第6話初めての魔物討伐

「おはようございます御者さん。

 遅くなりましたが自己紹介をお願いしてもいいでしょうか?

 僕はフェルディナンド・アルフ・ミルフォードと申します」


「ええ? 私ですか? ただの平民ですよ。名前はビルと言います」


「これから魔法の国に着くまでよろしくお願いしますね」


「はい。運賃は多いくらいに頂いてますので、荒事でなければいくらでもお使いくださいフェルディナンド様」

「では早速お聞きしたいのですが」


 彼は「何でしょう?」と少し不安そうに言葉を返した。


「ここから最寄りの町や村などの安全な場所まではどの位かかりますか?」

「ええと、1時間程度の所に村があったと思います。行かれますか?」


 彼は問題無くこなせる事だったからだろうか、何て事はないという顔で問い掛けてきた。どうやら本当に大丈夫な事の様だ。


「はい。

 ビルさんがそこに行って夜馬車を走らせる為に睡眠をとって来て欲しいのです。

 今から十時間ほど空けてまたここに来て欲しいのです」

「よろしいのですか?

 基本的に先払いした時は御者は仕事を終えるまでは別行動はさせないのが普通なのですが……」


 大丈夫。王子に対してそんな事をするお馬鹿を御者に当てるような事はしないはずだし。どう考えても運賃を貰って逃げるのはデメリットの方が大きい。


「いいですよ。

 国からの依頼を無下にする事は無いと思っていますし、仮に騙されたとしても村まで行ければどうにかなるでしょうから。地図も持っていますしね」


 と返すとアデルが反論をしてくる


「あの、フェル様村にも馬位あるでしょうが売ってくれるかは別問題ですので、恐らくは徒歩で移動するという事になります。

 馬車で七日という事は徒歩ではその5倍は掛かると見て下さい。

 時間を考えなければ不可能ではありませんので仰っている事は出来なくはないのですが、馬車に詰まれた荷物も無くなる訳ですし、厳しい道程になりますよ」


 ああ、そうか。荷物が無い状態で野宿とかもする羽目になるのか。

 ちと軽く考えすぎていた。でも時間効率を考えるとなぁどうしよ。  


「では、こうしましょうか」とビルが話を振ってきた。

 

「自分が貰った先払いの報酬を一度お返します。

 それで報酬は仕事を終えた時にもう一度下さい。と言う事でどうでしょう」

「名案です!

 では僕も安心を貰ったお返しに報酬時に色を付けると約束しましょう。

 まあそこまで多くは出せませんが」 

「またご贔屓にしてもらえるかと打算もありましたが、まさかまだ報酬を上げて頂けるとは。ありがとうございます」


 と、話がついて必要な物を馬車からおろしてビルには移動してもらった。

 このまま街道沿いにある森に入っていくのだろうと思い、その森を指差してアデルに尋ねる。


「あそこのちょっと遠目に見える森を目指せばいいのかな?」 


「はい、あの森には三種類の魔物が生息しているはずです。

 下が20レベルで上が60レベルですが平均は30程度です。

 40上の魔物はごくごく少数で早々出会えないでしょう。

 フェル様はまだ16レベルですので20付近が出てくるまでは私が討伐します。

 それまでは私の背後に立ち警戒をお願いします」


「ふと気になったのだけど……

 通常の武装で考えて、同レベルの人と魔物だとどっちが強いの?」


「当然、魔物ですよ。一対一なら最低プラス10レベルで考えろと言われています。

 性能の差はあまり無いそうですが、死を恐れず全力を出し続けるという所が魔物の強みなので同じ性能だと大抵は押し負けることになります」


 なるほど。聞いておいて良かったーええと1レベルの時30レベルと

 同格と言う事は16レベルで46レベルと考えて良いだろう

 安全マージンで40レベルと考えてレベル30まではイケそうだな

 いや。最低と言っていたしそれも含めて20レベルなのかな?

