第3話転生者、歪なお子様ライフを送る


 次の日の朝、俺は朝食を取りながら早速稽古をつけて欲しいと切り出した。

 そこは母も乗り気だったらしく、朝食を取り終えた後すぐに開始することになった。


「まずフェルちゃんの適正を見ないといけないわね」

「どうやって見るのでしょうか?」

「簡単よ、ステータス表示を出して何が突出してるか調べるの」


 おお! キタキタ!

 最初に念じるだけで出ると思ってて、出来なくて後回しにしたきり忘れてた……


「どうやって出すのでしょうか?」

「一応魔法だから詠唱が必要よ。魔力が1でも出来るから心配はいらないわ。

 やって見せるからフェルちゃんも復唱して頂戴」


「女神リーアミールに賜りし恵の導を解き放たん。ステータス」


 俺はリーアの布教活動の一環を垣間見た気分になりながらも復唱した。


「女神リーアミールに賜りし恵の導を解き放たん。ステータス」


 フェルディナンド・アルフ・ミルフォード

 

 種族:獣人

 性別:男

 年齢:2歳


 レベル:1   次のレベルまでのExp10  

 取得経験値:残53


 HP:500

 MP:500


 力 :100

 体力:100

 敏捷:100

 知力:100

 知識:100

 魔力:100

 

 スキル:言語理解 ステータス上昇量向上 魔力量上限無し

     魔力感度Max 肉体資質Max 思考速度上昇


 スキル取得ページへ移行


 魔法 :無し   


 魔法取得ページへ移行


 称号:純潔を守りし者 転生者 異世界人 王子 


 

 キタキタキター!

 おお、まだ戦った事無いのに経験値もう少し溜まってるじゃん。

 てことは経験値取得方法は魔物だけじゃ無いんだな。


 おい、称号これどうなってんだ……

 純潔をって俺は男だよ?

 いやいやそこじゃねーし。

 2歳児に童貞の称号とかおかしーだろ。

 守ってきた訳じゃねぇし。誰も攻撃して来なかっただけだし。

 ああ早くリーアに会いたいこの称号を消させよう。


「どうやら出来たみたいね。最初に言っておかなきゃいけない事があるの。

 ステータスは開示も出来るけど、本当に信頼できる者かもしくは自らの疑いを晴らす為、それ以外では絶対に他人に見せてはダメよ。絶対に」

「分かりました。お母さんのステータス見せてもらってもいいですか?」

「もちろんいいわよ。フェルちゃんのもみせてね」


 カトリーナ・ミルフォード


 種族:獣人

 性別:女

 年齢:23歳


 レベル:108   次のレベルまでのExp12051 


 HP:2940

 MP:490


 力 :652

 体力:588

 敏捷:760

 知力:163

 知識:121

 魔力:98

 

