筋肉は爆発にゃっ!!

「マオさん……応援、してくださいますか?」


 期待に満ちたアール先輩の目。

 応援するわけにゃいだろうがコンニャロー! 断固拒否にゃっ!!!! って叫び散らしたいけど、ぐっと我慢にゃ。


 アール先輩は女の子に間違われてしまう自分の容姿をとっても気にしているにゃ。

』が夢みたいにゃもの。

 ここでニャアが断固拒否にゃんてしたら、先輩の夢を否定したことににゃらにゃいかに? 先輩傷ついてしまわにゃいかに?

 ニャアの気持ちは断固拒否だけど、好感度を下げる覚悟で言う勇気はにゃいにゃ!


 だからと言って、肯定したり言葉を濁して肯定と取られても困るに! 

 先輩の好感度は上がっても、ニャアの一言で先輩の体型が逆三角形ににゃったら、アール先輩のファンにぶち殺されるにゃ! 

 何よりニャアが嫌にゃ!


「……マオさん?」


 う、ぐ……

 ずっと黙っていたら不審だよにゃぁ……

 でもニャアの口からはとてもじゃにゃいけど言えにゃい!

 こんにゃ時は──


 助けてぇ、ヒサメてんてぇーー!


 そんにゃ思いを込めて、ニャアはヒサメに熱い視線を送った。


「ネェネェ、あーるサン」

「なんでしょうか、ヒサメ先生」


 おっ、ニャアの気持ちが届いたのかにゃ?

 不意にヒサメがアール先輩に話しかけた。


「あーるサンはァ、普段どんな とれぇにんぐ しているのかなァ?」

「トレーニングですか?」

「うん〜だって気になるよネェ? まおサン」

「え、アッハイ!」


 ヒサメの意図はちょっと分からにゃいけれど、多分助けてくれるんだと信じて肯定してみる。

 するとアール先輩は顔を輝かせて、トレーニングメニューを話し始めた。


「腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10km。これを毎日やっています」


 ……それ、どこのワンパンで敵を倒すヒーローのメニューかにゃ?

 

「それから運動前にはBCAA必須アミノ酸、運動後はプロテインを摂取しています」

「なるほどネェ〜」

「本当はジムなどに通ってみっちり鍛えたかったのですが、我が家はそこまでお金に余裕がなくて……母様に相談したところ、今のメニューを調べて教えてくださいました!」


 ……にゃるほど。

 ニャアは筋トレとかあまり詳しくにゃいけど、想像していた筋トレメニューと違うのはそういう理由にゃのね。

 ビルダー目指すにゃらもっとこう、ベンチプレスみたいにゃマシン? を使う系のイメージだったにゃ。


「ですが今のメニューではあまり効果を実感できず……負荷が足りないのでしょうか?」


 どこかショボくれた様子で語る先輩の話を、ヒサメがウンウン頷きにゃがら聞いている。

 その姿は、珍しく真剣に見えるけど……


 ま、待つにゃヒサメん! 真剣に悩みを聞いちゃったら、アール先輩がムキムキににゃっちゃう!


「じゃあサ、あーるサン。一寸ちょっと力こぶを作って見てくれなァい?」

「ええ、構いませんよ」


 言われた通り、アール先輩は素直に右腕を軽く握ってみせた。

 半袖から覗いた白い柔肌が突如パァン! とはち切れることもにゃく、均整の取れたちょうど良い筋肉があらわににゃる。


 それを見て、ニャアは普通に興奮したのと同時にホッとした。

 良かった……某漫画みたいに服が弾け飛ばにゃくて……


「あァ〜ソレもう駄目だネェ」


 だけどアール先輩の筋肉を見たヒサメは、何故か死刑宣告でもするかのようにゃ暗い面持ちで首を振る。


「あーるサンはァ、これ以上鍛えちゃ駄目なのサ」

「……どういう意味でしょうか?」

「ん? そのまんまだヨォ」


 どこまでも真剣に、ヒサメがアール先輩を見据えた。


「良いかなァ? 筋肉って言うのはネェ、破壊と再生を繰り返して大きくなるんだヨォ。筋トレはまさに筋肉に負荷をかけて破壊し、再生させることで鍛えているんだよネェ。プロテインとかは再生を手伝う栄養素って感じでサ」