 

「分かりました。ですが魔物のレベルはどうやって判別するのですか」

「ええと、魔物のステータスは常に共有状態になっています。

 と言ってもレベルと種族、年齢しかオープンになってませんが」


 なるほど。ステータスの確認は出来ないけどレベルから大凡の予測は立つのか。


「じゃあ見たいと思うだけで表示されるのですね、便利だなぁ。

 それはそうと魔物の討伐に入る前に軽く剣舞でもしませんか?

 はやる心を沈めたいので全力が出せるように少し追い込んで欲しいのです」

「それは危険ですね、軽くと言わず汗を流すくらいやりましょう。

 では剣を一つお借りします」


 と予備の方の剣を所望するアデルさん。考えてみたら木刀が無い。

 まさか真剣でやるのかな? と思っていると見透かしたのか『鞘の方だけでも構いませんよ』と付け足してきた。

 ですよね~。と思いながらも鞘だけを渡し剣舞を始めた。


「え? あれ? 最初から全力ですか?」


 と軽く避けながらもびっくりした様子で疑問を投げかけてきた。


「え? いや、いつもはここから上げていくのでつい……飛ばし過ぎだったかな?」

「いえ、同年代のそれなりに鍛えている子よりも早かったので、まだ上げていけるなら構いません」


 アデルの同意を得られ、安心して主導権を握ったままスピードを上げていく。

 彼女の動きに余裕が無くなって来たのを感じて避けにくい場所を狙っていくと、彼女の目つきが動きと共に変わり急激に速度が上がり、連続する攻撃の対応は不可能と感じ距離を取ってしまった。


 剣舞では攻撃を返せない範囲に出るのは終了の合図であり、それをしたものはその手合わせでは負けた事を意味する。


「ま、参りました。流石父さんが選抜した護衛ですね」

「い、いえ、私の反則負けです。

 流れを無視して主導権を取り、急激に速度を上げないと対応が出来ませんでした。

 それすらも難なく回避してしまうとは、本当に天からの御使い様なのですね」


 いや、そんなに大層な物じゃないよ。これが出来るのもスキルのおかげだし。

 ああ、でも考えようによっては合っているのか。

 だけど、あの女神は称えるべき存在では無いと感じてしまっているからか、物凄い違和感を感じる。


「なんにせよ、アデルと真剣勝負をしたら大した抵抗も出来ずに負ける、と言う事は身をもって良く分かったよ。あの本気の速度はやばい」


 おそらくあれは手加減が厳しくなり終わらせる為にやったのだろう。

 だから恐らくはまだアデルは完全に追い詰められた訳では無い。

 まだ彼女には先があると見るの妥当だろう。


「いえ、そんなことはありませんが……

 それと一つ訂正します。30レベル付近の魔物までは共闘しましょう。

 奇襲で無ければポーションを当てにする必要もないでしょうから」


 鞘を返したアデルは少し安堵した表情で森を目指して平原を歩き出す。

 剣を収め装備し直した俺も後に続いて歩き出す。


 そうして森に入り、わずかに平原が見えずらくなって来た所で、初めての魔物に出会でくわす。魔物の数は三体で魔物はこちらに気が付いていない様子で気に頭を擦り付けて居る。

