イケメンタラシにご用心!

 アーサーさんとお知り合いににゃれた次の日のこと。

 珍しく早く起きれたニャアは、エルラルと余裕を持って登校し、始業前の時間を持て余していた。


「ちょっと散歩してくるにゃ」


 そう言い残し、ニャアはふらりと校内を散策する。ちょうど人気の少ない場所に差し掛かった時、一つ角の先から話し声が聞こえてきた。


「ねぇ、聞いてくれる? 私昨日レイくんと別れたんだけどさ」

「えっ、付き合うことになったってこの前喜んでたじゃん!」


 ……ふむ。どうやら色恋沙汰で何かあったみたいにゃ。

 苛立ちを含んだ声で別れたと報告する女の子に、もう一人の女子が驚いている。

 そんにゃ彼女達の様子に、ニャアは息を潜めて耳をすませた。いわゆるデバガメってやつ? 他人の恋バナって聞きたくにゃるよね!


 ところでレイくんって誰だろ……ニャアの校内イケメンファイルにはヒットする顔にゃいけど……


「レイくんってガルレイドくんの事でしょ? やっぱりあの噂は本当だったんだ……モテるのに誰とも長く付き合えないってやつ……」


 って、ガルレイド先輩!? 彼女いたんですか!?


「そりゃそうよね! だってレイくんってば、デートにカルムまで連れてきたんだよ!?」

「嘘っ、いつも一緒にいるとは思ってたけどそこまで!?」


 ニャアの気持ちも『嘘っ』だにゃ! 攻略対象が彼女持ちとかありですかにゃ!? いや、でも別れたのにゃら良いの、か?

 しかもデートにカルム先輩を同伴させたんだね……そりゃあにゃかにゃかやべぇ奴だに。まあガルレイド先輩らしいっちゃらしいけど。

 あ、ガルレイド先輩は愛称は『レイ』ね、メモメモ。良いにゃあ、ニャアも愛称とかで呼んで距離縮めたいに。


「あれは真性のブラコンね! デート中でもカルムが帰りたそうにすれば帰るし、話もカルムがどうのって……もうっ、本当にカルム邪魔だし! 最悪!!」


 いや、まあ、うん……その辺ってにゃんかもういつも通りだし、付き合う前から分かりきった事じゃん? そこまで怒らにゃくても……


「だから私は聞いたの。私とカルムどっちが大事なのって。そしたら悩みもせずに、もちろんカルム兄だよって!」


 当たり前だにゃ!?

 キレ気味に彼女は言っているけど、カルム先輩をあんにゃに大切にしてるガルレイド先輩にそんにゃこと聞く方がビックリだにゃ。本当に好きにゃら、カルム先輩も合わせて一緒に好きににゃれば良くにゃい?


 ……両手に花できるし。げふんげふん。


「うわぁ、ヤバいねそれ……別れて正解。てか、なんで付き合ったの?」

「だってレイくん顔が良いし、カルムさえ絡まなきゃ優しいし」

「まああの顔で、今日も可愛いねとか言ってくんのズルいよね。しかも聞き上手だし」

「そう! そうなのよ! だから、付き合ってしまえば私に惚れさせてやる! って思ったのに!!」

 

 これはまあ、ご愁傷様だにゃ。

 ガルレイド先輩って確かに優しくて勘違いしそうににゃるけど、心の比重はやっぱりほとんどカルム先輩にあるんだね。つまり二人同時に好感度を上げればOK?

 

 ニャアは二人とも同時に愛せるしバッチこい!


「にゃふふ、そろそろ戻るかにゃ」


 先輩に彼女がいた事には驚いたけど、まあ別れたにゃら没問題モーマンタイ! しかも攻略に大事にゃ話が聞けたし……

 朝から良い情報が聞けたニャアは、女の子達に気づかれる前に教室へと帰っていった。



 ………………

 …………

 ……



 キンコンカンコ〜ン♪


 時間は飛んで、昼休み明けの五限目。一番眠い時間帯。

 先生が所用で自習ににゃったのを良い事に、ニャアは日向ぼっこをしにゃがら昼寝でもしようと思って教室を抜け出した。


 昼寝場所を屋上にするか校舎裏にするか、一瞬悩んだけど階段を上りたくにゃいからと校舎裏に決定する。

 昇降口で一回靴を履き替え、中庭を超えて校舎をグルリと回り込む…………あれ、普通に階段登った方が手間がにゃかったようにゃ? 

 おのれ眠気! まさかの判断ミスだけど、ここまで来たら校舎裏の方が近い。若干重めの足取りで、ニャアは昼寝スポットへと歩いて行く。


 そして目の前の角を曲がれば、ちょうど日当たりの良い芝生に出るというところで、微かにゃ歌声が風に乗って聞こえてきた。


「————♪」


 こんにゃ授業中の時間に誰が……

 歌詞までは聞き取れにゃいけど、雰囲気的に聖歌かにゃ? と当たりをつける。

 目当ての校舎裏に近づくほど声は大きくにゃるところから、どうやら先客がいるらしい。


 聞いた事にゃい声だに。


 全校生徒の声を知っている訳じゃにゃいけど、こんにゃ目立つ声にゃら知っていてもおかしくにゃいはず。

 だって、その歌声は一言で言うにゃら『天使』だった。

 高めの男声か低めの女声か、性別が判断つかにゃいその声は聖歌を歌っているのも相まってめちゃくちゃ神聖に聞こえる!

