第拾弐話―ガロンは見えない過去に参―

刺突しとつされ血は流れるが激しい痛みや懸念するほど傷ではない。しかし――


「スタ・・・・ン・か・・・」


麻痺され自由に動けなくなるガロンは言葉も上手く発せない。


「へへ、やべぇ奴だってビビったが動けなくなったら怖くねぇなぁ。

オラよぉ!」


短剣を刺した男はだみ声で嘲笑あざわらい地面に倒れ込んだガロンの腹部に蹴る。


「っ!」


「や、やめてぇぇーー!!」


「おっ!大金を持ってた

奴じゃねぇか」


内ケ島椛葉うちがしまなぎはの悲痛な叫びに男は視線を向け相手をバカにしたわらいに恐怖を覚える内ケ島。言葉の内容に内ケ島は怪訝な表情をする。


「大金?・・・えっ?も、もしかして」


「ああ、そうだよ。俺が盗んだんだよ。警戒心がないから実に簡単だったぜ。ぎゃはは」


内ケ島椛葉は憤りを感じていたがそれ以上に恩人であり短いとはいえ仲間だったガロンに傷つけないでほしいと強く思っていた。


「ガ、ガロンさんをひどいしないでください」


「あぁ?んなぁ、こと守る義理はねぇなぁ!オラッよ」


「・・・・ッ・・・・・がはっ」


無防備な相手を蹴って蹴り続け目深にフードをかぶる男は

愉悦に浸っていた。


「やめてぇぇーー!!」


両手で男の右腕を引いてやめさせようとする内ケ島。


「んだよ。邪魔そんじゃねぇ!」


「キャー!?」


乱暴に払われ内ケ島は地面に

尻餅をつく。


「おいリード!商品に乱暴に扱うんじゃねぇぞ」


「・・・すんません」


怒鳴ったのは奴隷商のゴールド。

ガロンの鋭い眼光に恐慌で大人しくなっていた中年男性だ。そして麻痺の効果をある短剣とスキルの両方を持つリードに命令させた。


「いてぇ、コイツがおれらの馬車を転倒させた奴か」


「仲間も結構、倒しやがって」


最初に馬車を激しく転倒させた護衛達。ギルドで生計を立てる荒くれ者は外でひまを持て余して外でプラブラしていると、たまたまチラシを見て護衛として短期の依頼。簡単な仕事とそう思っていた彼らはガロンの襲撃で後方の護衛依頼を引き受けた仲間が全滅したことに怒り恐怖した。

ガロンは荷台の方へ行ったときに依頼主のゴールドを連れ逃げようとしたが、死角からリードを使い攻撃させる案を浮かんだ。

ゴールドの後方には隠れていた護衛が二人。


「ぎゃはは!一人前に怒りやがって冒険者も大したことねぇなぁ」


リードはガロン一人に恐れ隠れた二人をわらう。


奴隷どれいのクセに偉そうだぞ」


「ここで斬って捨ててもいいんだぞ」


「くだらん争いはやめろ。それよりも襲撃者を斬ろ。それと奴隷が逃げないよう檻に戻せ」


ゴールドは冷めた目で護衛とリードを命令。3人はしぶしぶと頷く。リードは内ケ島の右手を強くつかむ。


「ガロンさんにひどい事しないで。なんでもしますから!」


「っと、言っていますが?」


これ以上の機嫌を損ねないようリードはゴールドに尋ねる。


「ふん、無視しろ」


「そんな・・・・・」


内ケ島は絶望した。この場を乗り切る方法あるがガロンの前では決して使わないよう決意していた力を。

き火での談笑を覚えていた。そして恐れていた。


(もう、どう思われてもいい。

ガロンさんとライトやエレも助けたいから!)


内ケ島は内側に眠る異能の力を行使した。すると、内ケ島椛葉の足元から翡翠ひすい色の光が輝き始めた。翡翠色の輝きはまばたきよりも速く広がって半径100メートルの魔法陣が形成した。


「な、なんだんだよ。これ!?」


リードは顔色を青ざめて内ケ島の手を放し視線を前へ向いたままゆっくりと後ろへ退く。


「お、おい!何をするつもりだ。

無駄な抵抗はやめろ」


ゴールドは動揺を隠せずに、この魔法陣を形成した内ケ島を言葉で止めようとした。


「ああー、あの使えない

チート能力か」


あせる素振りどころか護衛の二人は嘲笑ちょうしょうしたことにゴールドは

訝しんだ。


「ど、どういうことだ!?」


「コイツのチート能力って状態異常を回復させるだけでちまたでは役に立たないって有名なんですよ」


「だから安心して――」


「なんだと!?それじゃあ・・・」


バタッと倒れる音にゴールド達は視線を戻すとリードが倒れ、その背中を踏むガロンの姿が映っていた。


「・・・後で詳しく聞かせてもらうぞ」


「はい・・・」


無能のチート能力と揶揄やゆされてきた内ケ島はガロンの鋭い眼光に視線を落とし返答するのがやっとだった。言葉にし難い悲痛さを覚える内ケ島と、アンノーンオーブに助けられた事に戸惑い、それ以上に冷静さを失うほど激しい怒りが沸々と込み上がっていた。


