第15話初めて人を殺める

 パーティ会場に到着して、カディネット子爵に貰った紹介状を見せて中に入る。

 そこは、まるで物語のワンシーンにでも出てきそうな洋風のとても大きな階段のある大広間がライトアップされていて、壁に飾るように広げられた鮮やか色合いの布に彩られ、大勢の人が集まっていた。


 そんな中に入ったは良いものの、カディネット子爵が見当たらない。

 知り合いなんて一人も居ない状態だ。要するにボッチである。

 まあ慣れてるさ、と我が物顔で入っていき。

 食事を堪能していると……


「本日はカディネット家主催のパーティにお越し下さりありがとうございます。

 多大なる方々のご来場、本日は一段と盛況な物となるでしょう。

 まあ私の家の力と言う訳では無い所が悔しい所ではありますが」


 とそこまで言った所で少し笑いが起こりそれを予期していたかのようにカディネット子爵も言葉を止め収まるのを待った。予定調和なのだろうか?


「なんと今日は当家主催のこのパーティ、この屋敷に陛下がご足労下さいました。

 皆さまも羽目を外しすぎませぬようよろしくお願い致します」

「ほう、何故羽目を外すパーティーにわしを呼ばん。つまらんでは無いか」


 舞台袖から国王陛下が顔を出した。いきなり登場した事に子爵の顔が若干怯んだのが見受けられた。

 どうやらこれは予定調和ではなかった様だ。皆、驚いた様に声を上げ膝をついた。

 だが、彼は表情を直ぐに引き締め、事態の収拾を図る。


「あれ? ええと、国王陛下御来場です。

 皆さま此度は立ったままで良いとの陛下より御言葉を頂いております故、どうぞおもてをお上げください」


 招待客も急なサプライズにより困惑を隠せて居なかったが、元々決まっていた訪問とわかり、直ぐに気を取り直すと頬を緩め拍手で迎えた。


「すまんな。お主が面白そうな事を言うものじゃからつい出てきてしもうた」

「いえ、皆さまもお喜びの事でしょう。どうぞあちらのお席に」


 と、一番の特等席が用意されており国王陛下が腰を下ろした。


「ではお次に、最近王都を賑わせている噂の少年をご紹介させて頂きます。

 その少年は、10レベルしか違わない2千もの魔物の群れに飛び込み、その大半を一人でそれも剣一つで殲滅させたと言う天才剣士。

 その名もフェルディナンド少年! どうぞステージへ!」


 うわー出づれぇ……だが仕方ない。

 だが何だこの前世の格闘技の実況みたいな紹介は……カディネット子爵……恨みます。


「どうも、お初にお目にかかります。お騒がせして申し訳ありません」

「おっと、少年はとても控え目な様だ。謙虚なのは美徳だが残念。

 これでは皆様に彼の強さが伝わらない……!

 と言う事で、少年ここで強さを証明できる何かをしてくれないかな?」


 おい、無茶振りすぎんだろ。

 まあ毎週開催されていて子爵の話だと今回は催しの用意が楽だと言っていたから、そういう事なんだろうがちょっと利用し過ぎじゃないか?

 とジト目を向けたがウィンクで返してきた。

 男のウインクはイラっとくるだけだ。腹立つわ。と思いつつも何か無いかを探してみる。


 あぁ、魔力感知で二回に居る人物がどこにいるかを探って当てていこうか。

 これくらいなら俺にも余裕だし。穏便だし。

 こんな所でまた武芸者の真似事をやらされるのはごめんだ。


「では、魔物の討伐では敵の感知が需要となってきます。

 ですのでその感知が鍛えるとどこまでやれるのかをお見せ致しましょう」

「流石控え目な少年、見せ方も控え目の様だ。

 使用人の数でも当ててくれるのでしょうか?」


 子爵の言葉の掛け方が、まるで子供に対する様な無駄に優しい感じだった為に、会場の空気は驚きから微笑ましい視線へと移行し、子供のお遊戯会を見る父兄の様になっていた。

 ぐぬっ……カディネット子爵め。


「ではこの上に二人そちらのテーブルのある上にある部屋に一人

 そちらの二階にある部屋は使用人の部屋でしょうか?

