第8話現時点での最強装備


 朝目が覚めてベットから身を起こした。

 そう、俺は今、町に居るのだ。


 王宮内部にある屋敷に居る時に何度も思った。

 早く外に出て取り合えず町に行ってみたいと。


 王都の時は仰々しく送り出されたのでその場で足を止める事は精神的に不可能だったが、ここで一日くらい楽しむくらいはいいのでは無いだろうか。


 と言うか王子が追放処分になったなんて告知はしないだろうし、割と好き勝手遊んでから国を出ても問題は無い気がする。


 俺の目的の為、あまりちんたらやっている訳にも行かないが……

 と、思考しながらも部屋を見回してみると、ドアを背もたれにしながらアデルが寝ていた。


 徐にアデルに顔を近づけ観察をしてみた。

 肩にかかる程度の赤茶色のぼさぼさな髪をちょっと弄ってみると、凄く細い毛で柔らかい。

 尻尾の時も思ったがとてもいい毛並みをしているのだ。

 それと尻尾と同じくとても汚い。


 顔立ちも傷跡が深すぎるせいで分かり辛いが、アデルはおそらくかなりの美少女だったのだろう。

 出来れば早く綺麗な顔に戻してやりたいと、彼女のほっぺをふにふにしながら強く決意する。

 最高級回復魔法を最初に覚えると……


 そうこうしているとアデルが目を覚ました。

 

「フェルはまぁ、いっはいふぁにを……」


「ドアを塞いでるから何も出来なくてさ、アデルの髪を弄りながら顔をずっとみてた」


 と包み隠さず言うとアデルは「え、ええぇ!?」と跳ね起き、喚く。


「そういう事はせめて仰ってからしてください。

 フェル様が望むのであれば、何をしても良いのですが準備をさせて下さい」


 ああ、うん。言いたい事は分かるよ。

 髪を触っていて手が黒くなってしまったのは初めての経験かも知れない。


「わかった。じゃあ準備をして貰おうか。

 宿の人に言って湯を用意させてくれ。

 それと俺が言った事でかかるお金は全部勝手に俺の金から使う様に」


「はい、了解しました」


 と、アデルはそそくさと逃げる様に飛び出して行った。

 おそらく不衛生すぎる自分を恥じたのだろう。だが俺は嫌悪感は感じない。

 アデルの身の上はなんとなく想像できるからだ。


 この前、片目を失った話の時に聞いた言葉から想像できる。

 彼女の幼少期は野営する事が日常な生活であり、服もろくに買えず、食事も高価な物を食べた事は無いのだろう。

 軍属になってからどのくらいかは知らないが、接していると彼女の言う贅沢と言うものをまだしていないのではないだろうかと感じる。


「フェル様、お湯貰ってきました。お代はいいそうです。

 この宿は日に一度お湯を一人一回まで頼めるみたいで」


 とアデルが戻って来たので俺はアデルの髪を洗ってやる事にした。


「よーし、ベットに仰向けに寝そべってこっちに頭を出して」


「いえ、自分で出来ますから、フェル様の可愛いお手てが汚れてしまいます」


「大丈夫だ……俺の手は……もう……こんなにも汚れちまったぁ」


 と、対して汚れてもいない両手を差し出して、芝居がかった口調で言ってみた。

 すると彼女の伝家の宝刀『土下座』を発動したが面倒なので腕を掴みその行動をキャンセルする。


「って冗談はこのくらいにしてと。ほら早くしろ。俺の言う事が聞けないのか?」


 彼女はさっと身を起こしベットに仰向けになり両手で顔を塞いだ。

 そして尻尾と同じようにさらさらにしてやると、そこには綺麗な赤毛で繊細な高級生地よりも目を引くとても鮮やかな毛並みだった。

 だがアデルは浮かない顔でぽつりと呟いた。


「ごめんなさい。

 私が臆病でこの目を隠したい為に、こんな状態にしていたせいで……

 またもお手を煩わせてしまいました」


 え!? あっ……そうか。

 やってしまったな……

 彼女にとってあのぼさぼさな髪型は精神衛生上必要なものだったのか。


 ……どうにか代わりを探さねばと思いアデルに出かけるぞと告げる。

 

 彼女は少し動揺した様子だったが「はい!」と力強く返事を返し俺達は宿を出た。


 そこは色々な形をした耳や尻尾を生やした者達が様々な事をしていて活気のある場所だった。

 建物や生活レベルで考えると明治時代とかそのくらいか?

