夜道を歩く、二人の姉弟。

 ドアを開けると、外はもう既に真っ暗で、空を見上げれば、綺麗な星が輝いていた。

 六月になったと言われても、寒がりの俺にとってはいつの季節になっても、夜中というものは敵である。

 寒い。まじで寒い。パーカーを一枚羽織ってはいるのだが、それでも寒さを感じてしまう。

「よし、行くぞー」

 靴をトントンとしながら、姉貴は気の抜けた声で言う。

「良いけど。そもそも、なんで食べに行くの」

 俺は、聞き忘れていた疑問を姉貴に投げかける。

「単純に、作るのが面倒だったから」

 そう言って、あははーと頬を緩めた姉貴。

 それを言われたら、反論ができない。

 天谷家の家事は、親がいないので姉貴が全てを担当している。

 いや、これに関しては、俺も何か手伝うよと言ったのだけど、姉貴は頑なに、俺に家事をさせようとしなかった。

 俺だって、中学の時は一人で暮らしてたから、それなりの家事スキルは要しているのだが。

 料理だって、出来るし。って言うか、姉貴が作らないのなら、俺が作ったらよかったのでは?と、もう遅い気づきに若干、項垂れながら、俺は姉貴の横を歩く。

「それで、どこに食べ行くんだ?」


「ファミレス」

 淡々と、進行方向を見ながら姉貴は言った。

 ファミレスか。確か、近くに一個あった気がするな。

 まあ、なんだかんだ言って、ファミレスが一番良いよな。

 美味しいし、安いし、早いしでもう最強。

 なんかもう、安心だよね。謎の安心感があるよね。

 言わば、飲食店界の実家と言っても差し支えないのではないだろうか。

 と、ファミレスについて脳内で語っていた俺に、姉貴が話しかけてくる。

「あんた、最近どんくらい告られた?」


「さぁ、覚えてない」


「普通、告白された回数くらい覚えてるでしょ」


「んなこと言われても、ほぼ毎日誰かに呼び出されてたからな」


「それで、誰かと付き合ったの?」


「そう見える?」


「まあ、見えないわね」


「姉貴は知ってるだろ?俺は、恋愛なんてしない」


「うわ。そのセリフ若干キモいよ」


「うるせ」


「だとしても、本気で彼女作らないの? あんた、結婚とかする気ある?」


「ない。全くない」


「はー。あんたの将来が心配だよ。お姉ちゃんは」


「姉貴だって彼氏いないだろ」

 その瞬間、姉貴の方から、ガラスにヒビが入ったような音が聞こえる。


「わ、私は、いないんじゃなくて、つ、作ってないだけだから、わ、私だって、ほ、本気を出せば、それなりに、モテる……はず」

 やばい。地雷を踏んだ。


「俺だって姉貴と一緒だよ、いないんじゃなくて、作らない」


「チッ。この、イケメンが」


「まあ、だから、姉貴もな、その、諦めるなよ?」


「こ、この野郎。一回、立場をわからせておいた方が良いようだな」


「ちょ、なに関節ポキポキ鳴らしてんの? ねえ、嘘だよね? 最近は体罰したらダメなんだよ?」


「うるせー。これは、スキンシップって言うんだよ!」

 それから俺の記憶はなく、目が覚めると何故か、ファミレスの目の前にいた。




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