終わりと始まり。

 学校中に今日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 俺はいつものようにみんなが帰り、静かになるのをスマホをいじりながら待っている。

 それにしても最近のスマホというのは便利すぎる気がする。

 本当、あれ一つでなんでもできてしまう。

 調べ物だったり電話にメールにゲームに音楽聴いたり、本を読んだり買い物したり映画を見たり……って色々出来すぎるだろ!

 出来すぎる!お前は出来過ぎくんか!なんなんだこれは、こんな板一枚でこんなに機能があるんだから。ほんと時代の進みは早いですな。

 最近ではメッセージアプリなんてあってメールいらずにもなってきたし。

 今日もクラスの女子やら男子やらからID教えて?って言われたし、なんだよIDって!いや知ってるけど。

 まあ、全員丁重に断ったけど。

 そんなことを考えながら待っていると、ようやくみんな帰り、教室が静かになった。

 いつも、音山美桜とかは残ってるけど今日はチャイムが鳴ってすぐに帰ってたな。

 なんか用事でもあったのか?

 まあ、そんなことは気にせずに俺は教室のドアをガラガラと開けると目の前に真彩が壁に寄りかかっていた。

 

「あ、やっときた」

 真彩は少し呆れた感じで言う。

 

「なにしてんの?」


「天谷を待ってた」


「なんで?」


「一緒に帰ろうと思って」


「なんで?」


「なんとなく」


「嘘をつけ、なにを企んでいるんだお前は」


「ちょ、心外だなー。用がなけりゃあんたと一緒に帰っちゃいけないの?」


「用がなけりゃ一緒に帰ろうなんて言わないだろお前は」


「はいはい。わかったからわかったから、早く帰るよ」


「ちょ。わかったから、一緒に帰るから、押すな」

  とまあ、こんな感じで俺は今日も真彩と帰ることになった。


* * * * * *


 空は段々とオレンジ色に染まり出し、夕焼けが沈んでくる頃。

 カラスたちは、まるで子供たちに帰る時間だと知らせるようにカーカーと鳴いている。

 それがまた、綺麗な夕日とマッチしてとても美しく感じる。

 ただ、カラスって怖いよね。食べ物荒らすし、人を突くし。

 この前だって俺突かれたし、あれ普通に痛かったからな。

 あれから結構、頭痛が続いたし。

 そんなことを考えている帰り道。

 まるで昨日のリプレイを見ているかのような無言の続く帰り道。

 隣を歩く真彩をみると、その表情は昼間に見たあの邪悪な感じではなく、どこか清々しさを感じる、まるで今の時間を楽しんでいるような顔をしている。

 なんでこいつこんなに楽しそうなんだよ。

 どんな精神してるんだよ。

 そんなことを思いながら真彩を見ていると、真彩は少し遠くを指さして俺に言った。

 「あれって一ノ瀬さんじゃない?」


 「は?」

 俺は若干の驚きを隠しながら真彩の指を刺した方を見ると、本当に一ノ瀬静音がいた。

 ただ、その様子はいつもとは変で何かに怯えながら恐る恐る後ろを振り返りながらゆっくりと一歩ずつ歩いていた。

 何しているんだあの人は、そういう趣味的な何かか?

 「なんか困ってる感じじゃない?」

 真彩は何か心配そうな面持ちで一ノ瀬を見つめながら言った。

 

 「確かに、何か困ってそうだな」


 「話しかける?」


 「別にいいんじゃない?ほら、触らぬ祟りに神なしって言うじゃん」


 「言わないし、触らぬ神に祟りなしだし」


 「ま、まあ確かに行ったほうがよさそうかもな、じゃあ俺待ってるよ」


 「は?」

 真彩は何言ってんだよみたいな顔で俺を見てくる。

 何?なんか俺放送禁止用語みたいなの言った?いや、怖いんだけど。


 「あんたは馬鹿なの?二人で行くに決まってるでしょ」


 「え、まじ?」


 「まじでしょ、ってかどういう思考回路してたら一人で待ってるって発想が出てくんのよあんたは、本当あり得ない」

 わお、ひどい言われようだな、でも人の想像のつかない思考回路を持っているのはいいことだよ?


