最適解

「……良く頑張ったな、マオ」

「はいにゃ!」


 細やかにゃがらも嬉しすぎる一言を添えられて、ソルディオ先生から中間テストの結果がまとめられた表を受け取った。


 時はテスト期間から一週間後、それぞれのテストが返却された頃。

 あれから程よく休憩しにゃがら普通に寝て、そこそこ勉強したニャアの集大成が記された表が、今やっと配られた。

 

 既にテストは返されているから結果を知ってるとはいえ、ニャアはこの表を見てニヤけるのを止められそうもにゃい。


「上々過ぎてニャアの才能が怖いくらいにゃ」


 各科目の得点は平均点を超えているし、総合得点で出された学内順位も中の上くらいで、一週間クオリティにしてはニャア凄くにゃい? 天才じゃにゃい? と自惚れちゃう。


「はぁ……アンタはご機嫌ね……」

「エルラルだって、赤点はにゃかったんだに?」


 同じく返された表を手に、どこか不満そうにゃエルラルがボヤいた。


「普段寝てる奴と同じくらいの点数しか取れなかったら、落ち込みたくもなるわよ……」

「にゃはは、それ程でも〜」

「褒めてないんだけど」


 ぷくっとエルラルが頬を膨らませたから、指でつついてしぼませる。


「どうせなら赤点の一つでも取ってくれれば良かったのに」

「それはできにゃいにゃ」


 聞き捨てにゃらにゃいセリフに即答すると、エルラルの頬がまた膨らんだ。


 にゃはは、拗ねてる拗ねてる。

 まあ面白くにゃいと思う気持ちは良く分かるけど、ニャアにも赤点を取れにゃい理由があるんだに?


「だって、せっかくエルラルがノートを貸してくれたのに、無駄にするにゃんて事できにゃいにゃ」


 借りてる間はエルラルの勉強を妨げてた訳だしね。


「…………」

「ニャアがこんにゃに頑張れたのはエルラルのおかげにゃんだに?」


 その後、ピシリと固まってしまったエルラルの前で、ニャアはありとあらゆる賛辞を並べて見せたにゃ。

 ノートのまとめ方が如何に分かりやすいかから始まって、字が綺麗とか色使いが神センスとか、ネタ切れににゃったらノートの柄とか罫線の幅の具合とか、エルラルが「もう良いわよ!」と言うまでニャアの口は止まらにゃかった。


「だいたい最後の方ちょっとバカにしてない? 紙の質感とか厚さとか、わたしと関係ないじゃない!」

「バカにしてにゃいにゃ。そのノートを選んだエルラルの慧眼を褒めてるんだにゃ」

「バカじゃないの!?」

「バカじゃにゃいのは今回のテストで証明されたにゃ!」


 ドヤ顔で言い切ってしまえば、エルラルも黙るしかにゃかった。不服そうに口を曲げ、ニャアから顔を背ける。


「ノートが役に立ったのなら良いわ」


 エルラルの表情は見えにゃいけれど、鍛え抜かれたマオちゃんアイが照れているのだと告げていた。


 にゃふふ、エルラルは可愛いにゃ〜にゃんて、声には出さずに笑みを深める。


「やっぱり次は一緒に勉強しようにゃ!」

「は?」

「同じノートにゃのに勉強効率が違ったんだから、きっとエルラルの勉強方法が悪かったんだに? だからニャアが勉強を教えるにゃ!!」

「……普段から真面目にノートを取るなら、考えてあげなくもないわ」


 やったー! エルラルからOK貰えたにゃ!!


 実質許可を得られたようにゃものだから、ニャアが舞い上がったのは言うまでもにゃい。



 ………………

 …………

 ……

 

 

 そして、昼休み。

 エルラルが部活のミーティングに行ってしまったから、ニャアはふらりとある掲示板の前にやってきた。

 そうこの掲示板には、学内順位トップ二十が総合得点と共に張り出されていて、成績優秀者が一目瞭然にゃのである。


「えーと、三年生の一番は〜っと」


 中の上程度の成績しかにゃいニャアはここに名前が載るはずもにゃいと分かっているので、ここへ見にきたのはもちろんあの人の名前にゃ。


「マオさん、こんにちは」

「アール先輩!!」


 配られた点数表で自分の順位が分かっても、次の順位の人との点差は気ににゃってしまうもの!

 掲載初日のこの時間にゃら、ここでアール先輩に会えるというニャアの目論見は見事大成功! ってところかにゃ。

 マオちゃんアンテニャが方々からキャッチした先輩に会いたいと言う声を、見事叶えたニャアを褒めてくれても良いんだに?


「こんにちは! 今回も見事一位おめでとうございますにゃ」

「ありがとうございます」


 お互いに挨拶を交わし、アール先輩は掲示板を確認した。


「ああ、今回はやはり危なかったですね……」


 眉を下げて呟く先輩につられて、ニャアももう一度順位表を確認すれば、アール先輩と二位の人との点差が僅か十点しかにゃいことを知った。


 にゃにゃっ、先輩が落ち込んでいる!? にゃんか慰めにゃければ……!!


 必死に頭を動かし、口を開こうとした時ーー


「くっ、あと五十点か……!!」


 すぐ隣からガッツリ悔しがる声が上がった。


「あ、ロラン」

「ん? マオか……先輩をつけろ」


 素で驚いたニャアの声に、ロランの方もこちらに気がつく。


 てか、にゃんでいるのかにゃ? 

 こんにゃところで会うにゃんてまったくの予想外にゃ!


「アール、今回も学年一位見事だった」

「いえ、ワタシなんてまだまだです」

「謙遜はせずとも良いだろう。アールが頑張っているのは周知の事実だ」

「え、そうなのですか?」

「ああ。自分も当然している」

「ありがとうございます……」


 何何? 何の話にゃ!?