 5人ほど詰めていますね。後は国王様の席の上に一人」


 と言った所で子爵の話し方が突然普通の物と変わる。


「いや、国王様がおられる場所の上には部屋など無いはずだが」


 と聞いた瞬間、俺は魔力感知と思考加速を最大まで引き上げ「それは確認をしてみないといけませんねっ」と階段の手すりに上って駆け上がり国王様が居る大きな階段の上部にある主賓席に行き、そこからさらに飛び上がった。


 と、同時に黒装束の男が落ちて来た。取り合えず曲者なのは間違いないだろう。

 国王が居るのにこんな催しをする訳がないのだから。

 なので全力で回し蹴りを放ち落下地点を国王陛下から離した。

 俺は陛下の前に着地し声を掛ける。


「これって曲者ですよね? 陛下は獲物持ってきてます?」

「ふぉっふぉっふぉ、小気味よいのぉ。わしにも戦えと申すか。

 ふむ、他国の者の方がこういう時はやり易いかもしれぬの」


「いや、そんな訳ないでしょう。

 守られた上で対抗手段も持つのが必要な事態かも知れないと言う事です」


 と言っている間にも、小手調べか暗器の様な武器を投げて来た。

 軽くいなし、会話を続ける。


「ふう、わかっては居るがつまらぬの。とは言え今日は持ち歩いておらぬ。

 信用している臣下の宴に武装していく主はおるまい?」

「む、確かに。では他に戦える者は?」 


 と聞いている間に、俺と敵の間に子爵が割り込んで来た。

 え? この人戦えるの? と思っていると彼は剣をふりあげ曲者に突撃していった。 


「いかん、止めよ。無駄死にするぞ」と国王の言葉を聞き理解した。

 ここ宴の主催は彼、この大事自らおさめに行かねば笑えない失態になる。

 完全に関わって居なくてもだ。主催者としての警備責任もある。


 自らの命を差し出してでも身の潔白だけは証明したかったのだろう。

 そして、調子のいい彼の事だ。俺が助けに入る事も勘定に入っているのだろう。

 気にくわないが、親切にしてくれたのに最初に騙したのはこっちだったな。

 と、ため息をつきながらも足音を消し子爵の背後に張り付き敵の死角に入った。

 彼に向けた攻撃を手甲ではじきながら首を一突きする。


 背後関係など明らかだと思うが殺さない方が良かったかな?

 と、考えていると、周りの貴族たちから拍手喝采が起こった。

 そしてカディネット子爵は国王に対して土下座をしていた。


「この度の失態、何をしても取り返しがつきそうにもございません。

 如何様な処罰も謹んでお受けいたします」

「お前はわしの小間使いじゃからのう。居なくなられては困るんじゃが……

 よし、此度の事は一番割を食ってしまった者に任せるとしよう。

 さて此度の件は誰が一番大変な思いをしたかのう……」


 と陛下はこちらを見る。


「はぁ、また私ですか……

 あまり粗末な扱いをされますと敬意を表せなくなりますよ?

 まあ今回はいいですけど」

「ふぉっふぉっふぉ、親の借金を清算している、とでも思って置けば良い」


 これは父さんに聞いてみなくてはいけないな。何があったのかを。

 大したことが無かったら嫌味を言ってやらねば……


「では、私の気持ち一つで決めてよいと国王陛下が仰せになられたので、カディネット子爵殿、此処は私が処罰の内容を決めさせて頂きたいと思います。

 この度の貴方の失態は警備の不足、その一つに尽きるでしょう」


 とカディネット子爵を見つめる。


「貴方の言葉が敵発見の発端になった事、私が居なければ確実に死んでいた事を含め、貴方が国を裏切った訳では無いと言う事としたいと思いますがどうでしょう?」


 そして、会場の貴族たちを見つめ、同意を求める。

 半数位は頷いた事を確認して話を進める。


「それでも軽んじて良い事ではありませんので、屋敷やお給金分を残した財産のすべてを国が没収。

 そして、子爵として、これより国の為一層励むと宣言をして頂きましょう」


「それだけの罰では軽すぎではありませんか?」と、頭を下げたままのカディネット子爵は言う。


「勘違いをしていませんか?

 私はこの国の利を考えて決めているのです。

 貴方の罪悪感を埋めるために決めている訳ではありません

 貴方がどれほどの才覚があるかは分かりませんが、一生を賭して国の為苦悩する事、それは軽い罰だとは思いません」


 と、発言をすると、一人の貴族が言葉を止める様に前に躍り出た。

 まだ若い青年で17~20歳くらいだろうか? 

