第16話入学、魔法、そして暴走


 レベリングライフを再始動して二年が経った。

 お金もコネも出来た俺達のレベリングは順風満帆で小さいながらも屋敷を借りた。

 五人だと少し広いが一人ずつ部屋を持たせるとなると他に無かったのだ。


 そうした快適な生活を送り順風満帆なレベリングライフを送り続けた俺達は、この国でも割と上位に入る存在になっていた。


 あの宣言通り全員の装備を新調した。

 王宮御用達の最高級鍛冶師に頼んで作って貰ったので払った金額よりも性能は良いものだ。


 俺は国王を救った事で何故かその鍛冶師にも感謝されて優遇して貰い、金貨200枚という格安で装備を全員分新調してもらったのだ。


 そのおかげでメルも格上相手が出来るようになった。

 後衛と言う事もあり、俺の装備も強く成っていたので限界レベルが俺のレベルプラス40レベルの所まで来ていた。安全を考慮した限界なので無理をすればもっともっといけるが。

 そして俺のレベルは今180になっていた。


 メルは178、フィー、シャノ、ルディは110レベルを超えた所。

 彼らの目標は俺達の狩りに混ざる事らしい。

 なんといじらしい事だ。と狩りの手伝いをしまくっていたらすぐだったな。


 ルディ達も何とか自力で生活は出来るレベルまでは上がったので彼等を学校に入れる事にした。

 折角、魔法の国の人間でその方向のステータスなのだから魔法を取得するべきだと考えた。

 のだが、問題が発生した。奴隷を入学させる際は主人も共に入らねばならないのだ。


「じゃあ、皆で入学して学びましょうか」


 と、メルは乗り気だが、俺はあまり乗り気ではない。

 目標はまだ達成されていないのだ。

 今の現状ではどうやっても300レベルの相手は出来ない。

 せめて最低でも250レベルにはならないといけない訳だ。でなければ何の為にここまで頑張ってきたのかわからなくなってしまう。


「だが、あまり時間を取られるのもなぁ」


 タイムリミットは未定だ。せっかくここまでの時間があって順調にレベルが上がってるのにここで足踏みしていいのだろうか?

 そんな俺の考えを見抜いたのか、メルが俺に問う。


「フェルの国の人たちってそんなに弱いの?

 フェルがすべてを支えて上げないとダメそうなの?」

「いや、そんな事は無い……と思い……たい。けど正直レベルは低い」


 手紙のやり取りでは上位の人たちが240レベルまでは上がっていると聞いた。

 あと5年くらい稼げれば対抗できるくらいまではイケるかもしれない。

 平均的な人族と比べ獣人はステータスが特化しているのだ。


 そして魔法の国と連携してるという事は、後衛の魔法使いが加わるという事だ。

 上手くすれば30レベル位の格上なら対抗出来るはず。

 今の俺は安全を考慮しなければ60レベル上でも倒せる。まあ魔物相手の話だが。

 今はメルの安全を確保する為に下げているから、今やっている魔物はそこまで格上の魔物じゃないが。


「せめて、後三年は平和を保って欲しいなぁ。どうしよう」

「お兄ちゃん、私達の為に無理しないでいいよぉ」


 フィーが自分たちの為にそんなに困らないでと首を横に振る。

 隣に居るルディとシャノンも気持ちは同じな様だ。


「じゃあ、入学だけして不登校でいいんじゃない?

 魔法の習得の具合で卒業できるか決まるわけだし。

 と言うか卒業する必要も無いか」


 なるほど。

 子供ばかりの学校で110レベルもあれば苛められる心配もないだろうしな。


「流石メル。それでいこう。

 確かに真面目に授業を受ける必要なんて無かった。

 適当に聞きたい所だけ聞いてあとは狩りに当てればいいだけだったな」


 うん。魔法の授業も気になるっちゃ気になるし?