「アンノーンオーブを持つ者がいたなんて!?」


アンノーンオーブを若い人からなどはチート能力とも呼ぶ奇跡をこの目で見れたことにゴールドは歓喜と畏怖で支配されつつにある。


「依頼主さん。安心してくれたまえ」


ゴールドは背後から掛けられた声に振り返り安堵した。そう、状態異常を無効にする領域の魔法陣によりガロンの毒矢で動けなくなっていた3人が目覚める。


「ちっ、おい!怯えている子供と一緒に逃げろ」


ガロンは内ケ島に逃げるよう促す。


「ガ、ガロンさん矢が!」


内ケ島の言葉にガロンは視線を敵に向き直すと目の前に矢が飛んできた。槍で防ぐには近すぎる。


「やむを得ない」


紛い物アンノーンオーブの疾風迅雷を発動し世界をスローの世界でガロンは前へ回転するようにジャンプして矢を蹴る。サマーソルトキックを決め効果を解除。超越した異能に身体を激しい痛みが――


「痛みがない!?」


疾風迅雷を何度も使用して、こんな事は今までなかったことにガロンは驚愕した。


(パワーを抑えたからか?・・・いや、いつもより力を高めたはずだ。だとすれば、この魔法陣のアンノーンオーブと疾風迅雷が共鳴でも起こして紛い物から本物のようになったのか。また奴のアンノーンオーブの恩恵か)


素早く考察し憶測を浮かんでは否定していき最も真実味がある結論をしようとするガロン。

その思考を妨げる矢がまたも飛んできた。今度は秘技、トリプルアローの3発同時に。試しにもう一度と疾風迅雷を発動させ矢を槍で落とす。


「やはりか」


「あの・・・ガロンさん。

どうしたのですか?」


内ケ島は独り言のガロンに心配になって殺意を向けられないか不安になり迷った挙げ句あげく、声をかけることにした。


「そのままアンノーンオーブを継続していろ」


ガロンは内ケ島を見ずに命令口調でそう言い放つ。


「は、はい!」


乱暴な言葉だったが、いつもの扱いに内ケ島は心の中で安堵のため息をこぼす。頼られたこと明るい絵がで返事。


「疾風迅雷が無制限で使えるなら、まったく驚異は感じない」


ガロンは最初から疾風迅雷を発動して迷いもなく突撃した。


「な、何だコイツ速いぞ!?」


ゴールドは尋常じゃない速さに

戦慄した。


「な、なんだよアレは!?」


依頼した冒険者と話し合いで纏め役としてなった重装備のアーチは剣を抜き構える前に鎧がひしゃげる。押し潰したのはガロンの槍による打撃だ。


「がはっ!?」


槍は思い切り打撃として扱えば鎧をへこませるほどの威力を発揮する。アーチは吐血して地面に膝をつくとと槍の一番下の石突いしつきを首の後ろに当て気絶させる。


「はあぁ!!」


毒矢で倒れた槍使いが、高く上げて叩き潰さんと背後で。


「接近戦でも!」


弓使いは弓を捨てて矢を持ち突き刺さんと左から。


「遅い!」


二槍の回転攻撃に二人はガードもなく受けてしまい後ろへ飛んでいく。


「「ぐわぁっ!!」」


地面に跳ね返ること3回。意識はあるが骨がきしむ痛みに立てない。ガロンは疾風迅雷を解除した。ハビングは毒矢では無く物理攻撃で倒れているため内ケ島のアンノーンオーブでは回復していなかった。ともかく形勢逆転となった事にガロンは疾風迅雷の長時間の使用に痛みがなかったことに推測は当たっていたことになる。


「こ、こんな所で死にたくねぇよ!」


「う、うわあぁーー!?」


「ま、待ってお前ら!」


強気でいた護衛の二人は依頼主を見捨てて遁走とんそうを選んだ。


「ここで少し眠ってもらう」


ガロンは再び疾風迅雷を発動する。二人を同時に首の後ろへ石突で命中させ気絶させて今度こそ護衛は全員を無力化させた。


「ひ、ひいぃぃーー!!?」


腰を抜かしたゴールドをゆっくりとした足取りで進むガロン。尻餅をつくゴールドはガロンを見上げる。恐怖でまともな思考が出来ていないとガロンは見下ろしながらそう思った。


「奴隷のかせを外す鍵は?」


「へっ?」


以外な言葉にゴールドは小さな声を発する。


「俺は気が立っている。さっさと出さなければ――」


右の槍を顔の前へ向ける。


「ま、待ってください!い、今すぐに出しますんで」


かぎを受け取るとガロンは奴隷商のゴールドを気絶させて内ケ島がいる所へ移動する。既に内ケ島の周りにはライトやエレなど捕まった者が

集まっていた。


「鍵だ。これで開けてやれ」


「は、はい!」


鍵を投げるガロンに内ケ島は受け取るのを失敗して地面に落ち拾う。手枷や足枷のついた奴隷をはずす。その間にガロンはさっきのアンノーンオーブを考えていた。


「お、終わりましたガロンさん」


「解放した奴隷達ついてこい」


ざわつく奴隷達。歩き出すガロンの背中をついていく内ケ島椛葉とライトとエレを見て他の者もついていく事を決めたのだった。

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