幼馴染

 俺は帰る準備をして、教室のドアを開けたところなんだが、ここで一人紹介したい人物がいる。

 まあ、それが誰なのかと言うと、ドアを開けると目の前の壁に寄りかかっていた人である。


 名前は長谷川真彩はせがわまあやという。

 髪は黒髪のロングヘアーで腰あたりまで伸びており俺はこいつに、とても怖い印象を覚えている。それはいつも、俺を睨むような目で見る目つきが理由ではあるが。なぜ睨まれているかは分からない。


 真彩と俺の関係を一言で言うと、幼馴染というやつだ。

 俺と真彩が出会ったのは小学生の頃で、俺は当時の記憶はあまりないのだけれど、それでも小学生の時は真彩の家が俺の家の目の前にあったということもあり、よく遊んでいたらしい。

  そして、去年の春に小学生の時以来の三年ぶりの再会を果たしたというわけだ。

 

 まあ、再会を果たしたところで小学生の時のように一緒に遊ぶことはおろか、一緒に帰るなんてこともない。

 よく、幼馴染と聞けば恋愛と結びつけるものが多いが俺とこいつにはそう言った感情は皆無である。


 よく、ツンデレ幼馴染とか言うが、こいつはツンしかない。

 ツンというより毒だな。

 フグより毒もってるよこいつ。

 俺はこいつがデレるとこは見たことないし見たくもない。

 まあ、こんな感じの関係である。

 ここまで聞くと、真彩をクールな感じの人だと思う人もいるかと思うが、別にこいつはクールでなはい。

 無表情だったり無感情だったり静かだったりとかは全くない。

 むしろ、うるさいし感情の振れ幅も大きく、クラスでは人気者らしい。

 なぜ人気者かと言うと、こいつ俺以外にはすごく人当たりがいい。

 それはもちろん外面だけの話であり内面はさっき言った通り、性格最悪の毒女。

 俺と二人きりになれば、すごい色んな人の悪口を言っている。

 たまに、俺の悪口も言ってる。

 まあ、それはある種の信頼の現れとでもとっていいのかもしれない。

 長谷川真彩という女性はそんな人だ。

 

 

「あ、やっと来た。遅すぎ、なにしてたの?」


 そう言った真彩は俺の方をギロッと睨む。

 怖すぎでしょ。

 まじでこいつどっかの族の長ですとか言われても違和感ないな。


「いや、お前の方こそなにやってるんだよ」

 俺は当然の疑問を投げかける。

 それもそうだ、この一年こいつが俺を待っていたなんて入学式の時くらいしかなかった気がする。


「いや別に、たまには一緒に帰ろうかなーって」

 あからさまに、そっぽを向く真彩。


「は?なんだお前、たまにはって今までも一緒に帰ったことないだろ」


「うるさいわね。今日はあんたと一緒に帰るって決めたんだから、拒否権なんてないから」


「うわ!ちょっ、引っ張んなよ」

 真彩は俺の腕を掴み強引に引っ張る。

 腕の力強すぎだろ。っていうかこれ一種の誘拐じゃね?


「ほら、さっさと靴履きなさい」


「わかった、わかったから。一緒に帰るから、腕を離してくれ」


「わかればいいのよ」

 そう言い、真彩はにかっと笑う。

 その笑顔はとても綺麗で、まるで一つの花が綺麗に咲いたかのようだった。

 って、なに俺は少しドキッとしてるんだ、しかも相手が真彩だぞ。


「どしたの?なんかぼーっとしてるけど」


「え、別になんもないよ」

 危なかったな、色々と危なかった。

 

「っていうか天谷さあ、また告白されてたっしょ」


「聞いてたのかよ」

 

「聞いてたっていうか、教室の外でもしっかり聞こえるくらい大きな声で好きですって言ってたしねー」


「確かに……」


「もう新学期始まってから何回めよ、告られるの」


「6回だけだよ」


「は?あんた、6回をだけとかいうなよ、6回も人生で告られる人なんて滅多にいないんですけど?」


「いや、それはあれだよ、言葉の綾ってやつだよ」

 

「なによ、少し顔がいいからって調子に乗りやがって、あんた知ってる?今の一年の女子の話題ってあんたばっかりなんだから」


「は?なんでだよ」

 一年生と言えば、まだ入学してから一週間くらいしか経ってないけど。


「二年にイケメンでクールな先輩がいるって一年の女子は今その話しかしてないらしいわよ。っていうか、なんでこいつなのよもっといい男いるでしょ!?顔だけしかいいところのない、このクール気取りのナルシスト野郎が」


「言い過ぎだろ、少し傷つくぞ」

 でも、顔は認めてくれてるのか。

 まあ、嬉しくはないが。

 それに、クールなんて気取ってないし。

「当然でしょ、傷付けるために言ったんだから」


「チッ。この腹黒女」


「なんか言ったかしら、天谷くん」


「な、なにも言ってないですよ。ほらさっさと帰るぞ」

 怖いよ、ほんとこの人怖いよ。

 なんだよ今の笑顔、さっきの綺麗な笑顔とは全く比べ物にならなかったぞ。

 なんかもう、背後に黒いオーラが見えたもん。

 なんか冷や汗めっちゃ出てくるんですけど。

 やべー喉渇いてきた。

 そう言えば今日まだなにも飲んでねーじゃん。

 しょうがない、ちょっと面倒だが飲み物を買ってくるか。

 この学校には自販機はあるが、いかんせん場所が遠いのだ。

 それがどこかというと、今俺がいる昇降口の真反対で校舎裏にある。

 いつ、誰がなんでそこに設置したかは全くの不明だが、まあ、そこにあるものはしょうがない。

 ちょいと面倒だが行ってくるか。


「すまん。飲み物買ってくるから先帰っといて、後で追いつくから」


「待ってる」


「は?」


「だから、待ってるからさっさと行けって言ったの」


「いや、別に待たなくてもいいから、後で追いつくから」


「うるさい。いいからさっさと買ってこい」

 わお、また黒いオーラが出てるよ。

 これ多分逆らったら、明日原因不明の頭痛腹痛になった後、ありとあらゆる手段で拷問された後に人体実験の実験台として最終的に殺されそうだよ。


「あんた、今とても失礼なこと考えてるでしょ」


「失礼というか死ぬのがつれえというか」


「なに言ってんの?」


 あぶねー、今こいつが一瞬マッドサイエンティストに見えたぜ。

 幻覚ってこんな感じで見るんだな、薬とか絶対やらないでおこう。


「じゃあ、買ってくるから」

 あいつを待たせるのは危険な気がするなさっさと買ってこよう。

 まあ、遠いと言っても所詮は校舎を半周するくらいだ、せいぜいかかって5分くらいだろう。

 そして俺は、何事もなく自販機の前までついた。

 自販機には沢山の種類の飲み物が入っており、けっこう悩める。

 お茶、コーヒー、炭酸ジュース、野菜ジュース、ココア、リンゴジュースとオレンジジュースまでここは本当に学校なのか?すごいな。

 うーん、どれにしようか、悩むな。まあ、普通にお茶でいいか。

 お茶を購入した俺は、さっき来た道を戻るのではなく、そのまま、まっすぐ歩いて校舎を一周して帰ることにした。

 まあ、特に理由があるわけでもなく、ただの気まぐれである。

 ただ、俺はこの時、来た道を速やかに戻って帰った方が良かったのかもしれない。

 この気まぐれで俺の人生は大きく変わった。

 そう、この時、俺の青春が動き出した。





 


 


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