第11話指名依頼


 次の日俺はまだ明け方に目が覚めた。

 アデルがまだ寝ている事を確認して思い切ってアデルにフルヒーリングを使ったが、そこからの記憶が無い。

 おそらくMPが切れてそのまま二度寝になったのだろう。


 だが幸いな事にアデルはまだ起きていなかった。

 まあ一時間程度しか経っていない様だし今はまだ5時過ぎくらいだろう。

 早く起きて欲しいがどうしよう……

 と繰り返しうろうろしていると、アデルが目を覚ましてしまった。

 おはようございます。


 と顔を上げた瞬間、俺はすべてを忘れた。

 天使だった、いや、女神……それは嫌だな、取り合えず可愛い。


 綺麗な赤毛にわずかに天然のパーマが緩いウエーブを作り、背中の辺りまで伸びている。

 目は釣り目気味なのに綺麗さより可愛さが浮き立ち、身長も出会った時から伸びて居らず、体格も華奢なせいか20歳とは思えない。

 16歳程度の超絶美少女と言う感じだ。

 

 おねショタ、ありなんじゃないでしょーか? とそんな思考が止まらず、俺は硬直していたのだろう。アデルは首を傾げた所で片目を抑え視界がおかしい事に気が付いた。

 あ、どうしよう。可愛いの他に何も考えられない。


「これは……もしかしてフェル様……」

「アデル、可愛いよ。世界一可愛いよ。だからさこれで良かったんだよ」


 と、何も弁明にならない言葉を発した所で俺は気が付いた。

 立場を逆に考えたのだ。女の子にこれはやってはいけないと散々言って来た事をやられてしまった上にフェル、カッコいい、世界一カッコいいよ。と言われたらどうだろうか?

 これは煽るという行為なのでは無いだろうか?

 そんな面持ちでビビりながらアデルを見る……


「そんな言葉では騙されませんよ。

 最上級回復魔法、取ってしまわれたのですね。

 相談も無しに……私の考えは不要ですか?」


 うう、想像はしていたがきつい。

 無表情、と言うか普通の表情でそんな事を言われてしまった。

 もういいです。と言外に言われている気がする。

 取り合えず正直に言って謝ろう。


「ごめん、アデルは自分にプラスになる事だと、優先順位を強制的に引き下げるからさ。

 これは先の必要性もあるしアデルの為にもなる事だよ。

 それにさ、さっきアデルが、俺といる為に頑張ってくれてたの見たらもう気持ちを止められなくなって、相談するのを飛ばしてしまったんだ。

 ごめんなさい」


「はぁ、お優しいフェル様の事です。

 こうなってしまう事は分っていましたが、性能の方はどうなのですか?」


 と、先ほどから表情や声色に怒った様子が無い……

 どう捉えて良いのかわからない。そんな時は素直に行こう。


「えっと、色々凄いんだけど、消費MPがやばかった」

「どれくらいだったんですか?」

「えっと、自分に使った時は3000だったよ」

「自分に使った時は、ですか。では私に使った時はいくつだったんですか?」


 ぐぬぬ、そこに気がついてしまったか……仕方ない。


「全部消費してぶっ倒れた、そうだ……アデル調子が悪い所は無い?

 足りない分途中だったりしたら、もう一度使ってみるから言ってね」

「お陰様で問題はありませんが、視界の感覚が違う事に早く慣れないとですね」

「えっと……怒ってないの?」

「怒ってなどおりません。

 相談してくれなかった事は悲しく思いますが確かに有用性が高い魔法ではありますし、フェル様が言った事に一理ある事を確信してしまいましたから……

 私も間違っておりました。

 消費が高すぎる事が問題ですが、レベルが上がれば緩和されるでしょうし」

「流石、俺の嫁、最高すぎる。ずっと一緒にいような」

「まったく……フェル様はご冗談ばかり。ですが嬉しいです。

 冗談では無く本心から言ってくれる日が来たらと……

 忘れて下さい。私事が過ぎましたね」

「俺は本気だ、もう外見をいい訳には出来ないぞ。

 覚悟は出来ている、振るなら振れ」


「では、お断りします」


 ぐはっ……なん……だと……

 俺、終了のお知らせ、だめだもう何も考えられない

 俺はそのまま白目を向いて前のめりに倒れ意識を失った。


 時間がどれだけ経ったかは分からないが目を覚ました。


「なんだ、夢か。あービックリした……」


 と、悪夢を見ていたと思った俺は安堵の吐息を吹き起き上がるとアデルが久しぶりに土下座をしていた。


「ん、どうしたんだ?

