つまり毎秒惚れれば良いんだにゃ?

 初対面の男と車に乗るのは怖いだろ? と配慮されたニャアが連れて行かれたのは、学校から徒歩数分の場所にある隠れ家的にゃお店だった。

 放課後にゃんて時間帯のせいか、ドアプレートには『Closed』と書かれているけど、アーサーさんは気にせず中へと入っていく。


「すみませんお客さん、まだ準備中で——」

「よぉ、マスター。ナンパに成功したから来てやったぜ」


 マスターと呼ばれた中年男性は目を見開いて驚き、そしてニャアを見てさらに驚いた。


「百戦連のアーサーさんがついに学生に手を出した!?」

「おいコラ」


 そんにゃ軽口を叩きつつ、お洒落にゃ店内の一席にアーサーさんと共に通される。


「お嬢ちゃん、何かあったら大声を出すんだよ。オジさんが警察に電話してあげるからね」

「にゃはは! ありがとうございます」

「だから何もしねぇって!」


 マスターさんと顔を合わせ、にししと笑う。

 アーサーさんって意外と弄られキャラにゃのかもしれにゃい。そう思いにゃがら、ニャアは手渡されたメニューを開いた。


「なんでも好きな物を頼みな」


 ぱちっとウインクを決めてから、アーサーさんは「ただしアルコールはダメだぜ」と付け足す。

 さっきから思っていたけど、ソルディオ先生やマスターさんの前でだいぶ素が見えているのに、ニャアに対してはカッコつけた態度を貫くらしい。それがにゃんだか面白くて、ついつい笑顔ににゃってしまう。


「そうだ、甘い物は好きか?」

「好きですにゃ!」

「なら、スペシャルパンケーキがオススメだぜ。手間暇かかってスペシャルに美味しい」


 言われてメニューを確認すれば、値段もスペシャルだった。季節のフルーツとクリームが特盛のスフレパンケーキで、確かにとても美味しそうにゃ!


「では遠慮にゃく、このスペシャルパンケーキをお願いします!」

「了解」  


 お値段は見にゃかった事にして、ニャアはアーサーさんの言葉に甘える。

 サービスです。と紅茶を持ってきてくれたマスターさんにアーサーさんが注文を言い渡せば、


「さて、改めて自己紹介をしようか。俺はアーサー、絶賛恋人募集中のしがない男さ。 子猫ちゃんキティの名を聞いても?」


 ニャンパの常套句みたいにゃ自己紹介をしてきた。

 だからニャアも今日来た理由を素直に告げる。


「ニャアは、マオ・リリベル。クレテリア学園の一年生で、今日はソルディオ先生の話が聞きたくてついてきましたにゃ」


 瞬間、アーサーさんの表情が目に見えて固まった。そして、


「お前も彼奴あいつが好きなのか? 顔だけじゃん」

「に"ゃ?」


 ポツリと呟かれた悪意ある言葉に、ニャアの空気も凍った。



 ………………

 …………

 ……



 あの後、アーサーさんと気まずくにゃる……にゃんて事は起こらず、


「でさ、スクールで一番のマンドンナだったあのも、結局はソルディオの野郎が良くて——」


 スフレパンケーキが焼き上がるまで三十分。食べ終わるまでさらに三十分。お酒を口にしたせいか、アーサーさんの饒舌にゃソルディオモテ談は止まることを知らにゃかった……!


「昔からそうだ! 俺が告白した娘はどいつも『ごめんなさい、ソルディオくんの事が好きなの』と——」


 話を振ったのはニャアだけど、聞きたいのはそういう事じゃにゃい! 幼少期から始まった話はハイスクール編を終えて、カレッジ編に入っていた。先生が世界各国に貢がれた別荘やクルーザーを待っているとかどうでも良い情報にゃ!

 いつまで続くんだ……せめて、もっと有益にゃ情報を……!

 もうそろそろチベット砂ギツネのようにゃ虚無顔ににゃりそうだ。猫にゃのに! ニャアは、猫にゃのに……!


 だいたいソルディオ先生がイケメンにゃのは語られにゃくたって分かっている!!


