第12話お別れ


 俺は出口に向かって走りながら前を目を向ければはっきりと隊の者が見え始めていた。

 何故か隊員達は全力で雄たけびを上げている。迎え撃つ気満々の様だ。

 良い事だがあそこに向かって走りたく無いな、とか考えてしまった。


 まあ、そういう訳にはいかないので、アデルに声を変えて全力疾走に切り替え、魔物との間に結構な距離を稼ぎ、隊員たちのすぐ近くまで移動した。


「ただいま。何とか成功かな」

「おいおい、三分の一は減らしといて、全然余裕そうじゃねーか。

 俺達いらなかったんじゃねーか? 英雄さんよぉ」

「ねぇねぇ君、フェルディナンド君、でいいんだよね?

 おねーさんと後でお茶しよう。おねーさんは君とゆっくりお話をしたいな」


 と、ボッチ組の中で一番高レベルの少女が声を掛けてきた。

 この子と言葉を交わしたのはこれが初めてだ。

 おねーさんてお前まだ子供じゃないか、と思いつつも……


「い……いや、それより構えてよ。そろそろ最終決戦なんだけど……」


 そう。俺はそんな事よりまずは目の前の事にだな、と思いながら注意した。

 だが考えてみれば二人は前衛、後衛の者達はもう魔法の詠唱に入っている。

 そして俺は確認の為、最後にもう一度指示をする。


「じゃあ、土魔法は出口の両端を狙って出口を狭くして貰って、火魔法はファイアウォールを持ってる人は土魔法の隣に、持っていない人は風魔法と混合させて範囲効果の拡大をしよう。

 最後に水魔法の人は同じく範囲で火の妨害にならない様出口の中心に、敵を押し返す様に」


 と指示を出した。

 俺は中級魔法ですらまだ、まともに見た事が無い。

 すべてが口頭での説明を信用しての作戦だ。

 だから、どこまで通用するか全く不明の俺の浅い知恵が、多少なりとも通用してくれる事を切に願いながら結果を待った。


 その結果。願いは届いたようだ。

 何とか両サイド土と火の魔法で両サイドを20メートルずつ位は封鎖出来たんじゃないだろうか。


 そして火と風の連携も良い効果を出した様だ。

 その辺りに溜まっていた魔物は一掃されていた。

 これが一番安心した。

 これをする為の策と言っても良かったくらいだ。


 そして水魔法の方は、自指通り、きっちり押し返していた。

 これは詠唱時間を再度少しでも稼ぐ為だ。

 そして俺はもう一度指示を出す。


「後衛がもう一度詠唱を終えるまで俺達はあの60メートルを死守する……

 やっぱり死守はダメだ。死ぬと思ったら全力で逃げろ。俺がフォローする。

 いや、アデルがやってくれる。

 てかダメだったら町に逃げ込もう。もう結構減らしたしさ。

 籠城戦でも行けると思うんだ……」


 と言えば言う程、弱気になっていく俺をアデルがフォローしてくれる。


「フェル様はこう申しております。

 死ぬな、だが任務は達成しろ。

 最悪失敗してもいい。ここまでくればまだ手はあるのだからと」


 そうそう、それ!

 てか……アデルが隊長でいいじゃないか!

 ああ、今度機会があったらこいつにやらせよう。

 能力があるのに俺にばかりやらせようとしやがって。だが可愛いから大好き。

 じゃなかった、可愛いから許す。

 ……可愛いから大好きって字面的に最低だな。

 これは声に出してはいけない思考リストに加えておかねば……

 いや、可愛いから許すも変わらんか?