 そんな所で丸くなって……

 そんな事してないで今日の予定でも立てようじゃないか、時間は有限だ」


 と、俺は無意識に話を変えようとしていた。

 いや、夢だったと言う事にしておいて欲しかった。耐えられないから。


「申し訳ございません。フェル様がそこまで想って居て下さったとは夢にも思わず。

 私はただ、もっとふさわしい方がいると言いたかっただけなのです」


 いや、夢だと思わせて……

 それ、思いっきり断りの言葉だよね。気を使って断ってるんだよね。

 もう、どうとでもなれ、と俺は何一つ言葉を選ばず思考のままに声を出す。


「知ってた。異性と見られて無いの知ってた。

 あーもう死にたい。前世含めて初めて本当に人を好きになったのに。

 ああ、そうか初恋って実らないんだったな。

 あ~なんで俺はまだ10歳なんだ。

 もう少し上ならもしかしたらあるいは、があったかもしれないのに」

「えっと、あの、フェル様?

 勘違いなされている様ですから言わせて頂きますが、私はフェル様の事を女として愛していますよ」

「ははは、今更、気を使われちゃったよ。ああ、でも今更で良かったな。

 勘違いすればするほど高い所から落っこちる羽目になっただろうし」

「気を使った訳ではありません。

 私は叶うのであれば、あなたの子を宿したいと思っております。

 ですが私は平民でなおかつフェル様がお年頃になる頃にはもう、30近いのですよ。

 そんな者フェル様の側室ですら釣り合いません。いいとこ愛人が精一杯で……」


 と、アデルは最後まで言い切らずに、何かを考えている。

 そして俺は復活した。だが再生怪人は弱いと相場が決まっている。

 ならば復活したばかりの俺も弱いだろう。

 だからもう甚振らないで……と思っていると、アデルが考えがまとまったようで口を開いた。


「もしこのままお気持ちが変わらなかったらでいいのですが……

 フェル様が大人になったら、フェル様の愛人にして頂けないでしょうか?」


 な、なんだってー!

 苦節童貞44年、彼女すらいないままに愛人を迎える事になりそうです。

 だがもう何でもいい。アデルが隣にいて愛し合えるのなら……

 あれ? 最高じゃね?

 ああ、いいじゃないか、

 結婚なんてどうでも良い。

 要するにそんな関係で一緒に居られる、そういう事だ。


「分かった。それでいい。だから五年後、心変わりしたとか言わないでよ?」


 復活したとはいえ弱り切っている為、かなり弱気である。

 だからこの世界での成人である15歳になった時の確認をしてしまう。


「ありえません。絶対に無いと約束致しましょう」

「ああ、良かった……

 アデルにこんなに虐められる日が来るとは夢にも思わなかったよ。

 ああ夢には思ったか、さっき」


 そして話が終わり「じゃあ今日はどうしようか」と話し始め、新しい狩場に行こうとと話が決まる頃に来客が来た。


「こんにちは、いきなり訪ねてしまい申し訳ありません。

 最近ギルドの方にお見えになられて無いと聞きますが?」


 と、この町のギルドマスターであるエイブラムさんが訪ねて来た。


「お久しぶりです。

 お陰様で依頼を受けなくても生活が送れる様になりましたので」


 そう、俺達はお金は十分たまったのでもうギルドの方には顔を出していないのだ。

 

