爆走☆カントリー・リバーサイド

【AM 9時】ワールド・ユニオン


 Pの国入園ゲートが開いたのと同時に、ニャアは全力疾走で優先パス発券場へと向かった。

 ちょっと出遅れたから前に沢山人がいるけど、間をするすると抜けて先頭を目指す。走るのは許してほしいけど、前の人は絶対に押したりしにゃいのがマイルールにゃのだ。

 入園ゲート付近はワールド・ユニオンというエリアで、様々にゃ国をモチーフにした建物が連にゃるアーケード! アンティークにゃゲームに、どこか懐かしいショップやレストランがあるけれど、帰り際に寄るから今は無視。


「さーてと!」


 流石に一番ノリはできにゃかったけど、前にいたほとんどの人を抜いて一番近い発券場に到着! 狙うのは一番人気のアトラクション——『ビーさんのハニーガード』の優先パスだけど、その前にヒサメが付いてきているか一応確認して……


「にゃんだ、いたんだ」


 平然と後に立ったヒサメの姿に、「ちぇ」っとこぼした。

 人混みの中を割と本気でダッシュして来たから、ワンチャン撒けたかにゃと思ったのに残念残念。


「あははッ、まおサン凄い速いから驚いたヨォ」

「にゃんで着物で追いつけるのかにゃ?」

「えェ、むしろなんで追いつけないのか分からないなァ。ほらァ、昔はお侍サンとか和装で刀まで振ってたんだヨォ?」

「いやいや、時代劇とか見たら大体袴だにゃ」

「そこは あにめ で考えて欲しいなァ」


 にゃんて雑談をしている間に、前にいた数人が優先パスを取りを終えてニャア達の番が回ってくる。


「良いですにゃ? ここでビーさんの優先パスを取ったら、空いている内に一つアトラクションに乗るにゃ。運が良かったら一番乗りできるかもしれにゃいから、めちゃくちゃ走るにゃ」

「わァ、別に一番じゃなくても良くなあい?」

「良くにゃいに。狙える獲物は逃したくにゃいのがハンターの心理。それに……」


 一度言葉を切って、改めてヒサメの格好を上から下まで眺めた。

 普段から保健室で見慣れた男性の和装の中でも、羽織がない着流しというスタイル。生地は多分木綿で、色は濃紺そして大柄。ヒサメにはよく似合っているしカジュアルで普段着扱いの和装だけど、遊園地に来るのはTPOわきまえていにゃいよね。絶対ピギョッターで『着物で遊園地来てる人いるんだけどwww』『マジワロス』とか書かれてるにゃ。

 しかも足元は下駄じゃにゃくて草履だけど、やっぱりどう見ても走りやすい格好じゃにゃい。


 それでも、にゃんで追いつけにゃいか分からにゃいってかすにゃら、全力でからかってやろうじゃにゃいか! 


「それに、ヒサメんは余裕でダッシュ出来ちゃうから問題にゃいもんね!」


 勝ち誇ってニャアがそう言えば、ヒサメはケラケラと楽しそうに笑った。


「あははははッ! 良いヨォ、大人の余裕を見せてあげるネ」


 ……大人とかそういう問題じゃにゃいけど、まあいっか。

 機械から吐き出された二枚の優先パスを掴む。


 さてさて、本日二度目のダッシュタイムだにゃ! 



 ………………

 …………

 ……



【AM 9時30分】カントリー・リバーサイド


 発券場で少し並んだとはいえ、ゲートから一番遠いエリアへ全力ダッシュするだけで既に三十分は経とうとしていた。

 遊園地で流れる時間の速さに震えるけど、わざわざ真っ先に奥へ行ったかいあって、周りにほとんど人がいにゃい。これにゃら普段は三時間待ちを余裕で超えるアトラクションを一番乗りできちゃうにゃ! 


「それでェ? 目的地には着いたのォ?」


 何事もにゃかったように、後ろからヒサメが声をかけてきた。振り向けば、相変わらず息ひとつ切らしていにゃい。控えめに言って怖いにゃ。

 実は本職忍者だったりするのかに?? 


「いやもうにゃんか突っ込んじゃいけにゃい気がしてきた」

「あははッ! 深淵を覗く時は〜って言うもんネェ」

「はいはい」


 ヒサメの軽口を適当に流しつつ、ニャアが最初に向かったアトラクションは『デッド of トロッコ』略してデットロ。トロッコ型の乗り物に乗って炭鉱の中を爆走する、ピギョっとランドを代表するジェットコースターの一つにゃ! 


「優先パスは十時だから、その前にこれに乗るにゃ」

「あ〜なんかいつも凄い並んでる奴ネェ」

「こういう時じゃにゃきゃ、五時間待ちとか余裕であるくらい人気アトラクションだに。ヒサメんは絶叫系とか大丈夫にゃ人?」

「あははッ、余裕〜」

「ですよねー」


 きゃーきゃー言うヒサメとか想像できにゃいし、そういうもんにゃんだろうにゃ……けっ、つまらん! 

 炭坑夫をモチーフにした衣装のキャストさんに手を振って、ニャアとヒサメはデットロの中に入っていく。入り口から乗り場までは五時間も並べるだけあって距離が少しあるから、ニャアは歩きにゃがらこのアトラクションのストーリーを語る事にした。

 別に頼まれていにゃいけどサービスにゃ。話が分かって乗った方が楽しいに決まっているからね! 


