#chapter4

セカンドライフ(パート1)

過去の事件を京州署が隠蔽していた事が記者会見で明らかにされ、

かばんはその責任を取り、懲戒免職となった。


彼女のいない刑事課を改めて見回すと、とても静かだった。

彼女は今...、何を思い、どう過ごしているのだろう。


青空を眺めながら、そんなことを考えていると。


「ハクトウさん!」


背後から声を掛けられ、ビクッとしてしまった。


「何、ドール?」


「また不審火がありました。今週に入ってから4軒目ですよ」


「不審火...」


このころ京州署の管内において、不審火が4軒も相次いでいる。

どれもゴミ箱、自転車、空地の枯れ草等...。


発生場所もランダムで関連性が全く見られなかった。


しかし、私は何かの事件の序章なのではと、妙な胸騒ぎがして仕方が無かった。


「まー、どうせ愉快犯だといいんですけどね...」


ドールは言った。


「ドール...、不審火が起きた周辺のマップ、プリントしてくれない?」


「あ...、はい」


***


ここのところ、毎晩サーバルとカラカルは車で市内をパトロールしていた。


「何よぉ...。なんであたし達が火事の見回りしなきゃいけないのよぉ...」


助手席のカラカルは足を組み、腕を頭の後ろに回し、暇そうに言った。


「...だいたい、なんで新米があたし達にこんな雑用みたいな仕事押し付けるのよ...」


「...どうしてなんだろう」


カラカルが愚痴を吐くのに対し、サーバルは酷く悲し気な声だった。


「私、わからないよ。何でかばんちゃんが...」


「課長がそう易々と、これでキッパリお別れってする訳が無いと思うわ。

彼女はきっと...。戻ってくる...」


サーバルはよくかばんと捜査をしていた。

2人がどれほどの良いコンビであったかは、カラカルも察しが付く。


色々起こり過ぎて頭が付いていけない。

そんな感じなのだろうと、解釈した。


夜の街を巡回していると、カラカルの携帯が鳴った。


「もしもし...?」


『カラカル、久しぶり』


「...リョコウバト?どうしたの?」


声の主は、同級生で友人のリョコウバトからだった。


『...私、誰かに付けられてる気がするの』


「えっ?」


『家に帰るまで、ずっと後ろからストーカーされてたの』


彼女は声を潜めながら言った。


「今どこにいるの?」


『家だけど...』


「サーバル、ちょっと寄り道していいかしら」


「...いいよ」


少し心配になったカラカルは彼女の家へ行くことにした。


***


リョコウバトとは1年前の葬式以来会っていない。

“あんなこと”があって、互いに会いにくくなっていた。


サーバルは少し待ってもらい、カラカル1人で彼女の住む部屋へ赴いた。


「何時頃から?心当たりはないの?」


「1、2週間前...。私には付きまとわれる理由がわからないわ」


カラカルは腕を組み“うーん”と唸った。


「とにかく...。外出は控えた方がいいかもね。アタシらも気を付けるけど」


「...ねえ」


語り掛けられ、眉を上げた。


「"あの子"の事は、どうなってるの?」


「...ごめん」


カラカルは小さく呟いた。


「あなたの気持ちもわかるし、懸命にやってるのはわかるわ...。

けど...。早く、見つけて欲しいの...」


彼女が何を言いたいか、理解できる。


「わかってる...。

あたしだって、アンタとの約束忘れたワケじゃないから」


「急かすつもりはないけど...。

私もあの事件だけ、解決出来ないのは嫌だから」


「....」


カラカルはリョコウバトと話を終え、署に戻った。



カラカルがリョコウバトと話をした翌日。

ハクトウワシは一枚のマップを全員の前で示した。


不審火が出た所を線で結んだ地図だった。



「一見、関連が無さそうな連続不審火事件だけど、ここを線でつなぐと...」


「輪っかになってるね」


ハクトウの説明を聞いたサーバルが言った。


「大袈裟な考えかもしれないけど、警察を挑発してるんじゃないかしら」


「挑発...、ですか?」


ドールが恐る恐る言う。


「この円形が、何かのメッセージになっているんじゃないかって思うんだけど...」


「ハクト、ペンを借りるわよ」


カラカルが唐突に言い出した。

するとホワイトボードに張り出されたマップに、線を書き込み始めた。

その線が1点の場所を示したと思ったら、彼女は驚くべきことを口にしたのだった。


「リョコウバトの家じゃない...!」


ハクトウワシはその言葉を聞き、思い出した。

かばんから聞いた1年前の事件で、カラカルと一緒にいた友人だ。


「彼女、ストーカーされてるかもしれないって言ってたわ」


「不審火、ストーカー...、そのリョコウバト、注意しといた方がいいわね」


「でも、仮にそうだとしたら、狙いは何なんでしょう?」


ドールの言う通りだ。

こんなメッセージ性の強い事件を起こしておく狙いがわからない。


「ドール、こんな話信じられると思う?」


「へっ?何がですか?」


「1年前の事件が再燃した...。

犯人は1年前の事件に関係しているんじゃないかってね」


「仮にそうだとしても、何故この時期で...」


「...何らかの事情で、辞めざる負えなかった。

その縛りが解けた...。あくまで私の推理だけど」


そう注釈を付けたが...。もし大きな何かが動き始めたのだとしたら。

単なるボヤ騒ぎでは済まないかもしれない。

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