 少しご立腹な表情を見せているがかなりのイケメンの優男だ……

 ちっ、死ねばいいのに……それ以上は言うまい。


「お言葉だが英雄殿『貴族が国の為に苦悩する』のは当たり前の事だ。

 それを罰と言われてしまうのは、私は許せない。取り消してほしい」

「そうですね、では言葉を変えましょう。

 こういう物言いは好きではないのですが……」


 と、俺は言葉を変えてもう一度口を開く。


「警備も満足に出来ないのでは、大変な苦悩を負う事でしょう。

 それでも国王が必要だとおっしゃった。

 だがら立ち上がり前を見ろ。以上であります」

「任せた甲斐があったわ。よい判決であった」


 と、国王が言った瞬間、拍手が降り注いだ。

 途中取り消しを求めた貴族も拍手をしてくれていた。

 なのでその者にすり寄り謝罪をしようと声を掛けてみた。


「先ほどは申し訳ありません。貴方の誇りに不用意に触れてしまいました」

「いえ、私も心意を読み取れず、話を止めてしまった事を反省していた所です」

「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」 


 こういう真っすぐな青年は割と好きなのだ、なので名前を聞くことにした。


「ええ、勿論。私はアシュリー・アーチボルド。

 侯爵家の嫡男で今は陛下より子爵の爵位を授かった者です」


 侯爵家? ああ、この人は多分俺の兄さんになるかもしれなかった人か。

 そう思うと親近感も沸いてきた。機会があれば関わって行きたいな。

 なので、俺はどうせすぐ噂は広まるだろうと今回は素直に自己紹介をする。


「では私も改めまして、ミルフォード共和国第七王子、フェルディナンド・アルフ・ミルフォードと申します。

 ああ、他の皆さんには内緒ですよ。当然、上層部の方は知っていますが」


 と、告げると青年は絶句していた。のでもう一言付け加えた。


「貴方の国を思う心に感銘を受けました。

 ですので、隠し事をしたく無かったのです。

 出来れば不快に思わないで頂きたい」

「ああ、失礼を致しました。評価して下さった事、感謝致します」


 彼と握手を交わし、もう用は無いとこっそり会場を後にし宿へ帰った。

 そして夜も割と更けていて11時前位だろう。

 一応こっそりと中に入るとメルだけが起きていて『やっと帰って来た』と、俺を見つめ深刻な表情をした。

 どうやら話がある様だ、やっと話してくれるのかな?

 同志やらなにやらと、意味ありげな言葉の意味が分かるのかと期待した。


 そして待っているが一向に口を開かないメルに焦れた俺は部屋着に着替えてから彼女の隣に座り口を開く。

 

「どうした? 話があるんじゃないのか?」


 メルは驚いたようにこちらを見て口を開いた。


「あんたって何でも察するわよね、どうして分かるの?」

「そりゃ、よく見てるからな。見て考えれば気が付ける事は多い」

「そう。じゃあ私が何を言いたいか、分かる?」

「分からない。流石に推測すら難しい。奴隷の事か?」


 ビクッと彼女は一瞬硬直し、俺を見つめた。


「何よ。分からないって言ったのに分かってるじゃない」

「なんとなくな。でもそこまでだそこからは言ってくれないと分からない。

 分からなければ何もしてやれない。

 まあ聞いたところで何も出来ない事も一杯あるけど……一緒に悩んでならやれる」

「じゃあ、頼むわ。話してもいい?」


 少し辛そうにこちらを見つめる彼女に「ああ、待ってたよ。話してくれ」と、続きを促した。


「私ね、獣人を一杯殺して来たの。今まで……ずっと」


 今度は俺がビクッと硬直し彼女を見つめる。思っていたのと大分違う言葉に困惑した。


「理由を聞いてもいいか?

 それ次第では俺はお前を許せなくなるだろうが、もうこのまま流す事は出来ない」

「うん、だよね。怖いけどちゃんと言うね」


 メルは涙を溜めながらも意を決した目で顔を上げ、口を開く。


 ―――――私はね、経験値の入れ物なの―――――


 そういわれた瞬間、すべてを理解した。

 奴隷、経験値、殺人と情報が集まり、わかったのだ。


 さっき国王を守る為に暗殺者を殺した時の経験値の量が半端じゃ無かった。

 暗殺者のレベルが分からないがおそらく同レベルのモンスターの200倍位だろうか、かなり少なく見てもそれ以上はあると思う。

 そして人族の異常なレベルアップと来たものだ。


 彼女は奴隷で獣人を殺させる事で経験値を貯めて置く入れ物だったと言う事だろう。

 だが、少し分からない。俺を同志と思って付いて来た理由だ。

 何かを共に成したかったのだろう。復讐か?