「兄さん、僕は学校より早く兄さんたちの役に立ちたい。

 レベルを上げたいんだ。ダメかな?」


 うーむ、気持ちは嬉しいんだけどな。

 俺の最終目標が戦争の勝利なだけにこいつらは巻き込めない。

 それを言っても聞いてくれないよなぁ……


「すぐに、と言うのはどっちにしても無理なんだ。

 俺は一刻も早くとまだまだレベルを上げ続けるからな。

 ならば今は魔法を取得して戦闘効率を上げた方が近道になるかもしれないぞ?

 まあ、取得にどれだけ掛かるかわからないから絶対とは言えないが……」


 うん。今はお茶を濁して大人になって聞き訳が良くなる事を願おう。

 いや、その前に戦争が起きる気がするけど……


「兄さま、私達が魔法使える様になったら嬉しい?」

「ああ、誇らしいよ。まあ無理をする必要は無い。

 やりたい事なら頑張ればいいし、必要無いと思うのならば頑張らなくてもいい。

 だがそれでも学校にだけは通って欲しいんだ。

 お前たちには人付き合いを学んで来て欲しい」


 うん。俺の経験上だが、学校で一番意味のある学びは人との交流に対して慣れることだと思うんだ。


「そんなの自然に出来て行くものじゃない? 自ら学びに行くもの?」

「俺の隣にずっといたら、その機会は訪れないだろ。

 だからちょっと行きたくないけど、学校に通う事にする。

 反対な人はいる?」 

「僕は兄さんについて行く。反対なんてしないよ」

「私も~お兄ちゃんが居ないのは寂しいし怖いよ」

「……私も兄さまと一緒に居る。離れるくらいなら死んだ方がマシ」


 うむ。俺もだぞ! 皆かわいいなぁ。


「はぁ、甘やかした結果ね。まあ真っすぐでいいんだけど……

 あんた、責任取んなさいよ、私も含めて。あいつが戻って来ても」


 失礼な! 真っすぐに育ったという事は、必要な事をやったと言う事だ。

 それに責任なんて取りたいに決まってる。

 そんな事を言うお前に取るのは癪だがな。

 とはいえ、メルのこの不安そうな顔を見れば、ここで知らん振りは出来まい。


「……分かってる。だから言わなくていい」


 勿論あいつとはアデルの事だ。

 メルは若干アデルにビビってる。

 それもそのはず、最初に話した時に威嚇されまくったからな……


「じゃあ決まった事だし、ちょっとこの都市の学校を調べに行ってくる」


 王都だけあって大きい都市だし、学校がどの位あるかも分からないからな。

 まずは、どこだ? こういう時はお貴族様だよな。

 ん~カディネット子爵にでも聞きに行くか?

 いや彼は忙しいだろう。

 アーチボルド子爵にでも頼んでみるか。いい人そうだったし。


 と、俺はまず通行人に侯爵家の場所を聞き、そこに向かった。

 アーチボルド子爵は快く迎えてくれて、王都で一番の学校、王立魔法学校宛ての紹介状も書いてくれた。


 早速学院に向かい、紹介状を見せるとビップ待遇で迎えられ、学院長室で話をする事になった。


「この学院の学園長をしている、オースティン・ミュールズと言う者ですじゃ。

 何でもアーチボルド侯爵家直々の紹介状をお持ちだとか」


 学院長が直々に出て来た。

 流石は侯爵家、学院長ですら丁寧な対応をしてきた。

 にしても、いかにも魔法使いって感じのじいさんだな。

 黒いローブに、黒いとんがり帽子、白髪の顎鬚を伸ばしている。

 そのセット装備は補正でも付くんですか? と聞いてみたいものだ。


「ええ。と言ってもアシュリー子爵殿と縁があってお願いして書いて頂いたのですが、不味かったでしょうか?」


「いえ、とんでもない。ですが規則上、無条件で入学と言う訳には参りません。

 たとえ、相手が貴族の方であっても、それなりの能力が無いと入学は出来ないのです。

 結果がどうなっても了承して頂けますかな?」


「ええと、私は貴族では無いですしもっと砕けた対応をして頂いても?