 和やかに始まった二人の会話についていけず、ニャアは混乱する。

 初めは勉強の話と思っていたけれど、どうも違うっぽい……? むむむ、詳しく聞いて良いのかどうか……


「ではワタシは次の授業の予習がありますので、お先に失礼しますね」


 ニャアが悩んでいる間に、二人の話は終わってしまった。名残惜しいけど引き止めるほどの用もにゃいから、泣く泣くアール先輩とバイバイする。


「それで、ロランは何しに来たのさ」


 そして残ったロラン先輩に対して、恨みがましくにゃったニャアを許して欲しいにゃ。


「お前な……先輩をつけろとアレほど言ってるだろう」

「それで、ロラン先輩は何しに来たのさ」

「良し」


 良いのか。

 先輩がチョロくて荒んだ心が少しほっこりしたにゃ。


「自分はあとどのくらいで十位以内に入れるのか見に来たのだ」

「ふーーーん」


 見ればロラン先輩の名が最後の方に乗っている。

 それでさっきの後五十点か〜つまりアール先輩との点差は五十点どころじゃにゃ……あっ、これ以上はイケにゃいですね。


「マオこそテストはどうだったんだ?」

「もちろん全科目平均点を超えたにゃ! バッチリにゃ!」

「そうか! それは良かった!」


 まるで自分の事のように喜んでくれた先輩に、ニャアの良心がチクリと痛む。

 

 内心で悪態とかついちゃってごめんにゃさいぃぃいっ!!

 ドデカいアホ毛ピコピコ動かしちゃって! ニャアの良心に染みるに"ゃぁああああああ!!!!


 真っ直ぐすぎるロラン先輩の笑顔に、全ニャアが敗北した瞬間だった……



 ………………

 …………

 ……



 ロラン先輩と分かれたニャアは、ふらりと校内を適当に歩いていた。

 次の授業まではまだ時間があるし、にゃんとにゃく散歩したい気分だったんだに。

 特に理由もないけれど、人気の少ない方に足を向ける。


 たまには静かにゃのも良いにゃ〜と、思っているとーー


「なんなんだあのいい加減な答案は」


 廊下の曲がり角の先。

 突然聞こえてきたリベル様の声に、ニャアは立ち止まった。


「貴様はそうやって全科目でのか?」

「はい、申し訳ありません」


 詰問に答える声も聞き覚えのあるもので、これはガルレイド先輩かにゃ?


「他の科目で貴様がどうしようがとやかく言うつもりは無い。だが、俺様のテストで手を抜くのはやめたまえ」


 不愉快だ。と付け加えるリベル様は、見たこともにゃい程不機嫌で、その怒気が少し離れているニャアにまで届いて震えそうにゃ……

 それに対して、平謝りするガルレイド先輩も普段とは違った雰囲気だった。好青年然とした様子はにゃりを潜め、どこか硬い空気をまとっている。


「分かりました。次回はーー」

「なんだ。その程度の気持ちでやっていたのか……」

「え」

「一言注意されたら止める程度の気持ちで、点数調整などやっていたのかと言っているんだ」

「……申し訳ありません」

「カルム・グレイシアと同様にを取れとは言うまいよ。だが、貴様の本気を見せたまえ」


 えっ、カルム先輩が満点?! 赤点すれすれだって言ってたはずにゃのに、どういう事にゃ?


 二人の剣幕に黙って聞いていたニャアも、思わず反応しちゃうにゃ。


 ガルレイド先輩の平均点はわざとやった結果で、カルム先輩の赤点は嘘だったのかに……?


 詳しい事情が気ににゃって、ニャアは一層二人の話に集中しようと耳を立てた。

 だから気付けにゃかった。後ろからそっと近いている気配に。


「私はただ、分からないだけです」

「なに?」


 ガルレイド先輩が口を開く。


「────」


 と同時に、何者かの手によってニャアの耳が塞がれた。


「っ!?」


 盗み聞きしていたこともあって、とっさに悲鳴を飲み込めたニャアを誰か褒めて欲しい。

 バッと振り向けば、はるか頭上から背の高いカルム先輩がニャアを見下ろしていた。


「にゃ、にゃにしているんですか……」


 ばくばく煩い心臓を押さえて、先輩に小声で抗議する。

 しかしそのカルム先輩はいつも通り何も言う事はにゃく、暫くジッと見つめてきたかと思うと顔を上げてニャアの後ろに視線をやった。


「あれ、マオちゃんだ。こんなところでどうしたの?」

「にゃっ!?」


 いつの間に会話を終わらせたガルレイド先輩が、驚いたように声を掛けてくる。


 うう、肝心にゃとこ聞き逃したにゃぁ……


「はは、盗み聞きは良くないってカルム兄が言ってるね」

「ヌスミギキシテニャイヨ。トオリカカッタダケデスヨ」

「そうなの?」


 気まずいから思わず否定しちゃった事で、詳しく聞く事もできにゃくにゃった。


「あっ、それより! 先輩が勉強教えてくれたおかげで、無事平均点超えられたんですにゃ!!」

「そっか。おめでとう」


 もうこうにゃったら、さっさと話題を変えてしまおう。うんうん。

 良く頑張ったと思うよ。にゃんて褒められつつ、ニャアは先輩二人と連れ立って教室へと向かう。




 こうして、いろいろあったニャアのテスト期間は無事終了したのであった。



──────────


エルラルの こうかんどが 1 あがった。


①死ぬ気で勉強する! 目指せ主席!!

 45%

②程良く勉強するにゃ。無理はよくにゃい。

 45%

③もう勉強とかしにゃくて大丈夫でしょ!

 9%


①と②が同票だったため、より良い結果になる②が自動で選ばれました。





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