セカンドライフ(パート3)

「ダチョウさん、例の物は!?」


ハクトウワシは慌てながら、ダチョウに迫った。


「署員みんなでかき集めましたよ...。

もー、大変だったんですからね?

みんな何でそんな面倒な事をしなきゃいけないんだとか、グチグチうるさくてうるさくて、もうたまったもんじゃ...」


ダチョウの愚痴を聞き流しつつ、資料を探った。その中の押収物として、一冊のアルバムがあった。


開くと、写っていたのは神狼会の新年会の様子だろうか。堂々と座るダイアフルフの横に小さい茶色い髪の人物がいる。


ハクトウワシには既視感があった。


「まさか...、この子...。

名前のわかるもの、無いかしら?」


「多分名簿がこの中に...。写真と名前を照らし合わせれば消去法で出せると思いますが」


「今すぐやりましょう」


「へ、へえっ!?」


時間のかかる地道な作業を開始した。



日ノ出署での資料の照会が終わったハクトウワシは驚くべき事実を掴んだ。


(よし...、やっと点と線が繋がった...)


急いで京州署に向かった。


この大きな闇がもうすぐ解き明かされる。

真相にたどり着こうとしていた時、一本の電話が入った。


赤信号を見計らい、携帯を取った。


「もしもし?あ、ドール、どうしたの?」


何気なく取った電話はドールからだった。彼女は極めて冷静に、一言告げた。


『...リョコウバトさんが、殺されました』


「...えっ!?」


全身の毛が逆立ったと同時に、鼓動が早くなった。


「本当なの!?」


『はい...、今サーバルさん達もいます』


「わかった、急いでそっちに向かうわ」


嫌な予感が的中してしまった。


(...チッ)


わかっていたのに行動が遅れてしまった自分に嫌気が差したが、悔やんでいる暇はなかった。



ハクトウワシが彼女の部屋に入るとドールが立っていた。


「現場はリビングです」


案内に付いていく途中、もうひとつの小部屋の電気が灯っていたので顔を向けると、

踞ったカラカルと、それを見守るサーバルの姿があった。


何故踞ってるのか、理由は簡単に説明できる。彼女に声をかける状況ではない。


サーバルに『よろしく』と相槌で送った。

気が付いた彼女も頷き返した。


部屋に入るとうつ伏せの遺体が目に入った。


「死因は胸部を刺された出血死、犯行があったのは今から1時間前、私達がここに来た時は3、40分前です」


「やけに素早く来れたのね」


「リョコウバトさんが、カラカルさんに電話を掛けたんです。だから最初は、携帯を握った状態で...」


「....」


「凶器は見ての通り犯人に持ち去られてしまいましたが、大きな犯人の証拠を彼女は残してくれましたよ。携帯のアプリでボイスレコーダーっていうのがあって、録音してたんです。殺される前...、カラカルさんの同僚を名乗る人物がここを尋ねて来て、『1年前の事件に進展があったから話したい』って...」


「...ドール。来てくれない?」


彼女はきょとんとした顔を見せた。

そしてそのまま、外に出た。


「どうしたんですか?」


「ドール、あなた、元々神狼会リーダーの、養子だったのよね」


「...え」


「今から20年ほど前...。合同で神狼会の一斉摘発があった。捜査員の何人かは抵抗に合ってケガをする程の騒ぎだったらしいけど。小さい頃のあなたもその中にいた」


ドールは黙って、ハクトウワシの話を聞き続けた。


「そして、あなたを保護したのはピーチパンサー署長だった。署長はあなたに身分を偽って、この警察に来るように仕向けた。

神狼会は巨大な組織、解散されたといってもある程度のネットワークは有してるはず。あなたが、京州署にいることだって、把握していはずよ」


「...ハクトウさん、何が」


「それはね、あなたがこの事件に間接的に関わっているってことよ」


彼女は唖然としていた。


「1年前のイエイヌが襲われた事件。

アレは神狼会の残党による犯行なの。

その証拠として、1年前、日ノ出の管轄で同様の事件が多発していてその時逮捕されたのが、元神狼会のメンバーだった。

…あの夜、イエイヌを襲った元メンバーは、相当焦ったはず。何故なら、元リーダーの子供がいる警察に勤める警察官がいたんだもの。忠誠心が高い連中、子供が傷つくような事はしたくない。ましてや、リーダーは突入の際に重傷を負って死んでしまった。リーダーの意志を継いでいるのは実質、あなたしかいない」


