第5話国外追放処分


 空気が完全になごみ俺はふと思い出した。


「あれ? 母さんは?」


「ああ、ドアの前にいるぞ。

 カトリーヌ、そろそろ盗み聞きは止めて入ってきたらどうだ?

 ここからは家族で話を詰めねばなるまい」と父が言う。


 だが一向に反応が無いので焦れた父が扉を開けた。

 と、そこにはお茶を持ったまま放心状態になっていた母が立っていた。

 父は無言で近づき額めがけてチョップをし母はハッと気を取り直す。


「ダ……ダメです! 絶対にダメです! 母は許しません。

 いくら神のお言葉でも、それだけは聞けません」


 やはりこうなるか。

 母さんの溺愛具合を見てれば、当然の事ではあるけれど……


「そうだな。

 俺としても流石に聞き入れたくはない。

 だがな、フェルの将来はどうする?

 戦争が起きて負けたら王族は全て殺されるぞ?」


 そりゃそうだ。

 残しておいても反乱分子を膨らませるだけなのだから。

 生きているだけで相手側にとってマイナスなのだ。


「まだ何も起こっていないのに、どうしてそこまで考える必要があるんですか?」


 必死に行かせない理由を探す母。

 嬉しいが、ここはこっちも引けない。


「それはだな……フェルの見解が当たっているからだ。

 あいつらはもうこっちに戦争を起こす準備も整え始めているんだよ。

 さっきフェルも言っていたが、おそらく本命はこっちだろうな。

 何度か火種は潰したが、この先も回避出来るかはわからないんだ」


 ぐはっ、マジか……

 どのレベルで準備が終わっているのかもちゃんと聞いておかないとな……


「……私が守ってみせますから、命に代えても絶対に」

「レベルの話は聞いてたんだろ? それでも本気で守れると思うのか?

 逃がすなら最初から国外にいた方が安全だぞ?」


 あー、そうか。本命がこっちならそうとも言える。


「あ……じゃあ私も行きます。いいですよね?」

「いいや、俺とお前にはやらなければいけない仕事がある。

 子供の帰る場所を守る為に、兵士を育てる事だ」 

「ではせめて信頼出来る者に護衛を……」 


 入れない二人の会話に、視線だけを交互に向ける。


「ああ、それは当然必要だろう。人数は割けないが優秀な者を付けよう。

 だからお前も考え方を変えてくれ。

 安全の為に護衛を付けて国外に避難させるんだ。

 俺たちが外敵を排除したらまた共に暮らせばいい」

「そう……ですね……まずは私たちの幸せを妨害する害虫の駆除ですか。

 全力であたりましょう。一刻も早く終わらせなければ……」


 父さんすげぇ、説得しちゃったよ。どうやってもこじれると思ってたのに。


「父さんさっき映像を出して会話をした魔道具って国外からでも届きますか?」


 あれで状況を聞ければ色々捗るだろうと尋ねてみる。

 だが、父の表情は芳しくなかった。


「魔具か届くには届くが予備品が無いな。魔法の国ですら結構な貴重品とされるくらいだからな」

「そうですか。では魔法の国で手に入れられたら送りますね。

 近況報告や雑談もたまにはしたいですしね」

「それはいいわ。素敵ね。それ買いましょう」

「あれは二つで1セットなんだがな、セットで金貨1500枚くらいするぞ」

「世知辛いのね……金貨なんて100枚ですら持ったこと無いわ……」


 この世界の通貨は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、黒貨である。

 現世と価格比較では十円、百円、千円、一万円、十万円、百万円程である。

 黒貨はオリハルコンで作られた貨幣の様だ。

 一般で使われることはまずないらしい。


「素材も技師も最上級じゃないと出来ないんだとさ」


 なるほど。

 技師はまだしも素材の方は高レベルな物はどれだけでも値が上がりそうだもんね。


「そうですか。残念ですが我慢しましょう。

 そんな高価な物を持ち歩くのは心臓に悪いですし。

 自分で買うのはもっと無理そうです」 

「連絡は面倒だがテレポートを抱えてる店で手紙をやり取りするしか無いな。

 この国でも魔法の国から雇い入れているしそれなら翌日には届くしな。

 まあそれでも大銀貨一枚かかるから頻繁には厳しいんだが」 


 なるほど。テレポートか。

 そのうち取る予定だし、簡単に帰って来れるな。

「ちなみに支度金てどれだけ頂けるんですか?」

「とりあえず金貨で50枚位でどうだ?

