第拾参話―迷いの復讐―

ガロンは捕らえていた奴隷を連れて森深く移動する。


「いたいよぉー!」


猫人のエレが険しい道に疲弊した状態で歩き疲れて限界に達して

泣き始める。


「大丈夫?」


内ケ島椛葉は屈んで優しく声をかける。しかしエレはうぇぇーんと泣いて止まない。


「痛いよね。それじゃあ、お姉ちゃんの背中に乗って」


「うぅん、うん」


エレは内ケ島の背中に回ると勢いよく飛び込む。「えぇ!?」と内ケ島はバランスが崩れそうになるが片手で地面につけて整え立ち上がる。思ったよりも軽かった事に驚くのだった。


「おねえちゃん。エレがワガママでごめん」


「ううん。平気だよ、元は冒険もしていたから体力はあるからねぇ」


心配させまいと笑顔を絶えずに振る舞う。オーガの領土から一刻も早く出て安全な地にたどり着くには困難だとガロンは思った。


歩き疲れた子供を配慮してすぐに夜営することになった。そしてガロンと内ケ島は魔物が見張るようお互い背を向けて距離をある程度と取っていた。


(警戒しないといけないのは魔物だけではない。内ケ島やつもだ)


ガロンが来た道に選んだ理由は最も捜索部隊に逃れやすいからだ。

平な道を征けば馬で追いつかれる。今いるここは魔物が跋扈ばっこしてけもの道でもあるため進行するには難儀だから。

そして日が明け魔物など遭遇したが内ケ島のアンノーンオーブ俗称はチート能力を駆使してガロンは難なく倒していき残った食料が無くなる前に目的地へとたどり着いた。


「また、ここに来られるなんて」


感慨深く見る内ケ島はウール村を無事に着いた事に安堵する。


「これは・・・随分ずいぶんと大勢で

訪れましたなぁ」


大勢でやってきた来たことに好々爺こうこうや然とした鬼がガロンに声を掛ける。


「突然の来訪に申し訳ない。

無茶な頼みなんだが、子供らを面倒を見てほしい」


ガロンは頭を深く下げお願いをした。内ケ島はガロンの意外な一面に目を見開く。好々爺然とした鬼は村長であると内ケ島は薄々とそう思った。


「はて?面倒というのは親代わりに育ってほしい事ですかな」


「ああ」


「ここには孤児院がないから養子や住み込みでの働きとかになりますが、それでも全員は難しいでしょうなぁ」


「承知の上です」


「ではわしは二人ほどなら養子しても平気でしょう」


「感謝する」


2日目で着いたウール村をゆっくり出来ずにガロンと内ケ島は家々を尋ねていく。夜のとばりが降りて子供遊びとしている広場でテントを立て内ケ島と子供を就寝。三日も経ち全員に声を掛けてまだ8人ほど残ってしまった。


「あと8人だと言うのに――」


幽邃ゆうすいで静寂な景色で評判のあるツツジ湖畔で焚き火を起こし昼食を食べるガロンは不甲斐ない気持ちで呟く。


「鬼のおにいちゃん、

もっとたべたいよ」


その8人の子供と一緒に食事していた。事情をなんとなく子供は勘で自分達のために頑張っていることを思う。そんな粉骨砕身になるガロンに懐かないわけがなかった。たとえ怖い表情をしても心は優しいと知ってからは。


「待って、もう少しできるから大人しく待っていろ」


釣った魚を血抜き刀職人のヴォーンから拝借した包丁でさばいて焼いていた。

子供達には奴隷服はよくないと思い武器を売ったお金で服を買った。


(どうして見捨てずに助けようと思ったのか。他の鬼にも呆れられて面倒の鬼とも呼ばれる始末。

しかし、あの時の俺は見捨てるなぁと魂がそう叫んでいた)


