狙って☆フォレストランド

【AM10時フォレストランド】


『デッド of トロッコ』を降りてから、ニャア達は少し急ぎ足で隣のテーマランド【フォレストランド】にあるアトラクション——『ビーさんのハニーガード』へ来ていた。

 入り口で蜂コスをしているキャストさんに優先パスを提示して、ショートカットされた専用の列に通される。本来の列はと言うと、既に三時間待ちは確定している程長く伸びていた。


「ここはいつ来ても蜂蜜の良い匂いがするよネェ」


 絵本のイラストのようにゃタッチで描かれた森の内装に、丸くデフォルメされた蜜蜂のマスコットが飛び交う可愛らしい空間。女、子どもに大人気のこのアトラクションは、流石のヒサメでもよく知っているようだった。


「妹さんとよく来ている感じかにゃ?」

「うんうん。あかざが大好きだからネェ、毎回必ず乗っているヨォ」


 右手で銃の形をつくり、左手を添えたヒサメのポーズを見て、解説は不要だにゃと判断する。

 この『ビーさんのハニーガード』はヒサメがポーズで示したように、ハニーポット型の乗り物に乗って、迫りくるピギョどもを撃ち返すシューティングタイプのアトラクションにゃのだ。


「いつもコレに乗ってるからさァ、ぴぎょって奴は悪い生き物なのかと思ってたヨォ」

「あ〜うん。ピギョ撃ち返すからにゃ……」


 主食がトマトのピギョ達は、何を思ったのかビーさんの縄張りにハチミツ泥棒をしにくる。物量で敵わにゃいと悟ったビーさんは人間に依頼して、ともにピギョを追い返すというストーリー。


「まあ諸説あるけど、ピギョは基本的に悪戯好きにゃところがあるから、ビーさんと遊びたくてちょっかい出してるだけにゃのかもしれにゃいに?」

「あははッ、それで嫌われて人間雇われるとか本末転倒だネェ」

「好きにゃ子は虐めちゃうヒサメんには、言われたくにゃいと思うにゃ」

「それもそうだネ」

「あ、やっぱり虐めるタイプにゃんだ……」


 優先パスを使ったとしても、やっぱり人気アトラクションだから並ぶ事三十分。

 ヒサメと無駄話していたら案外すぐに時間は過ぎて、乗り場付近のキャストさんの声が聞こえて来た。


「ビーさんのハニーガードは、おーきなハニーポットに乗ってビーさんと兄弟たちが住む、百エーカーの森を防衛するアトラクションです。

 森の中では風が強く吹いたり、ハニーポットがおーきく動くことがありますので、帽子や眼鏡、アクセサリーなどの、飛ばされやすい物には、十分ご注意下さい」


 このアニャウンスが聞こえたら、いよいよ乗れるんだにゃとテンションが上がってくる。フルスコアの半分以上ポイントが取れたら、出口で報酬という形でハチミツ飴が一粒貰えたりするのだ!

 できればそれを狙って行きたいところ。


 ゴウン、という音がしてハニーポットの乗り物が目の前に一時停止した。二人一組ににゃって、前に一ペア後ろに一ペアと計四人が乗れるポットにヒサメと一緒に乗り込んだ。


「それでは! ビーさんのハニーガードでともに、ハチミツを守りましょう♪」


 いってきまーす! と陽気に手を振って、ニャアは備え付けられたデフォルメハンドガンを手にする。にゃんでも設定上弾丸は唐辛子エキス弾らしい。


 ゴウン、ともう一度音が鳴ってゆっくり流れ出したポットは九十度回転すると前後だった席は左右に変わって、いよいよ森の中へと入って行く。


「目指せ! フルスコアにゃー!!」



 ………………

 …………

 ……




 森の入り口でビーさんから依頼ボイスを聞き流しにゃがら、子どもでも撃てる軽い銃をしっかり構える。

 道中に十箇所ある防衛ポイントで、飛んでいるピギョを何匹撃てたかゴールで記録を教えてくれるシステムだから、ついつい満点目指したくて本気を出してしまうんだに。

 ピギョの的は定期的に位置が変わるし、右向きの席と左向きの席で全然違うから場所を覚えるっていう対策はにゃかにゃかできにゃい。


「ニャアは左側を狙うから、ヒサメんは右側をお願いにゃ!」

「はァい」


 ボッチPの国をキメてきたニャアは、いつも一人か知らにゃい人と組んで連携できずに高得点出せにゃかったけど今日は違う!

 必ずや報酬のハチミツ飴をゲットしてみせるんだに!


 ファンシーにゃBGMとともに、ハニーポットはどんどん森の中を進んでいく。

 次々出現するピギョを見つけては撃ち、見つけては撃ち……カバー範囲が半分で済むお陰で今までににゃいくらい集中してピギョを撃てている自信があるにゃ!