「どうして奴隷の身から逃れることが出来たんだ?」

「うん、たまたま私を縛っていたやつが死んだの。

 だから私は頭がおかしくなりそうになりながらも必死に逃げてこの国に来たのよ」


 なるほど。それでジャスタスさんの所に転がり込んだ訳か。


「俺が同志と言っていた理由は何なんだ?」

「あいつはね、私みたいなのをいっぱい作ってたの。

 潜伏させて邪魔な者を消させて経験値を貯めこんでいる最中だったのよ。

 あの国の貴族はそうして経験値を取り合うのをゲームとしているの。

 おそらく誰かの逆鱗に触れて殺されたのでしょうね」


 奴隷に水面下で暗殺をさせて経験値を奪うゲームって……

 何て胸糞悪いやり方だ。 


「そうか。俺もそこから逃げて来た一人、だと思ったんだな。

 その一人だったとしたら、俺とどうしたかったんだ?」


 理由を聞いて、彼女に罪は無いと確信できた。

 いまだ震える彼女の手を優しく握り問い掛ける。

 だが、その震えは止まらず、彼女は表情をなくした顔で口を開いた。


――――――私の手で友達を殺させたあいつらを皆殺しにしてやりたい―――――


 その言葉に、そうか。と相槌を打つと、彼女の顔に少し色が戻り、ポツリポツリと語り始めた。


「始めはね、その為に協力者が欲しかった。

 だけどね、私、最近おかしいのよ。

 私あんな事をして来たのに、忘れて幸せになりたいなんて思い始めたの」

「ダメなのか?」


 そんな事は誰もが思うことだ。生きていれば、全うな生き方とは到底言えない事をする事もある。それでも皆幸せを願い求めるくらいはしているはずだ。


「私の仕事はね、仲良くなって寝首をかく事なの。

 子供の無邪気さを利用してね。優しい獣人に近づいておんぶと言って首を裂くの。

 私のレベルはね、130レベル全てが、そう言った裏切り行為で上がっているの。

 あれを忘れるなんて出来そうにない……

 あれを忘れたいなんて思っていいと思う?」


 許しを請う懺悔の様な告白をする彼女の顔は、自身に対する嫌悪で酷く歪んでいた。

 その顔を見れば見るほど、どうにかしてやりたいと強く思った。

 だが、彼女が自分を許せそうな言葉なんて見つからない。

 それでも、と彼女と繋いでいる手に力を込めながら言葉を紡ぐ。


「神の居場所を超えた所にある国の法律ではな、今のお前は無罪だよ。

 その時のお前はお前じゃなかったんだ。

 その穢れた魂の者が放った魔法がお前を操っただけだ。

 抗う事が出来なかったんだろう? メルは悪くない。

 だがそんな言葉でどうこうなるレベルの経験じゃ無さそうだな……」


 続ければ続けるほどに彼女の見せる表情の重さと比べ、口から出る言葉は軽く感じて、最後には始めた言葉を意味の無いものへと自ら変えてしまった。

 だが、その言葉だけがほんのごく僅かに彼女の表情に喜色の色を覗かせた。 


「ええ、絶対に無理ね。だって頭に焼き付いてるもの」そう言ってメルは繋いだ手から力を抜いた。小さな喜色の色など一瞬で消え失せ、乾いた諦めの色の変わる。


「じゃあ、レベルを上げてその貴族たちを皆殺しにするか。それからまた考えよう」

「えっ……!? ど、どうして? 貴方は関係無いんでしょう?」

「俺がレベルを上げている理由はな、戦争を仕掛けてくるであろう人族をどうにかする事だ。

 目的が殺す事では無いがその手段を取るしかないと考えてレベルを上げてきた。

 だから俺達は協力出来ると思う」


 彼女はこちらを見て硬直した、震えている。


「……ぐすっ……ひぐっ……うわあああああぁぁぁぁ……」


 今まで、涙を零しながらも決して声を上げなかったが堰を切った様に叫び、胸に飛び込んできた。

 強く抱きとめて彼女が落ち着くまで背中を優しく叩いた。


「本当は一人で怖かったの。

 誰かと居たくてでも許してくれないんじゃないかって……

 それで、それでね……ひっく……ひぐっ……」


 ああ、いいよ。

 俺は許すよと言いながら彼女を撫でまわして抱き合いながら一緒に寝た。

 とはいえただ寝ただけで何もしていない。

 流石にこんな時に自重するくらいのモラルは持ち合わせている。


 そして俺達はさわやかな朝を迎えた。

 抱き合いながら目を覚ました俺達をフィーとシャノが口を押えて赤くなりながら観察している。


 そして起き抜けのメルがとんでもない行動に出た。

 フィーとシャノにニヤリとした視線を向けてからいきなりキスをしてきたのだ。


「おはようフェル、んちゅっ」って……んちゅって……

 俺はどうしていいのか分からず取り合えず訳が分からなくなった。


 だから俺はなんとなく舌を入れてみた。


 そこからは記憶が無い、と言いたいところだがバッチリ覚醒していた。

 真っ赤になったメルにいきなり何すんのよと突き飛ばされたのだ。

 あまりに理不尽である。


 相変わらずされる事に弱いなと思うと、昨日の事を思い出してしまいうつむいてしまった。彼女は打算込みの行為をする事ばかりでされる事は無かったのだろうと。

 だからされる事に弱いのだと思い至ってしまった。


 彼女の心の内を知ったからだろうか?