 まあ詳しくはわからんからなんとなくだけども。


 それにしても父や母のケモミミは見た事があるものの、行き交う人々のすべてが獣人というのは壮観だ。

 その光景に心を打たれた。

 様に目を見開き口に笑みを浮かべ、俺もその一員であると言いたいが為に、宛ても無く歩き出した。


「なあ、アデル……どこにどんな店があるってどうやって調べるんだ?」


「えっと、通行人に聞くとか、入った店で買い物をするなら買った際に次に買いたい物が売っている場所を店主に聞くとか、町によっては何でも屋みたいな案内も頼める店がある事もありますね」


 店主に聞くのも何でも屋もいいけど通行人に聞くのはちょっと俺のメンタルじゃ厳しいかもしれない。

 だって日本なら兎も角、異世界だよ?


「服を売ってる店とか武器防具が売ってる店とか他にも世間を知る為に色々回りたいんだけど、通行人に聞くのはちょっと怖いな」


 と言うと、アデルは少々お待ちくださいと、日陰に座っている汚い恰好の子供たちがいる所へ行き話をし始めた。

 なるほど。あれならば俺でも問題無く出来そうだ。


「フェル様、分かりましたのでご案内します。

 まずは、どちらから参りましょうか?」


「そうだな……服が見たいな」


 歩きながらアデルの方を振り向くと目の前に明らかに衣類を売っているであろうお店が見えた。

 アデルの言葉を待たずに再度アデルに言葉を発する。


「なので、あそこに寄ってみよう」


「分かりました」


 しきりに髪をかき分け片方の目を隠そうとしながら俺の後に続いた。


「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」


 と店員はアデルに声を掛けて来た。

 まあ当然の判断だ幼児と少女、声を掛けるなら後者だろう。

 だが俺はお構いなしに問いかけた。


「ええと、今日はですね、僕の従者である彼女の服を買いに来まして、彼女に似合いそうな物を見繕って欲しいのです。

 それともう一つ、自然に顔を隠せる装飾の様な物はございませんか?」

 

「フェル様? 無駄遣いはいけませんよ。まだ国すら出ていないのに」


「戦闘で頼り切りになってしまったしそのお礼だよ。

 それに無駄遣いではないよ、僕の従者なんだからさ」


「はい、分かりました」と彼女はしゅーんとしてしまう。

 きっとこう思ったのだろう『今のままでは従者として連れて歩くのも恥ずかしいレベルだと思われてしまった』と。

 まあ今はどう言っても通じなそうだし、この件は放置だな。


 そのまま彼女は奥に連れていかれ、商品を見ながら待っていると見違えた格好のアデルが歩いてきた。


 まず武官が着る女性用の正装である服を着用し、高貴な空気を匂わす黒い網目の薄いヴェールの様な物でぎりぎり口が見える所くらいまで隠し両サイドを綺麗な装飾付の髪留めで止めている。


「買った。いくらだ?」


「ちょ、フェル様? 何故即決なのですか?

 まずはお値段の交渉からする物ですよ……お高かったらどうするんですか」


「大丈夫ですよ、うちは庶民相手の商売ですから。

 まあ髪留めが少しお値段が張りますが、全部で大銀貨三枚です」


「その髪留めが似合ってるからの即決ですから構わないですよ」


「構います、構いますから!

 私にお任せ下されば銀貨三枚で揃えてみせます。

 ですからそんな大金、使ってはダメです」


 と、捲し立てるアデルをそっちのけにお代を払い店を出た。


「よし、次行くぞ次! 次は防具屋だ。

 案内しろ凛々しい我が従者アデルよ」 


「それはいいですけど、もう無駄遣いはダメですよ。

 それと凛々しくなんてないです」


 むむ、初めてアデルがご立腹な感じを出してきた。

 よし、この調子で行こう、あ、いや、これ以上は逆にダメか?

