出会い

 俺は右手に少しぬるめのお茶のペットボトルを持ち、真彩の元へ戻ろうとしてる道中だった。

 やはり、まだ4月ということもあり、まだまだ寒さを感じる。

 それにしても、けっこう寒いな。あったかいお茶を買えば良かった。

 まあ、俺はこういう感じで若干の肌寒さを感じながら歩いていた。

 一人というものはいいものだ。なんも考えたりしなくていいし、遠慮や気遣いなんて一人であれば全く不必要。

 ただ、運命というのは、なんの予兆や前触れもなくやってくるものである。

 直後だった、

「俺と付き合ってください!」

 そう男の声が聞こえた。


 距離的にはそう遠くなく、声の聞こえ方的に曲がり角を曲がったところから聞こえたものだとわかった。

 そろりと、覗いてみると案の定さっき告白してたであろう男の人と女の人がいた。

 男の方は思いっきり頭を下げて、手を差し出していた。

 女の方は退屈そうに壁に寄りかかり、ポケットに手を入れていた。

 あー、なんだか結果が察せるなあ。

 まあ、状況的にはそんな感じだった。

 そして、容姿については男の方はまあ、少し上から目線な気もするが可もなく不可もなくという感じの普通の顔をしていた。

 ほら、よくあるだろ、めちゃくちゃ普通なのにモテモテなラブコメの主人公、あれみたいな顔している。


 そして、女の方は俺は知っている。

 いや、その知っているというのが話したことがあるとか、何かで接点があるとかではないのだが、あの人は俺も知っているほど、この学校では有名人だ。

 名前は一ノ瀬静音いちのせしおん。俺と同じ二年生である。

 髪はショートヘアーで肩くらいまでしか伸びておらず、首にはいつもヘッドフォンをかけている。

 まあ、ここまで聞いてもなぜ有名人かはわからないと思うが、なぜ有名なのかと言うと、彼女はすごいモテるらしい。

 それもそうだろう、あの整った容姿に抜群のスタイルだ。

 モテないわけがない。

 それも、いわゆる可愛いとかの部類ではなく、どちらかというと一ノ瀬を見るとまず一言めには綺麗だと言ってしまうほど。いや、俺は別に言わないが。

 そして、その美しさ可憐さで去年の文化祭で行われた、美人王決定戦では見事に投票数一位を獲得していた。

 今思えば美人王決定戦ってなんだよって感じだが。

 まあ、俺は知っていると言っても噂程度のものだが。

 

 

「無理」

 男が告白をしてから10秒後くらいだろうか、一ノ瀬はあっさりと断った。

 すると、男は泣きながら走ってどっか行った。こう、足が渦巻きみたいな感じで。

 まあ、それもそうなるだろう、あんな感じに全く興味なさそうにあっさりと断られたら、精神的ダメージは大きいと思う。

  それを見た一ノ瀬は、一つ大きなため息をつき、寄りかかっていた壁から背中を退かせた。

 

「さっきから、そこで覗いてるのは誰」

 一ノ瀬はこちらに振り返らずに言う。

 っていうか気づかれてた。めっちゃ気づかれてた。


「すまん。覗くつもりはなかったんだ」

 俺は素直に一ノ瀬の前に出て、謝る。

 決して嘘はついてない、さっき言った通り覗きに来たんじゃない。

 通る道に告白してる人がいたら、さすがに待つよな。

 俺は空気を読んだだけだ。

 

「あっそ、まあ別になんとも思ってないから安心して」

 そう言い、去っていく一ノ瀬の後ろ姿は、とても綺麗で美しかった。

 なんか、よくわかんない人だったな。

 まあ、俺には関係ない話だ。

 そして、その後はなんともなく俺は真彩のところへ戻った。


「遅い」

 真彩は昇降口にある、階段に座って、手を口に寄せてはーと息を吐いていた。

 吐いた息はとても白い。

 やはり、今日は4月とは思えない寒さだな。


「すまん、ってかほんとに待ってたんだな」

 

「別に、なんか逃げられたみたいだったから意地になってただけ」


「いや、逃げてねーし」

 まあ、そう捉えられても仕方ないか。

 でも本当に待ってるとは思ってなかった。あの真彩が。


「うるさい。早く帰ろ」

 真彩は立ち上がると、制服のスカートを二回ほど叩いた。


「はいよ」

 俺は無気力な声で答える。


 





 

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