「そんな、お陰様でと言いたいのはこちらの方です。

 その節は大変お世話になりました」

「いえいえ、お構いなく。

 あの時は利害の一致でしたし、私の方も喜んでやった事ですから」

「とても人間の出来た方と巡り合えた事、嬉しく思います。

 ジャスタスも同じような事を申しておりました」


 あ、知り合いだったのね、そして陰で俺の事を話して笑っていたのだろう。

 おっと、心に負荷がかかり過ぎたせいか、ネガティブになってしまっているな。


「親分とお知り合いなんですね。

 って知っていて当然か。同じ町の顔役ですもんね」

「彼はそうかもしれませんが、私はとてもとても……

 表舞台は権力者の貴族様方がおりますから」


 うわ、面倒くさそう……ってそう言えばこの世界に来てから貴族という生き物にあまり触れていないな。どうなのだろう。

 まあまず間違いなく楽では無いだろう。接するのも、なるのも。


「ははは、それは大変そうですね。

 それはそうと今日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか?」

「はい、貴族様から大型の依頼が来たと言うか発生したと言うか……

 大至急、その依頼をお願いしたいと思いまして」


 ん? んん? そんなぼかした感じで申されましても……

 まさか話を聞いたら最後もう後戻りはできません、的な話じゃないよな?


「はぁ、すみません、話が良く理解できないのですが……

 聞いたら断れない様な話では無いですよね?」


「はい、もちろんすべてご説明させて頂きます。

 その上で検討して頂ければ幸いです。端的に申しますと私からの指名依頼です」


 ああ、ただの指名依頼か。

 だがギルドマスターが直接持ってくる依頼か。

 一応話はちゃんと聞いて検討もするけど……場合に寄っては断ろう。


「そうですか、では、立ち話もなんですので、どうぞ、お入りください」

「はい、失礼させて頂きますね。

 あの方は狂犬さんですか……? か、可憐すぎる。

 顔を隠す理由が、分かった気がします」


 と、アデルをみて、予想した顔と違った事に、驚いている様子だ。

 だろ?と、少し優越感に浸りつつ、話を進める様に促す。


「はは、取られちゃいやですからね。それよりお話を聞かせて頂けますか?」

「ああ、はい。まず貴族様が出した依頼とは大きな群れを作り出した魔物達を討伐して欲しいと言う事です」


 まさか、その魔物の数を数えてこいとか言うんじゃないだろうな……


「その魔物の群れの討伐をお願いしたいんです。

 その魔物の名前はデスマンティスと言います。

 レベルは平均130、数は二千を超えたと聞いています」


「お断りします」


「申し訳ありませんが、説明を取り合えずでも最後まで聞いて頂きたい。

 あなたにする依頼の詳細は討伐隊の隊長をして頂き、魔物の討伐をお願いしたいのです」


 ……俺、そういうの苦手なんだけど……うーん、どうしよう。


「その群れって、今どのあたりにいるんですかね?」


 エイブラムさんは地図を広げ今群れが居るであろう場所を指差し『おそらく、このあたりでしょう』と、教えてくれた。

 言葉が出なかった。この町の目と鼻の先なのだ。


 これはまずい。


 全速力で走れば2時間もあれば十分つく距離だ。

 これは町に住む冒険者として、参加しない訳にはいかないな。


「進行する方角から言ってこのままくれば間違いなくこの町に来るでしょう。

 町を見つけたら、まず間違いなく襲ってくるでしょうからね」


 と、エイブラムさんは深刻な表情で告げた。

 これに戦えるのに参加しないと言う事は、見捨てたと取られても当然の行為だと思う。

 状況を整えてくれる限りは最善を尽くさねば。


「はぁ。これは参加しない訳には行きませんね。

 ですが私が隊長と言うのは何故ですか?

