第21話 リサイクルから始まる生産チート


 アレックさんの屋敷の倉庫は、テリーさんの倉庫の数倍の規模があり、鍛冶の原料になる鉱石や燃料となる石炭などが積み上げられたスペースの一角に例の捨てられない武具の山ができていた。


 結構な量が積んであるなぁ……。


 わりとアレックさんに依頼中に亡くなった冒険者が多いってことだよな。


 この未使用の武具の山を見てると、冒険者って結構危険な職業だって改めて再確認できる。


「フィナンシェ君、この一角の武具を片付けてくれるとありがたい。最近、また受注が増えてね。材料置き場を拡張したいんだ」


「はい、分かりました。この武具、全て引き取らせてもらいます」


「ああ、頼むよ。私は屋敷の奥にある鍛冶場で作業しているから、終わったら声をかけてくれ。くれぐれも武器の握りや防具の内側には触れないようにな」


 そう言うと、アレックさんが倉庫を出て屋敷の方へ戻っていった。


「さって、フィナンシェ君。今回は武具が大量に手に入ったわね。装備者指定の加護もあたしたちの力で解除できたら……高名な鍛冶師による高品質武具が手に入るってことよね?」


「そういうことや。アレックくらいの鍛冶師だと一振りで一〇〇万ガルドとかしてもおかしくないやろ。装備者指定の加護が消せたら誰でも装備できるしな。がっぽりと儲かるでぇ」


「そのことなんですが……。もし、装備者指定の加護を消せたら一部の品物もらって、残りはアレックさんにお返してもいいですかね。元々アレックさんの物ですし」


 俺がテリーさんの時と同じように一部をアレックさんに返却していいかと問いかけると、ラビィさんが苦笑いをしていた。


「ほんま、お前はお人よしやなぁ。アレックも前金で冒険者から金もらって制作しているから損もしてないんやが。まぁ、作業料をキッチリと取れば、ワイはフィナンシェの好きにすればええと思うでぇ」


 そして、ラディナさんは俺を抱き締めてきた。


 彼女の大きな胸に俺の顔が埋まる。


 恥ずかしさで顔が火照ってしまう。


「いやぁ~ん。フィナンシェ君、かっこいい。それでこそ、あたしの運命の人ね。あたしはフィナンシェ君の決めたことに従うから安心して」


「あ、あのラディナさん。その胸が……」


「あ!? ごめん。そういうつもりじゃないから……で、でもそういうつもりかも……あ、あたし何言って……」


「おい、イチャコラしとんなや。ちゃっちゃっとやらんと日が暮れてまうでぇ! まずは武器からや」


 ラビィさんが俺の尻を叩くと、先に武具の山の方へ歩いていった。


「ラディナさん、お仕事しましょっか……」


「そ、そうね。あとでタップリできるしね。うん、そうよね。お仕事、お仕事」


 えっと、あとでタップリしてくれるんだ……。


 ち、違った! 仕事だ! 仕事!


 お仕事して自分の借金をまず完済しないと。


 俺はラディナさんの胸から顔を外すと、ラビィさんの後を追って武具の山に向かった。


「これは結構ええ武器やなぁ。フィナンシェの鉄の剣には負けるが、それでもええもんやと思うでぇ」


「ほら、あたしに貸してみて。解体できるか調べるから」


「ラディナさん、握りの部分は触れちゃダメですよ」


「分かってる。大丈夫だから」


 ラビィさんが慎重に刃の部分を持って品定めをしていた剣を、ラディナさんが手に取る――


「んっと、解体は問題なくできたわね。あとはフィナンシェ君の力が発動するかと、発動後に装着者指定の加護が消えてるか次第ね」


 ラディナさんの手には廃品となった剣があった。


「やってみます」


 廃品の剣を受け取ると、リサイクルスキルは発動した。


 ―――――――――――

 リサイクルスキル

  LV:9

  経験値:58/60

  対象物:☆名工の鉄剣(分解品)


 >名工の鉄剣(普通):100%

 >名工の鉄剣(中品質):83%

 >名工の鉄剣(高品質):63%

 >名工の鉄剣(最高品質):33%

 >名工の鉄剣(伝説品質):23%

―――――――――――


 問題なく再構成はできそうだ。


 >名工の鉄剣(普通品質)に再構成に成功しました。


 >名工の鉄剣(普通品質)


  攻撃力+35


  資産価値:一〇〇万ガルド


 再構成は成功したみたいだし、あとはアレックさんの装着者指定の加護が消えてるかどうかを確かめて……っと。


 俺は再構成された名工の鉄剣を手に握ってみた。


「問題なし。やっぱり、呪いと同じようにアレックさんの装着者指定の加護が消えてますね」


「やっぱ、フィナンシェのリサイクルスキルはトンデモスキルやな……。呪いは消すわ、加護も消すわって使い勝手が良すぎるやろ……」


 ラビィさんが、名工の鉄剣を装備した俺を見て呆れていた。


 えっと……なんかすみません。


 俺のスキルがとんでもなくてすみません……。


「最強のスキルってことよ。フィナンシェ君の持つ力はね。さぁ、次の剣も行ってみようかしら」


 ラディナさんは同じ鉄剣を持つとすぐに解体して廃品にしていた。


「二本目行きますね」


 ラディナさんから受け取った廃品からリサイクルスキルを発動させる。


 ―――――――――――

 リサイクルスキル

  LV:9

  経験値:59/60

  対象物:☆名工の鉄剣(分解品)