 「わかったよ、行くよ」

 俺はため息混じりの声で言う。


 「一ノ瀬さんどうかしたの?」

 真彩がそう一ノ瀬に声をかける。

 やはり、こういう役割は真彩に任せるに限るな。

 

 「ひゃっ!?!?」

  一ノ瀬は何かに怯えている様子だったのと真彩に後ろから肩を叩かれたことで驚いたような声を出しこちらの方を向く。

 

 「あなたは、長谷川さん?」


 「そう、よろしくね一ノ瀬さん」


 「え、あ、うん、よろしく」

 一ノ瀬は急なよろしくに少し動揺している感じだったが差し伸べられた真彩の手を握る。

 

「で?どうしたんだ?」

 俺は話を進めるべく俺は何があったのかを聞く。


「え?いや、別に、何もない」


「嘘をつきなさい。今あんたすごい困ってそうだったじゃない。そんで何があったの?」


「追われてるの」


「え?」


「誰かに追われてるの」

 そう言った一ノ瀬の声色はとても弱く少し震えているのが分かった。


「追われてる?」


「そう、今日の昼間からずっと誰かに跡をつけられてる」


「た、確かになんか今も視線を感じるな」

 俺は慌てて後ろを振り返る、すると明らかに電柱に隠れているであろう人影が見える。

 その人影は本当にストーカーする気があるのか分からないほど無防備で電柱からも所々体の一部が隠れきれてなくはみ出していた。

 

「あ、あー、はい、分かりました。では解決してきます」


「「え?」」

 真彩と一ノ瀬の驚きがハモっていることを尻目に俺は例の電柱へと一歩一歩、歩み寄る。

 そして、電柱の隣にまで行き俺はその電柱に隠れている人物に声をかける。

「何してるんだ音山」


「え、あ、天谷くん!?」

 電柱に隠れていたのは音山美桜だった。

 まあ、電柱からスカートもはみ出していたので女子であることは分かったがまさか知り合いとはな。

 音山は俺に声をかけられたと気づくとあからさまに動揺していた。

「あら、美桜ちゃんじゃない」

 真彩と一ノ瀬も俺のほうに来て音山を見つける。

「ま、真彩ちゃん!?」

 こいつら、下の名前で呼び合うほどの仲だったのか?

 まあ、真彩のことだから多分学校のほとんどの人と面識持ってるんだろうなー、多分こいつの外面にみんな騙されてるんだろうなー、立派な詐欺師じゃないか、あー怖い怖い。

 「美桜ちゃんが一ノ瀬さんをストーカーしてたってこと?」


 「ストーカー!?そ、そんなことはしてないですよ!私はただ一ノ瀬さんを観察していただけです!」


 「それをストーカーって言うと思うんだけど」

 真彩は呆れながら言う。


「それで、あなたは私の何を観察していたわけ?」


「えっとー、一ノ瀬さんのその美しさやカッコ良さの源を知れたらなーと思いまして」


「は?」


「ひっ、で、でもそれで一ノ瀬さんに迷惑をかけていたなら本当にごめんなさいです!」

 音山は一ノ瀬の視線に恐怖を覚えたのか、若干怯えながら深々と頭を下げて謝る。

 それを聞いた一ノ瀬は一つ大きなため息をつき音山に言う。


「別に、そんなことしなくても直接聞いてくれれば教えてあげるってのに、まあ別に私は何か変わったことをしてる訳じゃないから参考にはならないと思うけど」

 一ノ瀬は少し照れ臭そうに髪をいじりながら言う。


「いいんですか!?」

 そう言った音山の目はとてもキラキラ輝いていた。

 