 顔が細長くアリクイの様な面持ちで体はゴリラか。外見はかなり強そうだ。


 一匹の魔物の名前を確認しようと念じてみれば――――――


 種族 スモールゴリアン

 性別   男

 年齢  4歳

 レベル 36


 ――――――――――と表示され問題無くレベルの確認が出来た。


 他のも30レベルと32レベルと飛び抜けたレベルの魔物は居ない。

 アデルを覗き見ると彼女もこちらを見て頷く。これは参加オーケーって事だろう。

 だが俺は踏み出せないでいた。

 あれだけ自分から言って置いてなんだが足が竦んでしまった。

 いつの間にか無意識にいつものポジティブシンキングを口に出してしまっていた。


「俺は(あんなんでも)女神の力をこの身に宿しもの」


 と自然と一歩また一歩と足を前に出し、無意識にポジティブシンキングをしようとしていた事と、体が動く事に驚きながらも続ける。


「あの二人の子であり、閃光と称えられた母に鍛えられし者」


 と剣を抜き少しずつ加速する。


「あれは敵であり、あれにとって俺は敵である。避けられないならば進むべきだ」


 加速と共に思考も加速させた所で、一体の魔物がこちらに気が付いた。


「大丈夫だ。俺は強い。すぐに終わる」


 と自分に言い聞かせた。

 三体の魔物達は気が付き次第、次々とこちらに向って一直線に走る。

 最初に到着した魔物は掴みかかる様に襲ってきた。

 魔物の手を紙一重でかわしそのかわす動作を利用しながら敵の胴を全力で裂いた。


 血しぶきが上がり前のめりに倒れる。

 即座に距離を取り、次の魔物の相手をする為に遠い場所に居る魔物と、近くに居る魔物の直線上の位置に移動する。


 そして近づいた魔物は声を張り上げ威嚇してきた。俺には物凄く有効な手段だ。

 野生動物の威嚇って物凄く怖いんだよ。こいつは魔物なので更に怖い。


 ちらりとアデル先生を覗き見ると見惚れた様に頬を赤らめ、槍の中心辺りを両手を顎に当てている。

 どう見ても戦う気は無いらしい。

 いや、予定通りではあるが、どうしてこうなった。


 いや、どちらにしても自分でやるしかないんだ。覚悟を決めろ。

 加速させた思考とは言え時間は止まっていない。

 魔物は襲って来ていた。


 赤ん坊の頃に落下した時の感覚に似ている。あの恐ろしい衝撃がゆっくりと襲って来ていたあの時と。


 だが次の瞬間俺は気を取り直した。

 あの時と違い回避する為に出来る事は沢山あったのだ


 だがやはり怖かった俺は、相手の攻撃手段の手を切り落としてから首を落とした。


 そして最後の一体をやろうとそのまま予測位置に剣先を向けるともう終わっていた。

 アデル先生の槍が敵の胸を貫くと同時に抜き抜いた瞬間、即後ろに飛び俺の隣まで来ていた。


「あ。あの、申し訳ございません。

 共闘のはずだったのにフェル様の立ち振る舞いに見ほれてしまいまして……」


 ちょっと! 俺、討伐初めてだったんだよ?

 これはちょっと苛めてやらねばならないようだな。


「ええ? 先生の槍術の方が断然凄かったですよね?」

「せ……先生は止めて下さると……」

「いやいや、何をおっしゃいますか。

 行けと指示しておいて、槍も構えずただ応援している様子でしたから、先生ではないと仰るならなんだったのかとお伺いせねばなりませんね」


 あ、ちょっと言い過ぎたかも。

 彼女はスムーズに土下座に移行すると尻尾まで丸めてしまった。


「ご……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 何でもします何でもしますから……」

 

 ん? 今何でもす……いやそうじゃないだろ、自重しろ。


「ゴ、ゴホン。女の子がそんな事を言ってはいけません。体を大切にしなさい」

「私の体なんてどうでもいいんです。価値なんて戦う以外にありませんから。

 そんな事より償いをさせて下さい。何でも言いつけて下さい」

「よし。じゃあ耳と尻尾を自由に触らせろ!」


 はわわ、俺は何を口走っているんだ。獣人にとって大切な場所を……


 母上に『間違ってもお母さん以外の女の子に言ってはいけませんからね?』と真剣な目で言って居たくらい宜しくない場所だ。

 あの時、お母さんは女の子と言える歳ではないでしょ。と言い返したらガチギレされたのは良い思い出だ。


 おっと、現実逃避良くない。


 性的な意味を感じるかは人それぞれらしいが、普通は触らせない所だ。

 下手に出過ぎるからつい口走ってしまった……


「はい、分かりました。ですがそんな事でよろしいのですか」


 そんな事じゃない! っていいのかーい。

 どうやらそういう意味には捉えない派らしい。と言うか良く考えたら俺五歳児じゃん。全然問題ないよ。

 うん。本当に嫌がってなさそうだし、気兼ねなくモフモフさせて貰おう。

 まずはあれだな。ブラッシングからだ。


「アデル、僕楽しみにしてるからね。やっぱ止めたは無しだよ?」

「はい、償いですから痛くても耐えます。好きにしてください」


 そんな彼女の返しに少し引きながらも「いや、痛かったらちゃんと言ってね?」と返してこの話を終えた。


 アデルは俺がしたい事が理解出来ないのだろう、今も首をかしげている。

 まあおいおい理解してくれるだろう。思う存分もふってやる。


「この件は話が付いたので置いておくとして。

 自分で言うのもだけど初めての魔物討伐にしては上手くいった方じゃないかな?」


 と発言して思い出した経験値どれくらい増えているのだろうか?