「そこで彼女を取られたヘンリーが彼奴をボコボコにしてやる! と、息巻いて校舎裏に呼び出したわけよ。そしたら次の日、ヘンリーはソルディオのファンクラブに加入してて……男にもモテるってどう言う事だよ!?」


 いやいやいやいや、それよりヘンリー何があったんだにゃ!? 校舎裏で何が起きたか詳しくプリーズ!?

 ニャアの渾身のツッコミも虚しく、アーサーさんはどんどんヒートアップしていく。しまいには机を叩き始めて、さすがにちょっとヤバいとニャアも思った。


「アーサーさん酔ってますにゃ? お水飲みましょう?」

「俺様は酔ってなんかない!」

「酔っ払いは皆そう言いますにゃ」

「とにかく! あの野郎は、初めアンチが多いくせに全員タラシ込みやがって、最終的には皆大好きになる。魔性か? 不公平だろ……もっと嫌われてろよふざけんなどいつもこいつも負けてんじゃねぇクソが!」


 アーサーさんがニャアの前で被っていた猫が、もう剥がれるどころの騒ぎじゃにゃい。裸足で逃げ出すレベルにゃ!

 セクシー系イケメンにニャンパされたからついて行ったらめちゃくちゃ残念だった件。


「すみませーん! マスターさんお水ー!!」


 にゃんというか、ソルディオ先生の名前はアーサーさんにとって地雷だったみたい。悪い事をしたにゃ……ってちょっとだけ反省する。ちょっとだけ。


 だって、先生の幼馴染とか言われたら話聞きたくにゃるし! 不可抗力にゃんだに?


「で結局マオちゃんは、ソルディオのどこが好きな訳?」


 何が結局にゃのか分からにゃいけど、せっかく頼んだ水を断わったアーサーさんが、突然話を振ってきた。

 ……にゃんと言うか、試されている?

 ジッとニャアを見つめる黒目は真剣で、真面目に答えにゃきゃと考える。

 ソルディオ先生のどこが好きか、かぁ……


 それにゃらやっぱり、


「顔にゃ」

「は?」

「あの人間国宝級の造形! 彫刻のように鼻筋の通った美しい顔、そしてそこにハマる深海がごとき瞳! イケメン過ぎてモテるのも仕方にゃいと許せてしまう……そんにゃ顔が好きにゃ」


 冗談みたいにゃ答えだと思うでしょ? でも本気にゃ。

 至極真面目にゃ顔で答えたニャアを、アーサーさんが呆然と見つめて数秒。


「ひっ、ははっ、あはははははっ!!」


 椅子から転げ落ちるんじゃにゃいかってくらい、爆笑しだした。


「くくっ、ははは、んふふ……やっぱ顔、じゃねぇか……! ははっ」

「顔だって立派にゃ才能で個性。そしてアドバンテージですにゃ」

「でも美人は三日で飽きるって言うし、イケメンにロクな奴は少ないぜ?」

「つまり毎秒惚れれば良いんだにゃ? あと、イケメンは顔にステータス振られてるから仕方にゃい!」

「マジかよポジティブっ!」


 これぞ大草原ってやつかにゃ? ひぃひぃ笑い転げるアーサーさんは、もう笑い過ぎて苦しそうだった。

 大丈夫? そんにゃに笑うとこあった? 息してる?


「あははっ、悪りぃ悪りぃ。優しいとか言い出したらどうしようかと思ったが……まさか、顔とはね」

 

 暫くして、ようやく落ち着いたアーサーさんが水を飲みにゃがらそう言った。


「だってニャアはソルディオ先生のこと、そこまで分からにゃいですし」


 だからこそ話が聞きたかったんだにゃ。まあ、女性遍歴は詳しくにゃれたけど。


「ニャアが知っていることと言えば、冷たそうに見えて意外と面倒見が良いことと、ジョークが好きにゃのと、食べるのが好きにゃのと……今日タバコ吸うことを知ったくらいですかにゃ?」