 23歳か。小娘めってレベル高っ……

 この世界の一般人は40レベルくらいまでは、レベルイコール年齢くらいが普通だ、とケアリーさんが言っていたと思うんだけど……


「108レベルですか……スキルより下は出せないんですか?」

「ええ、無理よ。実際に証明するしかないわ。

 じゃ次はフェル君の番ね。

 ステータスを出しながら見せようと思うだけで相手にも表示出来るから、お願いね」


 称号の件もあるし、何でもかんでも教えちゃうのはリスクが高い。

 自由に動き回れるポジションを得る為なら逆に見せてはいけない物だと思ってる。

 だから女神が付け加えた能力を隠せる事に安堵しながら母さんの指示に従った。


「ええ? これはどういう事なの……レベル1なんてありえないわ。

 普段の生活で勝手に増える経験値で上がるものなのに……

 それなのにステータス総量が20レベル位あるじゃない。

 しかも全部が丁度100なんてありえないわ。魔力が私より高いし……」


 母さんは真剣に俺のステータスを見つめながら呟いている


「女神様は僕のステータスを少しいじったと言ってましたね。

 魔法の適正も高いみたいです。

 現存魔法ならほぼ全て使える様になれるって言ってました」 

「……絶対に誰にもみせちゃダメよ。お父さんにもダメだからね」


 あれ? 父親もダメなのか……まだまともに会話もした事ないけど。

 何度か深夜に来て寝ている俺を抱き上げて撫でまわされた事を覚えている。

 おそらくだけど起きなかった時もあるだろうから高頻度で来てると思う。

 遅い時間しか家に居ないし、仕事を頑張る良い父親なのだろうと思っていたのだけど。

 理由を聞いてみたいけど、本音の返答は期待できなそうだなぁ。

 今はまだいいか……


「はい、分かりました。それで僕はどんな訓練をするんでしょうか?」


「そうね。ステータスに個性が出てないから難しいわね。

 とりあえずお母さんと剣舞をして遊びましょうか。

 そこからはレベルが上がってから考えます」


 あーステータス開示する前にレベル上げておけば良かったかなぁ。


「剣舞とは……どのような事をするのでしょうか?」


「簡単よゆっくり剣を振りあいそれを避け合うの。

 避けられる速度の攻撃を、色々な角度から繰り返し行って間合いを把握する練習ね。

 もうちょっと成長するまでは肉体より感覚を鍛える事を重点的にやりたいわね」


 ふむ。やはり暴走していない時の母さんは安心感があっていいなぁ。

 と思いつつ母さんの言葉に頷き、用意されていた木剣を手にして向かい合った。


 徐々にスピードを上げていき厳しそうになると、そこでスピードが固定になる。

 訓練のスピードが固定になった頃、昼食の時間になっていた。

 ケアリーさんが準備してくれていた昼食を取り、いつものわが子自慢が始まる。


「どうしましょう。ケアリーうちの子天才処か神童だったわ。

 ううん、そんな言葉じゃ足りないくらいの才能よ」

「あら奥様、昨日の悩んでたお姿が嘘の様ですね。

 そこまで仰られると言う事は、特徴の発現が他の者と違う場所なのは伊達では無い、という事でしょうか?」


「そんな生易しいものでは無いわ。

 兵卒とする剣舞の速さまで付いてこれたのよ。これは冗談ではないわ」


 あ~、そうか。思考速度上昇が付いてる分あの動きは異常なのか……


「そんなまさか……訓練課程を終えた兵卒は最低でもレベル30は超えてるという話ではないですか」


 ステータス値の総合がレベル20付近みたいだからなぁ。

 そのくらいは可笑しくないのかも。


「そのまさかなのよ。

 おそらく訓練を一週間もすれば30レベル位の相手なら倒せるでしょうね」


 やったね。一週間で30歳以下の一般人は大体倒せるわけだ。

 まあ一般人では意味が無いのだけど。


「フェル様は今レベルはおいくつなのでしょうか?」

「1よ」


 む、そこも喋っちゃうの? まあ理由は教えてないしな。

 だがドヤ顔は止めてくれ母さん。


「え?いや、ですがそれは……」


「お母さんケアリーさん、流石に本人の前でそんな話を続けられると困ります……

 それと言っておきますがもう3レベルまでは上がりましたからね」


 ちょっとでも異常と思われる事を減らす為に上げておいた。

 というかそろそろマジで止めてくれ。


「どう? 本当の話だったでしょ?」 

「では奥様、フェル様は将来国の王になられる可能性も……」

「当然あるわね。でもならない方がいいわよ。あんな窮屈な思いさせたくないわ」


 うん。困ると伝えたくらいでは、止める気は無い様だ。もう慣れたよ。

 いつもとあまり変わりない昼食を取り、いつもの様にまったりとした時間を味わい、二人はいつもの仕事に勤しむ。


 俺は、その間にステータスの確認をしてみる事にした。

 そう、スキルと魔法の取得ページだ。

 これによって経験値をどこに当てるかが変わってくるはずだ。

 

 んースキルだと五感強化、肉体強化があって残りが武器を使う攻撃スキル、もしくは武器防具を使う防御スキルが大半だなぁ。

 

 思っていたより少なめだ。

 武器を一個に絞ったら10種類位しか無いんじゃないかな?

 もっとありそうなものだけどなぁ……

 瞑想とか石投げとかまあ普通に考えたらスキルじゃないわな。

 石投げるなんて誰でも出来るし瞑想で高い回復効果が出るとかどんだけって感じだしな。 


 五感と肉体の強化は欲しい所だな。武器の攻撃スキルは使い勝手によるなぁ。

 発動させれば勝手に当たるわけじゃ無いだろうし……

 取るなら火力と当てやすさ重視だな。

 スキル名だけじゃどんな物なのかも分からないし、リーアに聞いてみるしかないな……

 こういう時の為に連れて来たんだし。


 そしてお待ちかねの魔法の方はだ、火 水 風 土 氷 雷 時 光 闇 

 初級、中級、上級、最上級と4段階で最初の4属性はそれぞれ単体、範囲、防壁、遅延の4種類ぽいな。んで等級の枠外に付与魔法も存在しているわけね。

 氷、雷は3種類で防壁が無かったり遅延が無かったりか。

 こっちは武器スキルと違い、解説で大体わかるからありがたい。

 