 とステータスを出し経験値残量を確認すると464も増えていた。

 

 レベル差があったから正確には分からないけど一匹200以上だ。

 2匹倒すだけで修行を頑張った日の10日分は稼げた様だ。

 ホクホクな気分になり索敵を続行するように促そうと思っていると……

 

「上手く行ったなんてもんじゃないですよ。

 普通なら逃げるのが精一杯で絶対に勝てない格上相手に、フェル様はお一人で二体を相手にして圧勝したのですから。

 これなら油断さえしなければ安心して共闘出来そうです」


 とアデル先生も乗り気の様子。

 時間もまだビルさんと別れて2時間程度だし、残りの八時間の時間割りを提案してみた。


「じゃあこのまま続行させて貰うとして、時間割りを決めようか」

「戦闘と休憩の配分ですか?」

「うん。肉体労働に休憩は必要でしょ?」


 お互い若く体力は有り余っていると言っても、休憩は配分を考えてしっかりと取るべきだ。

 前もってしっかり決めようと彼女に問い掛けた。


「はい。ですが……どのくらい狩りをするのでしょうか?」

「ビルさんが帰ってくるまでだけど?」


 おや、なにやらアデルが首をかしげている。確かに初心者にしてはガッツリなスケジュールだけど……

「ダメかな?」と、ショタっこボディを上手く使い上目遣いを敢行する。


「いえ、そう言う訳では無いのですが。

 依頼も報酬も無いのにそこまで魔物を狩るという話はあまり聞かないもので……」


 まあ、命がけだものね。でも8時間位普通なんじゃないかな?

 ネトゲ感覚だと休憩無しで12時間超えてからがガチ勢なんて話も聞いた事あるが、ただのゲームとこの世界の話を同列に語るのもおかしいか……

 それにしても上目遣いはやはり効果を得られなかったか。残念。


「それはただ、普通の人はそこまでするなら勿体ないから依頼を受けるというだけの話じゃないかな?

 そもそも僕には常識に囚われている場合じゃない程の事情もあるのだし……」

「では一時間索敵と戦闘をして一時間休憩を入れる感じでどうですか?」


「え? そんなに……?」


 休憩多くね? さっきの感じだとなれちゃえばそこまで重労働でも無い様な。


「では……一戦したら適当に休憩を入れて再開するという事で……」


「いやいや、二時間戦闘したら10分休憩でいいんじゃないかな?

 それと別でハードに感じたら自己申告で休憩をとれば……」


「仕事よりハードですね……

 肉体労働で無くても二時間で30分は休ませてもらえますよ?」


 何その世界、優しい。ちょっと俺、異世界行ってくる。ってもう居た!

 ……これは一人だと寂しいものがあるな。コメントで打つものだ。

 

「ダメかな?」

「いいえ、私は好きですよ。黙々と作業をするの」

「一緒僕とだね。じゃあ行こうか」


 と、索敵を再開した。そこからの戦闘はさらに効率が良かった。

 アデルが共闘と言いながらも完全に寄生プレイをさせてくれたおかげだ。

 流石78レベル多い時で4匹の敵を引き付け、俺が倒すと同時に一匹ずつ解放してくれたのだ。


 索敵も残り一体になった瞬間居なくなり敵を引っ張って来てくれる。

 経験値の増加量がやばすぎる。だがこれには大きな問題が一つある。

 俺はほぼ動く必要が無く寄生プレイ感が強すぎる、と言うか申し訳なさで一杯なのだ。


「ええと、アデルさんちょっといいでしょうか?」

「あ、休憩ですね? 分かりました」


 いいえ、分っていません。違います。


「いえ、僕にももう少し役割と言うか仕事下さいと言うか……」

「ええ? 何故ですか?」


 何故君が驚く! 驚いた事に驚くわビックリだわっ!