「そうそう、彼奴は割と話しやすいもんだからレディ達を勘違いさせるんだよな。爆ぜれば良いのに」


 先生の話をするだけで、ニャチュラルに付け足される暴言。

 そして悪口の嵐……


「言っとくけど、彼奴はなんか出来そうな雰囲気出してるがポンコツだから。レディのエスコートがまるでなってないし、記念日だって覚えない。アホみたいに食うせいで食費は嵩むわ、生活能力皆無だわで、マジでロクな奴じゃないからな?」


 にゃんていうか、こう——


「アーサーさんってソルディオ先生のこと大好きだよね」

「は?」


 心外だ! って顔をされたけど、台詞の端々に愛をニャアは感じた。悪口を言うのも、本当のソルディオ先生を知ってもらいたいみたいにゃ感じに思えるし、親友として心配しているように受け取れる。

 まあ女性関連で恨んでいるのも本当にゃんだろうけど、


「アーサーさんはもう少し猫をしっかり被ればモテると思いますにゃ?」


 意訳: お口が少々悪くあらせられますね。

 ソルディオ先生にかにゃわにゃいだけで全然イケメンだし、紳士然としてれば好感度も高いのに勿体にゃい!

 と言うかソルディオ先生と関わりのにゃい人が相手にゃら、絶対モテるのでは? 


「アドバイスありがとう、マオちゃん。だがそれは無理な相談だな! 俺様の口はレディを口説き、ソルディオの悪口を広めるためにあるんだから!」


 何故か良い笑顔でそう宣言されれば、これ以上ニャアが言う事は何もにゃかった。


「子どもは帰る時間だな」


 伝票を持って立ち上がったアーサーさんを追って、ニャアも「ごちそうさま」と手を合わせる。


「付き合わせて悪かった。お前は俺に浮気したわけじゃないってソルディオに伝えとくぜ」

「にゃはは、ありがとうございます。でも、次はアーサーさんの事も、もっと知りたいにゃ?」


 次にゃんてあるかは分からにゃいけど、目の前のイケメンを逃すのも惜しくて誘ってみる。

 どんにゃ反応をするのかにゃ? と思って見上げれば、真顔のアーサーさんがいて、


「二兎を追う者は一兎をも得ずだぜ」

「二兎どころかニャアは全てのイケメンにコナをかけているので!」

「くっ……はははは! 貪欲だな? 嫌いじゃない」


 わしゃりと頭を撫でられて、「今度な」とアーサーさんは妖しく笑った。

 きっと笑ってくれると言うニャアの読みはあっていたみたいで、ホッとする。


「よし、途中まで送ろう。学校で良いか?」

「はい!」


 初対面の人に家の場所まで教える訳にはいかにゃいし、学校は丁度良い所かにゃ。

 会計を済ませたアーサーさんが、しっかりとした足取りでお店を出ていくのを見て、「あれ?」とニャアは首を傾げた。


「そういえばアーサーさん、酔ってたんじゃあ……」

「ん? 俺は滅多に酔わないぞ?」


 確かに途中から普通に話していたし、顔も赤くにゃっていにゃい。


「じゃあ、あの愚痴の数々って本当に素面で……」

「はははっ!」


 いやいや、その事実はにゃかにゃかドン引きですにゃ!?



………………

…………

……



 帰り道、校門まで送ってくれたアーサーさんは別れ際、「楽しませてくれた礼だ。良い事を教えてやる」と言って爆弾発言を残していった。


——エルファナ・D・クレテリアは、ソルディオ・ルーシアとの婚約解消を望んでいる。


「……え!」

「良かったなぁ? 何もなければ年内にでも彼奴はフリーだ」


 婚約解消にゃんて、喜んじゃいけにゃいのに推しがフリーににゃることに、喜びが込み上がってくる。


「何もなければ年内か……」


 にゃんだろ、ちょっとフラグくさいと思いつつニャアはスキップでお家へと帰った。



——————————————————


ソルディオの こうかんどが 1 あがった!

アーサーの こうかんどが 1 あがった!


①アーサーさんについてきく 37%

②ソルディオ先生についてきく 50%

③エルファナ理事長についてきく 12%

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