 時はテレポートがメインでそれのグレードアップみたいな仕様だな。

 ランダムから始まって場所を記憶出来るようになり、最終的に記憶にあってMPが持てば何処へでも。

 あとは人数の縛り解除と強制転移なんてのもあるな。流石に時間を操作する事は出来ないみたいだ。


 光と闇はサポート系か。

 光が回復系全般で、闇がステータス低下系の魔法とMP吸収なんてのもあるな。


 んと取り合えずゲーム知識的に考えると、必須なのが攻撃系のどれかと回復とテレポート。

 効果次第ではMP吸収も必須になるな。

 

 魔法も結果は一緒だな。結局はリーアに話を聞かないと決めかねると所だ。

 取り返しの付かない事とかあったら嫌だし。

 リーア何してるかなぁ……ちやほやされてそうだ。

 ミイラ取りがミイラなんて事にならなきゃ良いんだけど……

 

 ってあれ?

 そう言えば、魔法やスキル覚える為の消費経験値の必要量書いて無くね?

 そこめっちゃ重要なんだけど見当たらない……あいつまた適当やりやがったのか?

 うーん……まあ聞けば良いだけだし、文句言うほどでもないか。


 ステータスの数値もかなり高いしな。

 1レベルで30レベルと戦えるとか十分にチートだろう。

 あ~でも魔法は妥協したくない。ん~妥協をしないなら情報が先だよな。

 と俺は思考のループにハマりかけてこの案件は彼女に会えるまで放置する事に決めた。


 俺は今日の出来事の繰り返しの様な毎日を重ねた。

 

 来る日も来る日も母上との訓練を続け、それから3年の月日が流れた。

 俺は順調に成長し武術はもちろんの事、周辺の三つの大国の読み書き礼儀作法を覚えた。

 三つの大国とは人族、魔族、獣人の国である。

 王子の立場上、習得しておかないと育てた者が非難されてしまうからである。

 母上を微妙な立場にする訳にはいかないのできっちりと学んだ。

  

 もうそろそろ人前に出ても問題が無いとされた俺は一つのお使いクエストを言い渡された。

 内容は『この指輪を付けて一人で王様の所へ行って一人前になった事を証明してきなさい』という事。

 

 この国の王子は読み書きと礼儀作法を覚えるまで国王または次期国王と会ってはいけないという決まり事があるらしい。

 要するに最低限の科目をクリアするまでは甘やかしを禁止するという事だ。

 我が子に甘い獣人族ならではの決まり事と言えるだろう。


 なるほど、だから深夜にこそこそと来ていたのか……

 おそらく、寝ている時に愛でるのは問題無いのだろう。


 遊び慣れた庭である王宮庭園を進み、王城正門に着いた。

 兵士が門の両サイドに立ち槍を交差させながらやさしい目で語り掛けて来た。


「ここは王様のお城です。

 ここを通るには理由と身の証を立てなくてはいけません。

 何の為にここに来たのかと身分を証明する物を見せてはくれませんか?」


 おおう、当たり前だがすべて話は通っていてなおかつ兵士も歓迎の様だ。

 じゃあ俺は俺の役目をこなすとするか。

 ビッと姿勢を正し、指輪が見えるように胸に手を当てて口上を述べた。


「私はミルフォード国第七王子フェルディナンド・アルフ・ミルフォード、

 証はこの指に。

 謁見の理由に就きましては『子供としては一人前に成れました』とご報告をしに参りました」


 少しは戸惑うかと思ったが頷きながら嬉しそうにしている様だ。

 流石に親が考えたセリフをただ言っているだけだと思ったのだろう……

 それとも5歳児でもこれくらいは教育次第で考えて言える様になれるのだろうか。


「了解しました。とても素晴らしき事です。

 この国の未来はより良いものになるでしょう」

「どうぞ、お通り下さい」


 満足そうに微笑んだ二人の門番が槍を引き自動で扉が開く……と思ったら内側から開けていた。

 まあそんな事はさておき、俺は真っすぐに敷かれた絨毯にそって進み、王の間であろう大きな門を潜り謁見の間に到着した。


 屈強そうな兵が並んでいる。近衛兵かな?


