第4話女神俗世に落ち汚れる

 父との雑談で色々な情報を得た。

 母さんが庶民の出であり正妻から疎まれている事や、リーアはまだ父さんと話をしていない事。

 そして人族と不穏な空気が流れているのは魔法の国、魔族の方らしいのだ。

 まだ開戦もして居らず、政治的なやり取りを行っているそうだ。


 改めて考えてみると戦争が起こらないという事も有り得るのではないだろうか?


 リーアが魂の汚れは、性根が腐っているという事だと言っていた。

 そしてその状態の人族が戦力でもトップに立ってしまっている事から、戦争を起こしてしまうと考えたのだろう、と思われる。

 

 そういえば、戦争という話を女神はしていたっけか?

 確か、魂の浄化の為に行動してほしいと……んで数が多い為に個別では無く全体を相手にしなくてはならない。

 そんで俺は政治位しか無いだろうと考えた訳だ。

 そして、腐りきった国を相手にするという事を考慮すると戦争で勝つしか思いつかなかった。


 何よりリーアも肯定する様な発言をしていたしな。

 数を減らす事は我慢する的な感じで。 


 となると困ったな……

 この国に危機感を与えて国を守る為の準備を整えて欲しかったのだが。

 いや、待てよ……魔法の国と戦争をし出したら必要無くなるんじゃ?

 王子という立場を捨てて魔法の国に加担するってのもありじゃないか?

 そして統治もやってもらえば任務も楽々完了するし。

 

 いやいや、普通に考えてみよう。

 このまま人族と魔族が戦争になると仮定してみよう。

 人族めっちゃ強いらしいし、魔族は討伐めでたしめでたしってなってしまうんじゃないだろうか?

 それに仮に勝てたとしても統治権を奪えるほど攻め込んだりはしない可能性もあるんじゃないか?

 

 何故こんな考察をしているかと言うと、父と近いうちに屋敷に来て話を聞いて貰う約束をしたのだ。

 だが何をどういう風に伝えるかを迷っている。


 軍の強化を大々的に行ったりすると周辺国を刺激する事にもなりうる。

 だが準備も無いままに攻め込まれるのは論外だ。


 よし、こういう時は全部正直に話そう。あとは王様に託す事にしよう。

 それで冒険をしながら手助け出来る事は積極的にしていけばいいじゃない。


 と俺の考えは結局丸投げする事で落ち着いた。

  

 そして夜に父が来た。

 っていやいや早いよ! 当日かよっ!

 

「あらあら、国王様こんな王宮の辺境までようこそいらっしゃいました」


 あれ?

 母さんが怖い、怖いよ。

 

「おいおい、子供の前で止めねーか」 

「幸せにしてやるって言ったのに……私を幸せにしてくれたのはフェルちゃんだけですが、申し開きはありますか?」

「規則だ規則!これからだろ、これから……

 昼間にも堂々と来れる様になったんだから。

 それとフェルは俺たち二人の子供だ。これでも足りないか?」

「足りないのでこれからを期待します」


 母さんは片目をつむりながら人差し指を立てて微笑んでいる。

 さっきの怖さが嘘の様だ……女って恐ろしいな。


「母さんあまり子供の前で甘えん坊になるのはどうかと思うんだ、僕は」


 我に返った母さんは顔を朱くし父さんをにらんだ。

 何故父さんを……

 母さんがこういう方向で我儘な事をするのは珍しい。

 そうこうしながらも父さんを居間に招き母さんはお茶の準備をしに行った。


「父さん来て頂いてありがとうございます。

 早速本題に入らして頂いてもいいですか?」

「ああ、でもいいのか? 二人きりじゃないが」

「ええ、母さんにはほとんど隠し事は無いですから」

「ほとんどか……」


 父は少しニヤリとしてこちらを伺う


「はい、大切だからこそ言えない事もありますし……

 単純に言いたくない事もありますね。母さんあんなですから」

「はははっお前とは将来いい酒が呑めそうだな」


 と雑な物言いが良かったのかとても上機嫌のご様子。

 なので本題を切り出してみる事にした。


「父さん、僕は生まれる前に女神リーアミールからお願いをされたんだ」

「それがお前の相談事か?」

「はい」


 と真剣な表情で父さんを見つめる。


「どんなお願いをされたんだ?」


 と茶化す様子も無く父さんは返してきた。


「女神リーアミールは一族をどうにかして欲しいと言っていました。

 人族の魂が汚れすぎていて、このままだと不味い事になるそうです。

 僕が受けた願いは、人族全体に魂の浄化を促す様に生きる事。

 その見返りとして高ステータス高魔力、そしてリーアミールが同行して願い以外の事もサポートしてくれるそうです」

 

