散歩

 音山の誤解を解いた俺は、死ぬほどうざい姉貴を引っ張りながら、入口から一番近い席へと座った。

「ねね。翔は何を食べる?」

 メニューを見ながら、目を輝かせて姉貴は言う。

 なに。何でこの人子供みたいにはしゃいでるの。

「俺は普通に、チキンドリアでも食べようかと」

 メニューを見ながら、俺は答える。

「ドリア?あんた、そんなんで足りるの?」


「え。まあ、足りるけど」


「嘘でしょ!?これで足りるの!?あんた本当に男?」


「男だわ」


「それでもさぁ、ドリアって。ファミレスなら普通ハンバーグとかじゃない?」


「は?お前、ファミレスのドリアを舐めるなよ?」

 テーブルに手をつき、身を乗り出して俺は言う。

 

「ファミレスのドリアはなぁ。低価格で、味も美味しい、そして腹も満たすで最強のファミレス料理なんだぞ!」

 おっと。つい、熱弁をしてしまった。

 まあ、しょうがない。ファミレスのドリアを侮辱されたんだ。

 これぐらい言ってやんないと、気が済まない。

「お、おお。そうか、なら良いんだけど」

 そう言って、姉貴は店員を呼ぶためのボタンを押す。

 ポッポーという、鳩の音が店内に鳴り響く。

 何だ今の音、少し恥ずかしくなるな。


* * * * * *



「美味しかったなー」

 ふわーとあくびをしながら、お腹をさする姉貴。

 ご飯を食べ終えた俺たちは、会計を終え、バイト終わりの音山と共に、店の外に出ていた。

 確かに美味しかったなぁチキンドリア。さすが、チキンドリア。ほんと最強。


「あのー、私って、あなたとどこかでお会いしましたっけ」

 姉貴の方を見ながら、音山が聞く。


「うーん。会ったことはないと思うけど、見たことはあるんじゃない? 私去年、生徒会長やってたから」

 そう言った姉貴は、心なしか胸を張っているような気がした。


「え……。ああ!本当だ!」

 目と口を丸くしながら、驚いた声を出す音山。

 っていうか、気付いてなかったのかよ。


「え……。って事は、天谷くんって生徒会長の弟だったの!?」

 目と口は丸いまんま、今度は俺の方を見てくる音山。

 気持ちいいほどに、驚きのリアクションをするなこいつ。

 リアクション芸人とかなれるんじゃない。


「まあ、そりゃそうだろ」

 キラキラとした目で、俺を見てくる音山から顔を逸らして、俺は言う。


「へー。あ。私はこっちだから、バイバイ天谷くん」

 分かれ道に差し掛かったところで、キラキラした笑顔で別れを告げる音山。


「お、おお。じゃあな」

 そう言った後、音山は俺たちの帰り道の反対側の道を走っていく。


「なんか、元気な子だったねー」

 音山の後ろ姿を見ながら、姉貴は呟くように言う。


「じゃあ、さっさと俺らも帰ろうぜ」


「ねえ。帰りにコンビニ寄ってアイス買って行かない?」

 まるで、子供のような無邪気な笑みを浮かべながら、姉貴は言う。

 うわー。去年は、クールでカッコいい生徒会長とか言われてたのになー。

 今やこれだよ。

 本当、姉貴に憧れてた生徒達が泣くぞ。


「アイス?嫌だよ、こんな寒いのに」


「えー。いいじゃん、別に翔はアイス買わなくても良いわけだし」

 そう言って俺の腕を引っ張り、走り出す姉貴。


「分かった。分かったから。引っ張るな」

 いやはや、姉貴との散歩はまだ続きそうだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る