「いいよ、別に隠すようなことじゃねーし、まあさっきも言ったが多分なんの参考にもならねーよ?」


「それでもいいです!じゃあ、メッセージのID教えてくれませんか?」


「ID?ああ、いいぜ、スマホ渡すから勝手にやっといてくれ」

 そうして、一ノ瀬は音山にスマホを差し出す。

 それを受け取った音山はものすごい勢いで二つのスマホを操作している。

 いや、スマホ打つの早すぎるだろ、そんなケンシロウも驚くような指裁きを少し驚きながら見ていると、真彩がいいこと思いついたという感じでみんなに言った。


「じゃあ私たちでグループ作らない?」

 グループ?なんだ?アイドルでもやるのか?いや、この三人ならなかなか良いところまで行けそうではあるけど。


「良いね!真彩ちゃんナイスアイデア!」

 音山が乗り気とは、音山ってアイドルになりたかったのか?


「グループって?」

 そんな二人を見ながら一ノ瀬はキョトンとした顔で言った。


「え?一ノ瀬さん知らないの?ほらメッセージアプリにある、グループ機能のことだよ」

 そんなのもあるのか!?いや、使ったことはあるが、いかんせんあれに俺は良い思い出がないもんなので現実逃避をしていたのだが、やはりこんな唐突にアイドルになるなんてことはなかった。良いと思うんだけどなー、アイドル活動略してアイカ……おっと誰か来たようだ。


「そんなのがあるのか、時代の流れってのは早いなー全く」

 一ノ瀬は頭を抱えながらやれやれという感じで言う。

 ってか一ノ瀬の口調ってこんな感じなのか、今まで一言二言しか話したことなかったから分からなかったけど、結構男っぽいな、そりゃカッコよく見えるか。


「ね?良いでしょ!よし、グループを作ろう!」

 真彩ははっちゃけた感じで言う。

 そこからは偽りの外面で言ったことではなく、ちゃんと心から言っている言葉だと分かった。

 そう言い、女子三人組はお互いのスマホを見せ合い何かしている。

 恐らくグループの設定等をしているのだろう。

 ふむふむ青春じゃのー。

 さて、こんな女子だらけの空間に長居するのは良くないし、俺は先に帰るか。

 そして、俺はそろーっとみんなにバレないように帰ろうとしていたのだが。


「ちょっと天谷、何帰ろうとしているわけ?」

 真彩の声が聞こえる。

 とても怖い、振り返りたくない。

 さっきの楽しそうな声はどこ言ったの?ねえ、もうやだ。

 俺は恐る恐る振り返ると、そこには邪悪なオーラを出した真彩がこちらを向いていた。


「ほら、天谷もスマホを出しなさい」


「な、なんでですか?」

 怖い!真彩さん怖い!何あれ、あんなオーラ魔王にも出せないよ。


「良いから、スマホを私に貸しなさい」


「ははは、分かったよ、分かったから」

 俺は震えるながら真彩にスマホを渡す。

 逆らえないよあんなのに、あれに逆らったら絶対もう地獄に落とされるよ!


「はい、終わり、ありがとねー」

 そう言って返されたスマホのメッセージアプリに4人グループと書かれたものがあった。恐らく、音山と真彩と一ノ瀬のグループのことだろう。

 それに入れられたのか……、ははは、これはなんというか、色々終わったな。


「それじゃあ、私は帰るから、これからよろしくな」

 そう言って一ノ瀬は俺らに手を振って帰って行った。

 その振り向き側に俺は一ノ瀬と目があった気がした。


「そ、それじゃ私もこれで、天谷くんじゃあね!」


「お、おうまたな」

 そう言って音山は走って帰って行った。

 なんか、また最後の方目がグルグルなってたな。


「なんで、あんたにだけ言ったのかしら」


「ははは、なんでだろうねー」

 この時、俺の青春はまた動き出した気がした。

 一回止まった青春がまた動き出す。

 そんな気がした。

 ただ、それが俺にとっては良いことではないのは確かだった。


 それにしても、あの一ノ瀬の声、口調、容姿に俺はどこか見覚えがあった。

 とても大切な人、忘れてはいけない人だった、そんな気がする。

 ただ俺は、それを思い出せない。



 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る