「はぁー...」


ドールは深い溜め息を吐いた。


「けれど、カラカルさんは狙えないにしても、自分達の姿は見られたくないから、あの夜たまたま生き残ってたリョコウバトさんの口も封じようとした?」


彼女は続きの推理を口にした。


「...ザッツライトよ」


ドールは少し俯き、神妙な面持ちだった。


「ねえ、聞きたいの。あなた自身、いつから神狼会の一員だって、知ってたの?」


彼女は淡々と答え始めた。


「...結構前からですよ。警察になる以前にも私の家に、元神狼会の人達から手紙とか色々来てましたから。でも、私はそんな組織を継ぐつもりも全くないですよ」


「問題はそこじゃない。今回の事件の発端は不審火よ。あなたが指示したんじゃないの」


ハクトウワシは極めて厳しめの声で問い詰めた。


「どうしてそう思うんですか?」


「神狼会の連中は、あなたにどうしてもあなたにリーダーをしてほしかった。だからしつこいアプローチをしていた。

あなたはさっき言ったように継ぐつもりもさらさら無いので、そうなると連中と縁を切る必要がある。そこであなたが思いついた作戦は、組織のツテを使い1年前のイエイヌが襲われた事件に神狼会が関わっていないか確認し、その裏付けが出来たあなたはあの事件で難を逃れた、唯一の警察関係者ではないリョコウバトを使おうと目論んだわけ。あなたの目論見はつまり、集まりかけの組織を潰すこと。そこで、まずは連中の動きに気付いて貰おうと不審火を起こす様に指示した。丁度リョコウバトの家の周りを取り囲む様にしてね。それが不自然だと私に思わせる事に成功した。

結果、1年前の事件とリンクして、神狼会の存在が明らかになった...」


「かばんさんから話を聞いていて良かったですよ」


彼女は微笑みながら言った。


「私が知ってる前提でなきゃ、そんな事出来ないでしょ。

…で、リョコウバトをエサに神狼会を誘きだし、全部神狼会の仕業にして、自分との縁を切るつもりだったのね」


「縁を切るって言うか、死刑にしてほしかったんですよね。署長に頼めばツテがあるし」


「...まるでお嬢様ね」


「そうですか?まあ、不自由はしてないですけど」


「1年前の事件の犯人を、あなた知ってるわね」


「知ったのはかなり最近ですけど...。

聞きたいですか?1年前の事件を起こしたのは今の新神狼会の代表エゾオオカミとナンバー2のホッキョクオオカミです。あの2人がしつこくて、仕方がなかったんですよ」


彼女は以外にも、抵抗する事なく吐露した。その事に内心、驚いていた。


「ビックリでしょうね。

でも、私は罪に問われるんですか?放火したのもリョコウバトを殺したのも、全部あの人達ですよ?あの人達にも、具体的な指示はしてません」


ハクトウワシは黙った。


「私はただ、楽しいセカンドライフを送りたいだけですよ。今は正義の味方ですし、犯人を言ったんですから、逮捕してくださいよ」


「違うっ!!」


ハクトウは声を荒らげた。


「あなたは正義の味方なんかじゃない...。あなたは故意に犯罪を発生させた!1年前の事件について知っていたなら自分で逮捕すれば...!」


「出来なかったんですよ。

あの時はかばんさんが課長だったし、あの人は私とあの神狼会の繋がりを無理矢理こじつけて一緒にしそうで...。

...ともかく、御託はいいじゃないですか。逮捕して終わりで」


疲れたように言う彼女の肩を持ち、

明瞭な声で言った。


「...ドール。あなたは、カラカルの心を傷つけた。大切な親友を、2人も失くした...。あなたの自己の都合のせいで、大きく傷ついた人がいることを胸に刻み込んでおきなさい。そして、あなたがやったことは何時までも隠し通せないから」


「....」


彼女は黙っていたが、どこか笑いを堪えている様にも見えた。その真相はわからない。


その後、彼女の証言に基づいて2人の所在を探り、逮捕した。

リョコウバトがボイスレコーダーで録音していた声とエゾオオカミの声が一致した。

そして、イエイヌの事件。証拠不足だが、日ノ出署との協力もあり、ホッキョクオオカミとの共犯による犯行ということで捜査が進展し、追起訴される運びになった。



私はある人を、喫茶店で待ち合わせしていた。


「お久しぶりですね。ハクトウさん」


私は、彼女に今回の事件の全容を明かした。


「...なるほど。そういう事でしたか。

僕がもっと調べていれば...」


「あなたは何も悪くないわ...」


「...にしても、京州署は異常ですね。

アドさんといい、フェネックさんといい...、ドールさんといい...。例のジンクスは。ドールさんは射撃が上手いので、裏があると思ったら、生まれながら銃の上手い人達の中にいればそうなりますよね」


アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら言った。


「ハクトウさんは、やっぱり中央には戻らないんですか」


「あそこが瓦解しようが、私はもう決めたから...」


「正直言って、彼女の予想通りになるのは癪ですが...。

今回は僕の負けですね」


「彼女って?」


「アドさんですよ。例の新聞記者にしたのもアドさんでしょう。

彼女は、僕や署のことを非常に恨んでいますから。

とにかく、注視してください。一連の事件で、一番の被害者は

カラカルさんです。嫌な予感がします」


「...わかった」


彼女の予感は適当なものではない。

亀裂は既に、入り始めていた。

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京州署刑事課は異常じゃない みずかん @Yanato383

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