 だけどこの次の防具が本命なんだよなぁ……

 俺は下準備で出来る事は最大限やりたい。と言うか当然だよな。


 そうだ。当然なのだから次アデルが駄々をこねたら叱ってやろう。

 うんうん、俺は悪くない、世界が悪い。

 とつぶやきながらアデルの後をついて行く。そして目当ての防具屋に到着した。


「へぇ、割と立派な店だな。他の店とは大きさが段違いじゃないか」


「さっきの少年の話だと武器防具をそろえるならこの店だそうです」


 なるほど。武器も売ってるんだな。

 それにしても大きい気がするがと剣のマークが掲げられた看板のある店に入いると思わず声を上げさせられた。


「「おおっ」」


 壮観だったのだ、剣も、槍も、弓も、斧もずらーっと大きな店内に所狭しと並んでいた。珍しくアデルが目を輝かせ商品に見入り足を止めていた。


「フェル様、見て下さいこの槍、凝った装飾に見せかけた術式です。

 魔法武器ですよ。

 一体、どんな魔法の術式を組み込んであるのでしょうか……私、気になります」


 そんな祈る様に躍る声を出すほどだったとは、これは言い聞かせるのは楽かもしれないな。


「へぇ~、お嬢ちゃんそれが分かるのかい? その歳で」


「あ、いえ。何の魔法が組み込んであるのかまでは……」


 と、落ち着いた色の羽織を纏い渋い感じのおじさんが話しかけてきた。

 店員か客か見分けがつかなかったので俺は聞いてみる事にした。


「おじさんは店員さんですか?」と。


「あ? ああ、こんな小さな子供から見たらおじさんか……

 だがな坊主、お兄さんと呼びなさい。そうすれば案内してやってもいい」


「はい、お兄さん。今日は防具を見に来ました」


「へぇ、小さいのに武器じゃなくて防具か、良い心がけだな。

 よし、このかっこいいお兄さんに付いて来な」


 ちょっと調子に乗っているようだ。

 だが悪い人でもなさそうな雰囲気を持ってるな。

 このまま案内を頼んでみるとしよう。


「ん~だが流石にそんな小っちゃい防具は無いと思うぞ」


「じゃあさ、このおねーちゃんにこの店で出来る最強装備を選んで欲しいんだ。

 まだ買えないけど目標金額を決める為に」


 アデルは一瞬ビクッとしたが、まだ買えないという言葉を聞いて落ち着いたようだ。

 そしておじさんは顎に手を当てて考えている


「うーん、客じゃないのか。まあいいや、将来のお客さんだしな。

 んでお嬢ちゃんはどういう戦闘スタイルなんだ?」


「え? は、はい、槍を扱います。スピードタイプで現在のレベルは」


「ああ、レベルまではいいさ将来なんだろ? ある程度いいの見繕ってやるから」


 とそこまで聞いたところで補足を入れる。ある程度じゃ困るんだよ。


「おねーちゃんは78レベルだよ。とっても強いんだ。

 おねーちゃん、ステータスをレベルだけでも見せてあげて、早く」


 と俺はアデルに視線を送り促す。おそらく彼は見たのだろう。

 ほう、と興味深そうな声を上げ防具を選びだす。


「あの、フェル様? 本当に見るだけですよね? まだ国内なのですよ?」


 とアデルが言葉を発した瞬間、防具選びの手が止まりとても焦った様子のおじさんが問いかけてくる。


「もしかして……フェルディナンド様、ですか?」


「おい、アデル、バレちゃったじゃないか……

 せっかく呼び方変えたりしてた俺の努力どうしてくれる」


 と、そこまで言った所でこれは土下座するパターンだと思い至ったがアデルも傍目を気にしたのか普通に片膝を付き胸に手を上げながら謝罪した。


「いや、まあいいさ。それより防具だ。早く見繕って欲しい」と彼女の顔を隠した布を持ち上げながら再度声を発する。


「この通り無茶をする子なんだ。

 一刻も早くちゃんとした防具を主人として与えてあげたい。

 おそらくあなたは店主なのだろう? よろしく頼みたい」


「これは驚いた。

 国の為、自ら国外追放を願った王子というあの噂本当だったのですね。

 誠心誠意選ばせて頂きます」


 そんな話になっていたのか、だが流石に噂が流れるの早すぎだろ……

 いや、魔法がある世界だったな。そこら辺の地球の常識は通用しないか。

 まあ、ここで防具を適当に選ばれない事で良しとしておくしかないな。


「あの、見るだけって……私は要りませんよ?

