少し急ぎたいからダイジェストでお送りするんだにゃ!

【AM 11時 カントリー・リバーサイド】


 混む前に早めの昼食を! という事で、来た道を戻って『カントリーマム・シアター』という場所にやって来たにゃ!

 田舎のおばちゃん風の人形達が柔らかいクッキーを食べにゃがら、ドヤドヤと井戸端会議をしたり歌ったりする鑑賞型のアトラクションで、『マムの愛情たっぷり食堂』が併設されている。美味しすぎない家庭の味を絶妙に再現していて、特にカレーが無難に美味しいところがミソにゃのだ。


「なんて言うかァ、絶妙に寂れた場所だネェ……」

「ショーが普通に面白くにゃいからにゃ! でも座りたい時にはぴったりにゃ休憩所にゃんだに?」


 そしてもう一つ、このお店には大きな特徴があるんだにゃ。それは……


「ほ〜ら坊や達、ご飯が出来たわよぉ。良い子で待っててくれたかしらあ? はい、ママの愛情メガ盛りスペシャルカレーよ。たんとお食べ?」


 母親面した恰幅の良い年配女性が、エプロン姿で料理を運んできた。


「お、おお……」


 圧倒されるヒサメをよそに、ママはニャア達の頭を一撫でして「何かあったら呼ぶのよ?」と去っていく。


 そう! ここは誰もが子どもににゃれる場所! 注文時に希望を出せば名前を呼んでくれるし、お好みのママタイプを選んで全力でママプレイをしてくれる、マニアに人気の隠れスポットにゃのだ!!

 ちにゃみにニャアが注文したのは、アメリカンママスタイル。


「ネェ、まおサン……なんでココにィ?」

「誰でも坊やににゃれる夢の場所だにゃ? 母親の愛情が恋しい疲れた中年男性にオススメ!」

「いや、俺ぁお袋の愛情とか知らねぇし」

「それにゃら尚更ここで好きにゃだけ体験して行くにゃ?」

「えッ……結構デス」


 と、まあ冗談はさておき。

 ニャアがこのお店を選んだ本当の目的は、今運ばれた特大のカレーにあったりするのだ! 心にゃしかニャアを見るヒサメの目が冷たい!


「とりあえずサ、コノ かれぇ について聞いても良いかなァ?」


 両腕で抱え込めるサイズのカレーを指差して、ヒサメが言った。

 総重量十キロオーバー。総カロリーは、二十代男性が一日に必要にゃカロリーのおよそ十六倍! 三十合の白米に死ぬほどルーをかけ、これでもかとコロッケやカツやフライやソーセージやハンバーグを乗せたまさに愛情メガ盛りの一品!


「これはここの大食いチャレンジメニューにゃ。一人で一時間以内に食べ切れたらピギョの国の年パスが貰えるんだに! でも今のところ成功者零だとか」


 もちろんチャレンジさえしにゃければ、一人で食べる必要は全くにゃい。

 ヒサメんとにゃら食べれる気がして……! と言うのを建前にずっと気ににゃっていたこのカレーを、ヒサメのお金で食べようという魂胆にゃ。


「……まァ、言いたい事はイロイロあるけどサ。成功者ならもう出たみたいだヨォ」


 言われてヒサメの視線を追うと、店内の壁にチャレンジ成功者の記念写真が飾られていた。しかもそれは見慣れた紫紺の髪に無表情でピースする美丈夫イケメンの姿で……

 その前で頬を染めた女性達が、記念撮影をしていた。


「ソルディオ先生!? てか何あの写真映り! 絵画にゃの? 遠目に見てもバチくそイケメンにゃんですけどニャアも写真撮りたい撮ってよヒサメん!!!」


 きっと近い将来先生の写真は、ピギョの国のフォトスポットににゃる気がする。


 因みにこの後写真は撮って貰えたけど、カレーは全然食べられにゃくてヒサメに軽くお説教された。

 愛情はメガ盛りににゃっても、味は無難にゃままだった。




【PM 0時30分 ファンタジードリーム】


 お人形達を眺めにゃがら無心でカレーを食べる事一時間余り。泣く泣くギブアップしたニャア達は、次のエリアに向かっていた。


 《おとぎの国へようこそ! ここは誰もが夢見る不思議の国。ピギョ達と一緒に様々にゃプリンセスの世界を覗き見よう!》という謳い文句のテーマランド——ファンタジードリーム。

 中央にはピギョの国のシンボルにもにゃっている、フローリア城があったり、ピギョっとプリンセスの映画をモチーフにしたアトラクションが集まるにゃんだか楽しいエリアにゃ!