 俺が子供の頃貰ったのは30枚だったが少し足りなかったしな」


 500万円ですか……

 この世界なら切り詰めて生活するだけなら数年は生きていけそうだな。 

 ありがたいがいいのだろうかと思ってしまう。


「だめよ。体に合わせた高等装備で身を包むにはあと50枚は必要よ」

「ははっ、馬鹿だなカトリーヌは。

 会えない間に俺がただ待っていたとでも思っているのか?

 10歳を見越したからまだ大きいだろうが、もう良い素材で作った装備は出来ているんだよ」


「ふふっ流石は私の旦那様だわっ。

 でも馬鹿って言うのは止めなさい。

 フェルちゃんがもし真似をし出したら私本気で怒るわよ……」

「あ……ああ、悪かった。気を付ける」


 凄い威圧感だ……これを真似するのは止めておこう。


「では準備は万端て事ですね。出発は明日辺りでも大丈夫ですか?」

「「え?」」


 と両親は声をはもらせて困った顔をしている。


「いや……あ、そうか護衛を付けて頂くのでしたね。

 護衛の方も、いきなり他国へ何年もって訳には行きませんよね」

「ねぇ、フェルちゃんも同じなのよ? お母さんと一緒に居たく無いの?」


 と母は悲しそうにこちらを伺い訪ねる。

 そんな訳無いでしょうが……


「お母さん、僕は必要があるから行かなくはならないんです。

 早く帰れるように頑張ってきますから、そんな言い方はしないで下さい」

「分かったわよ……でも絶対に生きて帰って来て頂戴ね」

「ええ、約束します。それで僕はいつ頃出発すればいいのでしょうか」


 少しへそを曲げた母から父へと視線を向けた。


「そうだな、早くても三日は待て。

 これから寂しい思いをさせてしまうのだから、その間にカトリーヌに心の準備をさせてやれ。

 護衛の選抜はその間に済ませておく。

 あーあ、それにしても今日は厄日か?