 もっといい人が他に居るでしょう?」

「今この町に居る最高レベルは、あなた方なのです。

 正確にはアデルさんですが……

 それに私は信頼出来るあなた方にやって欲しいと思っております」


「ふむ、ではアデル頼んだぞ」

「はっ? フェル様?」

「最高レベルの人にやって欲しいんだって」


 と、俺はてへぺろスマイルを決めた。流石に怒るかなと思っていると……

 

「フェル様が居る隊で、フェル様以外が隊長なんてありえません。

 なのでお断りします。

 それと、フェル様が隊長になるまでその隊の隊長になった者は死に続けるかもしれません」


 最近分かって来た。アデルのこれはガチに見せかけた逃げ口上なのだ。

 ……と思う、そうであって欲しい。ともかくアデルはやりたく無い様だ。


「いやいや、俺もやりたく無いんだってば。

 アデルがやってくれるなら俺も動きやすいし、アデルの為なら俺頑張るし」

「お言葉はありがたいですし、私は別に構わないとも思うのですが……

 一応事前に言わせて頂きますと、私はフェル様の事しか考えませんよ?

 それでも良ければお受けいたしますが」


 ちょ、おまっ……いや、確かにそうなりそうだな。それ俺が恨まれるじゃん。

 これはもう諦めるしか無いな。なる様になれだ。


「分かったよ。やるよ……やればいいんでしょやれば」

「おお、やって下さいますか」


 と、エイブラムさんはまるで助かった。とでも言うかの様に立ち上がる。


「流石に見殺しで逃げる訳には行かないでしょ。

 んじゃ取り合えずタイムスケジュールの確認からしようか。

 どのくらいで隊の編成は終わるの?」

「はい、先日から大至急で募集を掛けておりまして140台が2名、130台が8名、120台が6名集まりました。これ以上は厳しいでしょう」


 す、少ねぇ……


 半数以上が同格で18人で2000匹を相手にしなきゃいけないのか。

 いや、目標は完全討伐だが、目的は町を守る事、とは言えきついだろ……てか無理。

 まあ、そうも言ってられないか……

 まずはパーティメンバーとの話し合いだな。


「では、その者達と作戦を練りたいと思うのですが……」

「フェル様、今ならまだ間に合います。お断りして移動致しましょう。

 流石にこの人数では不可能です。

 この町の人間の準備不足が招いた事、フェル様が命を掛ける必要はありません」


「はい、それは重々承知しております。

 まだ私だけですので今なら先ほどの話は聞かなかった事にさせて頂きますが」

「はぁ……

 俺も逃げたいけどさ、逃げた先でこの町が滅んだなんて聞いたら後悔すると思う。

 隊長なんて重い仕事やりたくないけどさ。

 今のうちに経験しておいて、その先に生かせる時が来そうな気もするし……

 だからさ、本気でやりたくないんだけど……

 お断りします」


 「「「…………」」」


 ああああああ、せっかくの決め台詞だったのに……つい本音が出た。

 俺は悪くない情勢が悪い。って言ってる場合じゃないな。


「間違えました、お受けします。だからアデル気持ちを切り替えろ。

 やるぞ、マジで……だから頼むな」


 エイブラムさんは再び安堵した表情に戻り、その逆にアデルは緊迫感のある表情に切り替わって、俺の前に立ち跪く。


「はっ、この命に代えましても、必ずやお守りしてみせます」


 いや、死んじゃダメだってば、いつになったら学んでくれるんだか……


「だから、命に代えるなと……せめて代償はお金にしておきなさい」

「分かりました、この誇りに掛けて気合で何とかしてみましょう」


 そうそう、いや、気合か……もう少し合理的にならないか?

 まあ、少しは融通が利くようになって来たと思う事にしよう。

 だからここは褒めなきゃな。


「よく言った、流石は俺の従者だ。ありがとうな」

「当然です。それが私の生きる意味ですから」


 アデルはムフーと軽いドヤ顔でいつもどおり重い子発言をする。

 そんな所も可愛いのだが、今はそこに時間を使ってる場合でない。


「さて、エイブラムさん予測でいいのですが、お時間は後どのくらいありますかね?

