第拾話―ガロンは見えない過去に―

翌日ガロンは鍛錬用の二槍にそうを持って早朝からツツジ湖畔で素振りしていた。


「はあぁ!」


通常の槍の長さ半分にした得物を片手とはいえニ槍となると飛躍的に振るうのが難しく複雑化となる。


「はぁっ!はあぁ!!」


右の槍を上ななめ打撃、左は突き。我流がりゅうで型も呼べない洗練されていない。しかし仕方なかった流派という技術を作る人がいなかったから。


(膂力りょりょくやテクニックが無い。だが俺には研鑽けんさんを重ねてきた技がある)


二槍での横薙よこなぎとクロスにした両腕を素早く戻せば2回目の横薙ぎ。ガロンは森に向けて走る。

誰もいないツツジ湖畔から森へ木々が生い茂る場所に。入っても速度を落とさず駆けていく。視界が妨げる木と木が次々と抜けていき槍を振るう。


「はっ!」


幹に当たらないよう注意して武器を振るいながら姿勢を横にして走り。ときには後方へ回転しながら

跳躍ちょうやくなどする。


「はぁ、はぁ・・・」


汗が頬に伝い落ちる。ガロンはストイックなほど切磋琢磨で技を遮二無二と思考を巡らす。鬼気迫る鍛錬が終わりガロンダーラは乱れた息を整える。木々や岩がある場所で走るのは隘路あいろな場所で全力疾走するようなもの。土地勘がある人でも衝突するものだった。


(まだ、足りない。頂点を軽々と超えていくアンノーンオーブ使い手はこれだけでは・・・通用しない)


歴戦の勇士さえ度肝を抜くであろう特訓にガロンダーラは満足していない。


(木を意識して槍を振るうのに集中でかなかった。攻撃も素早くせねば)


「もっと速く。思考を与えないほどに速く」


独白すると同時に休憩は終わりとガロンは高度な鍛錬を再開した。ガロンは自分の影を敵として電光石火でんこうせっかごとく動きで駆け回った。正午になると鍛錬が終わりガロンは東に進み

ウール村にある酒場で食事をした。店を後にし刀鍛冶屋に足を向ける。


「わぁーにげろ」


「「わあぁー!」」


子供達が無邪気に走り回る。


(辺鄙へんぴな地とはいえここは子供が元気だな。いや、ここだからと言うべきか)


遊ぶ子供の中に刀職人の息子ヴァレストの姿もあった。異世界転生者が広めた遊びの一つである鬼ごっこをしていた。鬼人では追い掛けとも呼ばれる。楕円形だえんけいの広場での中央でヴァレストが追い掛けを夢中なって家々から出てくるガロンの歩く姿を見えていなかった。そのままガロンはヴォーンの生産型施設が

並ぶ一角にある鍛冶屋に入る。


「入るぞ、頼んで置いたものは

出来たか」


「ああ、出来たが。んな、物騒なものを刀職人に頼むなよなぁ」


「そうか、すまない」


「まぁ、お金さえ出せば別に構わねぇが毒矢と煙幕を用意しろってんなもの道具屋とかで頼めよ。まったく」


悪態をつくヴォーンは刀を鍛えている手を中断させ腰を上げて鉄板の上に置かれている物を指をさす。どうやらすでに出来上がっていた。


「断れたから、ここに頼んだ」


「そうかよ。今度こそ村を出るのか」


「ああ。少し危険だがオーガの領地に行こうと思う」


「もしかして敵討ちか?」


ガロンは用意した身体を麻痺させる毒をつけた矢先の形は剣尻けんじり。別の言い方をすれば三角形したオーソドックス。

そして煙幕玉を入れる。


「いや、ただのレベル上げだ」


「そうか。まぁ気ぃつけることだ」


「ああ」


ガロンは今度こそウール村を出て北東部にあるオーガの領土へ行く。種族のオーガは鬼人とは犬猿の仲だ。鬼人は静かな闘争本能ありながら律する冷静な思考を持つ。オーガは闘争本能に身を任せる野蛮な種族と多くからそう認識されている。オーガと鬼人は相反的な価値観と考えをする。

鬼人は角の有無など関係なく差別しないが、オーガ角の大きさと色をこだわる主義を根底にある。

長年に争っていたオーガと鉢合わせをしないよう深い森へ進む。


「ダッアァ!」


山道を行くガロンは、グリーンベアー接敵。鍛錬用ではない二槍で横薙ぎとクロスした両腕を広げもう一度の横払い。打撃攻撃にくまの形をした魔物は致命的なほど中を砕かれ数センチほど後方へ飛び動かなくなる。


「ふうぅ」


難なくグリーンベアーを倒し、死骸と化した魔物を剥いで今日の夕食を確保するガロン。しばらく移動と魔物の戦闘は続き気づけば日は傾いて黄昏の空となる。


「もう、こんな時間か・・・ん?」


視線を下へ向くと街道を走る馬車が三つ。先頭と後方は装飾などされていない馬車。その間の馬車は

荷の方に黒い布で覆われて見せたくない物があると如実に現れている。


奴隷どれい商か・・・」


なら前と後ろは護衛だろう。別に珍しくもないとガロンは思った。

鬼人も奴隷は使う。主に荷物運びや掃除など最低限の移住食を与えるようにしている。人は別の用途で使うこともある。これ以上は不快で考えたくなかったガロンは

去ろうと――


「・・・珍しくもなく助ける義理もないのに何故か心の奥に見逃すな!と言われている気がするのは・・・なんだ?」


失われた何かが問いかけているようで忘却の彼方にある義憤が起きる。


「待って、待って!

世界であふれている氷山の一角だぞ。どうして助けようと。

ああ、クソっ!

俺は何を考えているんだ」


ガロンは見逃すなと感情が訴えてくる。理論と感情が相反していく。分からなくなり千錯万綜せんさくばんそうとなる。


「・・・ハァ。俺はこんなにも感情的だったのか」


夢を見ない現実主義と思ったガロンは傾斜けいしゃな所をゆっくり下り奴隷の馬車を襲撃することにした。


「こんなことなら、弓矢も持っていくべきだった」


前に使用していた大きな弓を鍛冶屋に預けたことに軽く後悔した。

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