 ……流石に恐縮してしまいますので」

「ふむ、では、そうさせて貰おうかの、してどうじゃ?」

「入学に試験があるのは当然かと、ちなみにどんな試験をするんですか?」

「簡単じゃよ。適正値と魔力値が規定以上、ただそれだけじゃ」


 え、試験無いの?

 でもこれはちょっと困ったな。

 誰か一人だけダメとか言う結果になったりしないだろうか?


「え? それだけですか?」


「うむ。出来ればすべてを迎え入れたいのじゃが、最低限の適正が無いと魔法を覚えられないからの。

 他の事で自分を高めた方が有意義じゃろ?」


「それは、確かに。それは身分に関係なく全員に求められるのですか?

 例えば主人に付き添う奴隷とかも?」


「学ぶ以上は規定以上で無いといかんな。

 今まで落としたものに申し訳も立たんしの。涙する者も大勢おるのじゃ」


 それは、確かにそうだ。落ちた奴は、じゃあなんで俺はってなるよな……

 まあレベル的に魔力は大丈夫だし、問題は適正値だな。


「あの、適正値ってどうやって調べるんですか?」

「ふむ、不安なのは分かるが、これはどうにもならん事じゃ。

 試験自体は無料で受ける事ができるのじゃからやってみればよろしい」


 ごもっとも。だけど一人だけ落ちたりとかしたらどうすんのさー。

 メルならいいけど。あいつはどうせ俺と狩りだし。


「じゃが、うちの学費は高いぞい? そっちの心配をした方が良いのでは無いか?」

「おいくらですか?」

「一人金貨50枚、学費のみでじゃ」

「5人だから金貨250枚か。結構するけど、まあそんなもんかな」


 確かに、教員すべての給料と維持費、教材が魔法系統となると高いだろう。

 最高三年間、在学出来るそうだから、月14万か? ん~良く分からん。


「ふむ、学費も問題無さそうじゃの、では一つ教えて置いてやろう。

 魔法の国の人間ならほぼ適正は問題無いはずじゃ。

 落ちる理由は魔力不足、もしくは獣人というのが一番多いのぉ」


 と、そこまで聞いた俺は話をまとめてそのまま屋敷に戻り聞いて来た話をそのまま話した。

 いつもの様にメルが茶々を入れて来る。


「フェルって獣人よね。落ちるんじゃないの? 一人だけ……」


 それはちょっと考えたさ。

 女神がもしもステータス画面から無理やり覚えさせていたりしたら……とか。

 でもなリーアは言ってたんだ。

 どんな魔法でも覚えられると、適正値も確か高いと言っていたはず。

 おかしくなる前のリーアだし多分大丈夫。


「多分、問題ない」

「僕、大丈夫かな……」

「もう、お兄ちゃんが大丈夫だって言ったんだから信じなさいよ」

「そう……兄さまの言う事は、絶対」


 うーん。大丈夫だと思うけどちょっと不安で悶々とする。

 こういう時は早く終わらせて結果をはっきりさせた方が精神衛生上楽だ。


「よし、じゃあこのまま受けに行くぞ。支度しろ」

「あんたってこういう時ほんと行動早いわよね。

 ちょっとは時間置いて考えたりとかしない訳? 平気なの?」

「お前に言われたくねーわ。俺に付いて来る時も即答だったし。

 まあ、平気だよ。心配してくれてありがとな。メル」


 少し心配そうに見上げるメルの頭を撫でた。すると彼女は慌てて撫でる手を掴んで降ろし、騒ぎ出す。


「もう! もうっ! いきなり態度変えないでよ。

 そんなの一緒に居たかったんだから、当たり前じゃない!

