルコン装備を整えたらもう国へ帰ろうかと思ってる」


「それは、良いお考えです。ご両親もお喜びになるでしょう」

「フェルの国って魔物のレベルはどのくらいまでのがいるの?」

「そう言えば、調べてないな。俺とした事が……アデル、いくつかわかるか?」

「ええと、普通のフィールドで狩りをすると言う事なら250レベルでしょうか」

「おかしな言い方をするのね。普通じゃないフィールドってどこで狩りするのよ」

「おそらくは、秘境の地。敵のレベル、分からない」

「ええ、そうです。ですが分かっている事も多少はあります。

 それは敵のレベルが恐ろしく高いと言う事です。

 ステータスだけ覗いて帰って来たものもいるのでしょう。

 そんな場所です。私はお勧めできません」


……知らなかった。まさかそんな場所が存在していたとは。と、大事な情報を調べようともしていなかった自分にショックを受けていると……


「フェル様は王宮に隔離されていましたから知らなくて当然です。

 ですが何故貴方はそんな事も知らないのですか。先行きが不安になりますね」


 もぉ、何でそっちに飛び火させるの……メル関係ないでしょ?

 と、アデルに諭す様に注意をする。


 メルも俺が注意した後だからか「知る機会なんて無かったんだからしょうがないじゃない」と特に気にした様子もなく言葉を返していた。

 俺は心の中だけで溜息を吐き話を続ける。


「まあ、取り合えずの行動は決まったな。

 じゃあアルファ、俺の布団使っていいから睡眠を取っててくれ。

 回復したら狩りに出るぞ」

「あい。じゃあ、寝る」

「俺はオリハルコン装備の依頼に行ってくる。

 これからは贅沢出来なくなるからそのつもりでいてくれよ」


 と、告げ、俺は王宮御用達の鍛冶師の所に行った、金貨7000枚を持って。

 鍛冶師は俺の依頼に目を輝かせた。

 一生に一度の大仕事、歴史に名を残せるかも知れないと喜び、制作料金はいらないからその分を足してもっと良いものを作りましょう。と言うほどにかなり気合が入っていた様子だった。

 とてもありがたい。


 これで後はアルファのレベルが180を超えさせれば、問題無いだろう。

 獣人の国にだって同レベルの魔物はいるのだし。

 だがフォレストオーガは狩りやすい魔物だ。ここである程度の所までは上げたい。


 出来ればオリハルコン装備が完成する頃に行けると好ましいんだが、あの気合の入り方だと案外時間はかからないかもしれない。


 一応大まかな時間は聞いてあるが、一カ月以上は見てくれと言われている。

 そこからはどこまでこだわるかで決まるとはいえ、長く掛かっても3カ月以内には仕上げると言っていた。

 もちろん時間は良いから良い物を頼むと告げてきた。


 そして一応国王にも挨拶に行った。

 報酬とは言えオリハルコンを譲って貰ったし、国王もそれを楽しみにしていた節がある。

 なので、制作依頼を出した事と装備できる筋力はついたと報告しに行ったのだ。


 国王は相変わらずで楽しそうに聞いていた。

 だが、そろそろ国に帰ろうと思っている事を伝えるとつまらなそうになり、ならば最後にもう一度立ち合えと無茶を言って来た。

 もちろんまたの機会にと言って逃げたが。


 そんなこんなで4時間ほどは立っていたのでテレポートで屋敷に帰り、アルファを起こして4人で狩りに向かっていた。


「アデル、倒すのは出来るだけ魔法に任せろ。俺たちは今回はサポートだ」

「はい。ではもう一度クロスします。範囲攻撃の準備を」


 アデルと立ち位置を入れ替え軽く下がり、俺に向かう魔物とアデルに向かう魔物がクロスし密集率が上がった所で詠唱をしていたメルとアルファが範囲魔法を発動させる。


「ファイアーブレス」


 範囲魔法は300持っていかれるが威力は変わらないので4匹以上に当てれば単体魔法より稼げるのである。

 俺とアデルが一人4匹以上引き付けているので相当効率は上がっている。

 難点は引きつけている俺達はレベルが上がりにくい事か。


 まあそれは最初から承知の上だ。

 今はこのパーティを完成させて早く国の様子を見に行きたい。

 というか父さん母さんに久々に会いたいんだ。

 と、四回繰り返したらテレポートで平均130の場所にメルとアルファを置いて行く。

 近接も出来るメルにはぬるすぎるが、念のためにアルファを頼んだ。

 俺達は250レベルの狩り場に飛びアデルと二人で共闘をする。


「懐かしいですね。フェル様とこうして共闘するのも」

「懐かしいってまだ2年とちょっとだろ。

 だが、やっぱりいいな。アデルと一緒だと安心する」


「ふふ、光栄ですっ」


 と、二人で会話を交わしながらも速度を緩めない狩りを5時間ほどして、メルとアルファを回収したら眠りにつくのを繰り返している。





 それから4カ月、とうとう装備が出来た。

 時間を使っても構わないと告げたからかこだわりまくったらしい。

 アルファのレベルも問題なく184まで上がり、メルは193、アデルは231、俺は184だ。

 ステータス強化と五感強化、攻撃スキルなど魔法も最上級をちょいちょい取ったら上がらなかった。


 だがそれでも一番上がったアルファよりステータスは上がっている。

 ステータス強化を、やはり最大だったレベル10まで上げただけで10%上がったのだ。そもそものステータス値が大幅に高い上での10%だ。当たり前だろう。


 アルファのMPも増えてきていて最近は効率がかなり上がっていた。

 そんなアルファが呟いた。

『私は無能なのかもしれない』と今までの狩り方を恥じていた様子だった。

 いつの間にか仲良くなっていたアデルがアルファのフォローをしていたが、いつも通り俺だからしょうがないと、言っているだけだった。


 そして俺達は今日、獣人の国へ帰国する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る