家族。その6

 一人の少女が暗闇の中から、姿を現した。

 コンビニのビニール袋と、綺麗に結ばれたポニーテールを揺らしながら。

 誰だこいつ。いや、なんかどこかで見たことがある。

 誰だったっけか。なんか、クラス替えの最初の方に、喋ったような気がしなくもないこともない……。あ、思い出したわ。俺と音山が初めて会った時に一緒にいた子じゃん。

 名前は……春ちゃんの名字が桜って言ってたから……桜春華?そうだ、桜春華だ。

 多分。いや、確かにそうだった気がする。

 「あ、いた」

 そう、無表情で呟いたのは俺らの方ではなく、後ろで香月と戯れている春ちゃんの方を見ながら。

 その視線に気がついたのか、春ちゃんもこちらの方を向く。

 すると、香月と遊んでいたさっきまでの笑顔から、より一層口角を上げてにぱーと笑い言った。

「お姉ちゃん!」


「「「お姉ちゃん!?」」」

 一同、綺麗なほどに声がハモる。真彩を除いて。

 春ちゃんは、その、お姉ちゃんとやらの方に急いでかけより、胸の中にダイブした。

「よしよーし。もう、逸れたらダメだからなー」

 微笑みながら、そう言った少女は春ちゃんの頭を撫でる。

 そして、急なお姉ちゃんの登場に言葉も出ない俺たちの方に体を向ける。

「あ、あの、そ、その。い、妹がご迷惑をかけました」

 頭を九十度下げて春華は、そう言った。

「え、えっとー。ま、まあ、何はともあれ、これで一件落着かな」

 そう言いながら、額の汗を拭う一ノ瀬。

「あれ?でも、春ちゃんが逸れたのって、お母さんって言ってなかった?」

 ゆっくりと、こちらの方へ歩いてきながら香月は言った。

 確かに、そんなことを言っていたような言ってなかったような……。

 言ってたか。確かにママがいないって言ってたな。

「お母さん? ……私たちに母はいないですけど」

 腰に抱きつき、お姉ちゃんだーお姉ちゃんだー。とはしゃぐ春ちゃんを、華麗に無視しながら、桜春華はそう言った。

 …………え? どういうことなの? え、なにそれ、怖いんだけど。

「ちょ、ちょっと、ど、ど、どういうことよ」

 真彩の顔が、より一層恐怖に支配されていく。

「なるほど。闇に隠されし、謎の母親か……。見えるぞ、そこには魔王の気配が」

 やめろ。雰囲気ぶち壊しじゃねーか。魔王の気配なんて全くしねーよ。

 と、喉まで出かかったのをなんとか堪える。

「ま、まあ、細かいことは気にせずに……。後は、ここから出る方法だけだけど」

 一ノ瀬は、真相を知りたくないのか、あからさまに話を逸らす。

 ま、まあ確かに、春ちゃんが言ってたママのこととか、正直知りたくないもんな。

 怖いし。うん、そうしとこ。世の中知らない方がいいこともあるもんだ。



 

 

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