「っと、せっかくの水魔法が無駄になっちゃうな、行こうか」


 と、俺が言うと前衛の二人が勢いよく返事をし、アデルが頷いた。


 前衛の二人はなかなかやり手であえて戦う事はせず敵を引き付け走り回る。

 トレインと言う行為をして時間を稼いでくれた。


 俺とアデルは余裕があったので殲滅しつつ後ろに行かせない様走り回った。

 流石に大量にトレインしているとこぼれるな。


 そして、先ほどのサイクルを二回、三回、と繰り返す度に出口が狭くなり、空いている隙間も魔物の死骸で埋まり、安全度も格段に増していく。


 安全が確立された頃、エイブラムさんとギルド職員たちがポーションをそして回復魔法師を連れて来たりしてくれた。


 その頃には敵の数も100を切っており、前衛の二人が低級ポーションを飲んだ位で済んだ。


 そして最後の一匹を討伐し終えた時、俺とアデルは武器を下し息を吐くと、その場にいる全員が雄叫びを上げた。俺達二人を置いてきぼりにして。


 そして思い思いに喜びを表現していた。そしてその興奮が一先ず落ち着いた頃にエイブラムさんが俺に跪いて言葉を発した。


「この度は、いえ、この度もこの町を救って頂き感謝に絶えません。

 私はこの窮地を知った時、重責につぶされ、半ば諦めていました。

 それでも不安で居てもたってもいられず気が付けばあなたの家の前にいました……

 正直に申しますと、貴方が受けて下さっても、無理だろうと思っておりました。

 だが、貴方は奇跡を起こしてくださった。私たちに未来をくださりました。

 私は誓います。貴方に必要とされた時、何が相手だろうとお力になると」


「ええと、今はお気持ちだけ頂いておきます。

 まあ、何も無いとは思いますが何かあったその時は、よろしくお願いしますね」

「はい、お任せください」


 と、エイブラムさんが跪いたまま頭を下げると、何故かアデルが満足そうにドヤ顔をした。

 見っとも無いから止めなさいと、言ってあげたい。

 と思っていると、隊員達からも声を掛けられる。


「隊長さんよぉ、疑っちまって悪かった。ありがとよ」


 と、パーティーリーダーの男が言う。


「俺にも出来る役割を与えてくれて、ありがとうございました」


 と、ボッチ青年が告げる。


「助かったわ。こんな事もう無いと思うけど、次があっても隊長は貴方がいいわね」


 と、リーダー格の女性が評価する。


 他にも感謝の言葉を続々と告げられ、終わった頃に俺は『同じ町に居る訳だしまたどこかで会った時はよろしく』と告げて去ろうとすると先ほど話しかけて来た少女が付いて来ていた。


「……貴方は何故、付いて来るのですか?」


 アデルは俺が言うまで耐え切れなかった様で、ジト目で彼女に問う。


「それは隊長さんと、貴方が居ない時にあとで一杯話をしようって約束したからよ。

 隊長さんの従者さん」


 アデルのジト目がゆっくりと俺の方に流れて来た。

 覚えの無い俺は、そのジト目を正面から受け取り言葉で返す。

「一方的に言われたが、約束はしていないぞ」と。


「そうですか。でしたらお引き取り下さい。フェル様はお疲れです」

「あ~フェル君か。そっちの方が語呂がいいね。私もそう呼んでいい?

 あ、私の名前はメルディナだから、メルでもメルディでも好きに呼んで」


 と、彼女はお構いなしの様だ。だが勘弁してほしい。

 アデルが見た事の無い表情をしてるのだ……

 明らかに怒っている。

 だがそれを隠そうと変な風に笑っているのだ。

 怖い怖いっ。何その表情怖いっ。


「あ~アデルの言う通り今日はもう疲れたから帰るよ。

 また機会があったらね、メルディナさん」


 と、返すとアデルは少し表情が戻った。


「分かったわ。じゃあまた、機会があったら遊んでね。

 今度はちゃんと約束しよ。ねっフェル君」

「貴様、いい加減にしてくださいね?

 君は未来がいらないのですか? ぶち殺しますよ? 今すぐっ!」


 アデルが壊れた。不味いこれは不味い。

 下手するとマジで殺りそうだ。シャレにならんわ


「アデル、止めなさい。

 ちゃんとお断りするし、帰ったら一杯ブラッシングしてあげるから。

 今は良い子にしててくれ」


 そう告げると、頬を赤らめながら、ばつが悪そうにちょっとだけ口を尖らせた。

 何この天使、可愛いと思っているとメルディナが口を開いた。


「そうよ。ワンちゃんはワンちゃんらしくいい子にしてなさい。

 てかフェル君、断るなんて言わないでよぉ~。

 おねーさん一杯サービスしちゃうぞ?」


 と、メルディナさんは俺の前で少し屈み上目遣いで誘惑してきた。

 ふむ、流石にこうされるとちょっと可愛いなとか思ってしまうな。

 だが、ここで流されてはアデルに呆れられてしまう。それはダメだ。


「アデルをワンちゃんとか言うのは止めてくれないか?