 息子と会えるようになったってのに即別れになるなんてよ……」


「そうですね。

 あの女神悪意はあまりなさそうですが、自覚がなく騙す殺す貶めるとひどい事をしてきますからね」

「殺す……か。そう言えばさっきも言っていたな。転生がどうとか……

 人族のレベルの事がデカ過ぎて触れられなかったが」


 どうしようか……もう異世界人だと言っても問題なさそうだけど。

 自分の子供じゃないとか、出ていけとか言われたらマジで泣ける。

 けど言わないのも不誠実だよな。騙すような真似はしたくない。


「ええと、少し言うのが怖いのですが……僕は異世界からの転生者です。

 他の星の住人で女神に前世の記憶を持ったまま転生をさせられました。

 殺すというのはおそらく生きたまま魂を抜いたであろうという事です」


「なるほどな……よく分からんが納得は出来た。

 お前が怖いと思う理由もな。

 一つだけ聞かせろフェルは俺達が心から親だと思えているか」

「はい、今の僕にとって一番です。絶対に守れるようになって来ます」

「ならいいさ。だがな、守るのは親の役目だぞ」

「ふふん、私はそんな心配はしていません。フェルちゃんは私の子。

 初めて喋った時にはもう私の事が大好きだったのですよ?」


 とあまり関係のない事を持ち出し自慢げに語る母。

 その姿にとても安堵していた。もう俺にとっても本物の親なのだ。

 それだけではない。人間性を見てもとても好感を持てる人物だ。

 ただただ拒絶されなくて良かったと安堵した。


 それから三日間俺は母の着せ替え人形となり、空いた時間はケアリーさんに外の世界の常識を叩きこまれた。

 そして国を出て行く日となり、荷物を抱え王宮の出入り口、城門前に来ていた。


 そこには父、祖父、アードレイ総大将、他にもお偉方ぽい人が何人か集まっていた。

 一人えらく幼いのがいるな。人の事は言えないが……

 姉様だろうか? その少女に視線を向けて思考していると父が口を開く。


「今日をもって我が子フェルディナンドは国外追放処分とする。

 その理由は話をした通り女神の神託ひいては本人の意思である。

 フェルは俺に国を守る為に命を掛けると宣言してくれた。

 まだ5歳と言う若さでこの在り様、王としても父としてもとても鼻が高い事だ。

 皆心配だと思うがフェルの才能は女神が太鼓判を押している。

 支度金、護衛、装備と出来る事はした。快く送り出してほしい」 


 なるほど。女神と諍いになった事は伏せてくれた訳だ。さすが父さん。

 と思っていると続々と俺の方に列を作り重鎮達が声を掛けてくる。


「フェルよ、まだこれで二度目じゃが爺の事忘れてくれるなよ。

 しかし何という事じゃ守るべき5歳の子供を外へ放り出すなど」


「お爺ちゃん、放り出されるんじゃないよ。僕の意志で行くんだ。

 僕を守ってくれるこの国や人を僕も守ってあげたいから」


 祖父が最初の様だ次はアードレイ総大将が目の前に来た。


「随分と晴れやかな顔をしているが、この事態は二人の作戦なのかな?

 だとすると私も少しは心が晴れるのだが……」


「ええと、そういう作戦を二人で立てようとした事はありますが今回の件はおそらく関係無いでしょう……

 ですが総大将様が気を病む必要はありません。何より今はお国の大事の為に」


 アードレイ総大将は少し微笑むように目を細め、強く頷いた。

 次は誰だろうかと待っていると全然知らない人なのはいい。当然だ。

 だけどどうしよう……何故かガチで泣いている。


「フェルディナンド様不甲斐ない我らをお許しください。

 参謀である私がもっと早く情報を掴み兵力の強化をしていればこのような事には」


「いえ、今回の件は異常な事なのです。それに父から聞いていませんか?

 少し不謹慎ですが、まだ何も起きてないので言わせてもらいますと、魔物を討伐したり魔法を使ったりする事は僕の夢なのです。

 そして王子として生まれたのですから国を守ろうとするのは当然の義務でしょう?

 お互いに義務を全うし快き明日を迎えましょう」


 少し恰好を付けた物言いをしてみると余計に泣いてしまった。

 それにお構いなしと次々とお別れの言葉を掛けてくる人に言葉を返した。


 そしてある程度一回りしたと思われた時、目つきが鋭く顔に傷跡が何本も残り片目が無いケモミミ少女が俺の前で跪いて言葉を発する。


「この度、第七王子であるフェルディナンド・アルフ・ミルフォード様の護衛任務を仰せ付かりました、この身の名はアデルと申します。

 不甲斐ないこの身でありますが、平民の出自故にお力になれる事と思います。

 何卒、御そばに置いて頂く事をお許し下さい」


「不甲斐ないのは僕の方ですから、よろしくお願いしますね」


 と跪く彼女に立ったままする礼をして返した、そして父が口を開く。


「アデルはまだ15歳という若さでレベル78まで上がっている。

 それと7歳から魔物討伐で身を立ててきたつわものだ。

 ちと若すぎるが逆に今回の護衛に最適だと思ってな。

 彼女から若くても舐められない術を学べ。間違いなく役に立つはずだ」


「では僕の先生になる人ですね。勉強させて頂きます」


「そ……そんな、恐れ多いです」


 と。外見とは裏腹に耳を手でぽふぽふしながら顔を朱くし恐縮している。

 そして最後に母とケアリーさんか目の前に立った。


「フェル様お体には気を使ってくださいね。

 それと何を差し置いてもご自身の身を最優先で考えてください」


 ケアリーさんからか。この人は前世の母さんに雰囲気が似てるんだよな

 流石に子供に敬語は無いが言葉のチョイスとかも近い気がする

 

