第玖話―光があれば闇があるⅡ―

ガロンダーラはしばらくウール村で滞在することになった。アンノーンオーブ使いである異世界転生者の手掛かりをつかんでいないからだ。ウール村は周囲を森深くとある。逆に土地勘がない者からは辿たどり着くのに難儀な場所でもある。森に囲まれた村から

西へ27メートル進むと[ツツジ湖畔こはん]が見える。逍遥しょうようしたりピクニックなどにピッタリな場所だ。

空気が美味しく美しい自然の風景に癒やされることだろう。


「はあぁ!」


二人の鬼が戦っていた。ガロンはいつもの得物ではなく鍛錬用の槍でぐ。青い角の鬼は木剣ぼっけんで横の攻撃を防ぐ。


「ガロンダーラ、力が弱いぞ」


「ぐっ!」


鍔迫つばぜり合いでの力の勝負にガロンは不利であった。

ガロンは距離を取ろうと右足で前蹴り。しかし偉丈夫いじょうふの鬼は左足の膝を曲げて上げるとそれを防ぐ。ガロンは力を込めてジャンプする要領で後ろへ飛び距離を作ることに成功した。


「なっ!?」


否!宙での一回転をしたガロンは

着地する寸前に身体を前に戻る所で目の前に飛ぶ斬撃。


「ぐっうぅぅ」


意表を突かれた。剣技また秘技[ソニックブレイド]を放つ。上段切りの遠距離攻撃に柄でなんとか防ぐ。


「まだまだ!」


次々と放っていくソニックブレイド。嵐のような斬撃。


「クソッ。デタラメにもほどがある」


雑に放った斬撃ではなく。回避する場所にも計算された連続攻撃。

考えもなしで避けようなら数秒後に無数の攻撃を受けることになる。


「なら受け切れるまでだ!」


剣技[スパイクウォール]。槍を素早く回転させ前方の攻撃を弾く高い防御を誇る技。


「うおぉぉぉぉぉーーー!」


ガロンは奇襲なら得意だが、正面での戦いは苦手だ。アンノーンオーブもどきの疾風迅雷なら避けらただろうが、デメリットが高い上に命を擦り減らす危険な力。

だからこそ、この戦いには使わない。斬撃を防いでいく。


「もらったぞ!」


「しまっ・・・ぅ」


相手は飛ぶ斬撃を放ちながら走って袈裟斬けさぎりにより、またも得物で力押しとなる。と思いきや狙いはりだ。鳩尾みぞおちに当たり呻き声。


「勝負ありだな」


男は剣先をガロンに向けて寸止め。勝負はついた。


「くっ!また、負けたのか・・・」


「そう悔しがらなくとも十分に強くなっている。奥の手や毒矢を使われたらどうなっていたか」


「気休めはいい。負けは負けだ。

俺が未熟だった。ただ、それだけだ」


「おぉー、ストイックなのはいいが気負い過ぎると無駄な動作が加える。それが敗因だ」


忠告するのはイーブル。黒髪短髪で屈強な男性だ。年齢は33でウール村では一番の実力者。前に内ケ島椛葉うちがしまなぎはと訪れたときにはガロンはイーブルと模擬戦をしていた。木剣を引くと空いた手で指し伸ばす。ガロンはその配慮を無言で頷きお礼をして手を引いてもらうことにした。


「気負い過ぎか・・・もう一戦だ」


「それが気負い過ぎだって言うのに・・・わかったよ。また、勝つがなぁ」


ツツジ湖畔でガロンはイーブルに真っ向からの戦闘を頼んだ。イーブルのジョブはガロンと同じく狩人。武器や攻撃など縦横無尽な戦闘が得意とする。


「行くぞ!うおぉぉぉーー!」


「ガロン、覇気はきが足りないぞ」


高く上げた槍を叩き落とすがイーブル難なく剣で受け止める。槍の威力は突くことではなく打撃、叩くことである。指摘された事にガロンは眉をひそめる。


「教えてやる。よっと」


振り払うように剣に力を加えてガロンを数メートルほど後方に放つ。ソッニクブレイドと通常の横斬りでガロンは地面を強く踏み攻撃を防ぐ。距離ができた。


「ウオォォォォ!!」


「っ―――!?は、はあぁ!!」


イーブルの掛け声に、一瞬の恐慌きょうこうに陥りそうになるが修羅場しゅらばをくぐり抜けた強い精神でなんとか立ち直り袈裟斬りを防ぐ。


「こうやって、やれば相手はわずかにすきはできる。さらに己を鼓舞する効果もある。

地味そうそうで大事だ、これが」


槍のリーチは長い。しかし剣が届く至近距離では攻撃に転じるのに動作が大きい。


「そら、そらっ!どうした」


「ぐっ!」


袈裟斬り、逆袈裟斬りと上段切りして素早い攻撃に防戦一方。


「剣の使い手は槍の使い手と戦うのは不利なのが常識だ。だが、長い得物は近づけば、近づくほど威力や動きもわるくなる」


「それぐらい知っている・・・なんのつもりだ!」


「つまり、対策は用意しろってことだガロンダーラ」


膂力りょりょくが数倍ほど上の相手に手のしびれをほとんど感じないのは明らかに手加減をしていることだ。何度も攻撃して試している。しかし対抗できる技や一手もない。なら活路を見出すためけに出る。


「だあぁぁぁー!」


「さすがにすきがある技は

見逃せないなぁ」


イーブルは嘆息すると、木剣でガロンの腹部を下からのななめに命中させると、高く飛ばされるガロン。


「があっ!」


吐血・・・ではないが、それほどダメージを受けるほどの声が出る。

きれいに逆U字曲線に落ちていく、落ちた場所に水しぶきが激しく起きる。ガロンは湖に落ちた。


(疾風迅雷や奇襲がないだけで、こうも赤子のように扱われるとは)


今までのアンノーンオーブの使い手に十重二十重とえはたえに用意と練った作戦で倒してきた。


「プッハァ!」


水中から上へ上と足を動かし求めた息をする。


「クソっ!」


イーブルは今日は終わりと言わんばかりに背中を見せて村に戻ろうとしている。見えたとは思えないが振り向かずにさやに収めた剣を上げて左右に振り、イーブルはギルドに行きクエストを受けにいくのだった。


一方、時は少しさかのぼ有馬颯牙ありまそうがの仲間である生き残りエレナ・フォースとガイア・ ガストロフィンは首都アイボルクの中央部にある[英雄の墓標ぼひょう]にいた。ここは異世界転生者と

英雄が眠る場所。

そしてエレナ達の目的は一つだけ。


「・・・ソウガ、マリヤ・・・わたしちかうよ。必ずかたきはうつ」


マリヤは上級貴族の令嬢れいじょうでこの英雄の墓標には入れないのだが、特別に同じ墓に許された。膝をつくエレナは手を組み祈りの言葉の後にそう言った。


「騎士として相応しい言葉ではないのは重々と承知だが、私には二人を失った憤りはある」


ガイアは静かに闘志を燃やし、無念の死をげた二人に誓う。


「苦しいよソウガ。けど、わたしは強くなる。なるしかない!

だから、二人は安心して

天国で見ていて・・・・・」


エレナは立ち上がり涙を乱暴に手で拭う。ガイアはハンカチを取り出しエレナに渡す。エレナは、まだ有馬颯牙とマリヤの死を後悔と自責の念に駆られていた。当然、怒りの矛先を向けられるのはガロンダーラ。


「そろそろ行こう。私達にはやることがある」


「・・・うん。わかっているよ」


エルフと騎士は英雄の墓標に眠る二人を後にして、進むべき道をく。

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