セカンドライフ(パート2)

ボヤ騒ぎ、リョコウバトへのストーカー、1年前の事件。

この3つが関連しているのではないか。


大事になる前に、謎を解き明かさなければ。

そう睨んだ私は、1年前の事件に進展が無かったか尋ねる事にした。


1年前のイエイヌの事件を担当した日ノ出署のダチョウを尋ねた。



「ああっ...、京州の...。

あの秀才なかばんさんがあんな事になってしまって...」


彼女は残念そうに言った。


「...私は今、そんな彼女でも解けなかったミステリーを解きたいの。

あれから事件に進展はあった?」


「実は...。奇妙な事を発見してしまったんです。

しかし...、いまいち決定打に欠けるというかで連絡を渋ってしまって...」


「話しを聞かせてちょうだい」


「わかりました。では...」


ダチョウはハクトウワシを、別室へと案内した。


「今年の初めに、1人、恐喝未遂で逮捕したんです。それが彼女で...」


1枚の紙を差し出した。


「シンリンオオカミ...。元“神狼会じんろうかい組員”...?」


「まあ...。俗にいう“社会のガン”ってヤツですよ。

でも、神狼会自体、20年ほど前に摘発して解散させてるんです。

彼女達はその時の残党ですね」


ダチョウは話を続けた。


「摘発時に、何人かを公務執行妨害で逮捕しました。彼女もその1人でした」


「という事は...、釈放された?」


「お努めを終えて...。という事です」


「つまり、1年前には既に出所している組員がいたってわけね。

その人達が恐喝をしていた...」


「取り調べをしたら、彼女曰く、組織をまた復活させるための資金集め...」


(もし...、彼女らの犯行だとしたら...)


「そうだ。私はあの時、下っ端の階級でしたが、

各所に支部がある大きな組織だったので、特殊編成で摘発に乗り込んだんです。

その時、同じチームにピーチパンサーさんがいたんですよね」


「えっ...、署長が?」


「あれえ...。確かあの一斉摘発の時、会長ダイアウルフの

養子だか、小さい子がいたんですよね...。

ピーチさんがその子を引き取った...。みたいな...。

私も断片的にしか見てないので、覚えてませんけど」


***


彼女の話を整理するに。

神狼会という解体された裏社会の組織の構成員の一部が、

組織を復活させようと恐喝などの乱暴な方法を用いていたという事。


20年前という事は、丁度1年前にも常に釈放されていた人物がいる模様だ。


一つの仮説を、組み立てる。


イエイヌの事件は、たまたまその構成員と鉢合わせしてしまい、

必死に仲間を守ろうとした。矢先...。

不幸にも襲われ、悪い所に打ち付けてしまった。

カラカルも、イエイヌを救おうとして手を差し伸べた。


相手が神狼会の元メンバーだとしたら。

折角こっそり活動しているのに、顔が割れたら元も子もない。

口封じの為に当時の被害者であったリョコウバトを狙っている。

そう考えても可笑しくはない。


一応ダチョウには、1年前に保釈されている元メンバーのリストを

送ってもらう様にお願いした。


だが、何故だろう。

被害者に顔を見られてまずいのならば、何故カラカルは襲われていないのか?

私はその疑問に直面し、よく考えた。


『小さい子がいたんですよね...。

ピーチさんがその子を引き取った...。みたいな...』


(署長...)


腹を括り、署長室の扉をノックし、入室した。


「何ですか?」


「署長、お聞きしたい事があるんです。

20年前、神狼会という組織を一斉摘発した時、署長はその特殊チームの1人だったんですよね」


「そんな昔の話...、どこで聞いたんですか?」


「日ノ出署のダチョウです」


そう告げると、署長は苦笑いした。


「あぁ...。あのギャーギャー悲鳴ばかり上げてたあの人ですか」


「...それで、その時署長は、小さい子を保護したと聞いたんですが、一体その子は誰なんですか?」


その質問をした瞬間、彼女の目つきが変わった。


「何故その質問に答えなければいけないんですか?」


「何故って...、今管内で相次いでいる不審火事件との関連が...」


「神狼会とその不審火が関連してると?根拠はあるんですか?」


「だから、その根拠を証明しようとこうやって署長に...」


「やめてください」


「...はい?」


「私は何でも知っています。あなたの事も。もちろん、かばんさんが勘付く前から。

中央から左遷の書類が届いた時...、彼女達の目論見はお見通しですよ。

中央署のスパイのあなたに迂闊に情報は与えられません」


「署長、私はそんなスパイ行為なんてやるつもりは一切ありません!

総監にも、そうハッキリ伝えました。今、人一人の命が狙われてるんです。

彼女を救うためにも、神狼会の事などを教えて...」


「...ハクトウさん。私はココの署長ですよ。わかってますか?」



結局、署長からは何も得られなかった。

私は、みんなの正義の味方になりたいために警察官になったのに。

こんなの、違う。全く、間違っている。


刑事課で頭を抱えていると...。


「お疲れ様です」


そう声を掛けたのはドールだった。


「...大丈夫ですか?あまり顔色が良くないですけど...」


「心配してくれてありがとう...。大丈夫よ」


「無理しないでくださいね...。また、一緒にお茶でもしましょう」


何気ない気遣いが、とても新鮮に沁みる。

ふと、ある事を尋ねた。


「ねえ、ドール」


「なんですか?」


「あなたは、どうして警察官になろうと思ったの?」


彼女は不思議な顔をしつつ、すこし顔を上に向け、考える素振りを見せた。


「最初は、警察官になるつもりはなかったんですけど...。署長に、『警官にならないか』って誘われたんです」


彼女の言葉で、今までボーッとしていた私の意識は叩き起こされた。


「署長が!?ピーチパンサー署長が!?」


「え?ええ...。そうですけど...」


「待って、何故あなたがピーチパンサー署長にそう持ち掛けられたの?」


「私の両親と知り合いだったみたいで...」


まさか...。

もし、仮にそうだとしたら...。


「ドール、ごめんなさい。急用が出来たわ。

日ノ出に行ってくるから、お願い」


「きゅ、急用って...、ハクトウさん!?」


私は急いで、日ノ出署に向かった。



夜20時頃

“ピンポーン”と呼び出し音が鳴った。


モニターを付けると、マスクをつけた何者かが立っていた。


『すみません、警察の者です』


(警察...?)


明らかにその声は、カラカルやサーバルではなかった。


『あ、私はカラカルさんの同僚の者なんです』


警察手帳を取り出し、見せつけた。

カメラの解像度が悪いため名前までは見えなかった。彼女は何か違和感を覚え、その隙に卓上のスマホを手に取り、ボイスレコーダーのアプリで録音を始めた。


『リョコウバトさんですよね?1年前の事件が進展したので状況をお伝えしてほしいと、カラカルさんに頼まれたんですよ』


「...本人に確認していいですか?」


『今、カラカルさんは別の案件があるので出られないと思います。とりあえず、要件だけお伝えしたら帰るので、開けてもらえませんかね。外だと、秘密が漏れるかもしれない』


「...今、突然来られても困ります。後で出直して頂けませんか?」


そう言うと...。


『...わかりました』


と言って、姿を消した。


(何なの...)


少し不気味だった。

明日、カラカルに相談しよう。

そう決めた。


が、しかし。


突然、ガチャガチャと音が聞こえた。


「えっ...」


ポケットに携帯を入れ、玄関に向かった。


ガチャッ、という音と共に扉が開いた。




「なっ...!!やめてっ...!!」

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