ようやく見えた兆し

 体感時間で20分ほど歩いた俺たちは、この不気味な空間から未だに抜け出せずにいた。

 カーカーと暗闇の空から、不気味な鳴き声がする。

 相変わらずの静けさで、耳に入るのはジャリジャリという、足音だけ。

「なあ。ここ、さっきも通らなかったか?」

 春ちゃんと手をつなぎながら、体重を前に倒して一ノ瀬は言う。

「もう、疲れでなにも分からん」

 香月も、ぐでーと体重を前に落として言う。

「春ちゃん。今通った道で何か思い出したこととかない?」

 一ノ瀬が春ちゃんに聞く。

 しっかりと、目線を春ちゃんに合わせるように腰を下ろす。

 すると、春ちゃんはくまのぬいぐるみで隠れた顔を横に振る。

「こんなところ、通ってない」

 そっぽを向きながら、春ちゃんは言う。

 なんだろうな。ほんと、子供はなにを考えてるか分からん。

 まあ、俺もその子供の類に入るんだけど。

 入るのか?まあ、未成年だし、入ると思う。多分。知らんけど。

「そうかあ。もう、まじでどこに行けば良いんだよ」

 そう言いながら、近くにあった電柱に手をつく。

「と、と、と、と、とにかく、す、進むしか、な、な、な、な、ないんじゃない?」

 俺の後ろで怯えながら、進む真彩が震えた声でそう言う。

 いやまじで、こうも後ろにこられると、めっちゃ歩きにくい。

 たまに、服の裾も掴んでくるし、それで振り返るとめっちゃ怖い目で見てくるし。

 もうほんと、あなたの方がホラーですよ。

 そういう意味で言ったら、俺は毎日がホラー。玄関開けたら、目の前にホラーがあるわけですから、もうね、佐藤さんのご飯もびっくりですよ。

 と、俺はよく分からないことを考えている時だった、俺の視界の先に何かが見えた。

 ついたり消えたりする、明かりで少し見づらいが、長い一本道の先に公園らしきものがある。

 この視界の悪さで、絶対あれが公園だ!と言い切れるほどの自信はないが、ブランコ的なのが見えたのと、後は……。まあ、感覚的に、本能的にあれが公園だという自信が俺にはあった。

「あれ。公園じゃない?」

 俺は、あくまでも冷静にと心がけて、公園と思われる方を指差しながら言う。

「え!?どれ?」

 真っ先に香月が食いつく。

 香月は、目のところに指で四角を作り、まるで写真を撮るカメラマンのように遠くを見つめる。

「うーん。僕の魔眼を使っても……。よく見えない……」


「おー本当だ!公園っぽいのが見える!よし、あそこに向かって進もう!」

 そう言って、右手を高らかと突き上げた一ノ瀬。

 春ちゃんも釣られるように、おー!と気合を入れる。

 かわいい。

 「え、え?ど、ど、どこに行くって?ね、ねえ?聞いてる?ち、ち、ち、ちょっとー!お、置いてかないでよー」

 真彩からのSOSを尻目に、俺たちは公園が見える一本道へと足を踏み入れた。

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