復讐を誓い慈悲を捨てたガロンはまだ欠片ほどの義が残っていることに戸惑っていた。


「よっ、こんな所で何を

しているんだ」


村一番の実力者のイーブルが干物を食べながらウール村に続く林道からやってきた。イーブルは穏やかな景色と透き通る空気の地が好きでよく行くことで知らない鬼はいないほど。


「ちょうどいいところに来た。

イーブル頼みがある」


「頼み?」


「南部に行き子供の面倒を見てくれる奴を探さないといけない。

一人だけだと色々と困難だと思う。だから護衛として非公式な依頼をお願いする」


ガロンは懐からお金を入れた袋をイーブルに投げる。イーブルは受け取り袋の中を見て

「げぇ!」と大金に驚愕する。


「そんなに危ねえのか?」


大金を急に渡され、確認をする。

ギルドで生計を立てる身であるイーブルは経験則に報酬ほうしゅうがいい仕事には詳細を確認するようにしている。

ガロンは首を横を振る。


「比較的に危険度がない。亜人領を経由し広大たる鬼人の領土に入り面倒を見てくれる鬼を探すだけの依頼だ」


「なるほどなぁ。にしたて多額にもほどかあるだろう。それに、どうしてそこまで面倒を見るんだ?」


ガロンは焼けた魚を子供に渡し「わあぁ」と目を輝いていた。


「なんとなくだ」


ガロンとイーブルと子供8人は食事を終えるとすぐに南部にある鬼人の領土を目指すのだった。

翌日になり、内ケ島椛葉はガロンがウール村を出ていた事を刀職人のヴォーンの口から聞いた。


「ガロンさん行ってしまったのですか・・・」


ショックを受け、箸を落としそうになる内ケ島。仕事場の奥リビングで朝の食卓を囲んでいた。

内ケ島の向かいにはヴァレストとその横にヴォーン親子。


「おねえちゃんげんきだして!」


「げんきだして」


うつむく彼女を励ますのはライトとエレの猫人だった。

二人はヴォーンの養子となりヴァレストの家族となった。内ケ島の右にライト左はエレが座っていた。


「うん、そうだね。二人のおかげで元気になれたよ」


空元気だとヴォーンは憐憫れんひん

表情をする。


(どうせ、わたしなんか言葉を掛ける価値がないんだよね)


これからどうしようかなと内ケ島は憂鬱ゆううつになりため息をする。一寸先は闇で希望を持ってないと表情する。


「おねえちゃん!たべおわったら

あそぼうよ」


ここまで落ち込むとヴァレストはなんとか元気になってもらおうと思い考えた結果、遊ぶことだった。遊んでいるとよく笑っていたのが印象的だから、すぐに浮かんできた。


「ううん、いいよわたしは。

ライトとエレと遊びに行くといいよ」


微苦笑で返答する内ケ島。


「ヤダー!おねえちゃんもいっしょ」


幼い女の子エレは駄々をこねる。


「そうだよ!」


「エレ、ライト・・・

でも、どうせわたしなんかと遊んでも退屈だよ」


「そんなの決めるのおねえちゃんじゃないだろ」


自己嫌悪に堕ちる内ケ島は暗い顔で遊んでも良くないよと考える。それを否定するのは鬼火の少年ヴァレスト。

素直な強い言葉に心に響く。


「仕事で手を離せねぇから、子供たちを頼んでくれねぇか?」


息子の発言にヴォーンも彼女のために言葉を選び言う。子供の面倒を頼むのもあり、無邪気の子供に明るさを感化してくれると思って。


「そういうことでしたら。

食べ終えたら、何して遊ぼうかな?」


食事と寝所を用意して貰っているのでそれぐらいはしないと思った内ケ島。何もしないで手伝いを無視するのは厚顔無恥こうがんむちではなかった。

彼女はヴァレスト達と遊んでいるうちに楽しくなり鬱々とした暗い気持ちは霧散していた。なんとか前向きに考えるようになった。

それからガロンとイーブルが戻ったのは4日後だった。

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