 でもまあ……大丈夫ならいいわ」

「分かった、いいから行くぞ。置いてっちゃうぞ」


 と、要望通りいきなり変えた態度を元に戻すとメルはむくれた。

 かなりなご立腹で行くぞと言っても付いてくる気配が無い。

 そのまま放置で出ようとすると、怒りながら走って来てど突かれたが俺は言われた通り態度は変えなかった。


 魔法学院に着き、適正試験を行う。心配もそっちのけで軽く全員合格した。

 俺の適正値は異常なくらい高かったらしい。

 今ならリーアを許せる気がする。土下座して謝ればだが。


 魔法を苦労して使える様になる。夢にまで見た過程だ。

 経験値消費で覚えた時、これなんか違くね? と思っていたのだ。

 だからこそ、攻撃魔法は取らずにレベル上げ優先を当たり前の様に出来たのだ。


 どうせ通うのだから、その修練をしてみたい。

 もしかしたら経験値消費無しで色々覚えられるかもしれない。

 検査をした時に教えて貰った話にだと、適正値が高い方が早く覚えられるのだ。

 ならば俺は即効で覚えてもおかしく無いのでは、と思ったのだ。


「なによ、余裕じゃない。あんた何者なの?」

「神の使途だった者?」

「お兄ちゃん流石にそれは……」

「何それ……ぷっ……恐れ多くなってだった者にしたの?」

「兄さまの言う冗談は絶対、面白い」

「兄さんがそう言うのなら僕は信じます」


 あれ? 皆引いてる。ちょっと待って嘘じゃ無いの……

 まあいい。後で真相がバレた時に説教だな。特にメル。

 ルディ、一杯褒めてやりたい。


「ええと、君がフェルディナンド君とその従者かな?」


 と、優し気な男性、40代くらいだろうか、イケメンではないが清潔そうで少し気品を感じさせる立ち振る舞いをしている彼が俺に声を掛けて来た。


「はい、そうですが」

「では、私が今日から君たちの担任になる。ルーカスというものだ。

 このまま教室に案内をしながら色々説明をしておきたいんだけどいいかな?」

「はい、よろしくお願いします。ルーカス先生」

「ん、宜しい。

 君たちにはまず、Gクラスに入って貰う。

 そこから魔法の実力を示しF、E、D、C、B、A、Sと、上を目指して貰う事になるだろう」


 なるほど。クラスによるランク分けがあるんだな……


「まあ卒業したいだけならBクラスまで上がればいいんだけどね。

 だが三年掛かる。Aなら二年、Sなら一年で卒業する事が出来る。

 AとSは上がる難易度が高いが、一度上がってしまえばもう何もしなくても卒業確定となる。

 もちろん減った分の学費も返還されるし、卒業した者は手続きをすれば魔法図書館を自由に閲覧する事が出来る。

 是非、君達も高位の魔法使いを目指して頑張って欲しい」


 お金も帰ってくるのか。これはガチで勉強して一年で卒業すれば楽しめる。ある程度お金も返ってくる。魔法も使える。その上図書も読み放題といい事尽くめじゃないか。

 狩り効率まで上がれば時間も元を取れるかも?


「あ、兄さまのやる気スイッチが入った」


 どうして分かったの? シャノンちゃん?


「お兄ちゃんは分かりやすいなぁ」


 フィー? あれ? いつの間にお前たちそんなに大人に?

 ああ、そういえば同い年だった。でもちょっと前まであんなに……

 遠慮していただけだったのか。


「ははは、仲がいいんだねぇ。

 奴隷と聞いて少し心配していたけどどうやら杞憂だったようだね。安心したよ」


 確かに子供が子供の奴隷持ちというのもちょっと怖いものがあるな。

 いや、前世の感覚だとちょっと怖いどころでは無いのだが。


「先生、私は奴隷でも従者でも無いからそこら辺よろしくね」

「おや、お金の方は彼が払ったようだけど、そうなのかい?」


 そうだそうだ。もっと言ってやってくれ。

 やってもらう事が当たり前になって来てるんだこいつは!