 軍からの支給装備があるのですから、私にこれ以上の装備をさせても意味無いです」


「お嬢ちゃん、ここで断っちゃいけないよ。君の主なのだろう?

 主が君の事を想い、守ろうと今行動をしているんだ。

 それを拒絶すると言う事はとても手酷い裏切り行為だと、私は思うよ」


「貴様、フェル様が王子だと分かったとたんに手のひらを返すだけで飽き足らず、なけなしの支度金までむしり取ろうというのか。殺すぞ……?」


 え?

 誰、この子……ってくらいめっちゃ怖いんだけど……

 おーい、アデルさんやガチで殺気を放つのはやめなさい。


「うーん、若い子ってのはせっかちでイケないな。

 それに手のひらを返すのは当り前さ。

 自分たちの国を守る為、己を掛けて立ち上がった王子様なんだから。

 それと俺達庶民の星である閃光の子供でもあるんだ。

 そして商売としても見過ごせない。注目の的だからな」


「やはり、フェル様を利用するつもりなのだな。ならばその前に殺すだけだ」


「はーい、ストップー」


 と俺はアデルにげん骨を落とす。

 もう少し珍しいアデルを観察したいが流石にここで止めない訳には行かない。

 そして俺はアデルに質問をする。


「なあ、アデル……

 俺はこの人に買いたいから見繕ってくれって言ったんだけど、俺の言葉に従ってくれる事はいけない事なのか?

 王子だと分かって敬意を評してくれたのはダメなのか?

 買い物でお金を払うのは当たり前じゃないか?」


「で、ですがフェル様まだ自国だと言うのに、支度金を多く使ってしまわれては……」


「あのな、俺は父さんとも母さんとも喧嘩別れした訳ではないぞ?

 頼る気なんて無いけど。

 それと俺とお前で狩りを続けたとして生活が出来ないと思うか?

 お前が苦しい思いをして強くなった事は言わなくても分かるが。

 だからこそそのお前が居てくれるから俺は安心して必要な事にお金を使えるんだ」


「フェル様は、私を買いかぶりすぎです。

 強者として生活が困らない位稼げる様になるのは100レベル上からです。

 私のレベルでは毎日ギリギリ宿を取れるくらいしか稼げません。

 60レベルから70レベルの討伐依頼なんて取り合いが激しく中々受ける事は出来ないのですから……」 


 あ~なるほど。

 確かに普通に生きて来た人間が年齢=レベルなら腕に自信がある奴は80くらいはあって当然か。

 そんな程度はごろごろいる訳ね……

 だがそれでも生活が出来ないほどだとは思えない。出来ないとしたら考えが足りないだけだろうと俺は思う。

 魔物を倒すだけがすべてじゃ無いだろうし、と俺は自信を持ってもう一度言う。


「お前が出来ないのと言うのなら、俺がやる。

 俺が出来なかったら恥を忍んで父さんに頼る。

 そんな恥より俺はな、お前の命のが大事になったんだよ」


 その言葉を発したとたんアデルはピタッと動かなくなった。

 そして硬直した彼女の復活も待たずに店主が口を開く。


「かぁー出来た王子様だな、ますますファンになっちまうぜ。

 俺もここは男を示すしかないな。ちょっと待ってな嬢ちゃん」


 と、明らかに高級そうな装飾付の武器防具の一式セットが目の前に置かれる。


「もってけドロボー、って王子様に泥棒は不味いか……

 あなたの言葉に心を打たれました。献上致しますお納めください」


「いいのかよ、最高装備なんだよね? お高いよね?