 俺の大切なパートナーを侮辱するなら相手になるぞ」


 と、真剣な表情で俺なりにどすを効かせて言ってみた。


「ごめんなさい。だってあまりに邪険にするんだもの……

 分ったわ。今日は引くから、怒らないでね」


 メルディナはそう言い残して去っていった。


「はあ、いけないと分かっているのに、あの女殺す所でした。

 でも、すっきりしました。ありがとうございます」


 待て待て。あの女って少女だろうが。もうちょっと考えて行動してね?

 ダメだからね?

 まあ、本当にはやらないだろう……

 ともかく笑顔になってくれて良かった。

 あのままだったらどうしようかと思ったよ。


 そして俺達は家にたどり着きアデルを労わってやり、俺も体を休めた。

 次の日やっと騒動が終わったと一息ついた所で再度エイブラムさんが訪ねてきた。


「度々申し訳ありません。ですが今日は良いお話を持って参りました」

「報酬の件ですか? それならこちらから出向きましたのに」


 と答えるとエイブラムさんはちょっと見当違いの言葉を返してきた。


「いえ、今回の貴方の働きを国が称えて下さるそうで、王都から通達が来ました。

 王宮の方に出向いて欲しいと」

「そ、そうですか。それは栄誉な事で……

 と言うかこれ強制的に戦争に駆り出されたりしませんかね?」

「お声は掛かるでしょうが、強制と言う事は無いと思います。

 それに、レベル的に見ても王都にはもっと上がおりますし」


 良かった。

 まあ面倒くさいのは変わらないが、これを機にコネクションを作れたら先々役に立ちそうではあるな。

 まあこの位の事ではそこまでのコネは作れないだろうが、足がかりは出来るかもしれない。


「分かりました……謹んでお受けしたいと思います」

「それと、報酬の件ですが……

 町の住民からも出せる者には少しでも出して貰おうと声を掛けた所、金貨100枚近く集まりました。

 それとは別にギルドの方から金貨200枚、貴族様の報酬として金貨200枚、計金貨500枚の報酬となります。よろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。額が多い事に驚いております。大丈夫なんですか?

 他のメンツにも報酬出すんですよね?」

「いえ、この額は決して多い訳ではありませんよ。

 むしろ足りないのでは、と私は思ってしまう位です。

 すべてを失う所を助けて頂いたのですから。

 ですが、安心しました。これ以上をひねり出すのは難しそうだったので」


 ……そんなに無理しなくていいのよ?

 と言いたいが俺の気持ちが真っすぐ伝わる事は無いだろうと思い口を噤んだ。


「いつまでに王都に着けばいいんですかね?」

「ええと、馬車で普通に向かわれますと4日の道のりですが、一カ月以内に行けば問題は無いかと思われます」


 割と余裕はある様だ。

 確かに国も、一介の冒険者に対して「良くやった。褒めてやるから今すぐ来い」とは、普通なら言わないだろう。

 そろそろ王都にも行った方がいいと思っていたところだし丁度良いかな。


「分かりました。では近いうちに王都に向かおうと思います。

 知らせに来てくださって、ありがとうございました」


 そう告げると、エイブラムさんは貴方が称えられる事は私も嬉しいですから、と言い深く頭を下げてギルドに戻っていった。


 とうとう、この町ともお別れか……

 流石に戻って来てまた暮らすと言う事は難しそうだな。

 いつかは獣人の国に帰るんだし……


 父さんや母さんも、手紙をやり取りする度に帰って来て欲しそうにしている。

 だが今帰ってしまったら、まだ戦争になっていない以上宣言を違えてしまう事になってしまうし、人族に対抗できる手段というものをまだ一つも準備出来ていない以上、このまま会いたくて帰って来ました、なんて言う訳にはいかない。