 因みに弾がヒットすると「ピィギョェアア」と鳴き、外すと「ピッギョ」と少し小馬鹿にした風味で鳴いてくるからにゃんとにゃく当てたかどうか把握ができる。

 そしてにゃんと初めから撃とうとしにゃければ、ただピギョ達が森で戯れている可愛らしい風景ににゃるからシューティングゲームが苦手にゃ人でも楽しめちゃうのが人気の理由だとニャアは思っている。


 暫くして、十ステージ分回りきったニャア達が出口に辿り着くと、表示されたスコアは……


「八十九点にゃ!?」


 百点満点中の八十九点!

 想像以上のハイスコアにニャアは震えた。

 報酬で貰ったハチミツ飴を受け取る手も震えていた。


「もしかしにゃくても、ヒサメんって実は運動神経が良い?」

「あははッ、俺はお兄ちゃんだからネェ」

「何それ関係ある?」

「勿論あるヨォ。だってェ、お兄ちゃんは妹のひーろーでなくちゃいけないからネェ……何でもできて当然だヨ☆」


 にゃんて良い顔でサムズアップするヒサメ。

 保健室で何もしにゃい奴がよく言うぜ……って思ったけど、ニャアは良い子だから突っ込まにゃいであげた。


「あ、見て見てェ〜満点一覧のトコ」


 何でもできる発言で少し遠い目をしていたら、何かを見つけたヒサメがニャアを呼んだ。


「にゃににゃに?」


 見れば直近でフルスコアを記録した十人が表示される掲示板に、見慣れた名前が……


Glacia Bro.グレイシア 兄弟


「あーーーー!?!?」

「あははははッ、見知った名前があるとなんか嬉しくなるよネェ」

「今度会ったら満点出すコツを聞くにゃ!!」


 あの二人がハニーポットに乗っているのを想像して、ちょっとむふふとにゃるニャアであった。



 ………………

 …………

 ……



 アトラクションを出た後、ニャア達は隣接する『ビーさん'sハニースタンド』というショップに向かった。

 ビーさん関連の可愛いグッズとハチミツ関係の食品が買えるこのショップで、ヒサメが妹に頼まれた季節限定のドリンクボトルが買えるんだに。今日で最後って事は、ジューンブライドグッズがお目当てにゃのかにゃ?


「ニャアはお土産物色してるから、ヒサメんも勝手に必要にゃ買い物済ませてね」


 そう言って、ヒサメと分かれてニャアはショップ内を見て回る。季節でラインニャップが変わる店内は、いつ来ても楽しいし、あれこれ欲しくにゃって見てしまう。

 とりあえず定番お菓子のハニークッキーはカゴに入れるとして、花嫁ビーさんと花婿ピギョのマグカップ可愛すぎじゃにゃい!? いや、カップは高いからせめてストラップに……ってああ、ビーさんクッション! ふわふわにゃあ……これぞ癒しって感じ。

 季節限定デザイン缶のお菓子も欲しくにゃっちゃうし、ポップコーンホルダーも良い……


 ヒサメが入園料出してくれたおかげで浮いたお金があるって思うと、財布の紐が緩みそうににゃるにゃあ、と今まであきらめてきたグッズの前で長考しちゃう。


「買うべきか……買わざるべきか……」

「まおサン〜」

「家で埃かぶるのを見ると悲しくにゃる……でも欲しい……」

「ネェ、まおサンってばァ」

「もうにゃにさ!!」

「えいッ」


 ニャアが真剣に悩んでいるというのに、しつこく話しかけてくるヒサメが鬱陶しくて振り向くと、間抜けにゃ掛け声とともに頭に何かつけられた。


「え、にゃ、何? 何つけたの??」


 混乱しにゃがら手で触って確かめる。これは多分ビーさんの触角カチューシャにゃのかにゃ?


「うんうん、可愛いネェ」


 にゃんて言いにゃがらニャアの髪を片手で整えたヒサメに、全身の鳥肌がたった。


「は!? キモいキモいキモい怖いにゃ!!」

「えェ〜嫌だなァ。あかざが付けたら絶対に可愛いって思っただけだヨォ」

「そういう事だと思ったっ!」


 けらけら笑うヒサメに頭のカチューシャを叩き返す。


 こんにゃからかい方は酷いにゃ! ヒサメのくせに、ヒサメのくせに!! 

 無駄に上がった心拍数を落ち着かせるため、ニャアは深呼吸を繰り返した。


「それで、ヒサメんは買い物終わったの?」

「いやァ? これからお会計しに行くトコだヨォ」

「じゃあさっさと行くにゃ!」


 しっしとヒサメを追いやって、ニャアは改めて自分の籠のを中を見る。


「……購買意欲失せたにゃ」


 あんにゃにアレもこれもと思っていたのが嘘みたい。

 よく考えたら似たようにゃものを持っているし、使わにゃいものも沢山ある。


「ぐぬぬ、あいつに感謝するのはにゃんか違うけど……」


 ある意味ヒサメのおかげで頭が冷えたニャアは、籠の中に山盛り詰め込んだビーさんグッズをこっそり棚に戻した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る