 それに若干カッコ悪い気がするんだけど……」


「いいえ、そんな事はありませんぜ、器量の程で計らず相手を屈服させる。

 最高じゃないですか。それにあなたにはこの国を、私たちを守って頂くのです。

 これくらいはしても不思議はないでしょう?

 あとは帰って来た時に少し大々的に宣伝などをして頂ければ」


 ああ、そういう事か。この人はこの国の先行きが厳しい事を知っているのだろう。

 国が滅亡すれば商売も何もない訳だ。

 ならば噂になっている俺に大金を賭け、勝てば宣伝費として回収するか。店が大きいだけはあるな……


「うーん、また肩の荷が増えたな……

 まあどっちにしても成さねばならない事だしね。

 ありがたく頂戴する。んーそうだな……そう言えばこれいくらなの?」


「ええと、総額金貨230枚でございます」


「ぐぬ、では戦場に立つことになった暁にはそれに見合う働きをして見せよう。

 父上への口添えもする。アデルも、覚えておいてくれ」


 思いもよらない高額さに怯んでしまった。2300万円でしょ?

 無理じゃん。買えなかったじゃん。と思いながらもなんとか言葉を返した。


「ありがたき幸せにございます」


 と話が付いた所でアデルが復活した。ちょこんと俺の襟首辺りを掴んで来た。

 高額装備を貰ってしまった事もあり、お巡りさんこいつです。

 と言われそうな気持ちに襲われドキドキしてしまった。

 ちくしょうなんて事をしてくれる。


 と訳の分からない思考を暴走させているとアデルは手を放し再度跪いた。


「フェルディナンド様、私アデルは再度誓わせて頂きます。

 私は貴方の剣となり盾となり、身も心も、魂も捧げます。

 貴方の御心がどのようになられようと生涯、貴方の為に生きる事を誓います」


 え? 何それ凄い!

 どう受け取っていいの?


「えっとプロポーズって事でいいのかな?」と、返してみる。


「え? いえ、違います。ですがあなたの御心のままにどのようにでも……」


 ですよねーって、え? どうしようそれでもいいと言われてしまった。

 女は外見じゃねーとか言いながらも外見に翻弄され続けた俺だが……

 やばいめっちゃ嬉しい。よし娶ろう。今なら正妻にしてやってもいい。

 してやってもいいとか……はい、俺、何様?

 ダメだ、思考すらふらふらしてる。落ち着け。


「はっはっは、狂犬と謳われたお嬢ちゃんも形無しだな」


 えっ? 何それ気になる。よし今日はアデルと語りあかそう。


「ど、どうしてその事を……」


 そうして俺はアデルに高級装備を与える事に成功した。

 俺が稼いでやると言う言葉を信じて貰えなかったが成功した。

 俺は買えなかったが成功した。

 成功した……


 少し気落ちしながらも目的は果たしたと言う事で食事にしようと思い、飲食店に入り二人で食事してから宿に戻った。


 もう金銭についてとやかく言うつもりは無い様だ。

 そこら辺どう思っているのかを聞いてみたいが藪を突く行為は止めておこうと思いこの気持ちは封印した。


 アデルと言葉を交わしたくてしょうがない衝動に駆られ提案する。


「今夜、俺と語り明かさないか?

 アデルの事もっと知りたいし、アデルに俺の事もっと知って欲しいんだ」


「はい、喜んで」


 即答で返って来た返事にさらに嬉しくなりアデルの尻尾に飛びつき、頬擦りするとアデルが「ひゃん」と可愛い悲鳴を上げた。

 

 そして俺はアデルを弄りながらぽつぽつと自分の秘密を明かしていった。

 アデルからも色々な話を聞いた、生きるために犯罪に手を染めた事や、身を守る為に誰彼構わず威嚇して生きて来た事など、聞けば聞くほど想像してた以上にやばかった。


 強い保護欲に駆られた。

 だが保護されてるのは俺だった。


 他にも色々な話をしたが結局夜は明かせず、いつの間にか眠りに落ちてしまっていた。

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