藍倉若菜

 俺と一ノ瀬が座っていたテーブルに、真彩と藍倉が座る。

 なぜか、一ノ瀬の隣に真彩が座り、俺の隣に藍倉が座った。

 ほんとに何故だ、なんか自然に座って来たんだけど、ほんとこの子といると溢れ出る活力に精気が吸い取られてしまいそう。

「天谷先輩!」

 そう言って、藍倉は自分の顔を俺の目の前まで持ってくる。


「な、なんだ?」

 近い、顔が近いよ。話しかけるだけで、こんな顔近づける?

 これ以上近づかれると、活力に殺されそう。

 

「天谷先輩のことを、先輩って呼んでもいいですか?」

 藍倉は少しボリュームを抑えた声でそう言う。

 その声は、真彩と一ノ瀬には聞こえないらしく、二人は二人で何か話していた。

「せ、先輩?」

 俺はそう聞き返す。

「はい!私、高校生になって初めて知り合う先輩のことを先輩って呼ぶって決めてたんですよ!」

 そう言って、目をキラキラと輝かせる藍倉。


「ま、真彩は違うのか?」

 俺は、藍倉の対面に座る真彩を指差しながら言う。

 それもそうだ、初めて知り合う先輩ってことは真彩も一応藍倉よりは先輩なはずだし。

「いえ、女の人はノーカウントです」

 そう言って、手でバッテンマークを作る藍倉。

「そ、そうなのか……。ま、まあ、俺のことは好きに呼んでくれ」


「いいんですか!?ありがとうございます!じゃあ、これからよろしくお願いしますね、先輩!」

 上目遣いで俺にウインクをしながら藍倉はそう言った。


「お、おう、よろしくな」

 藍倉若菜。

 この、元気を具現化したような女の子。

 俺は、藍倉とは今日初めて会ったはずなんだけど。

 何故だろうか、この子には、とても初対面とは思えない何かを感じる。

 この元気さ、この声、この仕草。全てに、何かを感じる。

 ただ、俺はその何かが、分からなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る