第20話 鍛冶屋アレック


「ここが、テリーさん言ってた鍛冶屋さん? 結構な門構えのお屋敷な気もするけど」


 俺たちの目の前には、ミノーツで一番手広く商売をしている鍛冶屋のアレックさんの店舗兼屋敷がある。


 鍛冶場、店舗、住居、倉庫とそろったアレックの屋敷の敷地は広大だった。


「アレックさんの鍛冶屋はこの地方でも有名ですからね。腕利きの鍛冶屋で品質もいいって話ですし、この店のオーダーメイド武器はこの地方の冒険者の憧れですから」


「おお、思い出したわ。『鍛冶技能神』持ちのアレックやったな。ワイも名前はチラッと聞いたことはあったでぇ。やたらと質のいい武器を作るとかって奴や」


「へぇ、でも鍛冶屋さんのいらない物って何かあるのかしらね?」


「俺も鍛冶屋のいらない物に興味あります。テリーさんが上手く話しを通してくれてるといいんですが……」


 俺たちが門の前で話していると、屋敷から人が出てきた。


「あんたらがテリーの言ってた不用品と倉庫整理してくれるって連中かい?」


 無精髭を生やした体格のいい男が俺たちに声をかけてきた。


「はいっ! もしかして、アレックさんですか?」


「お前がフィナンシェか。テリーからは若いって聞いてたが、本当に若い小僧っ子だな。それに口の悪い眼帯付きの兎人族ってのはあんただな」


「なんやと!? ワイは口なんか悪くないでぇ! あの鑑定屋のおっさんはワイのことを言いたい放題に言ってくれるわ!」


「おぉ、モフモフ生物の癖に随分いきがるようだな」


「このおっさんも鑑定屋のおっさんと同じく、ワイのことを小馬鹿にしとる気配を感じ取ったから許さへんでぇ! 死にさらせやぁ!」


 鑑定屋のテリーさんと同じパターンだ……。


 頭を押さえられたラビィさんの振り回している手足が、アレックさんに届いてない。


 いやー、ラビィさんのあの姿、何度見ても癒されるなぁ。


「フィナンシェ、なにワイの姿を見てニヤニヤしてんのやっ!」


「アレックさん、すみませんね。ラビィさんは悪い人じゃないんですけど口が立ちまして……」


「テリーからも聞いてるしな。いいってことさ。そのことは置いといて、倉庫の整理をしてくれた上で不用品を持っていってくれるらしいな」


「はい! いらない物があれば、俺たちが引き取らせてもらいます。どんな物でも引き取ります」


「本当にどんな物でもか?」


 アレックさんは、どんな物でも引き取れるのかと念を押してきた。


 いちおう危険すぎる物とか、爆発するような物だと、解体するラディナさんが怪我をしかねないのでご遠慮させてもらいたいけど。


「……いちおう現物を確認させてもらってもよろしいですか?」


「ああ、いいぞ。実は引き取って欲しいのは、オーダーメイドで作った武具類なんだ。うちのオーダーメイド武具は装着者指定の加護が付いちまっててな。この加護は金の踏み倒しをさせないよう、前金で金を払った人しか装着できないようにするため付与してあるんだ。前金を払った以外の人が装備しようとすれば、武器の握りや防具の肌に触れる部分から電撃が流れるため盗難避けも兼ねた加護になっている。しかも、一度指定したら武具を溶かさない限り消えないしな」


「へぇ、装着者指定の加護までできる鍛冶師か。さすが『鍛冶技能神』持ちのアレックやな」


「まぁ、それが倉庫を圧迫する原因を作っているんだ……。前金で注文受けるのはいいが、こちらが製造中に冒険で亡くなった人の武具が積りに積もっててなぁ。売ろうにも装着者指定の加護があって他人は装着できないし、私の作った作品を壊すのは心情的に絶対に無理なことなんで倉庫に放り込んでたんだがな……そろそろ溢れだしそうなんだ……」


「なるほど……確かにそれは処分に困りますね。そういった武具でしたら、うちが引き取っても問題ないですけど処分はこっちが勝手にしても大丈夫です?」


「ああ、私の視界外で処分されることについては特に問題視しない。溶かして金属屑にでもしてくれて構わないぞ」


 確かにアレックさんからしてみたら、丹精込めて作った武具を自分で溶かすのは心苦しいだろう。


 俺たちの力で装着者指定の加護も呪いみたいに解除できたなら、高品質武具の再構成って形になるかも。


 これは、絶対に挑戦した方がいい案件だよな。


「分かりました! 引き取りさせてもらいます! こんないい話を提案していただきありがとうございます!」


「おお、そうか。そうしてもらえるとありがたい。何度か、捨てようと思ったんだがな……中々決断ができなかった。だが、親友のテリーからもフィナンシェ君に任せてみろと言われていることもあるし、君に頼むとしよう。さぁ、入ってくれ。倉庫はこっちだ」


「おっしゃ、ワイらに任せればいらない品物は綺麗さっぱりとなくしたるわ」


 ラビィが荷馬車に乗ると、俺たちはアレックさんの後について倉庫へと進んでいった。

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