「ふふ、僕言ってみたい言葉があったんですよ、ケアリーさんに……

 しばしの別れですし、思い切って言ってみようかと思います」


「ええ? なんでしょう……? 怖いですわ。何か粗相でも?」


「ええと、言われた事忘れません。気を付けて行ってまいります。

 ケアリーお母さん」


 感極まったのだろうか口に手を当てて固まっている。

 そしてそのやり取りをみて平静で居られなかったらしい人が間に入って来た。

 順番は守ろうよ母さん……


「ちょっフェルちゃん? お母さんは私!」

「お二人に育てて頂いたので、ケアリーさんも育ての母ではないですか」


 あとで嫌味とか言われないといいけど……まあ、二人は仲良しだし大丈夫だろうけど。


「ああ、そういう事ね。乗り換えたとかそういう事じゃ無いのね」

「ぶっ、母親を乗り換えるって何ですか。母さんは心配性ですねぇ」

「ふふっ奥様が祝砲を上げたくなった気持ちが良く分かりましたわ」


 ああ、良かった問題なさそうだ。しかし乗り換えるって発想は無かった。


「ずるいわ。本当の母親である私にもちゃんと声を掛けるべきでしょう?」

「はあ、母さんはそんな事だから赤ん坊を落っことすんですよ。

 もうちょっとしっかりして下さい」

「え? ……覚えているの?」

「ええ、鮮明に……」


 そう、俺はあの時の恐怖は忘れない。

 ゆっくりと死が迫る様な感覚、忘れられるわけが無いのだ。


「危機に陥った時に思考を止めてしまうのはお母さんの悪い癖です。

 ちゃんと直してくださいね。

 それと、もう少し子離れも必要ですが……そこは僕も嬉しいのでもう少し大人になってからでもいいですかね」

「……子離れなんて……しないわよ」


 口を尖らせてツンとする母上。

 まだまだ若いのでとても可愛らしいが恥ずかしいので止めて欲しい。


「はいはい、ではお母さん行ってまいります」

「ううぅ、早く帰ってくるのよ」


 僕は頷きアデルさんに目配せをし馬車に乗る様に促した。

 そして振り返り父さんに跪いて声を掛ける。


「父さん、行ってまいります。支度金位の効果は期待して下さい」

「おう、行ってこい。それと変な気を回すな。帰ってくりゃそれでいい」


 と言われ顔を上げ立ち上がり俺はぎょっとした。

 父さんが腕を組み立っている横で国の重鎮たちが俺に向かって跪いていた。

 壮観ではあるがちょっと怖い。

 俺は礼をして馬車に逃げ込んだ。


 そして王宮の門を潜り外へ出た。

 馬車の御者に聞いてみるとここから国を出るだけでも七日は見た方がいいだろうという話だった。

 早く経験値を貯めて魔法を使いたい俺はその間にレベリングできる場所は無いかとアデルさんに聞いてみる事にする。


「アデルさん行く途中にもレベル上げをしたいのですが、丁度良さそうな場所はありませんか?」

「いけません。王子様、何事にも順序と言う物があるんです。

 だからまずは装備や消耗品の確認をして、共に戦う者との戦術的情報のすり合わせを行い、ギルドにある依頼書などを確認、討伐対象の魔物の情報を入手、移動方法の選択、そこまでしてからやっと狩りに行く事が出来るのです」


「分かりました、アデル先生。ではそこから始めましょう」


 と、積まれた荷物の中から父さんが用意してくれた装備を装着して問題が無い事を確認してから再び語り掛ける。


「ではアデル先生、戦術的情報のすり合わせ方を教えてください」

「まず、先生は止めてください。恐れ多くて落ち着きません。

 どうか呼び捨てにして呼んで頂けないでしょうか」


 彼女は若干涙目になりながら土下座をし始めた……


「す……すみません。ではアデル続きを頼みます」


「ありがとうございます。

 我々平民同士の場合はステータス開示が一番手っ取り早いのですが、強要はできませんし、もしされた場合は強く拒否して下さい。

 ですが共闘するのですから言葉だけでは信用を得られません。

 訓練場で能力を示すか、弱い魔物で能力を示す位でしょうか」

「では、アデルさんとは簡単そうですね。

 元々が同じ国の信頼できる仲間ですし、ステータス開示をして戦闘方法は言葉で話し合い、少し稽古をつけて貰えば解消出来そうですね」

「は、はい、王族の方というのは凄いですね。

 5歳という若さで理解力に優れこの様に会話を出来るものなのですね……」


 なんかこの子が可愛く見えて来たな。そんな訳が無いだろう。

 だが好都合だ。戦闘まで下手に気づかいをされてはやりにくい。


「僕は女神に作られた存在でもありますからね。

 王族だからと言う訳では無いですよ。知識は無いけど知力はある感じですね」


「め……女神様が御創りになられた……は、はぁぁぁ」


 再び土下座が開始された。俺の性格上こんな事をされたらドン引きなのだが、彼女の反応があまりに予想道理だからだろうか。ちょっと楽しい……

 だがこのままと言う訳にも行かないな。

 どうしようか……

 すぐに変えさせるのは難しいだろうし、おいおい考えて行くしかないか。

 

「取り合えず顔を上げてよ。

 アデルが恐縮して困るのと同じ様に僕もそうされると同じように困るんだ。

 今から国に戻るまでは出来るだけ同じ平民だと思い接してほしい」

「そ……そんな……それは流石に出来ません」


 だよねー。国の重鎮達が跪いていた相手だものねー。逆の立場なら俺も無理だわ。


「そっかーじゃあ貴族の身を隠してるみたいなスタンスで行こうか?

