石で作られたベンチは、とても冷たく硬い。

 家から少し離れた、公園の一角。僕は一人、ベンチに座っていた。

 冷たい風に吹かれながら、キュルーとお腹が鳴る。

「最近あんまり食べてなかったからなー」

 お腹の方を押さえながら、僕は一人で呟く。

 最近、一日一食の生活が続いてた故に、お腹が空くのも仕方がない。

 ただ、無一文の僕には食べものを手に入れる方法が無いに等しい。

 まさか、盗みを働くなんて出来ないし。

 はー。どうしたことやら。家に帰れば、少しくらい食べ物はあるだろうけど。

 いや、そんなことを考えたらダメだ。我慢よ香月沙也。もう、あんな家には帰りたくないんだ。

 僕は、顔をブルブルと振り、思考を他のことへ回そうと、頭をフル回転させる

 あ。と僕は、あの日を思い出す。

「そういえば、あいつと初めて会ったのは、ここだったっけ」

 いや、正確には学校の屋上だったか。

 そう呟いて、僕はあいつのことを思い出す。

 イケメンで、どこか捻くれてて、死んだような目をしてて、自分のことを村人Fと偽った、勇者のことを。

 今思えば、あいつの名前知らないな。

 最近、やたらとあいつと絡むことが多かったけど、僕はあいつの名前すら知らなかったのか。

 っていうか、僕もあいつに名乗ってない気がする。

 じゃあ、なんであいつは僕の名前を知っているんだ。

 なんてことを考えて、お腹が空いていることを忘れようとする。

 いや、忘れられない。

 いくら考えても、全て最後に、でもお腹減ってるしなーと付いてしまう。

 やばい、どうしよう。お金も使い切ってしまったし。

 このまま僕は飢えて死ぬのか? そんな、最悪の事態までもが頭に過ってしまう。

 なんとか、明日の昼まで耐えることができれば、学校で誰かから貰えると思うんだけど。

 この調子じゃ、耐えられないぞ。

「にゃー」

 にゃー? なに、僕のお腹ってそんな個性的な鳴き方するの?

 そんなことを思っていると、足の方から何かくすぐられているような感覚がする。

 恐る恐る、僕は視線を下へと移す。

 すると、全身真っ黒の毛に覆われた猫が、僕の足にすり寄っていた。

 な、なんだこの猫……。めちゃくちゃカッコいいじゃないか!

 僕は、椅子から立ち上がり、猫を持ち上げ天に掲げる。

 これは、あれだな。魔女とかが飼ってるやつだよな。

 黒猫。かっこいい!しかも、可愛い!うひょー。やっぱり猫は可愛いなあ。

 と、テンションが最高潮に到達した時だった。

 キュルーと、僕のお腹が鳴る。

「…………」

 な、なんで。なんで今なるんだよ!今、忘れかけてただろ。

 おかげで、お腹が空いてること思い出しちゃったよ。

 僕は、下がりきったテンションのまま、掲げてた猫を椅子に座らせる。

 それに、目線を合わせるように僕は、椅子の前にしゃがみ込む。

「お前も、一人なのか?」

 猫の頭を撫でながら、僕は優しい声で言う。

「にゃー」

 撫でられながら、手を離せと言わんばかりに猫は鳴く。

「あはは。この手は離してやらないぞ? なぜならそれは、君が可愛いからだー」

 撫でる手を止めずに、僕はニコリと笑いながら言う。

 後ろから近寄ってくる、二人の足跡にも気付かずに。

 

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