「胃が重いから、一先ひとまず見て周りにゃがらお土産買う感じで良いですかにゃ?」

「良いヨォ〜」

「じゃあフローリア城に行きますにゃ! ヒサメんにオススメのお土産があるんだに」


 そう言って、立派にゃ西洋風のお城にヒサメを連れて行く。

 

「見てこれ! このキャラリベルんにそっくりにゃ!」


 ニャアが指差したのは、『レヴィと雪の王子』という映画のキャラクター。氷の魔女の呪いで、心が冷たくなってしまった王子様を、心優しいレヴィちゃんが癒すストーリー! その雪の王子がリベルにそっくりだと、実は前から思っていたんだにゃ。


「あはははッ! ホントだァ、髪は銀だけどくたびれた顔が似てるッ」


 爆笑するヒサメを見て、ニャアの考えは間違いにゃかったと安心する。

 前髪で顔が半分隠れてるし、片眼鏡モノクルだってしていて、むしろリベルがモチーフにゃんじゃにゃいかって密かに疑っているくらいにゃ!


「面白いからァ、りべるクンのお土産にしヨォ〜」


 言いにゃがら、ヒサメは雪の王子の肖像画風パズルを手に取った。……嫌がらせかにゃ?


「まおサンはァ、この剣を例の彼のお土産に買ったらァ?」


 名前は出していにゃいけど、多分ロラン先輩の事にゃんだろうにゃ……ちょっと煽り力高すぎじゃにゃい?


 この剣はフローリア城の近衛騎士の剣で、騎士道について説いてくるロラン先輩に考えれば考えるほどピッタリにゃ気がしてきた。


「にゃはははっ! ヒサメんも悪よのぅ」


 マオ・リリベルは レプリカの剣を 手に入れた!


 *


 次に向かったのは、『ピギョの国のアイリス』をモチーフにした建物。ピギョだけが暮らす不思議の国に迷い込んだ女の子が、冒険しにゃがらピギョ達と心を通わせるピギョフルストーリー。

 ここのお土産屋さんでは、ティータイムにピッタリのグッズが沢山買えるんだにゃ!


「ここで売ってる紅茶が美味しいって評判にゃんだって」

「へェ〜じゃァ、あーるサンのお土産に買って行こうかなァ」

「ほほう? 一生徒に、教師がお土産にゃんて買って良いのかにゃ?」

「あははッ、勿論保健室で淹れて貰う用だヨォ」

「クソだにゃ〜」


 地味に種類がある紅茶の前で物色を始めたヒサメを尻目に、ニャアは紅茶クッキーを取ってレジへ向かった。

 これはエルラルにあげるお土産にゃのだ!

 ピギョのティーパーティーでアイリスが口にしたクッキーをモチーフにしていて、味は紅茶にゃのに見た目はトマト。知らにゃいで食べると、一瞬脳味噌が混乱する。エルラルの好きなキノコはPの国じゃ買えにゃいからこれで許して欲しい。



 この後、アトラクションにもせっかくだから乗った。

 ティーカップを走らせてゴールを目指す、ゴーカートみたいにゃアトラクションで、ティーカップだからカーブでめっちゃ回転する。

 ニャアもヒサメもゴールした頃には、普通にカレーが戻りそうで死にかけた。




【PM2時 フューチャーワールド】


 ここは一足先に科学技術が発展した未来都市。世界一周の旅は勿論の事、宇宙にだってひとっ飛び。機械仕掛けの要塞や、高層ビルも見学できて……


 いつもの如くエリアの紹介文を読み上げにゃがら、ニャア達が向かったのは『不穏程度タワー』というアトラクション。

 にゃんと待ち時間は三時間! デットロに並ぶPの国人気絶叫系の一つ。


「今の期間は不穏程度レベル七だって!」

「へェ……で、何ソレ?」

「平たく言えば恐怖レベルにゃ」


 不穏程度タワーは、機械仕掛けの要塞見学ツアーにゃるノリでゴンドラに乗って中に入り、秒で事件が起きて不穏にゃ空気に……そしてお化け屋敷に様変わりした中を見た最後、暴走した機械によって監視塔の天辺に連れて行かれて自由落下する。

 不穏程度レベルは高いほどお化け屋敷パートの怖さと、落下する回数が増える仕組みにゃのだ。


 そしてレベル七といえば、ゾンビと機械人形が溢れ、落下回数も七回という一番ヤバイ状態。


「にゃあああああああーーーー!!!」

「わァああああああーーー!!」


 落下に合わせて万歳して叫ぶ!

 意外とヒサメもノリ良く合わせてくれて、二人して存分にアトラクションを楽しんだ。


 でもカレーはやっぱり戻りかけた。




【PM5時】


 ティータイムとか夕食とか、いろいろ考える時間だけど、カレーが消化しきれにゃい現状もう諦めるしかにゃい。


「夜のパレードまで、軽いショウを見たりアトラクションに乗ったりで良いかにゃ?」

「良いヨォ〜」


 二つ返事で了承してくれたヒサメにお礼を言いつつ、いくつかのエリアを渡り歩きにゃがら、ピギョと会話したりピギョと空飛んだり、ピギョ達のコンサートを聞いたりで楽しい時間を過ごす。


 そして……




【PM 8時 ワールド・ユニオン】


 ニャイトパレードの時間ににゃり、ニャアはヒサメを連れて穴場スポットへと向かった。

 終点付近のスポットだから、パレードが始まってから向かっても間に合うし、鑑賞スペースが片側にしかにゃいからキャストさんが背中を向ける事もにゃいという最高過ぎる穴場で人も比較的に少にゃめ!

