笑顔のなかに見えたもの。

 死へのカウントダウンを逃げ切った俺は、真彩に連れられるがままに道を歩いていた。

「それで、今はどこに向かってるんだ」


「美桜と静音と駅で待ち合わせ」

 仲良くなったのはなんとなく知ってきたけど、下の名前を呼び捨てするほどの仲になっていたとは。

 これは、女の特性なのか真彩のコミュニケーション能力がすごいのか、どちらなのだろう。


「その後はどこに行くんだ」


「あんた、本当になにも見てないのね……」

 何も知らない俺に真彩は呆れ顔でそう言う。


「それは申し訳ない」


「駅から少し歩いたところに大きいショッピングモールあるじゃない?そこに行くの」

 はぁーと大きいため息をついて真彩は言う。

  というか、ショッピングモールだと?嘘だろ、俺は今日女の子三人の買い物に付き合わされるってか?まじかよ……はは、俺のゴールデンウィークは何処へ……。


「そ、それって俺いるのかな?」

 

「まあ、正直言うと、最初は女子三人で行こうってなってたんだけど、美桜が天谷も連れてこうって言って聞かなくて」

 音山ーーーーーーー!何してくれるんだーーーーー!


「ははは、そうですか……」

 俺はがっくりとうなだれる。本当に俺のゴールデンウィークは何処へ……。


* * * * * *


 駅というのは俺の家から徒歩で5分ほどの位置にあり、この街に住む人は一度は使ったことがあるほどに、この街では重要性を帯びている駅である。

 まあ、駅といってもそんなに大きいわけでもなく、切符売り場にホーム、そして小ちゃい売店がちらほらある程度の駅だ。

 ただ、この街では象徴的な扱いをされており、駅の前に設置されている空を指差す少年の銅像は、待ち合わせ場所として大変人気である。

 実際、俺らは今日そこで待ち合わせをしているらしい。


 そんなこんなで、俺と真彩は駅に着いたわけなのだが。

 そして、例の銅像に目をやると、そこには一ノ瀬が寄りかかっていた。

 ヘッドフォンを耳につけ、片足でリズムを取り、何か口ずさんでいるように見えた。

 何か歌ってるのか?

 そんなことを思っていると、一ノ瀬はこちらに気づき、ヘッドフォンを取りこちらに向けて手を振る。


 「やっほー、静音。待った?」

 真彩は手を振り返してそう言う。俺もその言葉に合わせ軽く会釈をする。


 「おっす、真彩。私もついさっき来たばっかりだから全然待ってないよ」

 そう言い、ふっとした笑みを見せた一ノ瀬はすごくかっこよかった。

 一ノ瀬さんまじかっけえっす!って言いたくなるほどに。

 この容姿にこの仕草。そりゃあ、モテるわなあ。

 

「それで、音山は?」


「そういや、まだ来てないな」

 一ノ瀬は遠くの方を見て言う。


 「でも、もう着くってメッセージが来てたよ」

 真彩はスマホをいじりながら言う。きっと、音山に連絡をとっていたんだろう


 「ごめーん!遅くなったー!」

 そう声が聞こえたのは、ちょうど俺たちの後ろの方からだった。

 俺らが後ろを振り返ると、そこには手を振りながら走る音山の姿があった。

 

 「はぁ、はぁ、ごめんなさい、はぁ、はぁ、少し準備に手間がかかって」

 音山は相当急いできたのか、息を切らして膝に手をつき言う。

 

 「美桜、そんなに急がなくても大丈夫だったのに、私たちも今きたところだよ」


 「真彩ちゃん、でも、だってえ」


 「わ、分かったから美桜、一旦落ち着いて」


 「集まったなら行こうぜ?見たいものがあるんだ。早くしないと店が混んじゃう」

 一ノ瀬はまるで、遊びに連れて行ってもらう子供みたいな顔で言う。

 俺はその時、初めて一ノ瀬の笑った顔をみた。

 その表情には、無邪気な感じの笑顔にいつものかっこよさ、綺麗さは伺えず、どこか可愛さも見えた。

 ただ、俺はその笑顔にどこか違和感を覚えた。

 ああ、そういうことか、あいつも俺と同じなのか。

 俺と同じように、あいつは、一ノ瀬静音は、眼が笑ってなかった。

 死んだような眼をしていた。


 

  

  


 

 



  

 

 

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