 集合してから会話も無しにスタートだと終わるんですが……」

「ええと、もう依頼を受けてくれた者は東門の出口に集まってくれておりますので、今からすぐに向かえば3時間以上はあると踏んでいますが……

 確認を取ったのがもう4時間も前ですから、願わくば避けて通ってくれれば良いのですが……」

「希望的観測ダメ、絶対。

 アデル、ポーション全部持ってこい。即行くぞ。

 エイブラムさんは一番高いMPの回復ポーションを二本用意しておいてください」


 二人は『はい』と即座に返し俺達は移動を開始した。……たった3時間か。


 移動しながら思うエイブラムさんもアデルももう少しどうにかならない物かと。


 こんな緊急の依頼なら即座に来て事情も全部最初から話せよ、と思う。

 まあ、まだよそ者とも言える俺達に命を掛けてくれ、とは言いづらかったのかもだが。


 アデルもあそこまで聞いたんだ、受けると分かっていただろうに。


 まあ、過ぎた事はしょうがないな。

 今はどうやって少しでも有利な状況を作り出し『どうやって120レベルの者達を死なせずに戦うか』に尽きるな。

 彼らが死んでしまっては地形を利用したとしても更に倍の数を相手にする羽目になってしまう。

 まあ本当にいい場所で上手くやりあえるならいない方が上手く回る可能性もあるが。

 おそらく魔法使いが多いだろう。後方支援をしてもらえばいいだけだ。

 

 そして東の出口に到着し、5人くらいで集団を作っている輪が二つ。

 あとは二人とかぼっちとかで計16人、他の人間はいない様だ。

 なので俺はそのまま大きな声を出しその場の者に呼びかける。


「あ~えーと、今回編成された討伐隊の隊長をギルドマスターより任命されたフェルディナンドと言う者だ。

 まず、今回は非常時である事を考慮して貰って口頭での使用可能な魔法を教えて貰いたい。

 ここまでで言いたい事がある者は迷わずに言って欲しい。

 分っているとは思うが時間が無い。

 本来ならば今すぐにでも出て有利な場所を確保して戦いたいんだ」


 と、告げるとパーティを組んでいるであろう5人組の片方、そのリーダーであろう女性が前に出て言葉を発する。


「どういう経緯か知らないけどさ、いくら何でも若過ぎじゃない? 大丈夫なの?」


 当然の疑問だなと俺は無言でステータスのレベルまでを開示しアデルも同様にレベルまで開示するよう促した。


 皆同様に目を見開き、こちらに視線を向けた。


「真っ当な疑問だ、俺達はペアで幼少期から死線を抜けて来た。

 だからこそ、安心してくれ、などと言えないが。それなりには期待してくれていい。

 彼女のがレベルは上だが主従と言う関係上、俺が隊を任された。他には?」


 そしてちょっと気になっていた、ボッチの青年が口を開いた。


「ええと、強い事は理解出来たんだけどさ、まさか各個撃破とか言わないよね?」

「ああ、もちろんだ。だがその話は戦力を図ってからだな。

 何が出来るかも分からない状況で戦略の話をしても意味が無い。他には?」


 もう一つのパーティのリーダー格が前に出て口を開く。


「それはこっちも同じだ。あんたは何が出来るんだ?