「……まじか?」

「リーアが嘘を言っていなければ、間違いありません。

 あれで一応女神様本人ですし……詳しい話は本人から聞いてください」


「それってアードレイの家の子の事だよな?

 神託の件は知ってるが、名前を付けろって本人だったのかよ」


「そうです。そしてもう一つ、今現在人族はこの星最強なのだそうです。

 ここからは僕の見解なのですが、この国も戦火に巻き込まれると踏んでいます。

 理由は彼等人族は獣人の奴隷を欲しているからです。

 主に労働力として。人族は数を増やし続けているようですが労働力が圧倒的に足りていないそうです。

 彼らのステータスは肉体労働向けではありませんから。

 だから僕は父さんに相談する機会が欲しかったのです」


「……あいつらが最強? 女神がそう言ったのか?」


「はい、現時点では種族間で最強であると……

 5年以上前にですが女神から直接聞きました」


 俺は苦い顔になりうつむいた。


「よく相談してくれた。まずは確認を取らないといけないな。

 あいつの娘ならすぐ繋がるだろう」


 と父さんは黒く四角い板状の物をを取り出し魔力を込め始めた。

 すると扇状の光を放ちその光に人の姿が映り始めた。

 その人物は書斎で執筆中だった様子で筆を置き息をつきながら言葉を発する。


「よう、三日ぶりだな大将」

「はぁ、貴様ももう王となったのだ。執務外でももう少し威厳を出したらどうだ?」


 大将と呼んでいたという事はこの方は軍の総統閣下である。

 アードレイ総大将殿であろう。


「なあ、これは国王としての言葉なんだけどよ。

 俺の息子を交えてお前の娘と話がしたいんだ」

「あ゛?」

「変な意味じゃねーよ、神託の件だ!

 俺の子供もかかわってるみたいなんでな」

「それならそうと早く言え。今呼んでくるからちょっと待っていろ」


 とため息を付きながら立ち上がり映し出されている場所から移動し、少しすると丸々と太った子供が書斎の椅子に腰を掛けた。

 えっ!? 何でお前子豚ちゃんみたくなってるの?

 いや、別のベクトルでみればある意味可愛いかも知れんけど、感性疑うわ!


「な、何よ話って……くだらない事じゃ無いでしょうね?」

「あーえっとだな、俺はミルフォードの国王をやっているアルフ・グラエム・ミルフォードって者だが、君が女神本人と言う話は本当なのかな?」

「本当よ。私の名はリーアミール・アードレイこの地に降り立った女神本人よ。

 けどだからどうって話でも無いわ。

 私がここにいるのはちょっとした雑用と人間の生を楽しむ為のものだもの」


 とリーアであろう彼女はふんぞり返りながら言い放つ。

 俺は彼女の変わり果てた姿に驚愕したが、言葉自体は策略なのだろうと思い口を紡ぐ事にした。 


「そうか。それでだなうちの息子から聞いたんだが……

 人族が心根とか強さとか色々やばいって話は本当なのか?」


「ええ。

 魂は落ちにくい汚れで染まっているし勢力的な強さではこの星最強なのは本当よ。

 間違っても手を出す真似はしないで頂戴ね」


「ああ、戦争なんてする気は元々無い。火種は向こうで燻ぶってるみたいだしな」


 向こうとは魔法の国の事だ、政治的なぶつかりをしている最中らしい。


「それより三年ぶりだってのに挨拶も出来ないのかしら?