 それなら護衛が居てもおかしくないし多少仰々しく接しられて違和感無いし」

「あ、はいそういう事でしたら……聞き届けて頂きありがとうございます」

「じゃあ続きね」


 と俺はステータスを開き彼女と共有をした。


「え? あ、では私も出しますね」と彼女も同時に共有してくれた。



 アデル

 種族:獣人

 性別:女

 年齢:15歳


 レベル:78   次のレベルまでのExp25310  



 HP:2205

 MP:365


 力 :489

 体力:441

 敏捷:570

 知力:122

 知識:90

 魔力:73


 フェルディナンド・アルフ・ミルフォード


 種族:獣人

 性別:男

 年齢:5歳


 レベル:16   次のレベルまでのExp1191  


 HP:1250

 MP:1250


 力 :250

 体力:250

 敏捷:250

 知力:250

 知識:250

 魔力:250


「え? ええっ? 信じられません……

 この数値そのまま信じてしまってもよろしいのでしょうか?

 この数値でこの装備なら護衛の必要は……」


「母と訓練をした限りでは問題ないと思うけど、1レベルの時で30レベル並みだと言われたしね。

 アデルの役目は僕が騙されたりしない様に引率してくれる事だね。

 王宮から出るのも初めてなんだよ僕」


 うん。その方向で頼む。多少の危険を受け入れないと強くなれなそうだしな。

 ガンガン戦えますアピールしていくとしよう。


「閃光のカトリーヌ様ですね。私の憧れでもあります。

 私この任務を言い渡された時、心が震えました。

 私事でしたね、役目把握いたしました。

 衣食住のお世話以外にも、いざと言う時にはこの命、盾としてお使いください」

「頭が固く無くて助かるよ。だが断る」


 俺がうんうんと頷きながらも最後に断ると言ったものだから「えっ!?」と返す言葉も忘れ絶句してしまったようだ。


「アデルは自分をお世話してくれる人の命を自分を守る為に使えますか?」

「あ、でも……私の使命は護衛です。護衛対象の身を守るのは当然かと」

「うん、やばい時は守ってね。でも死んじゃだめだよ、死ぬくらいなら

 二人で傷ついてでも逃げよう。その術を準備しておこうよ」

「は……はいっ! この命に……いえ……がんばり……ます」


 ありゃ、そろそろ許容限界なのかな? 若干涙目だ。

 大丈夫だよ? 実家の方にはちゃんと秘密にするからね?


「それで次は何だっけか。足は馬車でしょ……

 名目上は国外追放だし、お金を稼ぐのは国を出てからじゃないと微妙な気がするからなぁ。

 アデル、通過する街道付近の魔物の情報をください。分かりますか?」

「問題ありません。国内の魔物の情報なら昔、洗いざらい調べました。

 すべてを覚えていませんが、街道沿いという事なら大丈夫です」


 おお、流石は7歳で魔物と戦い始めた猛者だな。

 

「王子様の武器は剣ですね、私は槍を扱いますがそれでは少し不便ですね。

 私も剣に変えた方がよろしいでしょうか?

 レベル50以下なら剣を扱っても問題無く対応できると思いますが……」

「それは魔物との距離の事を言っているんだよね?」

「はい、引き付けるのは私の役目かと」


 ここは多少強めに言って置かないといけないな。

 俺の目的はレベルを上げる事が本分ではない事を。


「アデルよく聞いて欲しい。

 僕はレベルを上げられれば良い訳じゃないんだ。

 僕の目的は家族を、国を、守る為にある。

 守られて経験値だけを稼いだ者が強敵相手にそれを成せると思うかい?」


「お気持ちは分かります。確かにそうでしょう。

 ですが死んでしまってはすべてが終わりです。

 やはり段階を踏み、最初だけでも引き付けは私がやるべきかと」


「ダメだよ。外に出てレベルを上げるのは本当は僕が一人でやるつもりだったんだ。

 危なくなった時助けに入ってもらえる可能性があるだけで十分だよ。

 まあ最初は一撃貰っても死なない魔物を選んでくれればいいよ。

 というかお願いします。僕も死にたくは無いです」


 と。カッコ悪い事を付け加えてしまった。反応が気になる。

 でも仕方ないと思うんだ。

 憧れでこの世界に来てそれっぽく振舞ってはいるが痛いのは嫌だし怖いものは怖いんだ。

 