 あーにゃんか、テレビかにゃんかで聞いたことあるようにゃ話だに。確か筋トレ後の超回復がどうのって……


「でもネェ、人間誰しも限界があるんだヨォ? 限界を超えて筋肉は大きくならないのサ。その上限は人それぞれでェ、俗に才能と呼ばれるんだけど……あーるサンの筋肉はァ、見た感じもう限界なんだよネェ」

「つまり、ワタシはこれ以上筋肉がつかない……と?」

「ウン、そう」


 それは先輩にとっては絶望的にゃ事実。

 どれだけ鍛えても、ムキムキ逆三角形にはにゃれにゃいと言うまさに死刑宣告で──


「つまりネェ、あーるサンの筋肉はもう限界だからァ、今以上のォ とれぇにんぐ をすると、なんやかんやあって筋肉が爆発するヨォ☆」


 って、んにゃ訳あるかいっ!!


 いやいやいや、何その超理論。

 危うく吹き出しそうににゃったにゃ! てか、もしお茶でも飲んでたら絶対吹いてたにゃっ!!


 だいたい爆発とかにゃいでしょ! 大事件だにゃ?!

 ちょっと筋トレ頑張りすぎただけで爆発したら、今頃ネットで大騒ぎににゃって周知の事実ににゃってるにゃ。

 

 嘘つくにゃらもっと真面目にやって!

 もうアール先輩だって嘘だと気づいて──


「そんな、ことが……」


 信じてるぅうう!?

 

「信じられないかなァ?」

「だって、まさかそのような事……」

「でも俺T大だヨォ? あのT大を首席で卒業した俺が言ってるんだヨォ?」


 酷いゴリ押しを見たにゃ。


「あのネェ、ココだけの話なんだけどサ……筋肉爆発事故は既に論文が発表されていて、全ての すぽぉつとれぇなぁ には周知の事実なんだヨォ? でも一般には情報規制されてるのォ。なんでか分かるかなァ?」

「いいえ……」

「全 ぼでぃびるだぁ を目指す若者達がァ、筋とれはァ怖いモノだと思わせないようにって配慮だヨォ」


 んにゃ訳あるかいっ!! (二度目)

 そんにゃ、ハッとした顔しにゃいでアール先輩!


 ニャアの心のツッコミ虚しく、この先もヒサメの口はよく回った。ハムスターの回し車のように……

 

 ジムトレーニャーが云々かんぬん。

 筋肉が遺伝がペラペラペラペラ。


 アール先輩はだんだんと青ざめて行き、よく見るとヒサメは笑いを堪えすぎてプルプル震えていた。

 うん、にゃんだろう。このカオスにゃ現場は……


「つまりワタシがボディビルダーになるのは」

「無ッ理〜☆」

「あぁっ……」


 若くして夢を絶たれた先輩が、真っ白に燃え尽きる。

 ヒサメの 言いくるめ。 

 効果は 抜群のようだ!


「でも今の めにゅ〜 はァ、筋力を落とさないために続けた方が良いと思うヨォ」

「……はい」


 にゃんにゃんだ、この純粋で可愛い先輩はっ!

 そしてにゃんで学年首席取れたんだっ!


「だってェ〜あーるサンが成績良いのはァ、ぼっち 過ぎて勉強以外にやる事がないからだよネェ?」

「ヒサメ先生!? 突然何を」

「でも事実でショ?」

「違いますよ! 特別趣味がありませんので、余った時間を勉強に当てているだけです!」


 今度アール先輩を遊びに誘うおう……ニャアは密かに決意した。

 あと、マッチョ阻止のためにヒサメんに頼ってごめんにゃさい。

 まさかこうもすんにゃり騙されるとは……


「ヒサメんって、アール先輩に詳しいんだにゃ……」

「そりゃあネ、俺達仲良しだからァ」

「えっ」

「エッ?」


 どうやら仲良しというのはヒサメの片思いだったようだ。

 にゃむぽくぽくちーん。ご愁傷様。



 そしてこの騒ぎを経て、ニャアはアール先輩に対するイメージがちょっと変わった。



────────────────


ヒサメの 好感度が ひっそり 上がった!


①断固拒否にゃ!!!!    33%

②言葉を濁しちゃうにゃ。   8%

③ヒサメに助けを求める…… 58%



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