 俺は彼女、メルディナの事がとても愛おしく感じる様になってしまった。

 これは浮気か? 浮気なのか? とドキドキしながらもこの想いが収まる事は無かった。


 そんな俺の心の内などお構い無しに、メルは動き出す。

 ルディ達を安全に狩れるであろう狩場に送って守るべき事を伝えた後、今度は俺を狩場へと連行した。


 俺はルディ達の事が心配で気が気じゃ無く、集中できないでいたが通常の適正レベルの狩場だったので、俺達は余裕だった。

 そしていざ体を動かしてみれば、頭がすっきりと切り替えられた。

 そうなると今度はルディたちの事が心配になってきた。


「なあメル、ちょっとスパルタ過ぎやしないか?」


 だって、あいつら数日前まで町の中にいた普通の子供なんだぜ?


「あんたねぇ、あの子たちはもう48レベルなのよ。

 最初だし安全をみて平均20レベルの所に送ったの。

 大丈夫に決まってるじゃない」


 いや、うん。それはそうなんだけど……


「ほら! もっといい装備を買ってやった方が良かったんじゃないか?」

「あんたその浪費癖直しなさい。国がつぶれるわよ?」

「でも、不安でしょうがないんだ。せめてもう少し。

 そうだ。あと一日くれ。60レベルまでは上げてみせる。そうすれば安全だ」


 うん。そのくらいのレベル差があれば攻撃喰らっても余裕だろう。


「そのレベルになったらもっと上に行かなきゃダメでしょ。同じ事よ」

「ぐぬぬぬ、やっぱり装備だな。

 うん、ちょっとだけ金貨100枚くらい使って装備を新調させよう。

 アデルの時は金貨230枚分の装備だったしな」

「はぁ? 230枚って正気なの?

 それに装備の新調ってあの子達装備使うの今回が初めてよね?

 それに一人金貨30枚以上だなんて使い過ぎよ」


 メルはアデルの話しになるとすぐ食いつくんだから。別にそんなにおかしな事じゃ……って金貨30枚って何言ってんだ?

 俺が弟や妹の装備にそんなはした金しか出さないわけがないだろ?


「馬鹿を言うな! 一人100枚だ。ちなみにお前の分も買うぞ。

 俺は大事な人守る事に対しては自重しないって決めてるんだ」


 あのアデルの大怪我を見てから、と口に出さず心の中で思った事にちょっと罪悪感を感じつつ、話を続ける。


「もう、そんなに私の事が大切になっちゃったの?」


 と、ニマニマしたドヤ顔をして上から目線で質問をしてきた。

 ああ、いつもの感覚に戻って来た。うん、やっぱりこいつなんかムカつく。


「ああ、そうだな。あの子達のつ・ぎ・に・な!」

「そっかーなんか夫婦みたいね」


 あら、こいつはいつも通り動じない様だ。相手にするだけ無駄だな。

 俺はいつもの半分の時間で切り上げ心配なルディ達を見に行った。

 メルは気が付いていない様だ。俺にとってはいつもの半分の時間だと言う事に。


「なんだかんだ言って、良く我慢したわね。いい子いい子。

 私との事もちゃんと考えてくれて嬉しいわ。また今日も一緒に寝ようねぇ」


 イラッと来たが一緒に寝るのはありだな。

 いや、でもアデルが……

 そうだ、アデルに手紙を出して相談しよう。色々伏せて……

 すぐ戻って来てくれるかもしれないし、そうすれば俺はきっとこの誘惑に勝てる。

 と考えながらも承諾してしまう俺、ダメな子です。


「ああ、もちろんだ」

「ん~? どっちが?」

「想像に任せる。だから聞くな……」


 と、話しながらも駆け足で向かいたどり着いた。彼らは立派にやっていた。

 初めての戦闘にも関わらず臆せず戦っていたのだ。


 だが俺は大人気なく割って入り殲滅して今日はここまでにして帰ろうと告げた。

 そうして俺のレベリングライフはまた再開された。

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