 神である私がいい話をしてあげようと思っているのに」


 と映像の隅に映っていた俺に視線を向け彼女は言う。


「これは失礼してしまったね。久しぶりリーア」


 と俺は言葉を返し笑顔を向ける


「まったくよ。でもいいわ寛大な私はあなたを許すわ。

 それで話を続けるけど朗報があるのよ、聞きたいかしら?」


 振りとは言えちょっとムカつくなこいつ……


「ええ、是非とも早く聞きたいですね。今の僕たちの願いは共通している所が多々あるはずですから」


 相当にいい話なのだろうな? という顔で話をせかす。


「いいわ、じゃあ教えてあげるあなたへ課した使命を撤回するわ」

「は?」


 意味が分からなくて思わず声が出てしまったが他の当てが出来たのかも知れない。

 今までの努力を無にされるのが腹立たしいが、戦う力は生きて行く上で必要なものだからお役御免は確かに悪くない話かもしれない。


 だから俺は平静を装い疑問を投げかける。


「理由を尋ねてもよろしいですか?」

「私はね、悟ったのよ。こんなにも心根が優しい獣人を好んで隷属したり神である私の言葉を鼻で笑い、そして殺した。もうあの種族はいらないと思うの。だからもう正す必要なんて無いのよ」


 作戦による振りとか関係無かった様だ……ガチのご様子……

 いらないってどうやって全滅させるんだよ。


「ええと、どうやっていらない種族を無くすんですかね?」

「そんなの簡単よ魂を開放しなければ子が出来なくなり自然といなくなるのよ。

 この肉体が果てた後、私が管理してあげるわ」

「覚えてる範囲でいいんだけど、人族の五年前の兵力の上位100人の大凡の平均レベルと上位1000人の平均レベルを聞かせてくれないかな?」


 言っている事の意味不明さに頬が引き攣っていく。

 こいつは人が生まれてからどれくらいで死ぬのか理解しているのだろうか?


「そうねぇ……上位100人かぁ。

 平均は300レベル付近だったと思ったけど、流石に1000人の数値までは覚えてないわ」


 双方の父親は青い顔をして固まっている。

 この国の上位100人の平均は180レベル付近である。

 

 この世界は兵の数ではなくレベルが物を言う世界であり、一騎当千が普通に成立する世界だ。

 つまりはたった今、戦争になれば必ず負けるという事が告げられたのだ。

 

「はぁ……お前はこんな重要な情報を親にも黙って居たわけだ」

「あなた口の利き方に気を付けなさい。もうあなたに用は無いんだから」 


「そんな事よりも重要な事がある。

 大雑把な計算だが、今からお前が死ぬまでの70年前後とそこから人族の大半が死ぬ50年前後足して、120年をしのぐ算段はあるのだろうな?」

「あんたいい加減にしなさいよ。私を抱くという報酬が無くなったからっていいがかりをつけるのは止めなさい。みっともないったら無いわ」


 俺は限界に達してキレた。


「ふざけんな。この豚!

 勝手に呼び出してやっぱいいやとか……前世でお前に騙されて殺された俺はどうすりゃいいんだよ!」


 気がつけば耐え切れず怒鳴りつけていた。

 彼女は下唇を震わせて涙を滲ませながらも怒りを露にした。


「あなたは転生に同意したわ。

 だから魂を抜き取って転生させただけ。

 望み道理なんだから勝手にすればいいじゃない。

 そんな事より豚って言ったわね女神の私に……許せないわ」


 魔道具越しに見える総大将も隣に居る父上も唖然として声も出せないほどだ。

 それ程に拙い状況だというのに建設的な言葉が出てこない。子供になったからだろうか、感情の起伏が制御出来なくなっているのを感じた。


「はっ夢だと誤認させた状態で話を進めて同意を取ったつもりでいるのか?

