ゴールデンウィークに休みはない

恐怖の朝

 今日は4月27日土曜日。

 世間一般で言うゴールデンウィークの始まりだ。

 よし、二度寝しよう。

 俺はチュンチュンと小鳥が気持ちよさそうに鳴いているのを思いっきり無視して、布団を深くかぶる。

 やっぱり、布団というのは良いなー。もう信じられるのはお前だけだよ布団。

 せっかくの休みだし、寝ないと損だよ。俺の人生の唯一の楽しみと言っても過言じゃない。いや、それは流石に過言か。俺だって好きなもの的なのはあるよ?

 ほら、歌とか好きだし俺。カラオケとか意外と好きなタイプなんだよ?というかなんで俺は歌が好きなんだ?特に好きなバンドやアイドルがいるわけじゃないんだけど、まあ好きなものは好きなんだ、理由なんてなんでも良いだろう!布団にくるまりながらそんなことを考えているときだった。


「布団がふっとんだ」

 俺はそう言った。

 別に俺はこんな寒いダジャレが言いたかったのではない。

 本当に今の俺の状況を表すにはこの言葉しかなかったんだ。

 そう、布団がふっとんだのである。布団がどっかに消えた。

 「起きろー、何時だと思ってんだ」


 寒さに震えながら声がした方を向くと、そこには布団を持った姉貴がいた。

 犯人はお前か!くそっ、眠っている人間から布団を奪い取るってことがどれだけ重い罪なのか分かってんのか!?一種の殺人行為だぞ!

 「朝ごはんできてるから、さっさと降りてこいよー」


 そんな俺の考えが伝わるわけもなく、姉貴は下へと降りてしまう。

 17年くらい一緒に住んでるんだからもうそろそろ心読めてもいいと思うんだけど。

 まあ、読まれたら読まれたらで色々と困るんだけど。

 まあ良いさ、朝ごはんを食べてからもう一回寝れば良いだけの話だ


 自分の人生の主人公は自分だ。

 俺にも姉貴にも早朝に満員電車に揺られるサラリーマンやそこら辺を歩いているおじいさんにも自分の人生というものがある。

 そういうことなら、この世の人間全員が主人公ってことになる。

 そして、物語というのは主人公が動かなければ始まらない。

 そう、動かなかったら始まらないのである。

 何が言いたいかわかるか?そう、俺は動かない。

 俺は物語を始めない。

 そういう感じで、俺はゴールデンウィークの目標を胸に掲げた時だった。

 机の上に置いといたスマホの着信音がなる。

 やはり、物語というのは主人公が動かなくても勝手にはじまるもんで、自分の物語を始めようとする他の主人公たちに巻き込まれる形で自分の物語というのは動いていく。

 世界というのは上手に作られてるもんだな。

 俺はスマホを手に取り画面に表示されてる文字を見ると長谷川真彩と書いてあった。

 真彩か、無視してもよさそうだな。

 俺は着信を拒否するがまたすぐにかけ直してくる。それを俺はまた拒否する。

 そんなやり取りが3分くらい続いた頃だろうか、今度は家のインターフォンがピンポーンと鳴った。

 「今洗い物してるから出てくんない?」

 下から姉貴の声がする。

 まあ、出るくらいなら良いかと俺は重い腰を上げ、玄関まで行き玄関を開けようとドアノブに手がかかったそのときだった。

 俺は察した。

 この扉の向こうにいる人物を察してしまった。

 いや、だってなんか邪悪なオーラが扉越しに見えるんだもん。

 やだ!扉開けたくない!でも扉開けなかったら開けなかったでそれもそれで怖い!

 なんだ?これが積みってやつか?

 そんなことを考えながら、俺は恐る恐るドアを開けるとそこには案の定、あからさまに不機嫌そうな顔をして貧乏ゆすりをしている真彩がいた。

 「お、おはようございます真彩さん」

 俺は真彩の機嫌を伺うように、震えた声で挨拶をする。


 「あ?」

 怖い!怖いよ真彩さん!俺の人生の中で一番怖い「あ?」だよ!

 めっちゃ睨んでくるし怖すぎるんだけど!?


 「そ、それで、今日はどうしたのですか?」


 「は?あんた、グループメッセージみてないの?」


 「みてないよ」

 グループというのはメッセージアプリにあるグループ機能のことであり、俺、音山美桜、一ノ瀬静音、長谷川真彩の四人のグループが存在する。

 最初は女子三人でグループを作るという感じだったのだが、俺は真彩に強制的にこのグループに入れられたということになる。

 それからは、女子三人はこのグループを通じて順調に仲良くなっている様子で俺自身も一ノ瀬や音山とは普通に話せるくらいの仲にはなったと思う。


「ほんと、これだから男は」

 真彩はため息を吐きながら、呆れた感じで言う。

 

 「それで、なんのようなんだ?」


 「ゴールデンウィークはみんなで遊ぼうって話になったの」

 

 「なったんですか」


 「それで、昨日色々と話し合ってたけど中々天谷の既読がつかないから念のため私が呼びに行くことになったの」


 「なったんですか」

 そっか既読つかなかったら見てないってバレるか。


 「そ、だからさっさと準備して、じゃないとそろそろ私のストレスが爆発するわよ?」

 

 「急いで準備してきます」

 怖い、真彩さん怖い!なんなのあの笑顔、怖すぎるよ!笑顔って平和の象徴じゃないの?なにあの破壊の始まりみたいな笑顔、怖すぎるんだけど。

 俺は死へのカウントダウンを0にしないように急いで準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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