笑顔

 公園の周りをウロウロして、10分近くが経った頃だろうか。

 一向に、春ちゃんのお母さんは見つからず、段々と空が黒に埋められていく。

「さすがに疲れてきたな」

 電柱に手をついた、一ノ瀬が少し息を荒げながら言う。

「そうだな。って言うか、そろそろ誰か探しにきてもいいと思うんだけど」


「探しになんてくるもんなのか?」

 手を、自分のパーカーのポッケに戻した一ノ瀬が、俺に聞いてくる。

「だってほら、こんだけはぐれてたら、流石にもう警察とかに捜索願い的な何かを出してるんじゃないかって」


「確かに、それもそうだな」

 首をひねりながら一ノ瀬がそう、うなずく。

「も、もう!な、な、な、なんでも良いから、は、はやく、お、終わらせて!」

 一ノ瀬の後ろで、がっしりと腕に掴まってる真彩が叫ぶ。

「ちょ、ちょっと、真彩痛いから、そんなに掴まないで」

 

「だ、だってぇ。怖いんだもん」

 そう言いながら、上目遣いで一ノ瀬を見る真彩。

「そ、そうか、ま、まあ、怖いなら、別に腕を貸してあげてもいいけど」

 迫りくる真彩に、どこか上の空を見ながら一ノ瀬は言う。

「とにかく、一旦公園に戻ろうぜ」

 なんだか、百合っぽい展開になってる、一ノ瀬と真彩を遠い目で見ながら、俺は一つ提案をした。



* * * * * *


 薄暗く、不気味な雰囲気をかもしだしている空に、段々と月が登ってきた。

 公園まで戻ってきた俺たちは、これからどうするかについて、話し合っている最中だった。

 ちなみに、春ちゃんは公園にあったベンチに香月と一緒に座っている。

 妙に、子供の機嫌をとるのに手慣れている香月が見事なまでに春ちゃんの相手をしてくれている。

 まるで、お母さんと逸れていることを忘れてしまっているかのように、春ちゃんは笑顔だった。

 あいつ、すごいな。

 春ちゃんと手遊びなんかをしている香月を見ると、どこか楽しそうで、なんだろうか、

 初めてあいつの、本当の笑顔を見た気がする。

 まるで、子を見る母のように優しく笑う香月。

 その笑顔のなか、時折見せる表情には、どこか切なさを感じた。

「それで、これからどうする?」

 俺の、香月への視線を遮るように、一ノ瀬が聞いてくる。

「どうする?って言ってもなあ。さっきから、どうするって言ってばっかじゃね?」

 ため息を吐きながら俺は言う。

「んなこと言われてもなあ」

 頭をかきながら、そう言った一ノ瀬の額には、長らく歩いた影響か汗が流れている。

「も、も、も、も、も、もう!な、な、な、何でもいいから早く終わらせて!」

 未だに、ガッチリと一ノ瀬の腕にしがみつく真彩が、そう叫ぶ。

「お前、流石にビビりすぎじゃね?もう、怖いところは抜けただろ」


「うるさい!あんたにだけは言われたくない!」

 怖い!怖いよ真彩さん!素が出てるよ!

 そう言われ、真彩にギロッと睨まれた俺の胸の中は、恐怖の渦に包まれた。

 なんで?何であんなに怖い顔できるの?仮にもあなた女の子でしょ?秋田県の子供も泣いちゃうよ。

 と、恐怖の視線に身を怯めていると、どこからか、ジャリジャリと優しく土をふむ足音が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

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