「そうですね。

 当たり前の様について来るのでついつい払ってしまいましたが、どうして従者でも奴隷でも無い者の学費を払ってしまったのでしょう」

「何よ、一杯一緒に寝て上げたじゃない。それじゃダメだって言うの?」

「ちょ、お前、だから時と場所を選べとあれほど……」

「あー、えーと、教室ではそういう言動は控えてくれよ」


 教室外でも控えてくれよぉ!!!

 と、俺の心の叫びは誰にも届くはずもなく、無言のまま教室へと案内された。


「えー、今日から編入する者達を紹介する。

 では順に自己紹介をしてくれ」


 俺は先生にはい、と答え前に出た。


「俺の名はフェルディナンド。フェルって呼んでくれ。

 ちなみに隣に居るこいつらは俺の家族だ。共によろしく頼む」


 俺は最初が肝心だと思い、あまり下手に出ない様に挨拶した。


「私はメルディナよ、適当によろしくね」

「フィービーって言います。よろしくお願いします」

「……シャノンです……よろしく……です」

「僕はルディと言います。仲良くして下さい」


 と、自己紹介が終わるとぽつりぽつりと、質問が飛んできた。


「何でこんな時期に集団で入学してきたの?」とか

「もしかして裏口入学?」とか

「最初の奴なんかえらそーじゃね?」とか

「ねーまるで貴族みたい。でも貴族は最低でもEからだよね」など


「こらこら、本分を見失ってはいつまで経っても上のクラスには行けないぞ。

 と言う事で今日も授業を始める。

 君たちも空いてる席に座りなさい。好きな場所でいいから」


 と言われ、ぽつぽつと斑に空いている席の中から適当に選び席に着いた。

 そして待望の授業が始まる。


「さて、いつも口を酸っぱく繰り返し言っている事から始めようか。

 魔法とは事象を正確に理解し正確にイメージをする事が大切である。

 その現象を魔力で正確に表現する。

 そこまで出来れば魔法は発動する」


 マジか、そんなに簡単なの? ってあれ? 簡単……なのか?


「と、本来されているが……

 それを出来なくても魔法を発動させる事が出来るようにしたのが詠唱呪文である。

 前者は難易度が高すぎるからね。

 詠唱を行う事によって属性への理解が完全でなくても発動させる事が出来る」


 おーい、そっちを先に言ってくれよ。まったく……


「だが詠唱呪文だって簡単な物でもない。

 イメージを自然とさせる為に属性をイメージしてしまう言葉を自分なりに考え、魔力をイメージに混ぜながら詠唱をして、イメージが乗った魔力を制御し、詠唱を終わるまで制御し続けなくてはならないのだ」


 ふむ、魔力の制御ってなんだ?

 魔力を込めるってのは分かる。魔道具にも普通に込めれたし……


「よって君たちにはまず、適正の高い属性を鮮明に思い浮かべられる様な詠唱を考えて貰わなければならない。

 人の感性でイメージする物は変わるからね。自分がその言葉を聞いて何を思い浮かべるかが重要だ」


 あれ? 前者と変わらなくね?

 ああ、言葉で魔力にイメージを乗せるのと魔力で現象を表現するって所が違いか。

 ええと、要するにだ、魔道具を使う時の感じで魔力を込めながら属性を強くイメージさせる言葉を並べて行けばいいのかな?


「ええと、詠唱は現象を表現する為の補助動作で物質そのものを理解して再現させるって事か?」

「ほう、新入生の君は私の言葉を聞いて感じ取れたようだね。

 よし、フェルディナンド君、前に出てやってみたまえ」

「いやいや、教室入って数十分でそれは無茶振りってもんでしょうがっ」


 と、俺は無茶な事を言われた反動で素で返してしまったが

 先生はお構いなしの様で、さらに攻めて来た。


「はっはっは、良いからやってみなさい。

 出来ないのが当たり前。しかし、緊張感をもって挑む事は大切だよ」


 おーい、マジかよ。まあいいや。本当に出来ないのが当たり前な状況だしな。

 恥ずかしいけどこれは通過儀礼。とでも思うしか無いな……

 と、俺は何故前に出るんだ?