 フルプレートの様な全身を包む防具で固めた兵士達が王への道の両側に剣を掲げ、アーチを作り隊長であろう一人が指示を投げかけてきた。


「来訪者、フェルディナント・アルフ・ミルフォード第七王子、どうぞ前に」


 その言葉と同時に掲げた剣を収め道を広げる様に一歩下がる兵士達。

 仰々しさに余裕だった心に少し戸惑いを覚えた。


 そんな心の内を表に出さぬよう、囲む兵士達の中央付近で足を止め、敬意を表す礼をする手のひらを胸に当て反対の手を後ろに回し片膝をつく。

 この礼は細かい所に差異はあれど、三大大国で共通の様だ。 


「どうしてそこで止まるのだ? 会いに来なかった俺に怒っているのか?」


「いえ、怒るなどと……夢の中で何度もお会いしておりますので。

 言葉を交わせていない事に寂しさを感じてはいますが己の仕事を全うする父上には強く敬意を感じております。

 ここで足と止めた理由に就きましては、兵士達の役割を考えますとこの位置を超えて進むのは如何なものかと思いまして」


 俺は間違ったのだろうか……そもそも何で両サイドに立たせるんだよ。

 前に列をなしてくれれば場所も分かりやすいのに……


「がっはっは、バレておるではないか。

 わしの時は一人も気が付かなかったぞ。ぬかったのう」


 あれ? 宰相かと思っていたけど先代かな?

 最近正式に戴冠式をして王位を譲ったそうだけど……て事はお爺ちゃんか。

 

 色々考えながら話をしなくちゃだなぁ。

 少しは話は聞いて貰える立場をキープしなきゃならないけど、過保護になって行動を制限されるのは困る。

 さてさてどうした物かな……

 気に入られ過ぎてもダメ。嫌われるのもそれはそれで拙いか。

 子供っぽさより子供とは思えない大人な感じで行った方がいいだろうか?

 ぐぬぬ、どうやっても難しそうだこの人達見た感じで親馬鹿な事がわかる……

 だって顔がほっこりしてるもの。


「何を言ってるんだこの爺さんは……俺の子の方が優秀だったって事だろう。

 それに俺は薄々感づいていたが黙ってやっていたんだ。可哀そうだからな」


「ほほう、あのおどおどした様子でのう……

 と昔の事はさておき今日はフェルの事じゃな。

 確かに優秀さが見て取れるのう。

 聡明な顔立ちだけでなく肝も据わっておる様じゃな」


「あ、親父……俺の言葉を取るんじゃねーよ!

 放置してすまないなフェル。

 今日は俺も楽しみにしていたんだ。お前の成長を見せてくれるか?」


 え? 何を見せればいいんだろうか……

 ここで読み書きするなんて事はないだろう……

 て事は剣術を披露すればいいのか……?

 いやいや謁見の間で剣術の披露もないだろう。

 この状況で大人な感じなんてどうやって出せばいいんだよ。

 と思いつつも沈黙はまずいので、この疑問を素直にぶつけてみる事にした。 


「父上……いえ国王陛下。

 私は読み書きと礼儀作法、それと剣術を母上より教わりました。

 まだまだ拙いですが剣術においてはそれなりの評価を頂いております。

 ですがここは謁見の間、剣術をお見せするには少々問題がある様に思えます」

「ほらな! 最高だろ? 俺の息子、俺の息子」

「五歳とは思えぬな。孫はどれも可愛いが優秀さが飛びぬけておる様に見えるのぉ。

 よし、わしが許すフェルよおぬしが学んだ剣術をここで披露してはくれぬか?」

「おいクソ親父! 戴冠式の時の言葉を思い出せ。俺の言葉を取るんじゃねー!

 ってそんな事よりフェル、他人行儀な呼び方はしなくていいぞ。

 父と呼んでくれ」


 と話が続いている間に近衛兵の一人が木剣などの訓練用の装備を三人分持ってきていた。

 要するにこの二人を相手に訓練をしろ、という事なのだろう。

 確かに強さを見せる事も必要だ。だがまだ俺は五歳なのだ無理に今見せる必要は無い。

 ここは悪乗りしそうな相手は避け、近衛兵さんにご協力願おうではないか。


「ではお言葉に甘えまして、お父さん、お爺ちゃんと呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか?」 

「そんなに畏まらなくてもいいのだが……お父さんか悪くないな。

 皆何度言ってもお父様としか呼んでくれないからな。娘達は……」

「うむ、孫娘もいいものだが男の子もいいものだのう。

 初孫の時と同じくくらいくるものがあるわ」

「そうなんだよ。俺ってば優秀だから上は娘下は息子とちゃんと打ち分けたわけ」

「まったくお主と言うやつは、六人も娘続きで焦っていた癖によく言うわ」

 

 ん?この会話の流れだと俺が初の王子みたいに聞こえるんだが?