 ならば王都に行き、出来るならばせめてこの国の王と話をしたい。

 人族に関する情報を共有し、共闘関係を築けば仮に戦争が起こってもある程度、対抗できるだろう。

 とても難しい事だとは思うが、せめて人族のレベルの話だけでも信じて貰えれば少し位の可能性はあるだろう。 


 だが、その前に片付けなくてはならない問題が二つある。

 一つは奴隷を買うか買わないか。これはまあ些細な問題だ。

 対面上問題がありそうなら、買わなければ良いだけの話なのだから。

 でもちょっと欲しい。


 二つ目、これが問題だ……

 父さんが今日、手紙でアデルを一度国に戻して欲しいと要請を出してきたのだ。

 断りたい、断りたいが……

 元々は軍の命令、と言うより父さんが出した護衛任務が元で共にやってきたのだ。

 そしてその任務の依頼者が戻してほしいと言ってきている。


 この問題の発端は、俺がレベリングを頑張り過ぎた事にある。まあ必要なんだけど。

 だが、神の恩恵を強く受けた俺だけで無く、共に行動したアデルまでもが今までに聞いた事も無い様な速度でレベルが上がっている事を知った父さんは、一般人でもこの速度のレベリングが可能ならばなんとしても真似して軍の強化をしたいのだと手紙で強く訴えていた。


 この先ほど届いた手紙の内容をどうアデルに伝えようかと

 悩んでいると、アデルが声を掛けて来た。


「王都に向かう事に、心配がおありなのですか?」

「いや、そうじゃ無いんだけど……これ……見る?」


 と、俺は父さんの手紙をアデルに差し出した。


「いえ……ですが問題はそちらでしたか。

 フェル様の表情を見る限りとても宜しくない事でしょう。

 まさか……戦争に?」

「うーん、どう伝えて良いか分からないから、やっぱり直接読んでみてよ。

 見ちゃったら拙い様な事は書いてないから」


「はい。では……」とアデルは手紙を受け取り紙の表面で視線を泳がせる。

 そして問題の事柄に到達したのだろう、手紙を落とした。


「はぁ、やはり断るか。俺も隣に居て欲しいし」

「…………」


 アデルは無言だ。とても辛いのだろう。

 だが断ろうと決めた俺にはちょっと嬉しいかな。

 俺と離れたくないと言う証拠を突き付けられた様な物だし。


 そして少し心が落ち着いたのか、アデルは言葉を発する。


「フェル様が王都に向かうと同時に、私は国に帰ろうかと思います」

「…………」


 な、なんでだよ、今断るっていったじゃんよ。

 えーやだよー……俺どうしたらいいの?


「一刻も早くレベル上げのやり方をレクチャーして貴方の隣に戻って来たいと思います。

 お許し願えますか?」


 ……そうか。責任感の強いアデルの事だ。

 この件はどうしてもやらなくてはならない事として受け止め、即座に終わらせて戻ってくるのが最良と考えたのだろう。

 アデルは大人だな、俺よりも……まあ実際そうだけど。


「……あまり長く離れると浮気するかもしれないぞ?」


 うわっ俺みみっちいな……言いたくない。

 こんな事言いたく無いのに……

 行かせたくない、と言う感情があふれて言葉が止められない。


「私は、拒絶されないだけで満足ですよ、フェル様」

「俺は常に、隣に居て欲しいと、強く、強く、思ってるよ」

「その幸せな言葉を胸に、お勤めを果たしてまいります」

「やだ……けど、分かった」


 と、しぶしぶながら了承した。いつの間にか説得するはずの俺が駄々をこねていた。


「では、一刻も早く終わらせるために、今から行ってきますね。

 出来るだけ早く戻ります。

 だから私が居ない間危ない事だけはしないで下さいね」

「今から……か。じゃあ金貨100枚持ってって、毎日手紙出してよ」

「あ、それいいですね。

 フェル様と御父様、御母様、のやり取りを少し羨ましいと思っていたんですよ。

 ですが100枚は多すぎでは?」

「いいんだよ、一杯贅沢して羽を伸ばして来い! これは命令だ。

 でも、帰ってこないとか許さないからな」

「はい、では、行ってまいります」


 と、準備する物もほとんど無いアデルは即座に用意を終え、あっけなく国へと向かってしまった。

 先ほどまで一緒に王都に行くつもりだったのにも関わらず、もう少し何か無いのだろうか?