 と思いながらも従い、先ほど考えた事を実行する事にした。


 取り合えず魔力を出すために両手を胸の前で30センチほど空け向かい合わせ、恥ずかしさに目をつむりながら魔力を出し言葉を発する。

 適当に……そこまでは考えてないし。


「えっと、ともし火、揺らぐ小さな火、火は炎へ、炎は爆炎へ、心を闇に染める程の」とそこまで言葉を発した時、先生の言葉に俺の詠唱は止められる。


「そこまでだ、詠唱を止めなさい」と先生は叫ぶ


 俺は目を開けると驚愕した。

 熱を感じない炎が両手をも巻き込み立ち昇っていた。

 焦った俺は再度言葉を発してしまう。


「水、水、やばい大量の水、早く、スプリンクラァー!!」


 と、叫んだ直後俺を中心に大量の水が俺の両手から飛び出し回転しながらまき散らし雨の様に教室に降り注いだ。


「ご……ごめんなさい。悪気はなかったんです」


 俺は誠心誠意、謝った。

 全員水浸しだ、この水は消えないのだろうか……

 消えないだろうな。消えるなら土魔法で残る壁は作れない……


 申し訳なさそうに先生の方を恐る恐るみると、先生は歓喜に満ちた顔をしていた。

 あれ? 怒られないの?


