第4話 大人になる

 「大人になったなぁ」


 そんなふうに感じる瞬間って、あったりしますよね?

 私は、らっきょうが美味しいと思った日、大人になったなぁと思いました(笑)


 子供の頃、家では母がらっきょうを自分で漬けていて、それを両親はよく食べていました。私はその匂いがもう無理で、母がらっきょうの瓶を開けると、その匂いに息を止めるといった感じでした。ですから、それを口に入れるなどということは、ゴキブリを手で持つのと同じくらい無理なことでした。


 そんな私も大人になり(という言葉をここで使うって、笑えますけど)彼氏ができて、その彼氏がカレーに添えるのは福神漬けでもらっきょうでも、どちらでもOKな人でして、私は、「いやいや、カレーにらっきょうなんて、ありえないでしょ」「いや美味しいよ、一口食べてみなよ」「え~無理だよぉ、その匂いがすでに……」無理と言おうとしたのですが、目の前でカレーにらっきょうが添えられているのに、その匂いが不思議と無理ではなくなっていたことに気付きました。


「じゃあさ、カレーと一緒にらっきょうを口に入れてみたら?かなり美味しく感じると思うよ」


 そんな言葉を簡単に信じたわけではなかったのですが、目の前で美味しそうにカレーを頬張る彼を見ていると、それはものすごく美味しいものであるように思えてくるから不思議ですね。


 美味しくものを食べる人のその言葉は、確かにそれなりの影響力を持っていたようで、私は誘われるまま、カレーと一緒にらっきょうを口に入れてみました。


「ん?……美味しい」


この瞬間、あれれ……これが美味しいって思えるなんて、私、大人になったのかなぁ……と、私が実感した出来事でした。


 そんな私は今、子供の頃には食べられなかった生タマネギのサラダを美味しく感じたり、薬味の青ネギの美味しさにも、とっくに気付いています(笑)


 ですが、そんな私でも、さすがにゴキブリを手で持つのは無理なんですけどね(笑)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る