 痛みには多少慣れがあるが流石に切られたりしたことは無いし。

 正直避けられない道だから考えず、自分の言葉で自分を追い詰めて逃げ道を無くしているだけなんだから。


「……確かにこのステータスなら……あそこでも大丈夫かな……」


 とアデルは頭の中で狩場の検索をかけている様だ。

 なので俺は荷物の中の装備と共に入っていたアイテムを取り出しならべていった。

 その中で一つだけ見たことがある物がある。

 回復用のポーションだ。一度だけ使ったことがある。俺は忘れない。


「回復のポーションが20個か、これって腐ったりとかしないのかな?

 他の物は何だろうか……状態異常の治療用か?」


 御者に地図を見せ何かを指示して戻ってきたアデルが説明をしてくれる。


「ええ、腐ったりはしませんよ。

 それと毒、麻痺、魔毒などの治療ポーションですね。

 うわっ、万能薬まで入ってますね」


 彼女はポーションの山を見て目を丸くしている。中でも万能薬を見た時の反応が顕著だった。

 その過度な反応を見て気になり「その反応を見るにお高いんですね?」と尋ねてみた。


「はい、場所によって変動はありますが金貨一枚くらいするかと」


 10万かそれは結構な値段で……まあ命と比べたら安い物だが。


「この回復薬はどのくらいの効果があるの?」

「これは高級品なので瞬時にHP3000回復します。

 私も一度だけ使ったことがあります。どのポーションも連続使用に制限があって再使用は効果の弱い物でも30分は必要です。

 これくらい高級な物だと3時間程度は使えないと思ってください」


 マジかよ。回復魔法の説明欄にはそんな事書いてなかったし、ポーションだけなのかな?


「回復魔法の場合は制限は無いんだよね?」

「はい。ですがMP消費が大きい上に使える人も少ないと聞きます。

 ちなみに獣人で使える者はいません。空想のお話には出てきますが」


 なにそれ、てことは獣人だけが戦闘中に一度ポーション使ったらもう回復できないって事じゃん。


「それって物凄い不利なんじゃ……」

「はい。流石に他国の戦争に加担してくれる者は少なく、うちには回復魔法が使える術師はほとんどいません」

「これはますます気合を入れて頑張らないといけないな」


 回復覚えて皆を回復させる役どころならどこからも不満はでなそうだし、取得優先度は高いと考えておいて良さそうだ。


「回復における注意事項がもう一つあります。私を見ればもうお分かり

 でしょうが傷跡は残りますし、欠損部位は修復されません。

 一応秘宝級の回復薬や伝説級の最高級回復魔法で治るそうなのですが、私は見たことも治療を受けた者も知りません。気を付けてください」


 と彼女は髪をかき上げて片目が無い事が良く見える様にし、服を少したくし上げお腹周りの傷跡を見せつけてきた。


 俺はいたたまれない気持ちに襲われたが彼女の真剣な眼をみて逆に失礼だと気が付き、強く頷いて話を終わらせた。


 とそれから荷物を隅々まで確認したのち俺は睡眠をとる事にした。

 やる事が無いのだ寝ておくのが吉だろう、なのでアデルにもそう告げる。

 

「取り合えず目的の魔物が居る場所に着くまで眠ろうか」


 と言いながら御者に何かあったら起こしてくれと頼み振り返ると、アデルから予想道理の言葉が返ってきた。

 

「どうぞ、お休みください。私は起きていますので」

「危険が無いのなら今のうちに睡眠を取っておいて欲しいのだけど」

「まだ町中ですから危険は無いでしょうが、よろしいのですか?

 護衛である私が王子様の御そばで寝るなど」

「うん、外は危険が一杯だそうだから今のうちに寝ておこう。

 それと王子様禁止ね、んーそうだなフェル君でいいや。そう呼んで」


「フェル君……はっ!? いけません。では、フェル様と呼ばせて頂きます」


 彼女は顔を振り訂正をした後椅子に腰を掛けたまま目を閉じたが俺はそれを許さなかった。

 荷物を取り出し準備した簡易的な椅子の寝床に無理やり寝かせ、自分も同じように向かいの椅子で眠りについた。


 そして目覚めると日が完全に上っていておそらく4時間から5時間と言った所だろうか。

 目的の狩場に着いていた。

 さあここから俺の冒険の第一歩がスタートだ。

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