 席取りしてにゃいから流石に立ち見だけど、見えればニャアは満足にゃのだ。


 賑やかにゃ音楽が少しずつ近づいてくるのを楽しむ事十分ちょい。キラキラと電飾で飾られたフロート乗り物とダンサー達がやってきた。

 様々にゃピギョ映画を元にしたフロートと、乗っているキャストさん達。ピギョの国の集大成としか言いようがにゃいこのパレードは、ピギョ教徒として見逃せにゃい!


 動物からフェアリー、ドラゴンと流れ、ピギョっとプリンセスシリーズのフロートがやって来た。曲もそれに合わせて舞踏会をイメージさせる三拍子の曲に。

 手を取り合って踊るレヴィと雪の王子を見ていると……


「Shall we dance?」

「にゃんだって?」


 流暢にゃ英語に驚いて、ニャアはヒサメの方を振り向いた。

 見慣れた胡散臭い顔の男は、片手を差し出していて、固まるニャアを見て同じ台詞を繰り返す。


「しゃる うぃー だんす?」

「いや、さっきもうちょっとマトモに喋れてたよね?」


 そう言っても、ヒサメはとぼける様に首を傾げるだけだった。

 穴場スポットだけど人の目はどうしてもあるし狭いんだから、急に踊れる訳にゃいじゃん。

 それに、


「にゃはは! そうやって格好つけるの似合わにゃいよ」

「えェーやって損したァ」


 子どもっぽく唇を尖らせて、ヒサメは手を引っ込める。

 それからちょっと何か考えるようにした後、ニャアの耳元で囁いた。


「まおサンって俺にだけ厳しいよネェ……これが特別って奴かなァ?」

「黙らっしゃい! ニャアの優しさは働かにゃい人には向かにゃいだけです!」


 ドンっ、とヒサメを突き飛ばし、ニャアはパレードに視線を戻す。

 背後ではヒサメが大笑いしている声が聞こえてきて、「雰囲気出ないなァ〜」にゃんてボヤいてきた。


「あんまり遊び過ぎると、妹さんに浮気だと怒られるにゃ?」

「あははッ、それは困るネェ」


 そうこうしている内に、花火が次々と打ち上げられ、パレードは終盤を迎える。

 

 いよいよ帰る時間が近づいてきた。




【PM10時】


 パレードの最後の一人を見送って、ゲート付近に戻ってヒサメの妹さんに頼まれた買い物を済ませる。

 そして閉園時間はやってきて——


「そろそろ帰る時間だネェ」

「楽しかったにゃー!」


 いきにゃりヒサメがついて来て、初めはどうにゃるかと思ったけど意外と楽しい時間を過ごせたにゃ……

 帰るのが寂しいと感じるくらいには。


 お互い手には大量の荷物を持って、ゲートを潜って外に出る。


「さようにゃら夢の時間! ただいま現実にゃ!!」

「大袈裟だネェ〜」

「だって明日から学校にゃんだよ!? もう信じられにゃい……」


 帰ってお土産の整理をする時が、一番寂しくにゃるやつにゃ。だって夢の残滓に触れているみたいで、辛くにゃらにゃい?


「でも学校も楽しいでショ」

「まあね!」


 明日エルラルに何話そう? とか、先輩達お土産喜んでくれるかにゃ? とか、考えるのはアリかもしれにゃい。

 感傷的ににゃった気持ちを一瞬で向上させ、ニャアは駅に向かう事にした。ヒサメはどうやら別方向らしい。


「本当はァ、大人として送ってあげるべきなんどろうけどネェ」

「今更ヒサメんの働きににゃんて期待してにゃいにゃ! それに、妹さんが待ってるんでしょ?」

「そうなんだヨォ、帰らなきゃ」


 これが欲望に忠実にゃ大人の姿である。


「それで良いにゃ」

「あははッ、ありがとうネェ」

「お礼を言うのはニャアの方にゃ」


 色々お金出してもらったし、話し相手がいる待ち時間は退屈しにゃかった。


「ヒサメん今日はありがとう! 楽しすぎて、一人遊園地に戻れにゃくにゃったらどう責任取ってくれるのかにゃ?」

「じゃァまた誘ってもらおうかなァ?」

「浮気ダメ絶対!」

「あははははッ!!」


 バイバイと手を振って、今度こそ帰路に着く。

 

 ヒサメの意外にゃ一面が、見れた様にゃ見れにゃかったようにゃ……そんにゃ楽しくて、ちょっと特別にゃ一日だった。

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