「いや……考えてみてよ。

 アデルに仕事をさせて僕はほぼ何もせずに儲けている状況なんだ。

 経験値を、だけど」

「あー、んんぅ……でもですね。

 引き付ける敵のレベルの調整とかもありますし。

 強い敵だけを撒いたり、倒したりしないと危ないですし」


 うはっ。あの短時間でそこまでしてくれてたのかいっアデルさんマジ天使。

 ふむ、ここは甘えるか。ここで出しゃばれば余計に負担掛ける事になりそうだ……


「そうですか、ではもう少し強くなるまでは甘えさせて頂きますね」

「甘えるだなんて……当然の事です。使って頂ける事が私は嬉しいのです」


 その崇拝はどこからですか……王子だから? それとも天の使い?

 確かめて訂正せねば、このままでは俺はすぐ堕落する事だろう。

 そして堕落した俺はきっと明日になる頃にはもう彼女の尻尾にダイブしてモフモフし捲くってるに決まってる。

 そうか。リーアはこんな状況に身を委ね続けて、ああなったのか。


「アデル……いつかは君を、必ず僕に甘えさせてみせるからな!」と宣言し狩りを再開した。


 その後のアデルは困惑した様子で少し動きが鈍い気がしたが、俺は戦闘だけに集中して時間が過ぎていく。


 そして日は完全に落ち切り、狩り終了の時間になった。


「アデルのおかげで初めての魔物討伐がとても順調だったよ。ありがとう」


 本当にいい経験になった。これなら12時間でもやれそうだ。

 まあそれを本格的に計画するのは一人で索敵と戦闘をこなせないとだけど

 

「いえ、すべてはフェル様のお力です。

 ですが本当にあれから休憩が10分程でしたが、お疲れになっていませんか?」


 俺はほとんど動いていない。一匹ずつ楽に倒せる魔物を相手にしただけである。


「ああ、ごめん。僕はあまり動いてないから大丈夫だけどアデルは疲れたよね。

 これからは気を付けないとね」


「そんな、私も全然大丈夫ですよ。レベル的にもかなりな格下ばかりでしたから。

 格上相手になると疲労はケタ違いにあがりますが……」


 格上か。

 20レベル上であれだったから俺にとっては大体40レベル上くらいだろうか?


「アデルは何レベル上まで相手した事あるの?」

「今日のフェル様と同じですね、20レベル上の相手までです。

 その時に右目を失いました。やっぱりフェル様は凄いです」

「そっか、やっぱり避けられない戦いだったの?」


 割と重い話しだが、彼女が気にした様子もないのでと話を続けた。


「いいえ、調子に乗っていただけですよ。

 ただ贅沢をしたくてお金を稼ぐ為に自ら向かって行きました。自業自得です」

「贅沢ってどんな事がしたかったの?」


 出来る事なら今は小金持ちだし叶えてあげたいな。


「ええと、野営では無く宿を取ってですねぇ。

 そこから外食でお腹一杯好きな物を食べて装備とは別の服を買いたいと……

 分不相応でした。

 ギルドの人に怒られてしまいましたよ。

 他の皆はこつこつとレベルを上げているんだ。それまで我慢しているんだ。

 お前は死んで当たり前な行動をしたんだ。泣いていないで神にでも感謝しろって」


「それが……贅沢なのか。

 俺は……親から金貨50ももらって馬車で移動して高級装備で身を包み……

 そんな思いをしたアデルにこんな狩り方させたのか」


 俺は言葉にしてから後悔した。

 ただでさえ身分の差を気にしてしまうアデルをさらに困らせてどうするんだと。

 だが……


「私、今楽しいんですよ?