 と考えていると俺は思い出した。


 父さんと母さんも俺が国を出る時、そう思っていたのだろう。

 それらしき事を言われた気がするし、こんな切ない思いをさせてしまっていたのか。

 あ、そうだ、奴隷の件どうしよう。

 これからは何でも一人で考えなきゃならないんだな……

 いいや。俺一人じゃ面倒見れないし、取り合えず王都に向かおう。


 と思い、この家の大家さんやジャスタスさんエイブラムさんなどの世話になった人に挨拶だけしてもう出発しよ。

 俺は、二人で住んだこの家に一人で住む事が嫌で、即旅立つ事を決めた。


 そして大家さんに家を返す為の話をして、お礼を告げた。

 そしてその足でスラム街に向かおうと足を向けていると、面倒な彼女に声を掛けられた。


「あ~フェル君だ、何々? 一人なの? 私も一人だよ。一緒に行く?」


 どこにだよ、と心の中で突っ込みを入れて言葉を返す。


「ああ、メルか。今からジャスタスさんに別れの挨拶に行くんだ。

 別れの挨拶だから、知らない人は遠慮してくれ」


「おお、お互い略称で呼ぶっていいよね。ジャス爺の所に行くんだ?

 でも別れの挨拶って何? もしかしてどっか行っちゃうの?」


 ジャスタスさんを知っていた事に驚き、彼女の顔を初めてまじまじと見た。

 茶髪で髪を一つに束ね肩から前に出しているセミロングくらいだろうか?

 活発なイメージそのままな彼女の目は若干たれ目でぱっちりしてる。

 確かレベルは130くらいだったか? それなら年齢も結構いっているだろう。

 そのはずなのだがどう見ても見えない。

 華奢で細身だからと言うアデルとは違い、身長が低すぎる。

 俺と同じ140程度しかないのだ。


 疑問に思ってつい、振り切るつもりだったにも関わらず話を振ってしまった。


「なあ、メルは今いくつなんだ? そのレベルで俺と同じ位って事は無いよな?」

「え~私より高い人が何を言ってるのかな?

 それに女性に歳を聞いてはいけないのだよ。フェル君」

「そうか、悪かったな。じゃあいいや。

 俺はジャスタスさんの所に向かうから、ここまでだな。お別れだ。さようなら」

「ちょ~ちょ~っとぉ、そんなバッサリな切り方しないでよぉ。

 分ったから。えっとね、二年分だけ私がおねーさんだよ」

「そうか。ならもう少し話をしようか。

 どうやってそのレベルまで傷も受けずにレベルを上げられたんだ?」

「ははは……おねーちゃん悲しいな。

 せっかく同志が見つかったかも知れないって、必死になって打ち解けようとしているのに。釣れなすぎるっ」


 と、そこで俺の心の中の危険探知用の恐怖レーダーが作動した。

 若くして高レベル。その上死線を潜り抜けて来た様が、外見からは見受けられない。

 そして極めつけは、この同志と言う言葉。何か事件の臭いがする。


「俺はお前の同志では無いから、他の子と遊んで来なさい。

 ほら、お小遣い上げるから。じゃあな」と

 彼女に金貨一枚を握らせつつ頭をなでて話の終了を告げると、彼女は目を見開き『確信したわ、離さないんだから』と腕を絡め、まるでカップルの様に歩き回る事になってしまった。


 正直嬉しいが、俺にはアデルと言う子が居るんだと自分に言い聞かせながらも、彼女の陽気さに当てられ危険だと思う心が薄れていく。


 そして俺達はジャスタスさんの店、と言うか家か、まああの場所にたどり着いた。

 そしてドアノッカーを叩き、誰か出てくるのを待っていると。

 

「ジャス爺のこの店を知ってるって事はフェル君はジャス爺のお客さん?

 まあ別にいいんだけどさ、私たちが奴隷を持つなんてなんか皮肉よね」

「言っている事は、良く分からないけど、俺はまだ奴隷持ちにはなってないよ」


「そっか」と、彼女は笑顔になり俺の腕に顔をこすり付けた。

 ところで間が悪くジャスタスさんが出て来た。

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