「まず、今いるエリアはどこか分かるかに?」


 炭鉱の歴史や使っていた道具が飾られて資料館のようになっている入り口付近。それらを感心したように眺めるヒサメに、ニャアはクイズを出してみた。


「ん? ええッと、【かんとりぃ・りばぁさいど】ってところだよネェ」


 園内マップを確認して、ヒサメは答える。


「正解にゃ!」


 賑やかにゃ街から離れ、自然に囲まれた超ド田舎。そこには大きな河が流れていて、その周辺には小動物達や人間が暮らしている。そしてかつては稼働していた炭鉱があり、今でも何か埋まっているんじゃないかと夢見て他所から人がやってくる。

 以上がこの【カントリー・リバーサイド】の公式にゃ紹介文で、炭鉱というのがこれから乗るアトラクションだ。


「今から乗るのは、デッド of トロッコっていうアトラクションにゃんだけど、ニャア達はまだ埋まっているお宝に夢を見て廃炭鉱にやってきた! という設定でアトラクションに乗るんだに」

「もう乗り物の名前からして嫌な予感しかないけどネェ」

「大正解にゃ!」


 デットロの炭鉱はなぜ廃れたかというと、ガスを掘り当てる事故が多発して、止む無く放棄されたという背景がある。つまり掘り尽くされた訳じゃにゃいから、一攫千金を夢見て忍び込む人が後を絶たにゃい設定だね。


「ヒサメんはデットロ乗った事あるのかにゃ?」

あかざはァ、絶叫系乗らないからないネェ」

「そうにゃの? じゃあネタバレはしにゃいでおくにゃ」


 遠回しに乗った事はないと答えたヒサメに配慮して、ニャアはこの先の展開を話さにゃい事にした。

 ちょっとしたビックリポイントとかあるから、運が良ければビクッとするヒサメが見れるかもしれにゃいし! 


「みなさん、デッド of トロッコへようこそ! この先は廃棄された炭鉱……」


 キャストさんのニャレーションが聞こえてきて、ニャア達はいよいよ乗り場に到着した。前に他のお客さんの姿はにゃく、もしかしにゃくてもこれが狙っていた一番乗りかもしれにゃい! 

 特別な演出がある訳でもにゃいけど、勝手にテンションを上げてトロッコ型の乗り物に乗り込む。本来にゃら一列二人の計三列で六人乗りの乗り物だけど、後ろもまだお客さんが来ていにゃいからヒサメと二人で出発! 

 セーフバーが下りてきて、キャストさんがしっかり下されたかチェックする。


「ランプよし! ピッケルよし! 周囲に人影は……ありませんね! それでは、気をつけて行ってらっしゃ〜い!」


 そんにゃ号令とともに、トロッコがガタンと揺れてゆっくり進み出した。徐々に加速するでもにゃく、坂を登る訳でもにゃくゆったりと炭鉱の奥へと向かって行く。

 少しすると、薄暗い炭鉱の中でランプを片手に持つ人、早速壁面をピッケルで削る人が見えてきた。カンッと高い音が鳴り、火花が散る演出も見える。


「へぇ〜良く出来ているネェ」

「こういう所に隠れピギョがいたりするから探してみるのも楽しいにゃ!」


 他に人がいにゃいから雑談を挟みつつ、両側を流れる採掘現場を堪能する。

 そして案の定と言うべきか、一つ角を曲がった瞬間にフシューという音が聞こえて来て、周りには慌てる人達が……


「うぉあっ」


 Run away! という掛け声と同時に急加速。

 ここが最初のビックリポイントで、見事引っかかったヒサメにニャアもニンマリにゃ! 

 掘り当ててしまった可燃性のガスから逃れるため、ぐんぐん加速しにゃがら右へ左へと急旋回。


「ヒャッハー!! これぞ遠心力にゃあああ!!!」


 ようやくジェットコースターらしくにゃったから、両手を上げて思いっきり叫ぶ! 

 道中時々小石に乗り上げるようにトロッコが跳ねて、落下感も味わえた。

 さらに終盤で、


「ピィギョェアアァアアア!?」


 ——ガシャーん!! 


 炭鉱内で飛んでいたピギョ(ホログラム)がトロッコに衝突して、激しい揺れとともにランプが落下。中の火がガスに触れて大爆発……

 背後から爆風と炎の熱を感じつつ、前へと高速で押し出されたトロッコは危うく壁に衝突! する寸前に、壁が崩れ落ちてトロッコは外に流れる河へとザブーン! 


「にゃっほ──────い!!」


 命からがらの脱出劇を経て、トロッコは河の中をゆっくり進みにゃがら入口とは反対側にある出口に辿り着いた。


「みなさん、おかえりなさい! どうやらまた爆発事故が起こってしまったようですね……ご無事でしょうか? セーフバーが上がりますので……」


 キャストさんの案内を耳にして、炭鉱を駆け抜けたトロッコの旅が終わったのだと実感する。

 ようやく今日はヒサメがいる事を思い出したニャアは、チラリと隣を見ると、


「あははッ、楽しかったネェ」


 満面の笑みを浮かべたヒサメと目が合った。

 ビックリしたのは最初だけで、バッチリ楽しめたのが分かってニャアもにっこり。


「ところでさァ、びっしょり濡れちゃったんだケド」

「あっ」


 河に突っ込んで濡れるのが常識過ぎて、事前に言うのを忘れていた。


「にゃは、ごめんにゃ?」


 この後めちゃくちゃタオルを買って全身を拭いた。

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