 見た目道理脳みそも豚な訳だお粗末な事で」

「また豚って言った……絶対に許さない。

 女神リーアミールの名をもって地上の子アルフに命じます。

 この無礼者フェルディナンドを国外追放処分にしなさい。

 私から情報を引き出した対価として反論は許しません。

 この命令に背けばもう私の加護は無いものと思いなさい」


「女神様フェルはまだ5歳、外で生きてはいけません。

 私に子を殺せと申されますか?」


 と父は真剣な表情で女神に問う。


「安心しなさい。頭は粗末でも肉体は最高級よ。死ぬことは無いわ。

 そうね、戦争でも起こったら戻る事を許しましょう」

 

 とそこで映像消え静まり返った。


 俺は冷静さを取り戻していた。

 最初からそこまで女神に執着は無かったし、友と呼べるほどの仲でもない。


 今の俺の願いは俺を大切に思ってくれる人を守る事。

 今の所、母、乳母は当然の事、まだ交わした言葉は少ないが父、祖父、くらいだ。

 その次に自分と家族の幸せの為に国を守りたい。

 

 なので戦争が起こるまで国外に出るのは好都合。

 レベリング、戦力育成、他国とのコネクションなどは過保護な母のそばに居ては厳しいものがあるのだから……

 おかしくなった女神の奇行は一周回って良い事だったのだ。


 だから俺は言う。腕を組み、深刻にうつむいた父に対して。


「父さん、僕はこの機会に冒険をして来ようと思います」

「待て、他に方法があるかもしれない。

 いつまでにと言う指定も無かったしな。フェルは心配しなくて大丈夫だ」


 肩を掴まれて笑う。少し強張っているが、その目に強い決意が見えた。


「いえ、父さん聞いてください。僕はあの言葉を利用して外に出ようと思っています」

「どう言う事だ?」

「父さんもお分かりかと思いますがあの女神は色々足りません……」

「ん……あ……ああ」


 良かった。そこすら妄信されていたら話が進まないだろう。


「敵兵力……いえまだ敵ではありませんね。

 ですが友好的では無い隣国に対して兵力でここまで負けている状況は看過できませんよね」

「ああ、正直不味い。不味すぎる……がフェルがその情報を引き出してくれた。

 ここからは俺の仕事だ」

「お言葉ですが父さん、仮に5年の期間をみて兵力を追いつかせる自信はありますか?」

「いや……絶対に無理だな。だがどうして5年なんだ?」

「ケアリーさん曰、人族の王族は魔法の国と戦争をしたがっているが、平民は戦争を嫌がっているし商人は賛成派反対派で割れている。

 貴族も一枚岩ではないので世論を完全に無視することは難しい。

 今は掲げる大義名分をでっちあげている最中かも知れないと」


 乳母であるケアリーさんは頭がいい。

 それはもう母さんと比べたら可哀そうなほどに。


「さすがはケアリーだな。こっちの見解も同様だ。

 その所要期間が5年だって言ってたのか?」

「いえ、それが上手くいかなかった時、次はこの国に対して同じように理由を作り攻めてくる可能性があります。

 そうなると準備期間が無くなりますので5年もあれば十分かと……」

「それはネガティブじゃないか? ちょっと考えたく無いな」

「長足る者、起こりうる最悪を想定し対策を講じるのは妥当かと」


 「「……」」


「我が息子五歳。どうしてこうなった……」

「ぶっ……あははは」


 父さんの発言がもっともであまりのシュールさに笑ってしまった。

 真面目な空気だったのにいきなり抜けた表情は卑怯だ。


「やっぱり父と息子はこうあるべきだよな、うんうん」

「ですね。じゃあ父さん難しい事は置いといて僕、行ってくるよ。

 他国だろうがどこだろうが戦争が起これば帰って来ていいみたいだし?」


 そうあいつはそこに触れなかった。出た先で戦争になったから帰ってきた。

 と言っても言葉に逆らったとまではならないのだ。

 馬鹿だから、それに対して怒ったりはしないだろう。

 言い間違えたかな? くらいに思うはず。

 俺は逆らってもいいのだけど民には聞こえが悪いからね。


「え? あ、ああそうか。

 揚げ足取りみたくなっちまうが、そこはそこで謝罪すればいいか」


 謝罪は必要ないと思いつつも楽しい空気を優先する。


「支度金一杯お願いしますね?」

「あ、いやちょっと待て流石にまだ早いだろ。

 俺でも13歳だったぞ。国の外を見てきたのは」

「父を超えていく子供、良くないですか?」

「5歳で超えられても良くないぞ」


 父さんと笑い合う。

 すぐそこに困難が控えている事を忘れて。

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