 まさかそっちの嬢ちゃんにおんぶにだっこでレベルを上げた訳じゃねーよな?」

「そうだな、俺は剣を扱う、前衛だ。

 130レベル程度なら一度に6体くらいまでは一人で受け持てる。

 隣にいる彼女はもっといけるぞ。

 まだ聞いてないがおそらく俺達は相性が良いはずだ。仲良くやろうぜ」


 と、文句をつけた男は俺の言葉を素直に信じマジかよとつぶやきながらも『なら、言う事はねぇ』と手をひらひらと上げパーティの輪に戻っていった。


 そして扱える魔法の情報をすべて集め打ち合わせを開始した。

 真面にやり合えそうな前衛は俺達を除いて二人しかいなかった。


 俺は120台の者達に目を付けた、その全員が魔法使い。

 それもそのはず、大量に来る格上に近接戦をするなど自殺行為だ。

 120レベル付近の前衛は居ても死ぬだけだと出てこないだろう。


 その者達が使える魔法は中級魔法の各種、と言うか集まった人間で上級が使える者はいない様だ。

 その中でも俺は下準備として土魔法に注目した。


 仕事に需要が高くなかなか人気がある魔法の様で5人が土魔法中級まで使えた。

 その者達に、上空から見れば逆のハの字に見えるような形に、完全封鎖はしない様に間隔をあけながら壁を設置して貰った。

 間隔をあけた理由は即壊される事の懸念とかなりな広範囲なため魔力が持たないからだ。

 足りなくて130レベルの者にも設置を手伝ってもらった。

 もちろんポーションも飲んでの強行だ。


 入り口が500メートル以上、出口が100メートル程だろうか。

 壁は3メートルおきに1.5メートル魔物がぎりぎり通れる位の間を開けさせた。

 魔物の足音がし始めた。ものすっごい威圧感がする……

 打ち合わせの通り俺とアデルは魔物を逆ハの字の中に入れる様に引き付けを開始しようと見合い、頷く。


「おいおい、ほんとに行くのかよ……この地鳴りの発生源に……

 隊長が最初に命を掛けるとか普通はねーぞ?」


「はは、だな。だけどこれで行かなきゃ総スカンで全滅確定だろ……

 そっちの方が怖いわ。知ってるか? 動いてる方が怖くないんだぜ?」


 と、俺は若干震え声で強がりながら、走り出した。

 アデルもそれに続き俺達は真っすぐ敵の方角へ向かった。


 そして敵を発見した。

 両手が鋭利な鎌になっていてカマキリと言うにはちょっと立派な甲殻をお持ちになっている様子。

 形的にはまあ大差は無いが虫のカマキリと比べ足が速い。

 とは言え俺らは余裕で速度でも勝っている。

 負けているのは数だ。だからこそ策を成功させねばならない。


 魔物達はもちろん横並びなどしておらず随分と縦に間延びしていた。

 なので俺達は予定を変更し、ヒットアンドアウェイ……

 と言うより回り込まれそうになるまで全力で数を減らし後退を繰り返していた。

 そして後方に設置したバリケードと小さく隊の仲間が見え始めた。


「おいおい、あの隊長さん達は何やってんだ? 予定と違うじゃねーか。

 やっぱりガキか? こういう時は予定を崩しちゃなんねーだろうが」


 と、最初に文句を言って来た彼が、いら立ったように愚痴る。


「あんたも、一応高レベル帯のリーダーやってんならよく見てものを言いなさい。

 後続がまだ見えてこないわ。きっと間延びしすぎているのね。

 間延びした状態じゃ後続を引き付けられるか分からないから、ああやって敵の間隔を詰めさせてるのよ。まったく、良くやるわね……」


 隊長が若過ぎる事を懸念していた女性は目が良い様だ。

 彼等がやっている事を理解し、重要性を分かった上で呆れている。


 他の者達も手に汗を握りしめ、必死に迫りくる恐怖に立ち向かう為に身構えている。

 今頑張っている隊長が言っていた。

 今回は準備期間が無かった為、一度の失敗ですべてが終わると、ギャンブルに近いと。

 だからこそ、役割をきっちり果たして欲しいと。


 そんな色々な人間の思考が自分を中心に回っている事を知らずに俺は次のステップに移っていた。


 逆ハの字の中心に来て敵の半数以上が入った事を確認して三メートル間隔に空いている隙間に入り、壁を利用し囲まれない様魔物を迎え撃つ。


 自分が塞いでいる隙間、以外からも出てくる魔物達も同時に打ち取り、敵の死体を出来る限り積み上げた所で次の隙間に移動する。


 それを繰り返しある程度の所でアデルに向かって大声を上げた。


「そろそろ合流するぞ、準備しろ」

「はーいっ、いつでも問題ありませーん」


 と、慣れない大声を上げたからだろうか。

 子供みたいに語尾が伸びた事にちょっとにやけてしまいながらも再度中央に向かい引き付けてからバリケードの出口を目指して走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る