 イケボとかカワボとかそういう次元を超えて最早『天使!』としか表現できにゃい歌声が、ニャアのソウルを揺り動かす……!


 こんにゃの正体を確かめるしかにゃいじゃにゃい!


 忍び足で校舎の壁に張り付き、そっと頭を出して覗きこむ。

 ニャアがそこで見た光景は——


「ピギョっとプリンセスだにゃ!?」


 伸ばした手には鳥、肩にも鳥。そして周囲には猫、猫、リス、猫、ネズミ。

 ファンタジーにゃお姫様が歌うと森の仲間たちが大集合する映画のワンシーンみたいにゃ場所で、カルム先輩がニャアの方を見て固まっていた。


 やば、声を出しちゃったにゃ!

 慌てて口を押さえても時すでに遅し。歌声の主であるカルム先輩とはバッチリ目が合っているし、先輩を囲んでいた動物達もニャアに驚いて散ってしまった。


「え、えーと……オジャマシマス」


 気まずいにゃ。

 ずっと喋らにゃいでいたカルム先輩の歌唱シーン。どう考えても見られたくにゃい感じのアレにゃ。


「わざとじゃにゃいんですにゃ? たまたま、こっちで昼寝でもしようかにゃ〜と思ったら、まさか先客がいるにゃんて思わにゃくて、それでその……にゃははは」


 苦しすぎる言い訳をにゃんとか並べてみるものの、カルム先輩は驚いて固まったまま、口をパクパクさせて——


 あ、あれ? にゃんだかプルプルしてきたようにゃ……え、待って! 嘘、にゃ、泣いた!?


「かかカルム先輩、ごめんにゃさい!! 本当に悪気があった訳じゃにゃくてですね、事故にゃんです! この事は誰にも言いませんから! ごめんにゃさい、ごめんにゃさいぃいい」

 

 堰を切ったように涙を溢れさせたカルム先輩に、どうすれば良いか分からにゃくて謝罪を繰り返す。

 まさか泣くほど嫌だったにゃんて! ほんの好奇心で行動した結果に罪悪感がこみ上げてくる。


 にゃああ! 一体どうすれば!!


 どうすれば良いか分からにゃくて、一緒に泣きそうにきゃったその時、


「カルム兄!」


 背後から声が聞こえたかと思うと、上履きのまま明らかに走ってきたガルレイド先輩がカルム先輩の側へと駆け寄った。そして、泣いているカルム先輩を目にして——


「カルム兄に何をした」

「ひっ」


 いつも好青年然としたガルレイド先輩とは全く違う、無表情でありにゃがら確かにゃ怒気を放つその姿に、ニャアの心臓は縮こまった。


「……あ、うっ」


 恐怖で体が震えて、言葉だって上手く発せにゃい。まさかこんにゃに怖いにゃんて……逃げたくて一歩後ずさったニャアを追うように、ガルレイド先輩が手を伸ばしてくる。


 もう、ダメ……掴まれる!


 殴られる覚悟で目をギュッと瞑り、身を固くする。そこに——


「ガルル」


 ピタッと目の前で、ガルレイド先輩の手が止まった気配を感じた。


「びっくり、した……だけ」

「カルム兄、本当? 大丈夫?」

「ん」


 押さえつけるようにゃ威圧感が霧散し、カルム先輩の前まで走ったガルレイド先輩が下からカルム先輩の顔を覗き込んでいる。

 当のカルム先輩はといえば、慣れた様子でガルレイド先輩をなだめていた。

 

 た、助かった……のかにゃ?

 キィェアアアアシャベッタァアアアア‼︎ にゃんてネタを挟む余裕もにゃく、ガルレイド先輩から解放された今も、バクバクと煩い心臓を押さえて息を整える。

 ああ、せっかく初めてカルム先輩の声を聞けたのにぃいい!! し、心臓が痛いにゃ、待って……ワンモア、ワンモアプリーズ。そのお声をもう一回ちゃんと堪能させて欲しいにゃ!


「カルム兄、カルム兄。なんで泣いてるの? どこが痛い? 成長痛?」

「ばか」

「いてっ」


 わりと容赦無くカルム先輩がガルレイド先輩の頭をはたいた。ジョークに対するツッコミとしては少々過激だけど、そんにゃカルム先輩に対してガルレイド先輩がふにゃりと笑う。


「ゴメンね、マオちゃん」

「ふぁい!?」


 まさか声をかけられるとは思わにゃくて、油断し切った返事をしてしまった! 爽やかにゃ笑みを浮かべ謝罪を述べできたガルレイド先輩は、ニャアのよく知るいつもの優しい先輩だった。


「だだ、大丈夫ですにゃ! カルム先輩をビックリさせちゃったのはニャアも悪かったと思ってますし……はい」

「ん……おれ、もごめん……ね?」


 ようやく落ち着いた様子のカルム先輩も、ニャアに向き直って謝ってくれる。


「きっ、キィェアアアアシャベッタァアアアア!!!」


 ああ、やっぱり……凄く良い声! 歌っている時はさる事にゃがら、ふつうに喋るだけでも耳がシアワセ!

 ここぞと言うところでネタを挟みつつ、ニャアはついに聞けたカルム先輩の声に、ほど走る熱い情熱パッションを伝えるべく口を開く——


①可愛い声ですね!

②素敵にゃ声ですね!

③綺麗にゃ声ですね!

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