 上に六人の王子がいるわけでしょ? あれれ?

 王女と王子で数え分けとかしてない訳?

 ちょっとリーアさん拙いよ。これはもう回避不可能。溺愛決定だよ……

 ダメだ、計画変更しよ。強さを見せて保護はいらない事を示すしかない。

 全力で……


 よし、近衛兵の隊長さんを叩きのめすつもりでやろう。

 まあ間違いなく負けるだろうけど。

 まあ王子だしボコボコにされる事はないだろう。


「ではそこの方、近衛兵の隊長様でしょうか?

 剣舞を一手お願いしてもよろしいでしょうか?」

「はっ! 私に敬称など不要であります。謹んでお受けさせて頂きます」


 跪いて感無量な表情をしている。部下であろう人達もうらやましそうだ。

 王子とはいえ五歳児の訓練の相手をするだけなのだが……


「では時間の関係もございますし、速度の主導権を頂いて私の方に合わせて頂いてよろしいでしょうか?

 自分が避けられない速度は出さない様に致しますので」

「はっ!問題ございません、寸止めも出来ますので心置きなくご披露下さい」


 打ち合わせを終えて互いに木剣を手に取り剣舞を開始した。

 だがそこで問題が発生した。俺が出す速度についてこないのだ……

 もちろん俺が強いからではない。

 俺に恥をかかせない為の配慮とか、そういうものだろう。


 それを察した国王――父さんが剣舞を止める。


「あ~ちょっと待った。交代。相手は俺がするわ。

 これじゃフェルが可哀そうだ。

 というか俺がやりたい。誰にも有無は言わせない」


 と残っていた木剣を手に取り父さんが乱入してきた。

 父さんの獣の耳と尻尾は雄々しく鋭そうな容姿を引き立てていて威圧感がすごい伝わってくる。 


「悪いなフェル、主導権もらうぞっ! 力は込めないから当たっても泣くなよ」


 そしてすぐさま剣舞の訓練を開始し餅つきの阿吽の呼吸の様な攻防を繰り広げ、俺の余裕がなくなり始めた頃に父さんが声を掛けてきた。

 

「へへへ、俺夢だったんだよなぁ。

 息子にこうやって剣術の稽古をつけてやるのが。

 カトリーナも意地悪だなぁ、自分ばっかり。

 それにこんなに出来る子だなんて俺は聞いてないぞ」


「母さんは僕が危険な目に合うのではないかと心配しています。

 おそらくそれででしょう。ですが僕も男です。強くなりたいし冒険もしたいです」


 そしてさらに剣速があがり父さんは不敵な笑みを浮かべた。


「よく言った! やはり男はそうじゃなくちゃな。流石俺の子だ!」


 俺は思った。母さんよりは過保護じゃ無いのでは? と。

 国王である父さんを説得出来れば懸念事項の大半が解消されるはず。

 なので俺はこう言った。


「嬉しいです。では一つ甘えさせて欲しいのですが……」

「なんだ?言ってみろ」

「国を想う一人の獣人として、二人きりでご相談させて頂きたい事がございます」

「おいおい、随分と重い言い方じゃねーか?

 もちろんかまわねーがそんなに重要な事なのか?」


「そうですね、女神の言う未来……と言えば伝わるでしょうか?」


 この時俺は思った、俺は何て馬鹿なのだろう……

 夢だと思っていたせいで情報収集を適当にしてたのは仕方がない。

 だが二歳の時にあったパーティーで、どんな神託を下したのかしっかりと聞いておくべきだったのだ。

 だが流石にここは言ってないほうがおかしい。

 自分が生まれて育つ国なのだから。


「……よくわからねーがいいだろうっと!」


 あれ? まさか言ってない? と油断している間に剣速がさらにあがり、父さんの木剣が俺の肩を打ち付けた。


 「っつぅ……ご指導ありがとうございました」


 「ああ、俺からも礼を言う、父親のいない中よくぞここまでの成長をしてくれた!

  これからは俺もフェルを近くで見守ってやれるからな。

  一度と言わず何度も甘えてこいっ」


 にっかりと笑みを浮かべ、木剣を地に突き立て腰に手を当てて笑う姿がとてもよく似合っていてカッコ良かった。

 その人が自分の父親である事がちょっと嬉しく感じる。


 そうして雑談を少しした後、俺は父との面会を終えた。

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