 >名工の鉄剣(普通):100%

 >名工の鉄剣(中品質):83%

 >名工の鉄剣(高品質):63%

 >名工の鉄剣(最高品質):33%

 >名工の鉄剣(伝説品質):23%

―――――――――――


 普通品質で再構成っと。


 >名工の鉄剣(普通品質)に再構成に成功しました。


 >名工の鉄剣(普通品質)


  攻撃力+35


  資産価値:一〇〇万ガルド


 ────────────────────

 >【リサイクル】スキルがLVアップしました。

 >LV9→10

 >解放:☆の成功率1%上昇

 >解放:☆☆の成功率1%上昇

 >解放:☆の装備強化が可能になりました

 ────────────────────


 スキルステータス


 パッシブスキル:☆成功率上昇9% ☆☆成功率上昇1%


 アクティブスキル:☆廃品合成 ☆装備強化


 ――――――――――――――――――――


 おっと、LVアップしたらまたなんか別の能力が解放されたみたいだ。


 一つは☆☆の成功率上昇か……。


 レア度の高いのは普通品質でも再構成成功率低いから、パッシブスキルで補強してもらえるとありがたい。


 もう一個は、装備強化ってこれはなんのスキルなんだろうか……。


 装備強化がアクティブスキルとして解放されたことで、手にしている二本目の名工の鉄剣と、地面に置いた一本目の名工の鉄剣が光を帯びて輝き出していた。


 まさか装備強化って二本の武器を一個にして強化できるスキルってことか?


 もしかしてと思い、両手に名工の鉄剣を持ってみた。


 >右手:名工の鉄剣(普通品質) 左手:名工の鉄剣(普通品質)


 >装備強化可能品がセットされました。


 >装備強化しますか?


 発動した!? ここは強化してみるしかないよね。


―――――――――――

 リサイクルスキル

  LV:10

  経験値:0/72

  対象物:☆名工の鉄剣+1(強化品)


 >名工の鉄剣+1(普通):100%

 >名工の鉄剣+1(中品質):83%

 >名工の鉄剣+1(高品質):63%

 >名工の鉄剣+1(最高品質):33%

 >名工の鉄剣+1(伝説品質):23%

―――――――――――


 普通品質で再構成っと。


 >名工の鉄剣+1(普通品質)に再構成に成功しました。


 >名工の鉄剣+1(普通品質)


  攻撃力+35→40


  資産価値:一五〇万ガルド


 ふむふむ、攻撃力アップか。


 二個分の資産価値より価値が下がるけど、武器や防具の性能を上げられるスキルってことみたいだ。


 成功率に左右される再構成の品質とは別の系統で、武具の性能を上げられるのはありがたいかも。


「フィナンシェ君……剣が一本消えたんだけど……何かしたの?」


「あ、いや……えっと。リサイクルスキルがLVアップして、装備強化ってスキルを覚えたんで使ってみたら、品質とは別に武器の威力が上がりました」


「お、おぅ……もうワイはフィナンシェがどんなことをしても驚かへんでぇ……ふぅ」


 ラビィさんが、俺の作り出した名工の鉄剣+1を品定めしてため息を吐いていた。


「つまり、同じ武器で同じ品質の物があればガッツリと強くできる力を手に入れたってことでいいのかな?」


「ラディナさんの言った通りですね。どこまで強くできるかは不明ですけど」


「つまり、今回フィナンシェが解放したスキルは、ボロい鉄の剣を大量に再構成して強化しまくれば、伝説品質に近い威力の武器が作れるってことやろ……。それと、伝説品質が安定して作れれば、攻撃力の上限突破した神話級の鉄の剣も作れる可能性もあるってわけや」


「って、ことですよね……」


 確かにラビィさんの言う通り、伝説品質の物同士で強化すれば武器も防具も上限を突破した性能を発揮するよな。


 そんな武器作ったら、軽く振るっただけで魔物とか真っ二つになりそうな気もする。


「そういうことや。だから、ワイに一本、神話級のショートダガー作ってくれや。金は出すでぇ」


「も、もう少し成功率上がってからでいいですかね?」


「おぅ、期待しとるでな」


 ラビィさんが上機嫌な顔をして、俺の尻を叩いてきた。


 資金に余裕ができたら、そういった武器や防具を作るのに挑戦してみてもいいな。


「そうとなれば、もっともっと解体していかないと。フィナンシェ君、積んである武具は全部解体していっていいわね?」


「あ、はい。お願いします」


 ラディナさん、すごい張り切ってるなぁ。


 ああ、剣の両手持ちとか刃の部分だし危ないから。


「ラディナさん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ゆっくりやりましょう、ゆっくりと」


「はーい。分かってるー。ふんふんふふーん♪」


 それでも鼻歌交じりなんだけども……。


 ラディナさんのやる気に比例するように、解体され廃品となった武具の山ができあがっていった。

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