感覚

 ザクザクと土を踏む音が、前からも後ろからも聞こえるなか、俺たちは、特に何事もなく公園らしきものが見えた、一本道を抜け出した。

 段々と進むにつれ、公園らしきものの姿がはっきりと見えるようになってきて、その全貌が明らかになって行く。

 一本道を抜けた先にあったのは、やっぱり公園だった。

 その規模は、どちらかというと小さい方で、滑り台にブランコ、ジャングルジムに後は、休む用のベンチが二つ設置されている。

 まあ、近所にこういう公園が一つは欲しいよな。

「春ちゃん。さっき言ってた公園ってここ?」

 手を繋いだまま、腰を落として一ノ瀬は聞く。

「わからない」

 首を横に振りながら、きっぱりと吐き捨てるように春ちゃんは言った。

「わからない?」


「なんか、思い出せないの」

 そう言いながら、一ノ瀬と手を繋いでない方の手でくまのぬいぐるみを強く抱きしめる。

「フッ。これもまた、闇の連中の仕業か」

 そう言いながら、例のポーズを取る香月。

 それを見た春ちゃんの顔が、見る見るうちに歪んでいき、瞳には涙が見える。

「わ、わー。嘘だよ?ごめんね?ほら、大丈夫だから。ほら、ドクロのお姉さんだよー」

 そう言って、必死にアピールする香月。

 でも、これで多分香月も中二病モードにはなれまい。

 ナイスだぞ春ちゃん。

 と、俺は心の中で親指を立てていると、春ちゃんも徐々に笑顔を取り戻して行く。

「それで、これからどうするんだ」

 いないないバーとか、手遊びをして、必死に信頼と笑顔を取り戻してもらうべく、頑張る香月を尻目に俺は、主に一ノ瀬の方を向いてそう聞く。

「どうするって言われてもなー。全くどこに行けば良いかも分からねーし」

 そう言いながら、肩が疲れたのかギターケースを一回肩から下ろす一ノ瀬。

「ったく。ギター重すぎだろ」

 そう言いながら、肩をグルグル回す一ノ瀬。

 よく見ると、もう既に春ちゃんの手は離しており、春ちゃんは香月と手を繋いでいた。

 おお、アピール成功したんだな。

「そんなに重いのか?俺が持とうか?」

 さりげなく俺は聞く。

 全くもって、慣れてない言い回しに、どこか違和感を覚えながら。

「良いのか?けっこう重いけど」


「別に」

 そう言って、俺は手を差し出す。

 何故だろうか。普段ならこんなこと全くしないのに、ただ、無意識に、体が動いていた。

 正直、自分で言っててもどこか気持ち悪い。

「え、ああ、じゃあ頼む」

 そう言いながら、一ノ瀬は俺にギターケースを差し出す。

 それを手に持った俺は、予想以上にあった重さに少しビックリしながら、慣れた手つきで肩にかける。

「やけに手慣れてるな」


「え……。そうかな」

 一ノ瀬から発せられたその言葉に、俺は少し驚いてしまう。

 確かにそうだ。今までもギターケースを持った記憶なんてない。

 それなのに、なんだかスムーズに肩にかけれた。

 いや、別に肩にかけるくらい誰にでもできるか。

 ただ、その時、俺の右肩にあったギターケースの感覚に既視感があった。

 この重さに、歩きづらさ、肩にかかった紐。

 この感覚を俺は知っている。

 何故か分からないけど、知っていた。

 ただ、その何故かが、一向に分からない。

 

 

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