「す……すばらしい。

 何と言う安定した魔力の制御、教室内に雨を降らせるとは、君は一体……」


 と。先生は申して居る。

 俺は気が動転して、思考のままに口を開いてしまう。


「こういう時なんて答えていいか分からない件について。

 こんな時の状況を想定してお前らに助言を乞いたいのだが」


 これはクラスメイトに宛てた訳ではない、ただの漏れた思考である。

 教室は沈黙した。誰かたすけてぇ……


「フェルー帰って来なさい、また頭可笑しくなってるわよー」


 と、メルが言うと教室に少し笑いが起こった。メル、感謝する。


「失礼しました。ええと、イメージはしましたけど、表現したつもりは

 無いのですが……魔道具に込める様に魔力を出しただけで……」


 と、俺が言うと先生が答える。


「鮮明にイメージをすると魔力も自然と影響を受けるんだ。

 だがよほど正確か強いイメージじゃ無いとそれは起こらない。

 君は炎に焼かれたり、水に溺れたりした事でもあるのかい?」


「いえ、ありませんけど……」

「ともかく君はGクラスは卒業だね。そうだな。私の方から

 Aクラスに移すよう打診しておくよ」

「え?もうですか?」


 と、俺は一時間も経っていないこのクラスを卒業する事になった。


「お兄様、またどこかにいってしまわれるのですか?」

「お兄ちゃん、早いよ。おいつけないよぉ」

「兄さん、流石です」

「なんか、しらけるわね。調子に乗るんじゃないわよ」とメルが言うと何故かクラスの皆が乗っかって来た。


「そうだ。いい気になってんじゃねー」

「私たちがどんだけ苦労してると思ってるのよー」

「最初から気に入らないと思ってたんだ」

「何しに来たんだ。さっさと出てけー」


 ひでぇ、まあ、暴走もしたし迷惑も掛けた。

 しょうがないか。謝って出て行こう。


「水浸しにしちゃってごめん。出てくね」


 と、俺は教室を後にした。先生が待ちなさいと言っていたがそれで教室に残れるほど俺の精神はタフではない。

 なのでスルーさせて貰った。

 ただ一つ、ただ一つ心残りなのが、あの裏切り者をひっぱたけなかった事だ。


 そして俺は登校してから一時間で下校し、一人で狩りに出かけた。

 安全マージンなんて知った事かとプラス50レベルの狩場に来た。

 俺は心を無にし永遠と死んだ魚の目をしながら狩りを続けた。


 気が付くと朝になっており、登校の時間になっていた。

 だが、まだ行く必要はあるのだろうか? もう魔法は使えた。

 何一つ楽しく無かったけど。Aクラスにも上がった。

 お金も少し返ってくる。イメージに慣れれば狩り効率も上がるだろう。

 ああ、行く必要無いな、うん、あっても行きたくない。


 と、思いながらそのまま狩りを続行した。

 そろそろ40時間を超えただろうか?

 と言う所で俺は強い頭痛に押され帰る事にした。

 だが、まだ少し一人でいたかったので宿を取った。


 目が覚めて俺は思う。俺はこんなにメンタルが弱かっただろうか?

 前世ではいじめにあった事もあるし、ボコボコにされた経験も一度や二度じゃないくらいある。

 だが何故か今の俺は立ち直れる気がしない。


 フィー達に情けない所を見せたからか?

 メルが発端で俺が攻められたからか?

 どちらも違う気がする、これはあれだ、昔に覚えがある。

 一番最初に虐められる様になった日と同じ感覚だ。友達だった者と共に虐められ、元友達は俺を的にさせる事で離れて行った。

 だが、その時より俺は精神が成長している。それにだ。

 どうしても腑に落ちない。今回の事は、どれもこれも大したことが無い。

 クラスの中で的にされたのだから些細な事とまでは行かないが、いつもなら軽く笑い飛ばせる話だろう。


 取り合えず俺はいつもの儀式をした。

「メルは何も考えてない、ただの馬鹿だ。誘導なんてしていない。

 フィー達は置いてかないでと言っていた。俺と一緒に居たいのだ。

 Gクラスの奴なんてどうでもいい元々知らない奴らだ。

 だから俺は大丈夫」


 ……少ししか効果が無かった。


「ダメだ、また狩りに行こう……」と俺はまた限界ぎりぎりの場所に行き、なりふり構わず異常な速度で戦闘を永遠と続けた。

 また、夜が明けた。だが俺は止まらなかった。

 そして暗い感情が芽生えた。

 こんな思いをさせたメルに仕返しをしてやらねば。

 殴りながら犯してやろうか、それともいっそ殺すか?


 とそこまで考えて俺はやっと自分の異常さに気が付いた。

 この憎しみの様な感情は消えないが、今の俺が異常だと言う事、やってはいけない事、と言う所まで忘れては無い様だ。

 俺は……一体どうしたっていうんだ……

 憂さ晴らしでもするかの様に、魔物に当たり散らした。


 そしてまた異常に眠気に襲われた。

 仕方がないと、俺はまた宿に戻り眠りについた。


 目が覚めると、目を真っ赤にさせたメルがいた。何でいるんだ?

 今は相手にしたく無い。

 何て言おうか。

 いや、今の俺は、何をしてしまうか分からない。

 不用意に言葉を交わすべきじゃ無い。


 俺は色々してやりたい衝動に駆られながらも、無視して部屋を出ようとした。

 だが、メルはそれを許さなかった。後ろから抱き着き、俺の行動を止めた。

 俺は変な事を口走らない様、必死に感情を抑え言葉を発した。

 