 今日はすごく……ううん、フェル様に会ってからずっとですね。

 私、この傷だらけの顔のせいで友達どころか笑顔で話をした事すら最近はほとんど無いんです。

 話す相手の顔はいつも居た堪れないと言う表情ですから」


 そうか。俺も最初はいたたまれない気持ちになったけど話してるうちにすぐ消えた。

 だけど普段なら違ったかも知れない。会話が続かず席を外すだろうし、時間が経ってから会えば、同じ事を繰り返すだろう。

 彼女はそんな事が日常にあったから、今日が楽しいと思えたのだろう。

 ならば、と俺は気持ちを隠す事を止め、本心を言う事にした

 

「俺も最初は思ったけど、今は気にならないな。

 それより早くアデルの毛並みを堪能したい」

「ふふっなんですかそれ。

 そんな事よりもっと私に色々命令してください。フェル様のお役に立ちたいです」

「命令を要求するとか、どんだけ俺の事が好きなの?

 俺も好きになっちゃうぞ?」


 うわ、何言ってんだよ俺、気持ちを隠さないってこうじゃないだろ……

 冗談の妄想的思考もダダ漏れとかちょっとやばいから。

 

「え? あ、いえ……」


 あー、俯いちゃったよ……

 5歳児補正で許されると思ってた時期が僕にもありました。


「アデル、僕と友達になってくれないかな?」

「そ、それはダメです。主従で友達なんて」

「護衛だけどまだ主従じゃ無いし」


「いえ、私は一般兵の軍属ですし。このままだと王族の護衛という仕事を請けられなかったので、王子様の護衛を言い付かった時にフェル様の従者と言う事にもして頂きました」


「分かった。じゃあもうそれでいいよ。肩書とか言葉とかはどうでもいいや。

 アデルの望み通り命令するよ。

 一緒に飯食って、一緒に遊んで、むかついた時はちゃんと怒って欲しい。

 遠慮も禁止だ。ダメな時にはダメだと言うから我儘もちゃんと言って」


「それは、命令なのですか?」

「うん、これは命令です。王子様の命令は~ぜったいっ!」

「怒れるかは分からないのでちょっと不安ですが……

 ですが、はい、フェル様の命令は絶対ですっ。」


 あれれ、そこ復唱するんだ……?

 まあ、今のうちに思いついたことは言っておこう。


「そうだ、ねえアデル」

「なんですか、フェル様」

「もしも部位欠損が治る秘宝や秘術が手に入ったら、アデルに使うからそのつもりでいてね。拒否は許さん」

「えっ!? そんな重要な物を私に使ったら怒られちゃいますよ」


「大丈夫。俺は王子様。アデル拒否権無し。だから誰も怒られない。

 と言うか、手に入らないから秘宝とか秘術って言われるんだし」

「あ~そうですね。分かりました。ありがとうございます」


 とアデルは気持ちを受け取りましたと言う様に答え俺は追い打ちを掛ける。


「分かったって言ったかんな。忘れんなよ」


「なんか……口調が変わりましたね。

 一人称も俺になってますし。私は僕の方が似合ってて可愛いと思います」


 ちっ、気が付いていたか。

 いい加減言葉を選ぶの疲れるんだけど……仕方がないからもう少し頑張るか。


「アデルには完全に心を開いて隠し事は無しの方向で行こうと思ったけど、止めた」


 と少し意地悪な八つ当たりをしてみた。


「ええ? なんでですか?」

「秘密ですよアデルさん。あ、ビルさんが来たようですね。

 では、参りましょうかアデルさん」


「なっ、なんでですかぁぁー!?」


 なんか良いノリになって来たので説明はしない事にした。

 そして馬車に乗り込みモフモフする事を忘れ寝てしまった。

 

 この日の討伐数85匹


 取得経験値数20145


 フェルディナンド・アルフ・ミルフォード


 種族:獣人

 性別:男

 年齢:5歳


 レベル:35   次のレベルまでのExp2881 

 取得経験値:残0


 HP:1870

 MP:1870


 力 :374

 体力:374

 敏捷:374

 知力:374

 知識:374

 魔力:374


 スキル:言語理解 ステータス上昇量向上 魔力量上限無し

     魔力感度Max 肉体資質Max 思考速度上昇


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 魔法 :無し   


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 称号:純潔を守りし者 転生者 異世界人 王子 強者

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