「今の俺に近づくな、何をするかわかんねーぞ。

 お前を殴りながら犯したい感情に支配されそうなんだよ」


 口走ってしまった。もういいかな、もう言っちまったんだ。

 もう終わっちまったし。

 と、振り返ろうとするとメルは拘束を解き、今度は前からそっと抱き着いた。


「やっぱり怒ってるのね。いいよ、殴っていい。体も好きにしていい。

 だから、だから隣に居てよ。寂しいよ。

 それが叶わないなら……責任取って殺して?」


 メルが殺してと言った瞬間、そんな事を言わせてしまった俺は、この衝動を上回る感情に支配された。そして、このどす黒い感情を全力で否定した、

 衝動も抑えられない位の、この感情を余裕で上回る程、全力全開で否定した。

 血の気が引いた、俺はそのまま意識が薄れていき、このまま意識が無くなる事を理解し、そして倒れた。


 そして意識が戻った、あれからどのくらい経ったのかも分からない。

 だが今は気持ちが安定している。いや、安定はしていないか、最悪だ。

 今考えても理解不能だ、何故、どうしてあんな感情になってあんな事を言ってしまったのか。これからメルにどんな顔をして会えばいいのか。


 そう思い体を起こし、辺りを見回すと屋敷の自分の部屋のベットだった。

 どうして俺はここにいる。ってメルが運んでくれたしか無いな。

 あいつ、あんなに想ってくれていたんだな……


 俺は自然と部屋を出てメルの部屋の前まで来ていた。

 この扉に触れる事すらこわい。だけど俺は想像してしまった。

 俺が逃げたら彼女がどうなるかを。彼女のあの言葉は、本気の言葉だろう。

 

 そんな怖さに比べれば今の怖さは耐えて進むしか無いと思えた。

 なので俺はドアを開けた。


「責任、取りに来たの? それとも体が欲しくなった?」

「責任……取りに来た」

「そう。分かった」


 ベットに座っていた彼女は立ち上がり、こちらへとゆっくり歩いて来た。


「最後にさ、一度だけフェルからキスをして欲しいな」 


 俺はメルを抱きしめて彼女の問に答えた。


「いやだ。男が女に対して取る方の責任を取りたい。

 だから一度だけじゃ、いやだ」


「何を言ってるのか、分からないわ。こんな所、フィー達に見せる気?

 早く殺して私を隠した方がいいんじゃないの?」

「メル、愛してる。俺と結婚の約束をして欲しい」

「はっ……? 正気?」


 メルは何を言ってるの? 意味不明だ。

 と言う思いがありありとした表情をしている。


「本気だ。こんな訳わかんない男やっぱり嫌か?」

「嫌じゃない。けど殺さないなら私から離れていくの禁止だから。

 それだけはしないって誓って。じゃ無いと怖くていられない」

「誓う。と言うかこれからずっと一緒に行動しよう。

 どこに行くのも二人で、このままずっと隣に居よう」


 メルは信じられないと言う顔から一転して口をへの字にまげ俺の服を掴み顔を隠した。


 「うん、良かった。よがっだ……もう……い゛や゛だよ゛……」


 メルは俺の胸に顔をうずめすすり泣いた。


 それから俺はメルに隠していた事や、言ってなかった事、すべてを打ち明けた。

 メルは、そう、そう、と淡々と聞いていた。


 そして先日の感情の暴走は初めての経験で、自分でも何がどうしてそうなったのかが予想すら出来なくて困惑している事や、アデルと自分との関係も包み隠さずに話した。

 メルはアデルの話の時だけは『そっかーやっぱりかー』と口調を崩した。


 そしてすべてを話し終えたあと、メルに「メルがすべてを打ち明けてくれた日から、俺はメルの事、好きになって居たみたいだ。今は大好きです」と告げキスをした。


「私はもっと前から好きだったよ。あの日で大好きになったの。

 今はもう、おかしくなっちゃってるわ。フェルが居ないともうダメ」


 と、メルは苦笑しながらも嬉しそうにしている。


「ああ、俺もメルが居ないともうダメだ。離さないから」

「うん、絶対よ」


 と、抱き合っているところにフィー達が集まって来た。

 俺はシャノン達にも謝った。彼女たちはとても喜んでいた。

 自分たちは捨てられたわけじゃ無いんですねと何度も確認され、俺はそんな訳ないと返した。


 そして俺の暴走事件は原因もハッキリしないままに終わりを告げた。

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